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取適法で知的財産の無償提供が問題に|2026年10月の運用基準改正と買いたたき・著作権の対価を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
24 時間前
読了時間: 15分

こんばんは!代表の安田です。


2026年10月1日、公正取引委員会は中小受託取引適正化法(取適法)の運用基準を見直しました。


今回の見直しでは、委託事業者が中小受託事業者から提供を受ける知的財産権、ノウハウ、データなどについて、適切な対価を設定することが重視されています。


例えば、企業がデザイン会社にキャラクターの制作を依頼した場合、その制作費用だけでなく、完成したキャラクターをどの範囲で利用できるのかを明確にする必要があります。


当初はポスターに使用する契約だったにもかかわらず、後からグッズ販売など別の用途にも無償で使用する場合、取適法上の問題が生じる可能性があります。


また、金型の製作を委託した後、当初の契約に含まれていない図面の提供を無償で求める行為も問題となります。


今回の改正で重要なのは、「成果物を制作するための費用」と「知的財産権等の譲渡・利用許諾に関する対価」を適切に考慮する必要があることです。


本日は、2026年10月の取適法運用基準改正について、対象となる知的財産権等の範囲、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請に該当するケース、企業の契約・経理実務への影響を公認会計士・税理士が解説します。


2026年10月1日に取適法の運用基準が見直された

今回の運用基準の見直しに先立ち、2026年6月24日、公正取引委員会・中小企業庁・特許庁は、知的財産権やノウハウ、データについて適切な取引を促進するための指針を策定・公表しました。


この指針では、知的財産に関する取引において、取引上優越した立場にある企業が、取引先から無償または著しく低い対価で知的財産を取得することなどが問題とされています。


近年では、デジタル化やAIの普及によって、データやノウハウの経済的価値も高まっています。


こうした状況を踏まえ、2026年10月1日に取適法の運用基準が改正され、知的財産権等に関する考え方が反映されました。


<今回の見直しの概要>

項目

内容

関連指針の公表

2026年6月24日

公表主体

公正取引委員会・中小企業庁・特許庁

取適法運用基準の見直し

2026年10月1日

主な対象

知的財産権、ノウハウ、データ等

重要な変更点

権利の譲渡・許諾範囲を明確にし、対価を適切に考慮すること

問題となる行為

買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等

なお、2026年10月1日に新たな法律が施行されたというわけではなく、今回の変更は取適法の運用基準の見直しです。


知的財産権だけでなく「ノウハウ」「データ」も対象

今回の見直しで重要なのは、対象が特許権や著作権などの法律上の権利に限定されていないことです。


関連指針では、知的財産権として保護されていないノウハウや、技術上・営業上のデータなども含めた「知的財産権等」という考え方が示されています。


企業活動では、特許権や著作権のような明確な権利だけでなく、長年の業務経験によって蓄積されたノウハウや、事業活動から得られるデータにも経済的な価値があります。


<対象となる知的財産権等の例>

区分

具体例

特許権等

特許技術、技術に関する権利

著作権

デザイン、イラスト、動画、ソフトウェア等

ノウハウ

製造方法、加工技術、業務上の専門知識

技術データ

設計情報、試験データ、技術関連データ

営業データ

事業活動によって蓄積された情報

その他

取引上経済的価値を持つ知的財産に関する情報

例えば、製造委託先が長年の研究開発によって蓄積した製造技術について、委託元が無償で提供を求める場合には、その取引内容や契約条件について慎重な検討が必要になります。


取適法の対象となる取引には要件がある

今回の運用基準が問題となる前提として、取適法の適用対象となる委託取引であることが必要です。


取適法では、対象となる委託取引の内容に加え、委託事業者と中小受託事業者の資本金や従業員数などによって適用関係を判定します。


<主な資本金・従業員基準>

取引区分

委託事業者と中小受託事業者の組合せ

物品製造・修理・特定運送、プログラム作成など

資本金3億円超と3億円以下、または1,000万円超と1,000万円以下

上記の取引区分

常時使用する従業員300人超と300人以下

プログラム作成以外の一定の情報成果物作成委託・役務提供委託

資本金5,000万円超と5,000万円以下、または1,000万円超と1,000万円以下

上記の取引区分

常時使用する従業員100人超と100人以下

※各行は、左側が委託事業者、右側が中小受託事業者となる組合せを示しています。個人事業者も対象となり得ます。詳細な適用判定では取引類型と当事者の要件を確認する必要があります。


したがって、知的財産権等を取り扱うすべての企業間取引に、取適法が一律に適用されるわけではありません。


もっとも、取適法の対象外であっても、取引当事者の関係や行為の内容によっては、独占禁止法上の優越的地位の濫用などが問題になる可能性があります。


知的財産権の譲渡・利用許諾の範囲を明示する必要がある

今回の運用基準改正では、取適法第4条の「発注内容等の明示義務」に関する取扱いが整理されています。


特に、情報成果物作成委託の過程で知的財産権等の提供を受ける場合には、どの範囲で権利の譲渡や利用許諾を受けるのかを明示し、その範囲を考慮して代金を決定することが重要です。


例えば、企業が外部のデザイン会社にオリジナルキャラクターの制作を依頼する場合を考えます。


キャラクターを制作する費用だけでなく、完成したデザインをどのように利用するのかも重要になります。


<契約で明確にしたい事項>

項目

確認する内容

制作物

キャラクター、動画、イラスト等

利用目的

広告、販売促進、商品化等

利用媒体

紙媒体、ホームページ、動画等

利用期間

一定期間か、期間の制限がないか

権利の取扱い

著作権の譲渡か、利用許諾か

利用範囲の拡大

追加利用時の協議・対価

代金

制作作業と権利利用の範囲を考慮した金額

特に、制作物の利用範囲が広い場合には、それに応じた対価の検討が必要になります。


なお、制作費と権利の対価を必ず別々の請求項目にしなければならないという意味ではありません。契約上の利用範囲を明確にし、それを踏まえて適切な代金を設定することが重要です。


具体例① キャラクターデザインを無償で商品化するケース

例えば、企業がデザイン会社に、販促用ポスターに使用するキャラクターの制作を委託したとします。


当初の契約では、キャラクター制作とポスターでの利用について合意し、それに対応する代金を支払っていました。


その後、企業が同じキャラクターを使用して、キーホルダーやぬいぐるみなどのグッズを販売することにした場合はどうでしょうか。


当初契約に商品化の利用許諾が含まれていなければ、新たな利用について別途協議が必要になると考えられます。


今回の改正後の運用基準では、契約で予定されていない用途に知的財産権を利用しながら、追加の対価を一切支払わないケースが、不当な経済上の利益の提供要請に該当する事例として示されています。


<契約内容と実際の利用の比較>

項目

当初契約

追加利用

制作物

キャラクターデザイン

同じデザイン

使用目的

販促用ポスター

キャラクターグッズの製作

対価

制作・ポスター利用を考慮して支払い

追加利用の対価を支払わない

問題点

合意済みの範囲

契約に含まれない利用範囲

ここで重要なのは、著作物の制作を依頼したからといって、当然にすべての利用方法について無償で使用できるとは限らないということです。


企業は、契約上認められている利用範囲を確認したうえで、追加利用の条件を検討する必要があります。


具体例② 動画制作後に著作権の無償譲渡を求めるケース

もう一つの事例が、プロモーション動画の制作委託です。


例えば、企業が映像制作会社に動画を制作してもらったものの、契約時点では著作権を譲渡するかどうかを明確にしていなかったとします。


動画完成後、委託元が著作権も譲渡するよう求め、制作会社から対価について説明を求められたにもかかわらず、具体的な算定根拠等を説明せず無償譲渡を求める場合には、取適法上の問題が生じる可能性があります。


今回の資料では、このような事例も改正後の運用基準で示されています。


<動画制作を委託する際の注意点>

確認事項

内容

動画制作の範囲

撮影・編集等の作業内容

著作権の帰属

権利を制作会社に残すか、譲渡を受けるか

利用許諾

どの媒体で、どの期間利用できるか

二次利用

編集、再配信、別媒体への展開

代金

権利の取扱いを踏まえて設定しているか

実務上は、動画が完成した後ではなく、発注段階で著作権の取扱いを協議しておくことが重要です。


具体例③ 金型製作後に図面の無償提供を求めるケース

製造業でも、今回の改正内容は重要です。


例えば、製造業者が取引先に金型の製作を委託したとします。

当初の契約は金型の製作に関するもので、図面の提供については合意していませんでした。

その後、委託元が取引先に対して、製作に使用した図面の無償提供を求めた場合、問題が生じる可能性があります。


今回の運用基準では、このような契約で定めた範囲を超える知的財産権等の無償提供要求について、不当な経済上の利益の提供要請に該当する事例が示されています。

項目

当初の委託

追加の要求

発注内容

金型の製作

図面の提供

契約上の範囲

金型の製作

当初契約に含まれていない

対価

金型製作代金

無償での提供を要求

主な論点

製作委託

知的財産等の追加提供に関する対価

図面には、製造方法や加工技術に関するノウハウが含まれる場合があります。

そのため、図面の提供を求める場合には、当初の契約内容と提供する情報の経済的価値を確認する必要があります。


「買いたたき」に該当する可能性があるケース

今回の運用基準改正では、取適法第5条第1項第5号の「買いたたき」に関する取扱いも見直されています。


例えば、委託する取引の内容に知的財産権等の譲渡・利用許諾が含まれているにもかかわらず、その価値を考慮せず、委託事業者が一方的に通常の対価より低い代金を決めるケースです。


このような場合、買いたたきに該当するおそれがあります。


<買いたたきの検討例>

取引内容

問題となる可能性がある行為

デザイン制作

広範な著作権利用を求めながら、その価値を考慮しない

ソフトウェア開発

開発成果に関する権利の譲渡等を求めながら、その対価を考慮しない

技術開発

価値あるノウハウの提供を含むのに、低い代金を一方的に設定する

データ作成

提供するデータの価値を考慮せずに代金を決定する

ただし、通常の相場より価格が低いことだけで、直ちに買いたたきになると断定できるわけではありません。


実際の取引条件や代金決定の経緯等を踏まえて判断する必要があります。


「買いたたき」と「不当な経済上の利益の提供要請」の違い

今回の改正内容を理解するためには、この2つの禁止行為を区別することが重要です。

項目

買いたたき

不当な経済上の利益の提供要請

根拠

取適法第5条第1項第5号

取適法第5条第2項第2号

主な問題

取引の内容や価値に見合わない代金を一方的に設定

契約の範囲を超える知財等の提供を不当に要求

典型例

著作権の利用価値を考慮せず低額発注

当初契約にない図面等を無償で要求

実務上の対策

発注内容と対価の合理性を確認

権利・情報の提供範囲を契約で明確化

このように、知的財産に関する問題は、契約時の代金設定だけでなく、契約締結後の追加要求によっても発生する可能性があります。


「知的財産を無償で提供してもらうと必ず違反」ではない

今回の改正を理解する際には、注意すべき点もあります。


それは、知的財産権等に関する対価を必ず個別に請求・支払いしなければならないというわけではないことです。


例えば、当初の契約において、成果物の制作費用と一定範囲の著作権利用を含めた代金を適切に設定している場合があります。


この場合、制作費と利用許諾料を契約書や請求書上で必ず別々に表示しなければならないとは限りません。


問題となるのは、権利の提供範囲や価値を適切に考慮せず、不当に低い代金を一方的に設定したり、当初合意していない知的財産の提供を無償で要求したりするようなケースです。


企業としては、発注内容、知的財産等の提供範囲、代金の決定根拠を説明できる状態にしておくことが重要です。


経理部門にも影響|契約内容と請求額の確認が重要

今回の運用基準改正は、法務部門や購買部門だけの問題ではありません。


知的財産権等の提供に対する対価を適切に設定していても、その金額が実際に支払われなければ、取引先との問題が生じます。


特に、契約後に追加で利用範囲を拡大した場合には、追加料金の支払漏れなどに注意が必要です。


例えば、次のようなケースが考えられます。

実務上の状況

経理部門が確認したいこと

当初の制作委託

契約金額に権利の対価が適切に考慮されているか

著作権の追加取得

追加対価の合意・請求・支払いが必要か

デザインの二次利用

追加利用に関する契約変更や支払いがないか

図面・ノウハウの追加提供

無償提供要求となっていないか

契約変更

請求金額や支払予定額に変更がないか

特に、大企業では発注部門と経理部門が分かれている場合があります。


そのため、発注部門が追加利用について合意していても、経理部門へ情報が共有されていなければ、適切な代金が支払われない可能性があります。


購買・法務・経理の連携が重要

今回の運用基準改正に対応するためには、契約締結時から支払いまでの業務フローを確認することが重要です。

部門

主な確認事項

購買・発注部門

発注内容、知的財産の利用範囲、取引先との協議

法務部門

権利の帰属、譲渡・利用許諾条項、契約変更

制作・事業部門

実際の利用目的、追加利用の有無

経理部門

契約内容と請求金額の整合性、支払漏れ

コンプライアンス部門

取適法の適用関係、違反リスクの確認

今回の改正内容については、特にデザイン制作、ソフトウェア開発、映像制作、製造委託などを行なう部門へ周知することが重要です。


また、契約条件を変更した場合には、追加料金の支払いまで確実に行われる仕組みが必要です。


契約書で確認しておきたい事項

知的財産権等を伴う委託契約については、次のような事項を確認しておくことが考えられます。

確認項目

主な内容

委託業務の内容

何を制作・提供してもらうのか

成果物の範囲

納品物に何が含まれるのか

権利の帰属

誰がどの権利を保有するのか

利用許諾の範囲

期間・媒体・用途等

著作権等の譲渡

譲渡の有無と対象範囲

代金

権利の提供範囲等を踏まえた金額

追加利用

契約外の利用時の協議方法

追加対価

利用範囲拡大時の対価の取扱い

ノウハウ・データ

提供する情報の種類と利用条件

例えば、動画制作やデザイン制作の契約では、単に「制作一式」と記載されているだけでは、著作権の譲渡や利用許諾の範囲が不明確な場合があります。


そのため、契約時に知的財産の取扱いを具体的に整理しておくことが望まれます。


取適法の改正対応チェックリスト

確認事項

チェック

自社の取引が取適法の対象となるか確認した

□

情報成果物作成委託等の対象取引を把握している

□

著作権・特許権等の取扱いを確認している

□

ノウハウ・データの提供を受ける取引を把握している

□

知的財産権等の譲渡・利用許諾の範囲を明示している

□

利用範囲を考慮した代金を設定している

□

知的財産の価値を考慮せず一方的に低額発注していない

□

契約外の利用や追加提供を無償で要求していない

□

追加利用時の契約・対価を確認している

□

発注部門と経理部門が契約変更情報を共有している

□

知的財産に関する対価の支払漏れがないか確認している

□

関係部門へ2026年10月の運用基準改正を周知している

□

まとめ

2026年10月1日、取適法の運用基準が見直され、知的財産権、ノウハウ、データなどに関する適切な対価の設定が、より明確に求められることとなりました。


今回の見直しでは、知的財産権等の譲渡・利用許諾の範囲を明示したうえで、その範囲を考慮して代金を決定することが重要です。


また、知的財産等の価値を考慮せず、一方的に通常の対価より低い代金を設定する場合には、買いたたきに該当するおそれがあります。


さらに、当初の契約に含まれていない知的財産権等を無償で提供させる行為は、不当な経済上の利益の提供要請に該当する可能性があります。


今回のポイントを整理すると、次のとおりです。

  • 2026年6月24日に知的財産等の適切な取引に関する指針が公表

  • 2026年10月1日に取適法の運用基準が改正

  • 特許権・著作権だけでなくノウハウやデータも重要

  • 権利の譲渡・利用許諾の範囲を明確化

  • 権利の提供範囲を考慮して適切な代金を設定

  • 知的財産の価値を考慮しない低額発注は買いたたきとなるおそれ

  • 契約外の知的財産の無償提供要求は違反となる可能性

  • デザインの二次利用、動画の著作権譲渡、金型の図面提供などが具体例

  • 発注部門・法務部門・経理部門の連携が重要


特に今回注意したいのは、「成果物を制作してもらうこと」と「その成果物に関する知的財産権を利用・取得すること」は、契約上の範囲や対価を区別して検討すべき場合があるという点です。


企業では、従来の業務委託契約や発注書を確認し、制作物の利用範囲や著作権等の取扱いが明確になっているかを見直すことが望まれます。


また、契約後に追加利用や権利の提供を求める場合には、必要に応じて条件や対価を協議することが重要です。


経理部門においても、契約内容の変更が請求書や支払額に適切に反映されているかを確認し、知的財産権等に関する対価の支払漏れを防止する必要があります。


今回の運用基準の見直しを機に、知的財産を伴う委託契約について、契約締結から支払いまでの業務フローを確認しておくことをおすすめします。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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