新リース会計基準の初度適用は適時開示が不要?東証FAQと固定資産リースの30%基準を解説
こんにちは!代表の安田です。
新リース会計基準の適用に向けて、上場会社では使用権資産やリース負債の計上など、財務諸表への影響を検討する必要があります。
従来はオフバランスとなっていたリース取引についても、原則として使用権資産とリース負債を計上することとなるため、企業によっては総資産や負債の金額が大きく変わる可能性があります。
また、初度適用時には、適用方法等によって利益剰余金の調整が必要となる場合もあります。
このような財務諸表への影響について、上場会社は東京証券取引所に個別の適時開示を行う必要があるのでしょうか。
東京証券取引所は2026年9月24日、上場会社向けのナビゲーションシステムにおいて、新リース会計基準の適用に関するFAQを追加しました。
その中で、新リース会計基準の初度適用による財務諸表への影響については、原則として個別の適時開示は不要との考え方を示しています。
ただし、すべてのリース取引について適時開示が不要になるわけではありません。
上場会社が重要な固定資産のリースによる賃貸借を決定した場合には、従来どおり、一定の基準を満たすと適時開示が必要です。
本日は、新リース会計基準の初度適用時の開示の取扱い、個別の適時開示が必要となる例外、固定資産のリース取引に関する30%基準、開示実務の注意点について、公認会計士が解説します。
新リース会計基準とは?
新リース会計基準とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を指します。
新基準では、借手の会計処理について、原則としてリース取引から生じる使用権資産とリース負債を認識する考え方が採用されています。
これにより、従来の会計処理では貸借対照表に計上されていなかったリース取引についても、資産と負債が計上されるケースが増えることになります。
例えば、オフィスや店舗、倉庫などを長期間借りている会社では、新リース会計基準の適用によって貸借対照表の金額に大きな影響が生じる可能性があります。
<新リース会計基準による主な影響>
項目 | 想定される影響 |
使用権資産 | リースに係る資産を計上 |
リース負債 | 将来のリース料支払義務を負債計上 |
総資産 | 使用権資産の認識によって増加する場合がある |
負債 | リース負債の認識によって増加する場合がある |
利益剰余金 | 初度適用時の会計処理により調整が生じる場合がある |
財務指標 | 総資産、負債比率等に影響する可能性がある |
新リース会計基準の初度適用では、こうした財務諸表への影響を把握する必要があります。
東証は「初度適用による個別の適時開示は原則不要」と回答
東京証券取引所は2026年9月24日、上場会社向けナビゲーションシステムに、新リース会計基準の適用に関するFAQを追加しました。
その内容は、新リース会計基準の初度適用によって、使用権資産・リース負債の計上や利益剰余金の調整が生じる場合、これらの影響について個別の適時開示が必要かというものです。
これに対し東証は、会計基準の適用に伴う財務諸表の調整であることから、原則として個別の適時開示は必要ないという考え方を示しました。
重要なのは、財務諸表への影響が大きいという事実だけで、直ちに個別の適時開示が必要になるわけではないという点です。
<初度適用に関する東証の考え方>
項目 | 取扱い |
使用権資産の新規計上 | 原則として個別の適時開示は不要 |
リース負債の新規計上 | 原則として個別の適時開示は不要 |
利益剰余金の調整 | 原則として個別の適時開示は不要 |
インサイダー取引規制上の重要事実に該当する場合 | 個別の適時開示が必要 |
決算短信での説明 | 会計基準の変更に関する注記等で説明 |
決算説明資料での補足 | 投資家に分かりやすく説明するため、必要に応じて検討 |
つまり、新しい会計基準を適用した結果として財務諸表の金額が変わったことと、新たな重要取引を決定したことは区別する必要があります。
なぜ会計基準の初度適用は原則として適時開示が不要なのか?
今回のFAQを理解するうえでは、会計基準の変更によって生じる財務諸表上の調整と、企業の新たな経営判断による取引を区別することが重要です。
例えば、企業が従来から継続しているオフィス賃貸借契約について、新リース会計基準の適用により使用権資産とリース負債を計上したとします。
この場合、貸借対照表上の資産・負債は増加します。
しかし、会計基準を適用したことによって、新たな賃貸借契約が締結されたわけではありません。
従来から存在していた取引について、会計処理の方法が変更されたことになります。
東証は、このような財務諸表への影響を、会計基準の適用に伴う調整として捉え、原則として個別の適時開示を要しないとしています。
例外|インサイダー取引規制上の重要事実に該当する場合
ただし、初度適用による影響について、常に適時開示が不要というわけではありません。
東証のFAQでは、個々の会社の状況を踏まえ、会社がインサイダー取引規制上の重要事実に該当すると判断する場合には、適時開示を行なう必要があるとしています。
したがって、「新リース会計基準の初度適用だから、適時開示について検討する必要がない」と判断することは適切ではありません。
企業は、初度適用による財務諸表への影響を把握したうえで、個別の状況に応じて適時開示の要否を判断する必要があります。
例えば、多額のリース負債が新たに認識される場合などには、財務諸表への影響を適切に把握することが重要です。
ただし、リース負債が一定額以上増えたからといって、自動的にインサイダー取引規制上の重要事実に該当するという意味ではありません。
重要事実への該当性は、適用される法令や個別の事実関係に基づいて判断する必要があります。
個別の適時開示が不要でも、決算短信等での説明は想定される
今回のFAQでは、初度適用による影響について、決算短信等の「会計基準の変更に関する注記」で一定の説明を行なうことが想定されています。
また、投資家にとって分かりやすい情報提供を行なう観点から、企業の状況に応じて、決算短信や決算説明資料等で追加的な説明を行うことも考えられるとしています。
ここは実務上、重要なポイントです。
「個別の適時開示が原則不要」であることと、「投資家向けの説明が不要」であることは同じではありません。
例えば、使用権資産やリース負債の計上により総資産や負債比率が大きく変化する企業では、その変化が事業上の新たな投資によるものなのか、会計基準の適用によるものなのかを投資家が理解できるようにすることが有用です。
<開示・説明方法の整理>
開示方法 | 主な内容 |
個別の適時開示 | 初度適用の影響については原則不要。ただし例外あり |
決算短信 | 会計基準の変更に関する注記等 |
決算説明資料 | 初度適用による財務数値の変化について必要に応じて補足 |
有価証券報告書等 | 適用する会計基準・開示規則に従って必要事項を記載 |
決算担当者としては、初度適用の影響額を算定するだけでなく、開示担当者やIR担当者と連携し、どのような説明が適切かを検討することが考えられます。
固定資産のリース取引は従来どおり適時開示が必要な場合がある
ここからは、初度適用とは別の論点です。
東京証券取引所のFAQでは、リースによる固定資産の賃貸借を行なうことを決定した場合の適時開示の取扱いは、新リース会計基準の適用後も変わらないことが示されています。
上場会社の業務執行を決定する機関が、リースによる固定資産の賃貸借を行なうことを決定した場合、一定の開示基準に該当するときには、直ちに適時開示が必要です。
また、基準に該当しないことが明らかでない場合も、開示の対象として扱われます。
根拠として、東京証券取引所の有価証券上場規程第402条第1号sおよび同施行規則第401条第1項第7号が挙げられています。
固定資産のリース取引における「連結純資産の30%基準」
今回の資料では、リースによる固定資産の賃貸と賃借について、それぞれ適時開示の基準が示されています。
いずれも、直前連結会計年度末の連結純資産の30%が重要な基準となります。
ただし、賃貸側と賃借側では、比較する金額が異なります。
<リースによる固定資産の賃貸借に関する適時開示基準>
取引 | 判定する金額 | 開示基準 |
固定資産をリースで賃貸する場合 | 賃貸する固定資産の帳簿価額 | 直前連結会計年度末の連結純資産の30%以上 |
固定資産をリースで賃借する場合 | リース金額の合計見込額 | 直前連結会計年度末の連結純資産の30%以上 |
賃貸側は固定資産の帳簿価額、賃借側はリース金額の合計見込額で判定する点が重要です。
この基準は、使用権資産やリース負債を新たに計上した金額に対して、一律に30%を適用するというものではありません。
初度適用による会計上の調整と、重要なリース取引の決定に関する開示基準を混同しないよう注意する必要があります。
数値例① 固定資産をリースで賃貸する場合
例えば、ある上場会社について、直前連結会計年度末の連結純資産が100億円だったとします。
この会社が、帳簿価額35億円の固定資産をリースで賃貸することを決定した場合を考えます。
<判定>
100億円 × 30% = 30億円
項目 | 金額 |
直前連結会計年度末の連結純資産 | 100億円 |
開示基準となる30%相当額 | 30億円 |
賃貸する固定資産の帳簿価額 | 35億円 |
判定 | 基準に該当 |
この場合、賃貸する固定資産の帳簿価額35億円は、30%基準の30億円以上となります。
したがって、当該リース取引を行うことを決定した場合には、適時開示が必要となります。
ここで注意したいのは、判定に使用するのが賃貸する固定資産の帳簿価額であるという点です。
リース料の受取見込額で判定するわけではありません。
数値例② 固定資産をリースで賃借する場合
次に、固定資産をリースで借りる場合を考えます。
直前連結会計年度末の連結純資産が100億円の上場会社が、リース金額の合計見込額35億円となる固定資産の賃借を決定したケースです。
<判定>
100億円 × 30% = 30億円
項目 | 金額 |
直前連結会計年度末の連結純資産 | 100億円 |
開示基準となる30%相当額 | 30億円 |
リース金額の合計見込額 | 35億円 |
判定 | 基準に該当 |
この場合も、リース金額の合計見込額が30億円以上となるため、適時開示の対象になります。
重要なのは、こちらでは賃借する固定資産のリース金額の合計見込額を使用するという点です。
賃貸と賃借では、判定に使用する金額が異なります。
リース金額の合計見込額とリース負債の計上額は同じとは限らない
新リース会計基準の適用にあたって、実務上注意したいのがこの点です。
借手がリース取引について貸借対照表に計上するリース負債は、基本的に将来のリース料を現在価値に割り引くなどして算定されます。
一方、今回の適時開示基準で示されているのは、「リース金額の合計見込額」です。
そのため、会計上のリース負債計上額を、そのまま適時開示の30%基準に用いてよいとは限りません。
例えば、長期間のリース取引では、割引計算の影響によってリース負債の帳簿価額とリース金額の合計見込額が異なる場合があります。
したがって、適時開示の要否を判断する際には、会計システム上のリース負債残高だけでなく、契約上のリース金額や期間なども確認する必要があります。
30%未満であれば必ず適時開示不要?
今回の資料では、リースによる固定資産の賃貸借を決定した場合について、開示基準に該当するときだけでなく、該当しないことが明らかでないときも開示対象になるとされています。
例えば、契約内容がまだ十分に確定しておらず、リース金額の合計見込額を適切に判定できない場合には、慎重な検討が必要です。
また、今回紹介している30%基準は、固定資産のリースによる賃貸借に関する基準です。
ほかの適時開示事項への該当性まで含めて、すべての開示要否がこの基準だけで決まるわけではありません。
適時開示が必要な場合の記載事項
固定資産のリースによる賃貸借について適時開示が必要な場合には、その内容を投資家が理解できるよう、必要な事項を記載します。
今回の資料では、次の項目が示されています。
開示事項 | 主な内容 |
賃貸借の理由 | なぜ当該リース取引を行うのか |
対象資産の内容 | 名称、所在地、資産の概要、リース料の総額 |
相手会社の概要 | 取引相手の会社情報 |
賃貸借の日程 | 決定日、契約日、開始予定日等 |
今後の見通し | 業績等への影響 |
支配株主との取引等 | 該当する場合に必要な事項 |
その他 | 投資者の判断に必要な事項 |
上場会社では、リース取引の決定前に、これらの情報を開示担当者が把握できるようにしておくことが有用です。
特に、重要な賃貸借契約については、経理部門だけでなく、契約担当部門や法務部門、IR部門との連携が必要になります。
新リース会計基準と適時開示で間違えやすい3つのポイント
① 使用権資産・リース負債が増加したら必ず適時開示が必要だと考える
新リース会計基準の初度適用による会計上の調整については、原則として個別の適時開示は不要です。
財務諸表の数値が変動したことだけで、直ちに個別の適時開示が必要になるわけではありません。
ただし、会社がインサイダー取引規制上の重要事実に該当すると判断する場合は例外となります。
② 新リース会計基準の適用後は、固定資産のリース取引についても適時開示が不要にな
ると考える
これは誤りです。固定資産のリースによる賃貸借を決定した場合の適時開示基準は、新リース会計基準の適用後も変わりません。
③ リース負債の帳簿価額で30%基準を判定する
固定資産をリースで賃借する場合に示されている基準は、リース金額の合計見込額です。
会計上のリース負債計上額と同じとは限らないため、適時開示の判定で使用する金額を正しく確認する必要があります。
決算・開示担当者が準備しておきたいこと
新リース会計基準の適用に向けては、会計処理と適時開示の両面から検討することが重要です。
1.初度適用による財務諸表への影響額を把握する
使用権資産やリース負債の計上額、利益剰余金への影響などを整理します。
2.個別の適時開示が必要となる例外を確認する
初度適用の影響について、会社の状況を踏まえた重要事実への該当性を確認します。
3.決算短信等での説明内容を検討する
会計基準の変更に関する注記に加え、必要に応じて決算説明資料等での説明を検討します。
4.重要なリース取引の決定を把握する
新規の固定資産リース取引について、適時開示の30%基準への該当性を確認します。
5.契約情報と開示担当者の連携を整える
重要なリース契約を決定する際、契約担当部門から経理・開示担当部門へ必要な情報が共有される体制を整備します。
新リース会計基準の適時開示チェックリスト
確認事項 | チェック |
新リース会計基準の初度適用による影響額を算定した | □ |
使用権資産・リース負債の計上額を把握した | □ |
利益剰余金への影響を確認した | □ |
個別の適時開示が原則不要であることを理解した | □ |
インサイダー取引規制上の重要事実への該当性を検討した | □ |
決算短信等の注記内容を検討した | □ |
決算説明資料での追加説明の要否を確認した | □ |
重要な固定資産リース契約を把握している | □ |
直前連結会計年度末の連結純資産を確認した | □ |
賃貸側の固定資産帳簿価額を確認した | □ |
賃借側のリース金額の合計見込額を確認した | □ |
30%基準への該当性を検討した | □ |
適時開示が必要な場合の記載事項を確認した | □ |
契約担当・経理・IR・法務部門が連携している | □ |
まとめ
東京証券取引所は2026年9月24日、新リース会計基準の初度適用に関するFAQを追加しました。
その中で、使用権資産・リース負債の計上や利益剰余金の調整といった、会計基準の初度適用による財務諸表への影響については、原則として個別の適時開示を要しないとの考え方を示しています。
ただし、企業がインサイダー取引規制上の重要事実に該当すると判断する場合には、適時開示が必要です。
また、個別の適時開示が不要でも、決算短信等における会計基準の変更に関する注記や、必要に応じた投資家向けの追加説明は検討する必要があります。
一方で、リースによる固定資産の賃貸借を新たに決定した場合の適時開示基準は、新リース会計基準の適用後も変更されません。
主なポイントを整理すると、次のとおりです。
新リース会計基準は企業会計基準第34号
初度適用で使用権資産・リース負債を計上する場合がある
利益剰余金に調整が生じる場合もある
初度適用による影響は原則として個別の適時開示が不要
ただし、インサイダー取引規制上の重要事実に該当する場合は例外
決算短信等の会計基準変更に関する注記で説明することが想定される
投資家に分かりやすく説明するため、決算説明資料等での補足も考えられる
重要な固定資産リース取引の決定については従来どおり適時開示が必要
賃貸側は固定資産の帳簿価額で30%基準を判定
賃借側はリース金額の合計見込額で30%基準を判定
基準となるのは直前連結会計年度末の連結純資産
基準に該当しないことが明らかでない場合も開示対象となる
今回の東証FAQから分かるのは、会計基準の初度適用に伴う財務諸表の変更と、新たな重要リース取引の決定は、適時開示上、異なる取扱いになるということです。
上場会社では、会計処理上のリース負債計上額だけでなく、リース金額の合計見込額など、適時開示の判定に必要な契約情報も整理しておくことが重要です。
新リース会計基準の適用に向けて、経理部門と適時開示担当部門が連携し、初度適用の影響と重要なリース取引に関する開示判断を区別して準備しておくことが望まれます。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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