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ホテル・旅館は簡易インボイスを発行できる?旅館業のインボイス対応を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 12 時間前
  • 読了時間: 13分

こんにちは!代表の安田です。


インボイス制度が始まり、ホテルや旅館などの宿泊業でも、領収書や請求書の記載内容について確認が必要になっています。


宿泊客が会社の出張で利用する場合、宿泊費について仕入税額控除を受けるため、会社側から「インボイス対応の領収書を発行してほしい」と求められることがあります。


このとき、ホテルや旅館が発行する領収書は、通常の適格請求書でなければならないのでしょうか。それとも、記載事項を簡略化した「適格簡易請求書」、いわゆる簡易インボイスでよいのでしょうか。


結論から言うと、ホテル・旅館等の宿泊サービスについては、一定の要件を満たせば、適格請求書に代えて簡易インボイスを交付することができます。


本日は、旅館業における簡易インボイスの取扱い、通常のインボイスとの違い、宿泊者名簿との関係、領収書を発行する際の注意点について解説します。


簡易インボイスとは

簡易インボイスとは、正式には「適格簡易請求書」といいます。

インボイス制度では、買手が仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書、いわゆるインボイスの保存が必要です。


通常のインボイスには、次のような事項を記載します。

  • 適格請求書発行事業者の氏名または名称

  • 登録番号

  • 取引年月日

  • 取引内容

  • 税率ごとに区分した金額

  • 税率ごとに区分した消費税額等

  • 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称


一方、簡易インボイスでは、通常のインボイスよりも記載事項が簡略化されています。

具体的には、「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」の記載が不要です。

また、「税率ごとに区分した消費税額等」または「適用税率」のいずれかの記載で足ります。つまり、簡易インボイスでは、領収書の宛名を記載しなくても、一定の要件を満たせばインボイスとして取り扱うことができます。


簡易インボイスを交付できる事業

簡易インボイスは、すべての事業者が自由に交付できるものではありません。

適格請求書発行事業者が、一定の事業を行う場合に限り、通常のインボイスに代えて簡易インボイスを交付できます。代表的な対象事業は次のとおりです。

  • 小売業

  • 飲食店業

  • 写真業

  • 旅行業

  • タクシー業

  • 不特定かつ多数の者に対する駐車場業

  • その他これらの事業に準ずる事業で、不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業

ここでポイントになるのが、旅館業は、条文上「旅館業」として明記されているわけではないという点です。


小売業や飲食店業、旅行業などは明記されていますが、ホテルや旅館などの宿泊業は、名称として列挙されていません。そのため、旅館業が簡易インボイスを交付できるのかについて、実務上疑問が生じることがあります。


旅館業は簡易インボイスを交付できる

旅館業は、宿泊料を受けて人をホテルや旅館などに宿泊させる営業をいいます。


旅館業では、宿泊者の氏名、住所、職業などを宿泊者名簿に記載する必要があります。そのため、「宿泊者の氏名を確認している以上、不特定多数を相手にする事業とはいえないのではないか」と考える方もいるかもしれません。


しかし、簡易インボイスの対象となる「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」には、取引時に氏名等を確認する事業であっても、相手方を問わず広く一般を対象にサービスを提供している事業が含まれます。


ホテルや旅館の宿泊サービスは、事業の性質上、宿泊者名簿の作成などのために氏名等を確認します。


それでも、特定の相手だけを対象に個別契約でサービスを提供しているわけではなく、広く一般の宿泊客を対象に宿泊サービスを提供しているため、簡易インボイスを交付できる事業に該当すると考えられます。


したがって、適格請求書発行事業者であるホテルや旅館は、宿泊客に対して通常のインボイスではなく、簡易インボイスを交付することができます。


宿泊者名簿で氏名を確認しても簡易インボイスは可能

旅館業では、旅館業法により宿泊者名簿の備付けが求められています。


そのため、ホテルや旅館は宿泊者の氏名や住所等を確認します。

ここで誤解しやすいのが、「氏名を確認しているなら、不特定多数とはいえないのではないか」という点です。


しかし、インボイス制度における簡易インボイスの対象判定では、単に氏名を確認しているかどうかだけで判断するわけではありません。


重要なのは、事業の性質として、相手方を問わず広く一般にサービスを提供しているかどうかです。ホテルや旅館は、宿泊者名簿のために氏名を確認するものの、基本的には広く一般の宿泊希望者に対して宿泊サービスを提供しています。


そのため、宿泊者の氏名等を把握していることだけを理由に、簡易インボイスの交付対象から外れるわけではありません。


通常のインボイスと簡易インボイスの違い

通常のインボイスと簡易インボイスでは、記載事項に違いがあります。


ホテルや旅館の領収書を例にすると、通常のインボイスでは、原則として宿泊客または会社名など、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称を記載する必要があります。


一方、簡易インボイスでは、この宛名の記載が不要です。

また、通常のインボイスでは、税率ごとに区分した消費税額等を記載する必要があります。

簡易インボイスでは、税率ごとに区分した消費税額等、または適用税率のいずれかを記載すれば足ります。


たとえば、宿泊料に10%、飲食代の一部に軽減税率8%が関係する場合など、複数税率が含まれる取引では、税率ごとの区分が必要になります。

ホテルや旅館では、宿泊費、飲食費、売店での土産物、入湯税、サービス料など、明細が複数に分かれることがあります。


簡易インボイスであっても、必要な税率区分や消費税額等の表示が適切に行われているか確認が必要です。


ホテル・旅館の領収書に記載したい項目

ホテルや旅館が簡易インボイスとして領収書を発行する場合、次のような項目を記載しておく必要があります。

  • ホテル、旅館の名称

  • 登録番号

  • 取引年月日

  • 宿泊サービスなどの取引内容

  • 税率ごとに区分した税込金額または税抜金額

  • 適用税率または税率ごとの消費税額等

  • 軽減税率対象がある場合はその旨


簡易インボイスでは宛名の記載は不要ですが、実務上は、出張精算や社内経理の都合で、宿泊者や会社名の記載を求められることがあります。


その場合、宛名を記載しても問題ありません。

重要なのは、宛名の有無ではなく、簡易インボイスとして必要な記載事項を満たしているかどうかです。


宿泊客が会社の出張で利用する場合、勤務先の経理担当者が登録番号や税率区分を確認することがあります。領収書のレイアウトは、取引先が確認しやすい形にしておくとよいでしょう。


宿泊費と入湯税・宿泊税の表示に注意

ホテルや旅館の領収書では、宿泊費のほかに、入湯税や宿泊税が記載されることがあります。


入湯税や宿泊税は、消費税の課税対象とは異なる取扱いになります。

そのため、領収書上では、宿泊サービスの対価と、入湯税・宿泊税などの税金部分を分けて表示しておくと分かりやすくなります。


たとえば、宿泊料、サービス料、飲食代、売店利用分、入湯税、宿泊税などがまとめて記載されている場合、消費税の課税対象になるものとならないものを区分できるようにしておくことが重要です。


特に、会社の出張旅費精算では、宿泊費部分は課税仕入れになる一方、入湯税や宿泊税は不課税として処理されることがあります。


宿泊施設側では、領収書や明細書で内訳を確認できるようにしておくと、利用者側の経理処理がスムーズになります。


予約サイト経由の宿泊にも注意

ホテルや旅館では、旅行予約サイトや宿泊予約サイトを通じて予約・決済が行われることがあります。


この場合、宿泊客から見ると、支払い先が予約サイトなのか、宿泊施設なのか分かりにくいことがあります。


インボイス制度では、誰が課税資産の譲渡等を行い、誰がインボイスを交付するのかを整理する必要があります。


たとえば、宿泊施設が宿泊サービスを提供し、予約サイトは単に予約仲介や決済代行をしているだけなのか、それとも予約サイトが旅行商品として販売しているのかにより、インボイスの発行主体が変わる可能性があります。


ホテルや旅館側では、予約サイトとの契約内容を確認し、宿泊客からインボイスを求められた場合に、誰がどの書類を発行するのかを整理しておくことが大切です。


フロントで現金精算がない場合でも、電子領収書や明細書などにより、簡易インボイスとして必要な事項を提供できるようにしておくとよいでしょう。


会社利用・出張利用の場合の実務対応

宿泊客が会社の出張でホテルや旅館を利用する場合、勤務先の経費精算のために領収書の発行を求めることが多くあります。


簡易インボイスでは宛名の記載が不要ですが、会社側の社内規程では「会社名宛の領収書」を求めている場合もあります。


この場合、ホテルや旅館側としては、簡易インボイスとしては宛名がなくても問題ないものの、利用者の経費精算をスムーズにするため、可能な範囲で会社名や宿泊者名を記載する運用も考えられます。


一方、会社側では、ホテルや旅館が発行した領収書が簡易インボイスに該当する場合、宛名がなくても仕入税額控除の要件を満たす可能性があることを理解しておく必要があります。

「会社名がないからインボイスではない」と単純に判断しないよう注意しましょう。


飲食・売店利用がある場合の税率区分

ホテルや旅館では、宿泊サービスだけでなく、飲食、売店、土産物販売、会議室利用、宴会、温泉利用など、さまざまな取引が発生します。


これらの取引には、消費税率10%のものだけでなく、軽減税率8%の対象となる飲食料品販売が含まれる場合があります。たとえば、売店で持ち帰り用の飲食料品を販売する場合、軽減税率の対象になることがあります。


一方、館内レストランでの食事提供や宴会サービスは、原則として外食に該当し、軽減税率の対象にはなりません。


簡易インボイスであっても、複数税率が含まれる場合には、税率ごとに区分した金額や適用税率、消費税額等の表示が必要になります。

宿泊施設側では、POSレジや会計システムが複数税率の表示に対応しているか確認しておきましょう。


簡易インボイスは電子データでの提供も可能

簡易インボイスは、紙の領収書だけでなく、電子データで提供することもできます。


たとえば、宿泊予約サイトやホテルの会員ページから領収書PDFをダウンロードできる仕組み、メールで領収書データを送付する仕組みなどです。


電子データで簡易インボイスを提供する場合でも、必要な記載事項を満たしている必要があります。また、受け取る側の会社では、その電子データを電子帳簿保存法に対応した方法で保存する必要があります。


ホテルや旅館側では、紙の領収書と電子領収書のどちらを発行するのか、二重発行を防ぐための運用、予約サイト経由の場合の発行方法などを整理しておくことが重要です。


宿泊施設側が確認したいポイント

ホテルや旅館などの宿泊施設がインボイス制度に対応する際には、次の点を確認しましょう。

  • 適格請求書発行事業者として登録しているか

  • 領収書に登録番号を表示しているか

  • 簡易インボイスとして必要な記載事項を満たしているか

  • 宿泊費、飲食代、売店利用分、入湯税、宿泊税を区分できるか

  • 複数税率に対応しているか

  • 予約サイト経由の取引で誰がインボイスを発行するか整理しているか

  • 電子領収書を発行する場合の保存・発行ルールを整えているか

  • 会社名宛の領収書を求められた場合の対応を決めているか

  • フロントスタッフが簡易インボイスの基本を理解しているか


特に、フロントや予約担当者は、宿泊客から直接質問を受けることがあります。


「会社名がないとインボイスにならないのか」「予約サイト決済の場合はどこで領収書を出すのか」など、よくある質問への回答を社内で統一しておくと安心です。


宿泊者側・会社側が確認したいポイント

出張などでホテルや旅館を利用する会社側も、領収書の確認ポイントを押さえておく必要があります。確認したい項目は次のとおりです。

  • 宿泊施設の名称が記載されているか

  • 登録番号が記載されているか

  • 利用日または取引年月日が分かるか

  • 宿泊費など取引内容が分かるか

  • 税率ごとに区分した金額が記載されているか

  • 適用税率または消費税額等が記載されているか

  • 入湯税や宿泊税が区分されているか

  • 予約サイト決済の場合、発行者が誰か確認しているか

  • 電子領収書の場合、電子データで保存しているか


簡易インボイスの場合、宛名がないこと自体は問題ではありません。

ただし、登録番号や税率区分など、必要事項が不足している場合は、仕入税額控除に影響する可能性があります。


会社の経費精算ルールでも、宿泊施設の領収書については、簡易インボイスで足りる場合があることを周知しておくとよいでしょう。


「旅行業」と「旅館業」の違いにも注意

簡易インボイスの対象事業には、条文上「旅行業」が含まれています。


旅行業は、旅行会社が旅行サービスを手配・販売する事業です。一方、旅館業は、宿泊料を受けて人をホテルや旅館に宿泊させる営業です。


両者は似ていますが、法令上は別の事業です。

旅館業は、簡易インボイスを交付できる事業として名称が直接列挙されているわけではありません。


それでも、旅館業は「その他これらの事業に準ずる事業で、不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」に該当するものとして、簡易インボイスを交付できると整理されています。


そのため、ホテルや旅館では、「旅館業は条文に書いていないから簡易インボイスは使えない」と誤解しないよう注意しましょう。


実務上のよくある誤解

旅館業と簡易インボイスについて、実務上よくある誤解を整理します。


  • 宿泊者名簿で氏名を確認しているから簡易インボイスは使えない

実際には、氏名等を確認する事業であっても、広く一般を対象に宿泊サービスを提供している場合には、簡易インボイスを交付できるとされています。


  • 宛名がない領収書はインボイスではない

簡易インボイスでは、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称の記載は不要です。

そのため、ホテルや旅館が簡易インボイスとして必要事項を満たした領収書を発行していれば、宛名がなくても仕入税額控除のための請求書等として保存できる場合があります。


  • 予約サイトから発行された領収書なら必ずインボイスになる

予約サイト経由の取引では、誰が宿泊サービスの売手なのか、予約サイトが媒介なのか、旅行商品として販売しているのかによって、インボイスの発行主体が変わる可能性があります。


予約サイトの領収書と宿泊施設の領収書の関係を確認しておくことが重要です。


まとめ

ホテルや旅館などの旅館業は、簡易インボイスを交付できる事業として条文上直接列挙されているわけではありません。


しかし、ホテル・旅館等の宿泊サービスは、相手方を問わず広く一般を対象に提供される事業であり、「不特定かつ多数の者に資産の譲渡等を行う事業」に該当するものとして、適格請求書に代えて簡易インボイスを交付することができます。


旅館業では、宿泊者名簿の作成のために宿泊者の氏名や住所等を確認しますが、そのことだけで簡易インボイスの対象から外れるわけではありません。


簡易インボイスでは、通常のインボイスと異なり、宛名の記載が不要です。また、税率ごとに区分した消費税額等または適用税率のいずれかを記載すれば足ります。

ホテルや旅館が領収書を発行する際には、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額、適用税率または消費税額等など、簡易インボイスとして必要な事項を満たしているかを確認しましょう。


また、宿泊費のほかに、飲食代、売店利用分、入湯税、宿泊税などがある場合には、消費税の課税対象や税率区分を分かりやすく表示することが大切です。

予約サイト経由の宿泊や電子領収書についても、誰がインボイスを発行するのか、必要事項が記載されているかを整理しておきましょう。


旅館業のインボイス対応に不安がある場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

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