パーシャルスピンオフ税制の従業者継続要件が緩和|90%以上から80%以上へ
- 安田 亮
- 2 日前
- 読了時間: 9分
おはようございます!代表の安田です。
企業グループの再編手法の一つに、スピンオフがあります。スピンオフとは、親会社が保有する子会社株式を株主に分配するなどして、子会社を独立させる組織再編の方法です。
その中でも、親会社が子会社株式の一部を引き続き保有しながら、子会社を独立させる方法をパーシャルスピンオフといいます。完全に切り離すのではなく、一定の資本関係を残しながら子会社の成長を促す点が特徴です。
令和8年度税制改正では、このパーシャルスピンオフに関する税制について見直しが行なわれました。特に重要なのが、従業者継続要件の緩和です。
改正前は、パーシャルスピンオフ直前の完全子法人に係る従業員等のうち、おおむね90%以上が引き続き完全子法人の業務に従事することが見込まれている必要がありました。改正後は、この割合がおおむね80%以上に引き下げられています。
本日は、パーシャルスピンオフ税制の概要と、令和8年度改正による従業者継続要件の緩和、事業再編計画認定要件の見直しについて、税理士の視点から整理します。
パーシャルスピンオフとは?
パーシャルスピンオフとは、親会社が完全子法人の株式を株主に現物分配する一方で、親会社にも一定割合の株式を残す形のスピンオフです。
通常のスピンオフでは、親会社が子会社株式を株主へ分配し、子会社を完全に独立させるイメージが強いでしょう。一方、パーシャルスピンオフでは、親会社が一部の株式を保有し続けるため、完全な資本関係の解消ではなく、段階的な独立や成長支援を目的とする再編に使われます。
たとえば、A社がB社を100%子会社として保有している場合に、A社がB社株式をA社株主へ現物分配しつつ、A社にもB社株式を一部残すようなケースです。
パーシャルスピンオフ税制とは?
パーシャルスピンオフ税制は、一定の要件を満たすパーシャルスピンオフについて、税務上の課税を緩和する制度です。
この制度では、産業競争力強化法に基づく事業再編計画の認定を受けた法人が行う現物分配が、一定の要件を満たして認定株式分配に該当する場合、再編時の譲渡損益課税を繰り延べることができます。
また、株主側では、現物分配に伴うみなし配当課税が対象外となる取扱いもあります。
つまり、一定の政策的な再編について、再編時点で過度な税負担が発生しないようにすることで、企業の事業再編や成長戦略を後押しする制度といえます。
令和8年度改正の大きなポイント
令和8年度税制改正では、パーシャルスピンオフ税制について、主に次の見直しが行なわれました。
従業者継続要件の割合が90%以上からおおむね80%以上へ緩和
事業再編計画認定要件の対象に、完全子法人だけでなく現物分配法人も追加
従来の時限措置から、令和8年4月1日以後に事業再編計画の認定を受けた法人に適用される制度へ見直し
なかでも実務上注目されるのは、従業者継続要件の緩和です。
従業者継続要件とは?
従業者継続要件とは、パーシャルスピンオフ直前の完全子法人に係る従業員等について、一定割合以上がスピンオフ後も引き続きその完全子法人の業務に従事することが見込まれていることを求める要件です。
これは、税制上の優遇を受けるパーシャルスピンオフが、単なる資産移転や税負担軽減目的ではなく、実際に事業を継続・発展させる再編であることを確認するための要件といえます。
改正前は、この割合がおおむね90%以上とされていました。
しかし、実際の事業再編では、スピンオフに伴い人員配置や管理部門の体制が変わることがあります。そのため、90%以上という基準は、再編の実態によってはハードルが高い場面もありました。
改正後はおおむね80%以上に緩和
令和8年度改正により、従業者継続要件は、完全子法人に係る従業員等の総数のおおむね80%以上相当の人数が、引き続き完全子法人の業務に従事することが見込まれていることへ緩和されました。
これにより、スピンオフに伴って一定の人員異動や組織再編が生じる場合でも、制度を活用しやすくなる可能性があります。
たとえば、親会社側に管理部門の一部を残す場合や、グループ再編に伴って一部人員を別会社へ配置転換する場合でも、80%以上の従業者継続が見込まれるのであれば、要件を満たす余地が広がります。
もちろん、80%以上に緩和されたからといって、従業者継続の確認が不要になったわけではありません。再編計画の段階で、スピンオフ前後の従業者数、異動予定者、業務継続の見込みを整理しておく必要があります。
事業再編計画認定要件も見直し
今回の改正では、従業者継続要件だけでなく、事業再編計画認定要件も見直されています。
改正前は、事業の成長発展が見込まれるものとして事業再編計画の認定を受けていることについて、主に完全子法人側に着目した要件となっていました。
改正後は、この要件について、完全子法人だけでなく、現物分配法人も対象に加えられています。ここでいう現物分配法人とは、子法人株式を株主へ現物分配する親会社側の法人を指します。
つまり、パーシャルスピンオフ後に独立する完全子法人だけでなく、株式を分配する親会社側についても、事業再編により成長発展が見込まれるかが確認される方向になったといえます。
親会社側の事業成長も見られる
今回の事業再編計画認定要件の見直しでは、現物分配法人等の特定されている事業と、完全子法人の主要な事業の双方について、現物分配により生産性向上に関する目標の達成が見込まれることが要件に含まれています。
具体的には、次のような内容が確認されます。
現物分配法人等の事業のうち、経営資源を集中させる事業が特定されており、その事業が現物分配法人等において引き続き行われることが見込まれること
完全子法人の主要な事業が、現物分配法人等の特定事業以外のものであり、その主要事業が現物分配後も完全子法人において引き続き行われることが見込まれること
現物分配法人等の特定事業と完全子法人の主要事業について、現物分配により生産性向上に関する目標の達成が見込まれること
つまり、パーシャルスピンオフにより、親会社側も子会社側も、それぞれの事業に経営資源を集中し、成長や生産性向上が期待されることが重要になります。
適用時期は令和8年4月1日以後の認定法人
改正前のパーシャルスピンオフ税制は、令和5年4月1日から令和10年3月31日までに、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた法人を対象とする時限措置でした。
これに対し、改正後は、令和8年4月1日以後に同認定を受けた法人に適用される制度とされています。したがって、令和8年4月1日以後に事業再編計画の認定を受けてパーシャルスピンオフを検討する法人では、改正後の従業者継続要件や事業再編計画認定要件を確認する必要があります。
パーシャルスピンオフ税制を活用するメリット
パーシャルスピンオフ税制を活用できると、企業グループの再編において大きな税務メリットがあります。主なメリットは次のとおりです。
再編時の譲渡損益課税を繰り延べられる
株主のみなし配当課税が対象外となる
子会社の独立性を高めながら、親会社にも一定の資本関係を残せる
親会社と子会社がそれぞれの事業に経営資源を集中しやすくなる
子会社の成長戦略や資本政策の自由度が高まる
特に、成長事業を切り出して外部資本を呼び込みたい場合や、親会社の主力事業と子会社の成長事業を明確に分けたい場合に、検討される可能性があります。
実務で確認すべきポイント
パーシャルスピンオフ税制の適用を検討する場合、次の点を早めに確認する必要があります。
産業競争力強化法の事業再編計画認定を受けられるか
現物分配が認定株式分配に該当するか
スピンオフ後の親会社の子会社株式保有割合
従業者継続要件を満たすか
完全子法人の主要事業が継続されるか
現物分配法人側の特定事業が継続されるか
生産性向上に関する目標を達成できる見込みがあるか
株主側のみなし配当課税の取扱い
再編時の譲渡損益課税の取扱い
会計・会社法・金融商品取引法上の手続
パーシャルスピンオフは、税務だけで完結する手続ではありません。法務、会計、開示、労務、事業計画、資本政策を含めた総合的な検討が必要です。
従業者継続要件の確認資料
従業者継続要件については、スピンオフ前後の人員計画を客観的に説明できる資料を整えておくことが重要です。たとえば、次のような資料が考えられます。
スピンオフ直前の完全子法人に係る従業者一覧
部門別・業務別の従業者数
スピンオフ後に完全子法人で継続従事する予定者の一覧
親会社や他社へ異動する予定者の一覧
雇用契約や出向契約の整理
組織図
事業計画
人員配置計画
取締役会資料
事業再編計画の認定申請資料
おおむね80%以上という基準であっても、単なる概算ではなく、合理的な見込みを示せるようにしておくことが大切です。
まとめ
令和8年度税制改正により、パーシャルスピンオフ税制について、従業者継続要件が緩和されました。
改正前は、パーシャルスピンオフ直前の完全子法人に係る従業員等のうち、おおむね90%以上相当の人数が、完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれている必要がありました。改正後は、この割合がおおむね80%以上へ引き下げられています。
また、事業再編計画認定要件については、完全子法人だけでなく、現物分配法人も対象に加えられました。これにより、独立する子会社側だけでなく、株式を分配する親会社側についても、現物分配後の事業継続や生産性向上に関する目標達成が確認されることになります。
パーシャルスピンオフ税制は、一定の要件を満たすことで、再編時の譲渡損益課税を繰り延べ、株主のみなし配当課税を対象外とする制度です。改正後は、令和8年4月1日以後に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた法人に適用されます。
従業者継続要件の緩和により、パーシャルスピンオフを活用した事業再編の選択肢は広がる可能性があります。一方で、事業再編計画の認定、従業者継続の見込み、親会社・子会社双方の事業成長性など、確認すべき要件は多岐にわたります。グループ再編を検討する場合は、税務・法務・会計・労務を含めて、早い段階から専門家と連携して進めることが重要です。




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