実質株主確認制度とは?議決権停止を「有事」に限定する案と0.5%基準を解説
こんにちは!代表の安田です。
上場会社の株主構成を把握するための新しい制度として、「実質株主確認制度」の導入が検討されています。
現在、上場会社の株式は、カストディアンと呼ばれる金融機関などを通じて保有される場合があります。
そのため、株主名簿に記載されている名義株主と、実際に株式を保有する実質株主が一致しないケースがあります。
企業にとっては、株主との建設的な対話を進めるうえで、実際に誰が自社株式を保有しているのかを把握することが重要です。
そこで検討されているのが、企業が実質株主に関する情報を確認できる制度です。
ただし、情報提供義務に違反した場合に、株式の議決権を停止するという強い措置を認めるべきかが議論となっています。
2026年9月30日に開催された法制審議会の会議では、議決権停止を、経営に重要な影響を与える株主提案等が行われた「有事」の株主総会に限定する案が示されました。
また、議決権停止を認めるための要件として、違反に係る株式数が発行済株式総数(自己株式を除く)の0.5%以上であることなど、具体的な基準も提案されています。
一方、経済産業省は、有事に限定すると制度の実効性が十分に確保できないとして、平時にも議決権停止を認めるべきとの意見を示しています。
本記事では、実質株主確認制度の基本的な仕組み、議決権停止に関する改正案、企業の株主総会実務への影響について、公認会計士の視点から解説します。
実質株主確認制度とは?
実質株主確認制度とは、株主名簿上の名義株主とは別に、実際に株式を保有している実質株主を会社が把握できるようにするための制度です。
上場会社の株式は、国内外の金融機関を経由して保有される場合があります。
例えば、海外の機関投資家が日本の上場会社の株式を保有していても、会社側から見ると、株主名簿には金融機関等の名前が記載され、最終的に誰が株式を保有しているのかを把握しにくい場合があります。
このような問題に対応するため、実質株主に関する情報を確認する仕組みが検討されています。
<名義株主と実質株主の違い>
項目 | 名義株主 | 実質株主 |
基本的な意味 | 株主名簿上の名義人 | 実質的に株式を保有する投資家等 |
具体例 | カストディアンなどの金融機関 | 機関投資家など |
会社からの把握 | 株主名簿等で確認 | 仲介機関等を通じた確認が必要な場合がある |
制度上の論点 | 実質株主に関する情報提供 | 企業が実際の保有者を把握できるか |
※上表は制度の目的を理解するための簡略化した説明です。具体的な株式保有構造や権利関係は取引形態によって異なります。
なぜ実質株主を把握する必要があるのか?
実質株主を把握する目的の一つは、企業と株主との建設的な対話を促進することです。
例えば、上場会社が中期経営計画や資本政策を検討する際、主要な機関投資家がどのような考え方を持っているのかを把握することには意味があります。
また、株主総会で重要な議案が提出される場合には、誰がどの程度の株式を保有しているのかという情報が、企業の支配構造を理解するうえでも重要になります。
今回の法制審議会では、従来の「会社と株主との建設的な対話の促進」という目的に加えて、有事における株式会社の支配に関する重要情報を把握することも制度の目的として位置付ける案が示されました。
この追加的な目的が、今回の議決権停止案を検討するうえで重要なポイントとなっています。
実質株主確認制度では2つの仕組みが検討されている
これまでの法制審議会の議論では、実質株主を確認するために、大きく2つの仕組みが提案されています。
制度 | 基本的な仕組み | 中間試案で示された違反への措置 |
① 会社からの情報提供請求 | 会社が仲介機関に実質株主の情報提供を求める | 過料 |
② 株主側からの通知 | 株主側が会社に必要な情報を通知する | 議決権停止 |
ここで重要なのは、制度①と制度②を区別することです。
今回、議決権停止を「有事」に限定する方向で検討されているのは、会社から仲介機関へ情報提供を請求する制度において、故意・重過失による違反があった場合の措置です。
当初の中間試案では過料が示されていましたが、その後の議論で議決権停止という措置も検討されることになりました。
議決権停止に慎重意見が出ている理由
実質株主確認制度を実効性のあるものにするためには、情報提供義務を守らなかった場合の措置が必要になると考えられます。
しかし、議決権停止には慎重な検討が求められます。なぜなら、議決権は株主にとって重要な権利だからです。
例えば、会社が実質株主の情報提供を仲介機関へ求めたものの、仲介機関が適切に対応しなかったケースを考えてみます。
この場合、情報提供義務に違反したのは仲介機関であっても、議決権停止による影響を受けるのは、その背後にいる実質株主となる可能性があります。
そのため、株主との対話を促進するという目的のために、議決権停止という重い制裁を設けることが適切なのかという問題が生じます。
2026年6月の法制審議会でも、制度の実効性を確保するために賛成する意見があった一方、議決権停止は重すぎるとの慎重意見が多く示されました。
議決権停止を「有事」に限定する案とは?
こうした議論を踏まえ、2026年9月30日の会議では、議決権停止の対象となる場面を限定する案が示されました。
具体的には、株主提案や株主による株主総会の招集請求によって、会社の経営に重要な影響を与える事項が議題・議案となった株主総会を対象とする考え方です。
例えば、次のような議案が想定されています。
役員の選任・解任に関する議案
役員構成を大きく変更する議案
その他、経営に重要な影響を与える事項
つまり、通常の株主総会で情報提供義務違反があった場合に、一律に議決権を停止する制度ではありません。
企業の支配に重要な影響が生じるような場面で、実質株主を把握する必要性を重視する案です。
<平時と有事の違い>
項目 | 平時 | 有事 |
想定場面 | 通常の株主との対話、株主構成の確認 | 経営に重要な影響を与える株主提案等 |
実質株主確認の目的 | 対話促進 | 対話促進に加え、支配に関する重要情報の把握 |
議決権停止 | 法務省の今回の案では対象を有事に限定 | 一定の厳格な要件のもとで認める案 |
現在の状況 | 経産省は平時にも停止を求める | 法制審議会で引き続き検討 |
なお、有事に限定するのは今回検討されている議決権停止の措置であり、実質株主確認制度そのものを有事だけに限定するという意味ではありません。
議決権停止には「0.5%以上」などの厳格な条件
今回の案では、議決権停止を認める場合について具体的な要件が示されています。
主な内容は次のとおりです。
要件 | 提案内容 |
対象となる株主総会 | 経営に重要な影響を与える事項が株主提案等により議題・議案となった株主総会 |
情報提供請求 | 会社が仲介機関に実質株主情報を請求 |
違反の程度 | 仲介機関による故意・重過失の違反 |
株式数の要件 | 違反に係る株式数が発行済株式総数(自己株式を除く)の0.5%以上 |
社内手続 | 取締役会決議 |
停止通知 | 会社が仲介機関へ議決権停止通知を送付 |
停止時期 | 通知日から1か月経過後 |
是正 | 違反是正から3週間経過した場合には停止を適用しない |
重要なのは、情報提供が遅れたからといって、直ちに議決権停止となるわけではない点です。
故意・重過失という違反の程度に加え、株式数の基準や取締役会決議などの条件が設けられています。
「0.5%以上」とは?数値例で解説
例えば、ある上場会社の発行済株式総数から自己株式を除いた株式数が1億株だったとします。
この場合、今回の案による0.5%基準は次のようになります。
1億株 × 0.5% = 50万株
仮に50万株以上に相当する情報提供義務違反があっても、故意・重過失の要件や有事の株主総会に該当することなど、ほかの条件を満たす必要があります。
このように、制度案では比較的重要な株式数に係る違反を対象とし、議決権停止が無制限に行われないような仕組みが検討されています。
議決権停止までの手続を時系列で整理
今回の案では、議決権停止の手続についても段階的な対応が示されています。
段階 | 手続 |
① | 経営に重要な影響を与える株主提案等が行われる |
② | 会社が有事の株主総会に該当することを明らかにする |
③ | 会社が仲介機関に実質株主情報の提供を請求する |
④ | 故意・重過失による違反および0.5%以上の要件等を確認する |
⑤ | 取締役会決議を経て議決権停止通知を送付する |
⑥ | 仲介機関が背後の実質株主等へ通知する |
⑦ | 通知日から1か月経過すると、対象株主総会で議決権停止となる |
⑧ | 違反が是正され、是正後3週間が経過した場合には停止を適用しない |
このように、会社側が情報提供請求を行った後、一定の手続を経て議決権停止に至る案となっています。
特に実務上重要なのは、議決権停止通知を出してから実際に停止されるまでに1か月の期間が設けられていることです。
違反を是正すれば議決権停止を回避できる案
今回の案では、実質株主の権利を保護するための手続も設けられています。
議決権停止通知を受けた仲介機関には、その背後にいる実質株主等に対して、速やかに通知する義務を設けることが提案されています。
これにより、実質株主が、自らの株式について議決権停止の可能性があることを把握できるようになります。
さらに、違反した仲介機関が必要な情報提供等を行い、是正から3週間が経過した場合には議決権停止を適用しないという仕組みも示されています。
これは、違反に対する制裁だけではなく、実際に情報提供義務を履行させることを重視した仕組みと考えられます。
したがって、今回の案は、「情報提供義務に違反したら必ず議決権を失う」というものではありません。
違反の是正を促しつつ、実質株主が不利益を受けることを防ぐための手続も組み込まれています。
経済産業省は「平時にも議決権停止を認めるべき」と主張
今回の議論では、法務省から示された有事限定案に対し、経済産業省が異なる意見を示しています。
経済産業省は、議決権停止を有事に限定すると、大半の上場会社で制度の実効性を確保できないと指摘しています。
そのうえで、通常時の確認請求についても議決権停止を可能とすることなどを求めています。両者の考え方を整理すると、次のようになります。
論点 | 法務省が示した案 | 経済産業省の意見 |
議決権停止の対象 | 有事に限定 | 平時にも認めるべき |
重視する点 | 株主の権利保護との均衡 | 実質株主確認制度の実効性 |
制度の趣旨 | 対話促進に加え、有事の支配情報の把握 | 平時から実質株主を把握できる仕組みの実効性 |
現在の状況 | 法制審議会へ提案 | 引き続き検討を要請 |
ここが今回の制度改正における中心的な論点です。
会社側から見ると、制度があっても情報提供義務を履行してもらえなければ、実質株主を十分に把握できない可能性があります。
一方、株主側から見ると、議決権停止の範囲が広すぎる場合、仲介機関の違反によって重要な株主権が制約される可能性があります。
そのため、制度の実効性と株主の権利保護をどのように両立させるかが、今後の議論の焦点となっています。
上場会社の株主総会実務にどのような影響がある?
今回の制度が将来導入された場合、上場会社の株主総会実務にも影響する可能性があります。
特に、役員選任・解任など経営に重要な影響を与える株主提案が行なわれた場合には、実質株主に関する情報提供請求の要否や、議決権停止に関する手続が問題となる可能性があります。
例えば、次のような対応が考えられます。
1.株主提案の内容を早期に確認する
株主提案や株主総会招集請求の内容が、制度上の「有事」に該当するかどうかを確認する必要があります。
2.仲介機関との連絡体制を整備する
実質株主情報の提供を求める場合、必要な請求手続や連絡経路を整えておくことが考えられます。
3.議決権停止の要件を確認する
故意・重過失、0.5%基準、取締役会決議など、複数の条件を確認する必要があります。
4.通知期間を管理する
議決権停止通知から1か月という期間や、違反是正後3週間という期間が提案されているため、日程管理が重要になる可能性があります。
5.議決権数への影響を把握する
仮に議決権停止が適用されれば、株主総会で行われる議決権行使や議案の成否に影響する可能性があります。
ただし、これらは現時点での制度案を前提とした実務上の検討事項であり、法令上確定した手続ではありません。
実質株主確認制度はコーポレートガバナンスにも関係する
実質株主の把握は、単なる株主名簿の管理だけではなく、コーポレートガバナンスにも関係します。
企業が中長期的な企業価値向上を目指すためには、株主との建設的な対話が重要です。
また、役員選任などを巡って経営に大きな影響を与える株主提案が行われる場合には、実質的な株式保有構造を把握することも重要な情報となります。
今回の制度案は、こうした企業と株主との関係を支える仕組みとして検討されています。
一方で、議決権停止は株主の権利に直接影響するため、制度の導入には慎重な設計が求められます。
今後の議論では、企業による株主情報の把握と株主権の保護を、どこまで両立できるかが重要になります。
企業が確認しておきたいチェックリスト
確認事項 | チェック |
実質株主確認制度の検討状況を把握している | □ |
名義株主と実質株主の違いを理解している | □ |
カストディアンなどの仲介機関の役割を理解している | □ |
会社からの情報提供請求制度の概要を把握している | □ |
「有事」に限定する議決権停止案を確認した | □ |
故意・重過失の要件を確認した | □ |
0.5%基準の内容を確認した | □ |
取締役会決議が提案されていることを確認した | □ |
停止通知後1か月の期間を確認した | □ |
違反是正後3週間の取扱いを確認した | □ |
経産省が平時にも停止を求めていることを把握している | □ |
今後の会社法改正の議論を確認する体制がある | □ |
今回の制度案を一表で整理
項目 | 現在検討されている内容 |
制度名称 | 実質株主確認制度 |
主な目的 | 実質株主の把握、株主との対話促進 |
追加的な目的案 | 有事における企業支配に関する重要情報の把握 |
確認対象 | 仲介機関の背後にいる実質株主 |
議決権停止の場面 | 経営に重要な影響を与える株主提案等がある株主総会 |
違反要件 | 仲介機関の故意・重過失 |
株式数の基準 | 発行済株式総数(自己株式を除く)の0.5%以上 |
社内手続 | 取締役会決議 |
停止時期 | 停止通知から1か月経過後 |
是正時の取扱い | 是正後3週間経過で停止を適用しない |
経産省の意見 | 平時にも議決権停止を認めるべき |
制度の状況 | 法制審議会で検討中 |
まとめ
2026年9月30日の法制審議会では、実質株主確認制度における議決権停止について、新しい案が示されました。
今回の案では、会社から仲介機関への実質株主情報の提供請求に関し、故意・重過失による違反があった場合でも、議決権停止を一定の「有事」に限定する方向となっています。
主なポイントは次のとおりです。
実質株主確認制度は、仲介機関の背後にいる実質株主を把握するための仕組み
会社からの情報提供請求制度と、株主側からの通知制度の2つが検討されている
会社からの情報提供請求制度について、議決権停止の導入が議論されている
議決権停止の対象を経営に重要な影響を与える株主提案等がある「有事」に限定する案
仲介機関による故意・重過失の違反が対象
違反に係る株式数が発行済株式総数(自己株式を除く)の0.5%以上であることが条件
取締役会決議を経て議決権停止通知を送付
通知から1か月経過後に対象株主総会で議決権停止
違反是正後3週間が経過した場合には停止を適用しない
実質株主に対する通知など、権利保護の仕組みも検討
経済産業省は有事だけでなく平時にも議決権停止を認めるべきと主張
今回特に重要なのは、実質株主確認制度の実効性を確保するために、どこまで強い措置を認めるべきかという点です。
企業にとっては実質株主の把握が重要である一方、議決権停止は株主の権利に直接影響します。
そのため、制度の目的、対象となる株主総会、違反要件、是正手続などについて、慎重な検討が進められています。
経済産業省からは平時にも議決権停止を認めるべきとの意見が示されており、制度内容は今後変更される可能性があります。
現時点では議決権停止の要件が確定したわけではありません。
上場会社の法務・総務・IR・株式事務担当者などは、今後の法制審議会の議論や会社法改正の動向を確認しておくことが重要です。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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