暗号資産は税金滞納で差し押さえられる?2027年4月から個人ウォレットも対象になる改正を解説
おはようございます!代表の安田です。
ビットコインなどの暗号資産を保有している人が税金を滞納した場合、その暗号資産は差押えの対象になるのでしょうか。
結論として、暗号資産も国税の滞納処分による差押えの対象となり得ます。
さらに令和8年度税制改正では、暗号資産などの「特定電子移転財産権」について徴収手続が整備され、2027年4月1日以後は、暗号資産交換業者を介さず個人が自ら管理する暗号資産についても、徴収職員の管理へ移す方法による差押えが可能になります。
これまで自己管理型の暗号資産についても法律上は差押えが可能でしたが、送金等に必要な「秘密鍵」を滞納者が管理しているため、本人の協力が得られなければ実効的に差し押さえることが難しいという問題がありました。
本記事では、暗号資産の差押えについて、取引所で保有している場合と個人ウォレット等で保有している場合の違い、2027年4月からの改正内容、命令に従わなかった場合の罰則まで解説します。
暗号資産も税金滞納による差押えの対象になる
所得税、法人税、消費税などの国税を納期限までに納めず、その後も滞納が続いた場合、税務署等による滞納処分が行われることがあります。
差押えの対象となる財産は、預貯金や不動産だけではありません。
暗号資産についても、国税徴収法上の財産として差押えの対象となり得ます。
ただし、暗号資産の場合には、どこで、どのような方法で保有しているかによって、これまでの差押え実務には大きな違いがありました。
取引所で保有している暗号資産は従来から差押え可能
暗号資産交換業者、いわゆる暗号資産取引所を利用して保有している場合には、比較的差押えを行ないやすい仕組みになっています。
滞納者が暗号資産交換業者を介して暗号資産を保有している場合、取引所での売却を前提として、交換業者に対する債権を差し押さえることが可能とされています。
例えば、
暗号資産取引所の口座でビットコインを保有
税金を滞納
税務当局が交換業者に対する権利を差押え
暗号資産を換価
滞納税額へ充当
といった流れが考えられます。
問題だったのは「個人ウォレット」で自己管理する暗号資産
一方、暗号資産は必ず取引所で管理する必要はありません。
例えば、
スマートフォン上のウォレット
ハードウェアウォレット
その他の自己管理型ウォレット
などを利用し、暗号資産交換業者を介さず本人が直接管理することもできます。
このような暗号資産についても、改正前から「無体財産権等」として法律上は差押え可能でした。
しかし、実務上は大きな問題がありました。それが秘密鍵です。
なぜ秘密鍵がないと差押えが難しかったのか
暗号資産を別のウォレットへ送金するためには、原則としてその暗号資産を管理するための秘密鍵が必要です。
自己管理型ウォレットでは、その秘密鍵を本人が管理しています。
そのため、税務当局が法律上暗号資産を差し押さえたとしても、滞納者が秘密鍵を使った移転に協力しない場合には、徴収職員が実際に暗号資産を移転・換価することが難しいという問題がありました。
<改正前の状況>
保有方法 | 法律上の差押え | 実務上の換価 |
暗号資産取引所で保有 | 可能 | 比較的実行しやすい |
個人ウォレット等で自己管理 | 可能 | 秘密鍵の問題で実行困難な場合あり |
つまり、「個人ウォレットだから法律上差し押さえられなかった」のではなく、「差押え制度はあったが実効性に問題があった」という点が重要です。
税務調査で追徴されても暗号資産を売却しない事例も
制度改正の背景となった事例も紹介されています。
例えば、暗号資産取引による所得を申告しておらず、税務調査によって加算税を含む追徴課税が発生したケースです。
税務当局から保有暗号資産を売却して納税するよう促されても、「現在は値下がりしているので、値上がりしてから売却したい」などとして自主的な納付に応じないケースがあったとされています。
自己管理している暗号資産では、秘密鍵を本人が握っているため、こうした場合に差押え後の換価を実行することが難しいという問題がありました。
そこで、令和8年度税制改正で徴収手続が強化されました。
2027年4月から「徴収職員の管理に移す」方式へ
2027年4月1日以後は、自己管理する暗号資産等の「特定電子移転財産権」について、徴収職員の管理へ移す方法によって差押えを行なう仕組みになります。
根拠となるのは、改正後の国税徴収法72条の2です。
<改正後の基本的な流れ>
国税の滞納が発生
自己管理している暗号資産等を差押え
暗号資産を徴収職員の管理へ移す
必要に応じて暗号資産を換価
売却代金を滞納国税へ充当
改正前は自己管理型暗号資産について「滞納者の協力なしに差押えできず」とされていたのに対し、改正後は徴収職員が必要に応じて移転命令を行ない、暗号資産市場で売却して滞納税額へ充当するという流れになります。
徴収職員自身が移転できない場合は「移転命令」
徴収職員自身で暗号資産を管理下へ移すことが難しい場合には、別の方法も用意されています。
改正後は、特定電子移転財産権の権利者等のうち、暗号資産等を他人の管理へ移すことができる者に対して、徴収職員の管理へ移すよう命令することができます。
権利者と名義人が異なる場合には、名義人も対象に含まれるとされています。
つまり、「秘密鍵を自分が持っているので税務署には移せない」という状態に対し、法的な移転命令を利用できる仕組みが導入されることになります。
差押えの効力はいつ発生する?
改正後の国税徴収法では、特定電子移転財産権の差押えの効力についても定められています。
差押えの効力は、
暗号資産等が徴収職員の管理へ移されたとき
移転命令が告知されたとき
のいずれかによって生じます。
したがって、必ず実際の移転が完了するまで差押えの効力が生じないという仕組みではありません。
正当な理由なく移転命令に従わないと罰則
今回の改正で特に注意したいのが、移転命令に対する罰則です。
正当な理由がないにもかかわらず、徴収職員からの命令に違反した場合には、3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金またはその両方が科される可能性があります。
さらに、この罰則は両罰規定の対象とされています。
<命令違反に対する罰則>
項目 | 内容 |
対象 | 正当な理由のない移転命令違反 |
拘禁刑 | 3年以下 |
罰金 | 250万円以下 |
併科 | 拘禁刑・罰金の両方もあり |
両罰規定 | 対象 |
単なる「納税のお願い」に応じなかった場合とは異なり、法律上の移転命令に正当な理由なく違反した場合の罰則です。
改正前後を比較
今回の改正を整理すると、次のようになります。
項目 | 2027年3月31日まで | 2027年4月1日以後 |
自己管理暗号資産の差押え | 法律上可能 | 可能 |
秘密鍵が本人管理 | 実効的な差押えが困難な場合あり | 徴収職員の管理へ移す仕組み |
本人等への移転命令 | 今回の制度なし | 可能 |
命令違反への罰則 | ― | 拘禁刑・罰金等 |
換価 | 本人の協力が問題に | より実効的な徴収が可能に |
今回の改正は、差押えの対象財産を新しく暗号資産まで拡大したというより、既に差押え対象だった自己管理型暗号資産について、実際に徴収できる仕組みを整備したものと理解すると分かりやすいでしょう。
「コールドウォレットなら税務署に差し押さえられない」は通用しにくくなる
暗号資産の保有者の中には、取引所ではなく自分で管理していれば差押えられないのでは?と考える人もいるかもしれません。
しかし、自己管理している暗号資産についても従来から法律上は差押え対象でした。
2027年4月からはさらに、徴収職員の管理へ移す仕組みや移転命令、命令違反に対する罰則が整備されます。
したがって、「取引所から個人ウォレットへ移せば税務上の差押えを回避できる」という考え方は適切ではありません。
暗号資産の申告漏れにも注意
暗号資産取引を行なっている場合には、
売却
他の暗号資産との交換
商品・サービスの購入への利用
など、取引内容に応じて所得計算が必要になる場合があります。
差押えの問題になる前に適正な申告・納税を行なうことが基本です。
「値上がりするまで売りたくない」は滞納理由にならない
暗号資産は価格変動が大きいため、今は含み損なので売却したくないという事情は十分あり得ます。しかし、国税の納期限は暗号資産の相場とは別の問題です。
値下がりを理由に「値上がりしてから売る」として納付に応じない事例があるようですが、税額が確定している場合には、暗号資産の価格上昇を待つことだけを前提に納税を先送りすることには注意が必要です。
暗号資産を保有している人が確認しておきたいこと
確認項目 | 内容 |
暗号資産の保有方法 | 取引所か自己管理か |
取引履歴 | 売買・交換等を把握できるか |
申告 | 暗号資産所得を適切に申告しているか |
納税資金 | 納期限までに確保できるか |
含み益 | 納税額と手元資金のバランスを確認 |
滞納 | 放置していないか |
自己管理資産 | 2027年4月以降の徴収制度を理解しているか |
特に暗号資産で多額の利益が出た場合は、利益を再投資してしまい、税金を支払う現金が残っていないという状況に注意が必要です。
よくある疑問
Q. 暗号資産は税金を滞納すると差し押さえられますか?
A. 差押えの対象となり得ます。添付資料では、暗号資産交換業者を介して保有するものだけでなく、自己管理している暗号資産も従来から国税徴収法上は差押え可能だったとされています。
Q. 個人ウォレットなら差押えられませんか?
A.そのようにはいえません。従来は秘密鍵の問題から実効的な差押えが難しいケースがありましたが、2027年4月1日から徴収職員の管理へ移す方式が導入されます。
Q. 秘密鍵を渡さなければよいのですか?
A. 改正後は、一定の場合に暗号資産等を徴収職員の管理へ移すよう命令できる仕組みになります。正当な理由なく命令に違反した場合には罰則があります。
Q. 罰則はどの程度ですか?
A. 正当な理由なく命令に違反した場合、3年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金、またはその両方が科されるとされています。
Q. 改正はいつからですか?
A. 自己管理する暗号資産等の「特定電子移転財産権」に係る新しい差押手続は、2027年4月1日から適用されます。
まとめ
令和8年度税制改正により、暗号資産などの「特定電子移転財産権」に対する国税の徴収手続が強化されます。
従来から自己管理型の暗号資産も法律上は差押え可能でしたが、本人が秘密鍵を管理しているため、滞納者の協力がなければ実効的な差押え・換価が難しいという問題がありました。
2027年4月1日以後は、
自己管理する暗号資産も徴収職員の管理へ移して差し押さえる
必要に応じて権利者等へ移転を命令できる
差押え後は換価して滞納税額へ充当できる
正当な理由なく移転命令に違反すると罰則がある
という仕組みになります。
今回の改正のポイントは、「個人ウォレットなら差押えを実行しにくい」という従来の実務上の問題を解消することにあります。
暗号資産取引では、相場変動によって納税資金が不足するケースも考えられます。利益が出た段階から必要な税額を見積もり、納税資金を確保しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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