海外転出時に納税管理人は必要?国税と地方税の違い・住民税や固定資産税の注意点を税理士が解説
おはようございます!代表の安田です。
海外赴任、海外移住、留学、長期出張などにより、日本国内に住所を有しなくなる場合、税金の手続きで忘れやすいものの一つが「納税管理人」です。
納税管理人とは、海外にいる納税者本人に代わって、日本国内で税金に関する書類の受領、申告、納付、還付金の受領などを行なう人のことです。
所得税や消費税などの国税だけでなく、住民税、固定資産税、自動車税、不動産取得税、個人事業税などの地方税でも、納税管理人の届出が必要になることがあります。
特に注意したいのは、国税と地方税では、納税管理人制度の取扱いや手続きが必ずしも同じではないという点です。
令和3年度税制改正では、国税について、一定の場合に税務当局が納税管理人の届出を求めたり、特定納税管理人を指定したりできる制度が設けられました。しかし、この見直しは国税に関するものであり、地方税は対象外でした。
本日は、納税管理人とは何か、国税と地方税で何が違うのか、海外転出時にどの税金で届出が必要になるのか、納税管理人を選任しない場合のリスク、実務上の手続きについて解説します。
納税管理人とは
納税管理人とは、国内に住所や居所、事務所などを有しない納税者に代わって、税金に関する手続きを行なう人をいいます。
国税庁は、所得税・消費税の納税管理人について、国内に住所を有していない、または有しないこととなる場合に、申告書の提出その他国税に関する事項を処理する必要があるときに選任するものと説明しています。選任する場合は、その納税管理人を定めたときまたは出国の日までに届出書を提出します。
たとえば、海外赴任中でも日本国内に賃貸不動産があり、所得税の確定申告が必要な方は、納税管理人を選任しておくことが一般的です。
納税管理人が行なう主な手続きには、次のようなものがあります。
税務署や自治体から届く書類の受領
申告書や届出書の提出
税金の納付
還付金の受領
税務署や自治体との連絡
納税通知書の確認
納税管理人は、単なる郵便物の受取人ではありません。税務手続きを日本国内で円滑に進めるための代理的な役割を担います。
国税の納税管理人
国税の納税管理人は、所得税、消費税、法人税など、国に納める税金に関する手続きを行ないます。
個人の場合、海外転出後も日本国内で所得が発生する場合には、所得税の確定申告が必要になることがあります。
たとえば、次のようなケースです。
日本国内の不動産を賃貸している
日本国内の不動産を売却する予定がある
国内源泉所得がある
個人事業を廃止せず、国内取引が残っている
消費税の申告義務が残っている
国税庁の手続案内では、所得税・消費税の納税管理人を選任する場合、e-Taxソフトで届出書を作成してe-Taxにより提出できるほか、書面で作成し、持参または送付により提出することもできます。
法人についても、日本に本店または事務所等を有しない法人が、納税申告書の提出など国税に関する事項を処理する必要がある場合には、納税管理人を選任して届け出る手続きがあります。法人の納税管理人届出書は、納税管理人を定めた後、速やかに提出するものとされています。
令和4年から国税には「特定納税管理人」制度がある
国税については、令和3年度税制改正により、特定納税管理人制度が設けられました。
国税庁の資料では、納税者から自発的に納税管理人の届出がない場合に、税務当局が納税者に対して納税管理人の指定および届出を要請し、それでも届出がないなど一定の要件を満たすとき、所轄税務署長等が国内に住所または居所を有する一定の者を特定納税管理人に指定できる制度とされています。この制度は令和4年1月1日から施行されています。
この制度が創設された背景には、非居住者や外国法人の国内取引が増え、国内に拠点を持たない納税者への税務調査や連絡が難しくなるケースがあったことがあります。
つまり、国税では、納税管理人の選任がない場合に、税務署側が一定の手続きを経て納税管理人の届出を求めたり、特定納税管理人を指定したりする仕組みがあります。
ただし、これは国税に関する制度です。
地方税については、同じ改正がそのまま適用されるわけではありません。
地方税の納税管理人とは
地方税にも納税管理人の制度があります。
地方税法上の納税管理人とは、各税目の納税義務者が、納税義務を負う市町村内や都道府県内に住所、居所、事務所または事業所を有しない場合に、代わりに納税に関する一切の事項を処理する者と説明されています。
地方税で納税管理人が関係する主な税目には、次のようなものがあります。
個人住民税
固定資産税
都市計画税
軽自動車税
自動車税種別割
個人事業税
不動産取得税
たとえば、海外に転出しても、日本国内に土地や建物を所有していれば、固定資産税や都市計画税の納税義務が続きます。
また、海外転出後に前年の所得に基づく住民税の納税通知書が届く場合もあります。
このような場合、納税通知書を受け取り、納付手続きを行う人を国内で定めておく必要があります。
地方税は自治体ごとに手続きが異なる
国税の場合、税務署に提出する届出書の様式や手続きは比較的統一されています。
一方、地方税は自治体ごとに手続きが異なる点に注意が必要です。
地方税の場合、申告様式は自治体ごとにさまざまで、各自治体のホームページからダウンロードし、窓口または郵送で提出するのが通常とされています。また、自治体によっては、マイナンバーカードや運転免許証等を用いた本人確認書類の提示等を掲げているところもあります。
つまり、地方税の納税管理人届は、「全国共通でこの様式を出せば終わり」というものではありません。
固定資産税なら不動産所在地の市区町村、住民税なら1月1日時点の住所地の市区町村、個人事業税や不動産取得税なら都道府県税事務所など、それぞれの自治体に確認する必要があります。
国税の見直しは地方税には及ばない
重要なポイントは、令和3年度税制改正による納税管理人制度の見直しが、国税に関するものであり、地方税は対象外とされている点です。
国税では、令和4年1月1日から、一定の場合に税務当局が納税管理人の届出を求めたり、特定納税管理人を指定したりできるようになっています。
一方で、地方税については、同様の改正は見送られています。
納税管理人に求められる役割は国税も地方税も同じであるものの、納税管理人が選任されていない場合、国税では罰則がない一方、地方税では一定の過料等の規定が措置されているため、地方税では国税と同様の改正が見送られていると説明されています。
ここは実務上かなり大事です。
「国税で特定納税管理人制度ができたから、地方税も税務当局が指定してくれるだろう」と考えるのは危険です。
地方税については、自治体ごとのルールに従って、納税者本人が出国前に届出をしておくことが基本です。
地方税では選任しないと過料の可能性がある
地方税では、納税管理人を選任していない場合に、一定の過料などの行政罰が定められていることがあります。
地方税において納税管理人が選任されていない場合、一定の過料等の規定が設けられています。過料を避けるためには、原則として出国する前までに、各市町村長等へ納税管理人の申告等を行なう必要があります。
特に次のような方は、地方税の納税管理人届を忘れやすいため注意が必要です。
海外赴任する会社員
海外移住後も日本に不動産を所有する方
日本の賃貸マンションを貸し続ける方
海外転出後に住民税の納税通知書が届く予定の方
国内に自動車や軽自動車を所有している方
海外転出後に不動産を取得・売却する予定がある方
納税管理人の届出をしないまま海外に出ると、納税通知書が届かない、納期限に気づかない、延滞金が発生する、といった問題につながります。
住民税は海外転出後にも納付が必要なことがある
住民税は、原則としてその年の1月1日時点で日本国内の市区町村に住所がある人に課税されます。
そのため、年の途中で海外転出した場合でも、1月1日時点で日本に住所があれば、その年度の住民税が課税されることがあります。
たとえば、令和6年1月1日に日本に住んでいて、令和6年4月に海外転出した場合、令和6年度の住民税は日本で課税されます。
給与から特別徴収されていた方が海外転出により退職した場合、残りの住民税を普通徴収で納めることになることもあります。
このような場合、納税通知書を国内で受け取る人が必要になります。
住民税の納付が残る場合は、海外転出前に市区町村で納税管理人の届出が必要か確認しておきましょう。
固定資産税は不動産所在地の自治体で手続きする
海外に住んでいても、日本国内に土地や建物を所有していれば、固定資産税や都市計画税の納税義務があります。
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税されます。
納税通知書は、通常、不動産所在地の自治体から送られます。
海外転出後も国内不動産を保有する場合、固定資産税の納税通知書を誰が受け取るのかを決めておく必要があります。
納税管理人を届け出ておけば、自治体からの通知を国内の納税管理人が受け取り、納付手続きも行いやすくなります。
不動産所在地が複数の市区町村にまたがる場合は、それぞれの自治体で届出が必要になることがあります。
納税管理人には誰を選べるか
地方税の納税管理人について、市町村または都道府県の条例で定める地域等に住所等を有する者のうちから定める必要があると説明されています。
実務上は、次のような人を納税管理人にするケースがあります。
日本国内に住む親族
日本国内に住む知人
税理士
不動産管理会社
勤務先の担当者
ただし、納税管理人は税金に関する重要な書類を受け取り、納付や申告に関わる可能性があります。
そのため、単に住所が近い人ではなく、税務書類の管理や納付対応をきちんと行なえる人を選ぶことが重要です。
税務判断や申告が必要な場合には、税理士を納税管理人にすることも検討できます。
納税管理人を選ぶときの注意点
納税管理人を選ぶ際には、次の点を確認しておきましょう。
1. 税務書類を確実に受け取れるか
納税通知書や督促状、自治体からの照会文書などを確実に受け取れる人を選びます。
2. 納期限を管理できるか
納税通知書を受け取っただけで放置してしまうと、延滞金が発生する可能性があります。
3. 本人と連絡が取れるか
海外にいる本人へ税額や納期限を速やかに伝えられる体制が必要です。
4. 納付資金をどうするか
納税管理人が立て替えるのか、本人が海外送金するのか、事前に決めておきましょう。
5. 申告が必要な税目に対応できるか
固定資産税の納付だけでなく、住民税申告、個人事業税、不動産所得の確定申告などが必要な場合は、専門的な対応が必要になることがあります。
納税管理人の届出前に確認したい税目
海外転出前には、次の税目について納税管理人の届出が必要か確認しましょう。
所得税
消費税
住民税
固定資産税
都市計画税
自動車税種別割
軽自動車税
個人事業税
不動産取得税
税目によって提出先が異なります。
所得税や消費税は税務署、住民税や固定資産税は市区町村、個人事業税や不動産取得税は都道府県税事務所が窓口になることが多いです。
同じ「税金」でも、国税と地方税で提出先が異なるため、まとめて確認しておくと安心です。
出国前に行なう実務チェックリスト
海外転出が決まったら、税務面では次のような確認を行ないましょう。
1. 出国後も日本で申告・納税が必要か確認する
国内不動産収入、国内源泉所得、固定資産税、住民税などがあるかを確認します。
2. 国税の納税管理人届を提出する
所得税・消費税の手続きが必要な場合、出国日までに納税管理人の届出を行います。
3. 地方税の納税管理人届を確認する
住民税、固定資産税、自動車税などについて、自治体ごとに届出方法を確認します。
4. 提出先を間違えない
税務署、市区町村、都道府県税事務所など、税目ごとに提出先が異なります。
5. 本人確認書類や押印の要否を確認する
地方税では自治体ごとに様式や添付書類、押印の取扱いが異なります。
6. 納付資金の流れを決める
納税管理人が納付する場合、本人からの送金方法やタイミングを決めておきます。
7. 帰国時や納税管理人変更時の手続きも確認する
帰国した場合や納税管理人を変更・解任する場合には、解任届や変更届が必要になることがあります。
よくある誤解
国税で納税管理人を届け出れば地方税も完了する
誤りです。国税と地方税では提出先が異なります。所得税の納税管理人届を税務署に提出しても、固定資産税や住民税の納税管理人届を自治体に提出したことにはなりません。
地方税も国税と同じように特定納税管理人を指定してくれる
令和3年度税制改正による納税管理人制度の見直しは国税だけの適用であり、地方税は対象外とされています。
海外転出すれば住民税はもうかからない
年の途中で海外転出しても、1月1日時点で日本に住所があれば、その年度の住民税が課税されることがあります。
日本に不動産があっても海外在住なら固定資産税は不要
海外在住でも、日本国内に土地や建物を所有していれば、固定資産税や都市計画税の納税義務があります。
納税管理人は誰でもよい
地方税では、条例で定める地域等に住所等を有する者から定める必要がある場合があります。税務書類の受領や納付対応ができる人を選ぶことが重要です。
まとめ
海外転出や海外移住により日本国内に住所を有しなくなる場合でも、日本国内に税務手続きが残ることがあります。
そのような場合には、国内で税金に関する手続きを行う納税管理人を選任し、税務署や自治体へ届出を行う必要があります。
国税については、所得税・消費税の納税管理人を選任する場合、納税管理人を定めたときまたは出国の日までに、所轄税務署へ届出を行います。令和4年1月1日からは、一定の場合に税務当局が特定納税管理人を指定できる制度も設けられています。
一方、地方税については、令和3年度税制改正による国税の特定納税管理人制度の見直しは対象外です。地方税では、納税管理人が選任されていない場合に過料等の規定が設けられていることがあり、原則として出国前までに各自治体へ納税管理人の申告等を行う必要があります。
地方税の納税管理人届は、自治体ごとに様式や提出方法が異なります。本人確認書類の要否、押印の要否、提出方法も自治体によって異なるため、住民税、固定資産税、自動車税、個人事業税など、該当する税目ごとに確認しましょう。
海外転出時の税務手続きは、所得税だけでなく、地方税まで含めて整理することが大切です。出国直前に慌てないよう、国内不動産、住民税の残額、事業所得、固定資産税などを確認し、必要に応じて納税管理人を早めに選任しておきましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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