技能実習生の渡航費・送出し機関手数料・日本語学習費を会社が負担した場合の源泉所得税
こんにちは!代表の安田です。
技能実習生の渡航費・送出し機関手数料・日本語学習費を会社が負担した場合の源泉所得税
外国人技能実習生や特定技能外国人を受け入れる企業では、採用時や来日時にさまざまな費用が発生します。
たとえば、母国から日本へ来るための航空券代、出国・入国に関する手続費用、送出し機関に支払う手数料、日本語学習費用などです。
近年は、技能実習生本人の経済的負担を軽減するため、会社がこれらの費用を負担するケースも増えています。
一方で、会社が従業員の費用を負担すると、源泉所得税の問題が生じます。
渡航費は旅費だから非課税でよいのか
送出し機関への手数料も会社負担なら非課税になるのか
日本語学校の費用は学資金として非課税になるのか
既に働いている技能実習生に、過去の自己負担分を返金したらどうなるのか
このような疑問は、外国人材を受け入れる会社でよく問題になります。
結論からいうと、新規に採用する技能実習生に対して、入国時の渡航費や送出し機関に支払う手数料のうち、その旅行に通常必要な実費を会社が負担する場合には、非課税旅費として取り扱える可能性があります。
また、採用後の日本語学習費用については、学資金または業務上必要な研修費として非課税となる可能性があります。
一方、採用前に本人が既に支払った日本語学習費用を、採用後に会社が補填する場合や、既に採用済みの従業員に過去の渡航費・手数料・学習費をまとめて支給する場合には、原則として給与課税が必要です。
本日は、技能実習生に対する訪日費用等の会社負担について、源泉所得税の取扱いを税理士の視点から解説します。
技能実習生の訪日費用とは
技能実習生が日本で就労を開始するまでには、さまざまな費用が発生します。
主なものは次のとおりです。
母国から日本までの航空券代
出国前後の宿泊費
旅券や査証に関する手数料
予防接種や健康診断に関する費用
送出し機関に支払う手数料
日本語学校や日本語講座の受講費、教材費、自己学習のための費用
来日後の研修費用
これらの費用は、内容によって税務上の取扱いが異なります。
すべてを一括して「採用費」「福利厚生費」「旅費交通費」と処理すればよいわけではありません。
特に、本人へ金銭を支給する場合には、その支給が非課税旅費なのか、非課税学資金なのか、それとも給与なのかを確認する必要があります。
新規採用者の入国時渡航費は非課税旅費になり得る
所得税では、就職した人が就職に伴う転居のために旅行をした場合、その旅行に通常必要と認められる範囲の旅費については、非課税とされています。
技能実習生が新たに会社へ採用され、日本で勤務するために母国から日本へ渡航する場合、その渡航は就職に伴う転居のための旅行と考えられます。
そのため、会社が航空券代、宿泊費などの実費を負担する場合には、非課税旅費として取り扱える可能性があります。
ただし、非課税となるのは、あくまでその旅行に通常必要と認められる範囲です。
たとえば、合理的な経路による航空券代、必要な宿泊費、移動に必要な交通費などが中心になります。
一方で、私的な観光費用、家族旅行分、過度に高額なサービス、業務や転居と関係のない支出まで非課税にできるわけではありません。
会社としては、支給基準を出張旅費規程や採用時旅費規程に定め、領収書や航空券、明細書を保存しておくことが重要です。
送出し機関に支払う手数料の取扱い
技能実習生が出身国の送出し機関に支払う手数料についても、内容によっては非課税旅費に含められる可能性があります。
たとえば、旅券の交付手数料、査証手数料、入出国に必要な手続費用、外貨交換手数料、予防接種料など、外国旅行に通常必要な費用に近いものは、旅行雑費として整理できる余地があります。
国家公務員等の外国旅行旅費における旅行雑費の考え方を参考に、新規採用に伴う入国のための旅行に必要な費用については、非課税と考えられます。
ただし、「送出し機関手数料」と一口にいっても、内容はさまざまです。
中には、教育費、仲介手数料、保証金的なもの、本人の私的負担に近いものが含まれている可能性もあります。
そのため、会社が負担する場合には、手数料の内訳を確認することが大切です。
送出し機関の請求書や領収書を確認し、何のための費用なのかを区分しておきましょう。
採用後の日本語学習費用は非課税学資金になり得る
採用後に技能実習生へ日本語を習得させるため、会社が日本語学校や日本語講座の費用を負担する場合があります。
この場合、一定要件を満たせば、非課税の学資金として取り扱える可能性があります。
学資金とは、学術や技芸を習得するための資金として給付され、その目的のために充てられるものをいいます。
日本語学校等で日本語を習得するための費用を会社が負担し、その費用が実際に日本語学習のために使われるのであれば、学資金として非課税になる余地があります。
また、業務遂行上の必要性に基づき、従業員としての職務に直接必要な知識や技術を習得させるための研修費として会社が負担する場合にも、適正な範囲であれば給与課税しなくてよい取扱いが考えられます。
たとえば、業務上必要な日本語コミュニケーション能力を身につけるため、会社が指定した講座を受講させる場合です。
この場合も、講座内容、受講対象者、会社負担の範囲、領収書、受講実績などを残しておくことが重要です。
採用前に本人が支払った日本語学習費用の補填は給与課税に注意
問題になりやすいのが、採用前に本人が既に支払った日本語学習費用を、採用後に会社が補填するケースです。
たとえば、技能実習生が母国で日本語学校に通い、授業料を自己負担していたとします。
その後、日本に入国して会社に採用され、会社がその過去の授業料相当額を本人へ支給する場合です。
この場合、非課税の学資金には該当しにくいと考えられます。
理由は、会社が支給する時点で、日本語学習費用は既に支出済みであり、その金銭が今後「学資に充てられる」ものとはいえないためです。
実質的には、「過去に日本語学習費用を負担していたことを理由として、本人が自由に使える金銭を支給するもの」と評価されやすくなります。
採用後に居住者となった技能実習生へ支給する場合には、雇用関係に基づく支給として給与所得に該当し、会社は源泉徴収が必要になると考えられます。
採用前に支給する場合は報酬・契約金の源泉徴収に注意
採用前の段階で、会社が本人に日本語学習費用相当額を支給する場合も注意が必要です。
まだ雇用関係が成立していない段階であれば、給与ではないとしても、税務上別の源泉徴収の問題が生じる可能性があります。
たとえば、将来会社で働くことを約束することにより一時に取得する契約金のような性質を持つ場合には、報酬・料金として源泉徴収の対象になることがあります。
さらに、本人が来日前で非居住者に該当する段階で支給する場合には、日本国内で人的役務を提供することに基因する報酬として、国内源泉所得の源泉徴収が問題になる可能性があります。
つまり、採用前だから源泉徴収が不要、とは限りません。
支給時点の居住者・非居住者判定、支給の根拠、雇用契約の有無、支払場所を確認する必要があります。
既に採用済みの従業員へ過去費用を支給する場合
既に技能実習や特定技能の在留資格で勤務している従業員に対して、過去に本人が自己負担した渡航費、送出し機関手数料、日本語学習費用を会社が後から全額負担する場合はどうでしょうか。
この場合、原則として給与課税が必要と考えられます。
理由は、支給時点では既に従業員として在職しており、「就職をした者」に対して就職に伴う転居旅行のために支給する旅費とはいいにくいためです。
また、過去の入国時の渡航費や送出し機関手数料について、入国から時間が経過した後に支給する場合、「その旅行に必要な支出に充てるため」に支給されたものとは説明しにくくなります。
旅費の非課税規定は、旅行の実施と旅費の支給がある程度近接していることを前提としていると考えられます。
したがって、過去費用を後から補填する場合には、非課税旅費ではなく給与として処理すべきケースが多くなります。
既存従業員の日本語学習費用の後払い補填も給与課税
既に採用済みの従業員に対して、過去に本人が支払った日本語学習費用を現時点で補填する場合も、学資金の非課税規定は適用しにくいと考えられます。
採用前に本人が支出した費用は、既に支払済みです。
会社が後から金銭を支給しても、その金銭が今後の学資に充てられるわけではありません。
したがって、「学資に充てるため」または「技術の習得等をさせるため」に支給するものとは言いにくく、給与として源泉徴収が必要になると考えられます。
会社として公平性を重視し、過去に自己負担した従業員にも同様に補填したいという考えは理解できます。
しかし、税務上は、新規採用時に実費負担する場合と、過去費用を後から補填する場合では取扱いが異なります。
非課税にするには「支給時期」と「目的」が重要
技能実習生の訪日費用等を非課税で処理できるかどうかは、費用の種類だけでなく、支給時期と目的が重要です。
同じ航空券代でも、新規採用に伴う入国時に、通常必要な範囲で会社が負担する場合は非課税旅費になり得ます。
一方、入国後数か月または数年経ってから過去の航空券代を補填する場合は、給与課税となる可能性が高くなります。
同じ日本語学習費用でも、採用後に日本語学校へ通わせるために会社が直接負担する場合は、学資金または研修費として非課税になり得ます。
一方、採用前に本人が自己負担した費用を後から返す場合は、給与課税になりやすくなります。
税務上は、「何の費用か」だけでなく、「いつ」「誰に」「何の目的で」「どのような方法で」支給するかが大切です。
会社負担にする場合の実務フロー
技能実習生の訪日費用等を会社負担にする場合、次のような実務フローを整備しておくと安心です。
まず、会社が負担する費用の範囲を明確にします。
渡航費、査証手数料、旅券手数料、送出し機関手数料、日本語学習費用などを区分します。
次に、新規採用者と既存従業員を分けて取り扱います。
新規採用者については、入国時の渡航費や旅行雑費、日本語学習費用のうち、非課税処理できるものを整理します。
既存従業員については、過去費用の補填として給与課税する前提で、源泉徴収や給与計算への反映方法を決めます。
さらに、費用の証憑を保存します。
航空券、領収書、送出し機関の請求書、手数料の内訳、日本語学校の請求書、受講証明などを残しておきましょう。
最後に、給与課税が必要な支給については、支給月の給与として源泉徴収し、年末調整や源泉徴収票に反映します。
規程整備のポイント
技能実習生の訪日費用等を会社負担にする場合、就業規則、採用規程、旅費規程、教育訓練規程などを整備しておくことが重要です。
規程には、次のような内容を定めるとよいでしょう。
会社が負担する費用の範囲
対象者
新規採用者と既存従業員の取扱い
渡航費の支給基準
送出し機関手数料のうち会社負担とする範囲
日本語学習費用の負担方法
会社が直接支払うのか、本人立替後に精算するのか
領収書等の提出義務
給与課税となる場合の源泉徴収
退職時の返還条件を設けるかどうか
ただし、返還条件を設ける場合には、労働法や技能実習制度上の問題が生じる可能性があります。
税務だけでなく、社会保険労務士や行政書士、弁護士等とも相談しながら制度設計を行うことが望ましいです。
源泉徴収漏れを防ぐためのチェックポイント
会社が技能実習生の費用を負担する場合、源泉徴収漏れを防ぐために次の点を確認しましょう。
支給対象者は新規採用者か、既存従業員か
支給時点で居住者か非居住者か
渡航費は就職に伴う転居旅行に通常必要な実費か
送出し機関手数料の内訳を確認しているか
採用後の日本語学習費用か、採用前の過去費用の補填か
日本語学習費用が学資または業務上必要な研修費として説明できるか
本人に自由に使える金銭を支給していないか
既存従業員への過去費用補填を非課税処理していないか
給与課税分を給与計算に反映しているか・源泉徴収票に正しく反映しているか
特に、既に採用済みの従業員へ過去の費用を一律に補填する場合は、給与課税を前提に処理する必要があります。
よくある誤解
技能実習生の訪日費用等について、実務上よくある誤解を整理します。
まず、「外国人材の受入費用だからすべて会社の採用費で非課税」という誤解です。
会社側で損金になるかどうかと、従業員側で給与課税されるかどうかは別問題です。
次に、「渡航費ならいつ支給しても非課税」という誤解です。
就職に伴う転居旅行のために通常必要な旅費であることが重要であり、過去の渡航費を時間が経ってから補填する場合は給与課税になりやすくなります。
また、「日本語学習費用なら必ず学資金として非課税」という誤解もあります。
採用後に学習目的で支給する場合は非課税になり得ますが、採用前に本人が既に支払った費用を後から補填する場合は、学資に充てるための支給とはいえない可能性があります。
最後に、「採用前に支払えば給与ではないので源泉徴収不要」という誤解です。
採用前であっても、役務提供を約束することによる契約金や、非居住者への国内源泉所得として源泉徴収が必要になる場合があります。
まとめ
技能実習生や特定技能外国人に対して、会社が訪日費用や日本語学習費用を負担する場合には、費用の内容、支給時期、対象者によって源泉所得税の取扱いが変わります。
新規に採用する技能実習生については、入国時の渡航費のうち、就職に伴う転居旅行に通常必要な運賃、宿泊料などの実費は、非課税旅費として取り扱える可能性があります。
また、送出し機関に支払う手数料のうち、旅券手数料、査証手数料、予防接種料、入出国税など旅行雑費に近いものについても、通常必要な実費であれば非課税と考えられます。
採用後に日本語学校等で日本語を習得するための費用を会社が負担する場合には、学資金として非課税になる可能性があります。
また、業務遂行上必要な日本語研修費として適正な範囲で会社が負担する場合にも、給与課税しなくてよい取扱いが考えられます。
一方、採用前に本人が既に支払った日本語学習費用を、採用後に会社が補填する場合には、学資に充てるための支給とはいえず、給与課税が必要になる可能性があります。
また、既に採用済みの技能実習生や特定技能外国人に対し、過去に本人が自己負担した渡航費、送出し機関手数料、日本語学習費用を現時点で支給する場合も、原則として給与課税が必要です。
会社が外国人材の負担軽減を目的に費用を負担すること自体は、採用力向上や従業員支援の面で有効です。
しかし、非課税で処理できるものと給与課税が必要なものを区分しないと、源泉徴収漏れにつながります。
制度導入前に、支給対象者、支給時期、費用の内訳、証憑保存、給与計算への反映方法を整理しておきましょう。
技能実習生や特定技能外国人への費用負担、源泉所得税の処理で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






コメント