取適法で初の勧告!手形払い禁止・支払サイト60日ルールと企業が見直すべきポイント
こんばんは!代表の安田です。
2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)について、公正取引委員会による初の勧告事例が公表されました。
今回問題となったのは、手形による代金の支払いと、支払期日までに代金全額を現金化することが困難な支払方法です。
取適法では、対象となる委託取引について、物品やサービスを受領した日から起算して60日以内に支払期日を設定する必要があります。また、手形による支払いは禁止され、その他の支払方法についても、支払期日までに代金全額を現金として受け取れるかが重要になります。
2026年9月29日に公表された公正取引委員会の勧告事例では、装置メーカーの不二製作所がこれらの規制に違反したとされています。
同社は制度変更自体を認識していたものの、実務の切替えが間に合わなかったと説明しています。
今回の事例は、取適法への対応が単なる法務部門の問題ではなく、購買部門・経理部門・財務部門が連携して支払実務を見直す必要があることを示しています。
本記事では、取適法における支払遅延のルール、手形払いの禁止、公正取引委員会の勧告事例、支払サイトの見直しについて、公認会計士・税理士が解説します。
取適法とは?2026年1月から施行
取適法の正式名称は「中小受託取引適正化法」です。
従来の下請法に代わる制度として、2026年1月から施行されています。
取適法は、委託事業者と中小受託事業者との間で行われる対象取引について、代金の適正な支払いや取引条件の適正化を図る制度です。
今回の事例では、特に代金の支払方法と支払期日のルールが問題となっています。
<取適法における支払関係の主なポイント>
項目 | 取扱い |
施行時期 | 2026年1月 |
対象 | 取適法の適用対象となる委託取引 |
支払期日 | 物品・サービスの受領日から起算して60日以内 |
手形払い | 禁止 |
その他の支払方法 | 支払期日までに代金全額との引換えが困難な方法は禁止 |
違反した場合 | 公正取引委員会による勧告等の対象となり得る |
取適法の支払ルールは、対象となる委託取引について適用されます。
したがって、すべての企業間取引に一律に適用されるわけではなく、自社の取引が取適法の対象となるかを確認することが前提です。
取適法では支払サイトを60日以内にする必要がある
取適法では、対象取引について、物品やサービスを受領した日から起算して60日以内に代金の支払期日を定めることが求められます。
ここで重要なのが「支払サイト」です。
支払サイトとは、一般的に、取引によって発生した代金を支払うまでの期間を指します。
例えば、企業間取引では、
月末締め・翌月末払い
月末締め・翌々月末払い
20日締め・翌月末払い
など、さまざまな支払条件が設定されています。
しかし、取適法の対象取引では、単に取引先との契約で合意しているという理由だけで、長期間の支払サイトを設定できるわけではありません。
「月末締め翌々月末払い」は要注意
例えば、10月5日に物品を受領し、12月31日に代金を支払うケースを考えてみます。
この場合、受領日から支払日までの期間は60日を超えます。
そのため、取適法の対象となる取引であれば、支払期日の設定に問題が生じます。
<支払条件の確認例>
支払条件 | 確認すべきポイント |
月末締め翌月末払い | 受領日から60日以内に支払われるか |
月末締め翌々月末払い | 60日を超える取引が発生する可能性が高い |
20日締め翌月末払い | 締日直後の受領分を含めて確認 |
個別に支払日を設定 | 案件ごとに受領日と支払日を確認 |
特に注意したいのは、支払サイトの計算を請求書の到着日や月末締日だけで管理していないかという点です。
取適法では受領日を基準とするため、実務上の支払スケジュールが法令上の期限内に収まっているか確認する必要があります。
手形による代金の支払いは禁止
今回の改正では、取適法の対象取引について、手形による支払いが禁止されています。
従来、企業間取引では約束手形を利用し、一定期間経過後に代金を決済する商慣行がありました。しかし、受注側の中小企業にとっては、手形によって代金を受け取っても、満期まで現金を利用できないという問題があります。
手形を割り引いて早期に現金化する場合には、資金調達上の負担が生じることもあります。
取適法では、このような支払方法について見直しが求められています。
「60日以内に満期が来る手形ならよい」わけではない
ここは誤解しやすいポイントです。
取適法の対象取引では、手形払いそのものが禁止されているため、満期が受領日から60日以内であることを理由として手形払いを継続できるわけではありません。
また、手形以外の支払方法についても、支払期日までに代金全額と引き換えることが困難なものは禁止されています。
したがって、支払方法を変更する際には、形式だけではなく、受注側がいつ代金全額を受け取れるかを確認することが重要です。
公正取引委員会が2026年9月29日に初の勧告
今回の資料では、2026年9月29日に公正取引委員会が公表した勧告事例が紹介されています。
対象となったのは、装置メーカーの不二製作所です。
同社については、次の2つの問題が認定されたとされています。
指摘事項 | 内容 |
手形払い | 取適法の対象取引について手形で代金を支払っていた |
支払方法 | 支払期日までに代金全額を現金化することが困難な方法を利用していた |
今回の事例が注目される理由は、取適法の施行後、公正取引委員会が対象行為について初めて勧告を行った点にあります。
これまでも調査によって違反事例が指摘されていましたが、今回のように事業者名が公表される勧告へ発展する場合があることが明らかになりました。
違反の背景は「制度を知らなかった」ことではない
今回の事例で特に重要なのは、企業側が制度を認識していなかったわけではないという点です。
公正取引委員会によると、不二製作所は、手形払いの禁止や支払期日のルールについて認識していたものの、実務の切替えが間に合わなかったと説明しています。
つまり、「ルールは知っていたが、実際の支払業務が変わっていなかった」という状態です。
なお、実務の切替えが遅れた直接的な原因について、人員不足によるものなのか、社内体制の問題なのかまでは明らかになっていません。
この事例は、企業の法令遵守について重要な問題を示しています。
法律や制度の改正を把握していても、それを実際の業務手順、システム設定、契約条件に反映できていなければ、違反を防止することはできません。
旧下請法の支払条件が残っていないか確認が必要
今回の勧告を受け、企業が最初に確認したいのは、旧下請法の下で利用していた支払条件がそのまま残っていないかという点です。
例えば、次のような状況が考えられます。
旧来の実務 | 見直しが必要となる可能性 |
手形払いを継続している | 手形払いの禁止に抵触 |
月末締め翌々月末払いを継続 | 支払期日が60日を超える可能性 |
支払方法を変更したが現金化が遅い | 支払期日までに代金全額を受け取れない可能性 |
契約書だけ変更した | 経理システムが旧設定のままの可能性 |
主要取引先のみ変更した | 一部の取引先で旧条件が残る可能性 |
特に、長年同じ支払条件を使用している企業では、購買部門が取引先と合意している条件と、経理システムに登録されている支払条件が一致しているか確認する必要があります。
経理システムの支払条件を一斉点検する
実務上の対応で重要なのが、買掛金や未払金の支払条件の確認です。
例えば、会計システムや債務支払システムでは、取引先ごとに次のような項目が登録されていることがあります。
システム項目 | 確認事項 |
支払方法 | 手形が残っていないか |
支払サイト | 60日を超える条件がないか |
締日 | 受領日からの期限管理に問題がないか |
支払日 | 実際の支払日が適切か |
得意先・仕入先区分 | 取適法対象取引を把握できるか |
支払マスター | 旧条件が残っていないか |
支払承認 | 支払期限超過を検知できるか |
特に注意したいのは、契約条件を変更しただけではシステム上の支払日が変わらない場合があることです。
例えば、購買部門が取引先に「今後は60日以内に支払います」と通知していても、経理システムの支払マスターが旧条件のままであれば、従来どおりの支払日で処理される可能性があります。
支払条件の変更は経理部門だけでは完結しない
取適法への対応では、経理部門だけが法改正を理解していても十分とはいえません。
実際の取引は、購買部門が契約し、現場部門が納品や役務提供を確認し、経理部門が支払処理を行うことが一般的です。
したがって、次のような役割分担が重要になります。
部門 | 主な役割 |
法務・コンプライアンス | 取適法の適用対象と禁止事項を確認 |
購買・発注部門 | 取引条件・契約書の見直し |
現場・検収部門 | 受領日・役務提供日等を適切に記録 |
経理部門 | 支払期日・支払方法の管理 |
財務部門 | 支払方法変更に伴う資金繰り管理 |
システム部門 | 支払条件マスター等の変更 |
特に、支払サイトを短縮する場合には、支払予定日が前倒しになるため、資金繰りへの影響も考慮する必要があります。
具体例|月末締め翌々月末払いを変更する場合
例えば、従来、仕入先への代金について、「月末締め・翌々月末払い」という条件を使用していた企業を考えます。
この企業が取適法に対応する場合、単に「翌々月末」を「翌月末」に変更するだけで十分かどうかも確認する必要があります。
重要なのは、受領日から実際の支払期日までの日数です。
実務上は、取引先ごとの締日・支払日を一覧化し、対象取引について60日以内の支払いを確保できるか確認する方法が考えられます。
また、システム上の変更だけでなく、必要に応じて取引先との契約条件の変更や社内承認も行うことが重要です。
支払遅延を防ぐには「受領日」を正確に把握する
60日以内というルールに対応するには、支払期日だけでなく、起点となる受領日を正確に管理する必要があります。
例えば、次のような情報が別々の部門で管理されている場合には注意が必要です。
情報 | 管理部門の例 |
発注日 | 購買部門 |
納品日・受領日 | 倉庫・現場部門 |
検収日 | 品質管理・現場部門 |
請求書受領日 | 経理部門 |
支払予定日 | 経理・財務部門 |
仮に経理部門が請求書受領日しか把握していなければ、物品・サービスの受領日を基準とした期限管理が十分にできない可能性があります。
そのため、対象取引について必要な受領日情報が経理部門へ適切に連携される仕組みを整えることが重要です。
公正取引委員会の勧告による企業への影響
今回の資料では、公正取引委員会による調査で多数の違反事例が指摘されていることに加え、事業者名が公表される勧告等に至るケースもあるとされています。
企業にとっては、単に違反行為を是正するだけでなく、対外的な信用にも影響する可能性があります。
特に大企業や取引先の多い企業では、取適法への対応状況が、取引先との関係やコンプライアンス管理上の重要な事項になると考えられます。
したがって、法律の担当者が「制度対応済み」と判断するだけではなく、実際の取引データや支払実績を確認することが有用です。
取適法対応のチェックリスト
2026年1月の施行から一定期間が経過した現在、企業では改めて次の事項を確認することが考えられます。
確認事項 | チェック |
自社の取適法対象取引を把握している | □ |
対象取引で手形払いを行っていない | □ |
支払期日を受領日から60日以内に設定している | □ |
60日を超える旧支払条件が残っていない | □ |
支払期日までに代金全額を受け取れる支払方法となっている | □ |
支払条件マスターを更新している | □ |
対象取引の受領日を適切に記録している | □ |
支払期限超過を検知する仕組みがある | □ |
購買・経理・財務部門へ改正内容を周知している | □ |
契約書とシステム設定が一致している | □ |
実際の支払実績を確認している | □ |
旧下請法時代の運用が残っていないか確認した | □ |
特に重要なのは、法改正の説明資料を配布したかどうかではなく、実際の支払条件と支払実績が新しいルールに適合しているかです。
まとめ
2026年1月に施行された取適法について、2026年9月29日、公正取引委員会による初の勧告事例が公表されました。
今回の事例では、不二製作所による手形払いと、支払期日までに代金全額を現金化することが困難な支払方法が問題となっています。
今回のポイントは次のとおりです。
取適法は2026年1月に施行
対象取引では物品・サービスの受領日から起算して60日以内に支払期日を設定
手形による代金支払いは禁止
支払期日までに代金全額を現金化できない支払方法にも注意
公正取引委員会が2026年9月29日に初の勧告を公表
不二製作所は制度を認識していたものの、実務の切替えが間に合わなかったと説明
旧下請法時代の支払条件が残っていないか確認が必要
契約書だけでなく経理システムの支払条件マスターも見直す必要がある
購買・経理・財務部門の連携が重要
今回の事例から得られる最も重要な教訓は、法律を知っていることと、法律に沿った実務ができていることは別であるという点です。
制度変更を把握していても、旧来の手形払いや支払サイトが残っていれば、取適法違反につながる可能性があります。
企業では今一度、対象となる委託取引について、手形払いの有無、支払サイト、受領日からの支払期限、代金全額を受け取れる支払方法になっているかを確認することが重要です。
特に、経理システムに登録された支払条件を見直し、実際の支払データを用いて60日以内の支払いが確保されているか検証することが、再発防止に有効と考えられます。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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