アーンアウト条項付き株式の調整金は譲渡所得にならない?
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 4分
おはようございます!代表の安田です。
M&Aでよく見かけるアーンアウト条項は、買収対価の一部を将来の業績目標達成に連動させて支払う仕組みです。売主側としては「株式の売却代金の一部」と捉えがちですが、税務上の所得区分は必ずしも譲渡所得になるとは限りません。
東京国税不服審判所は、アーンアウト条項に基づき後日支払われた価額調整金について、株式移転時点で金額や支払の有無が確定していないことなどを理由に、譲渡所得には該当せず、支払があった年分の雑所得に該当すると判断しました。
本日は、この裁決のポイントと、実務での注意点を整理します。
1. 事案の概要 株式譲渡から3年後にEBITDA連動の調整金を受領
本件は、株式譲渡契約において、譲渡価額を「固定の譲渡価額+価額調整金」で構成し、価額調整金を3か年平均EBITDAを基礎に算定する仕組みでした。調整金がプラスなら買主が売主へ支払う一方、マイナスなら売主が買主へ支払うという、双方向の調整条項が置かれていました。
売主は令和2年に株式を譲渡し対価の一部を受領、その後令和5年に算定された価額調整金を受領しました。当初は令和5年分の雑所得として申告したものの、後に「令和2年分の譲渡所得に当たる」として更正の請求をしたところ、認められず争いになりました。
2. 争点 調整金は譲渡所得か、雑所得か
争点は、この価額調整金が・令和2年分の譲渡所得・令和5年分の譲渡所得・一時所得・雑所得のどれに当たるかでした。
3. 審判所の結論 譲渡所得ではなく「令和5年分の雑所得」
審判所は、譲渡所得とは、資産の値上がり益が資産の移転を機会に清算される性質の所得であり、譲渡所得に該当するには「譲渡の機会に生じたもの」であること、また収入の原因たる権利が確定的に発生したといえるには「客観的に見て権利の実現が可能になったこと」が必要と整理しました。
そのうえで、次の事情から、株式移転時点では価額調整金の金額も支払の有無も確定していないため、移転時に権利の実現が可能になったとはいえず、譲渡所得には該当しないと判断しています。
調整金算定の基礎となる3か年平均EBITDAは、株式移転後3年間の数値が確定しないと算定できない
算定式がマイナスの場合、買主からの支払はなく、逆に売主が支払う仕組み
また、調整金は株式譲渡と密接に関連するため一時所得の「資産の譲渡の対価としての性質」を有し、一時所得にも該当しないとしました。
最終的に、調整金は譲渡所得等のいずれにも当たらず雑所得に該当し、収入すべき時期も、支払があった令和5年になると判断しています。
4. 実務上の意味 税率・損益通算・申告年度が変わる可能性
アーンアウト調整金が譲渡所得にならず雑所得になると、実務上の影響が大きくなります。
1)申告する年がずれる株式譲渡年にまとめて課税されず、数年後の支払年に所得が立つ可能性があります。資金繰りや納税資金の確保に影響します。
2)所得区分により税額が変わる譲渡所得(株式)と雑所得では課税方式が異なり得るため、最終税負担が変わる可能性があります。
3)更正の請求が通らないリスク今回のように、当初の申告を後から「譲渡所得に当たる」と修正したくなっても、契約条件や確定時期の評価次第では認められないことがあります。
5. トラブルを減らすためのチェックポイント
アーンアウトを含む株式譲渡を検討する場合、少なくとも次を事前に整理しておくことをおすすめします。
アーンアウト部分が「移転時点で確定している」と説明できる設計になっているか
支払の有無が将来業績により左右されるか、双方向調整になっているか
支払時期が譲渡年から大きく離れるか
税務上の所得区分が変わった場合の税負担シミュレーションと、納税資金手当て
契約設計と税務の整合は、後から修正が難しい分、締結前に検討する価値が高い領域です。
まとめ アーンアウト調整金は「支払年の雑所得」になることがある
東京国税不服審判所は、アーンアウト条項に基づく価額調整金について、株式移転時点で金額や支払の有無が確定していないこと等から譲渡所得に該当せず、支払があった年分の雑所得に該当すると判断しました。
M&Aの対価設計でアーンアウトを使う場合、税務上の所得区分と収入計上時期が想定とズレることがあるため、契約段階から税務面も含めて設計・確認することが重要です。




コメント