中小企業新事業進出補助金とは?対象者・補助金額・申請時の注意点を公認会計士・税理士が解説
- 安田 亮
- 23 時間前
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こんばんは!代表の安田です。
既存事業だけでは今後の成長が見込みにくい、別の市場に進出したい、新しい製品やサービスに挑戦したい。このような中小企業が活用を検討したい補助金の一つが「中小企業新事業進出補助金」です。
中小企業新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新たな事業への挑戦を支援する制度です。新市場・高付加価値事業への進出を後押しし、中小企業の企業規模の拡大、付加価値額の向上、生産性向上、賃上げにつなげることを目的としています。
補助率は原則として補助対象経費の2分の1、補助金額は従業員数等に応じて異なり、賃上げ特例を活用する場合には最大9,000万円まで補助される可能性があります。
本日は、中小企業新事業進出補助金について、対象者、補助金額、補助対象経費、基本要件、申請時の注意点、会計・税務上のポイントを、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。
中小企業新事業進出補助金とは
中小企業新事業進出補助金とは、中小企業等が既存事業とは異なる新たな事業に取り組む際の設備投資等を支援する補助金です。
単なる設備更新や既存商品の販売強化ではなく、新しい製品・サービス、新しい市場、新しい顧客層に向けた事業展開が想定されています。たとえば、次のような取組が考えられます。
既存の加工技術を活かして、これまで扱っていなかった部品や製品の製造に進出する
食品製造業が新たに高付加価値商品の製造ラインを構築する
医療機器製造の技術を活かして、別分野の製造業に参入する
BtoB中心の企業が新たにBtoC向けの商品・サービスを展開する
既存のノウハウを活かして、海外市場や新たな業界向けに事業を広げる
新規事業に必要な建物、機械装置、システム、広告宣伝を一体的に整備する
ポイントは、「新規性」と「成長性」です。
既存事業の延長線上にある単なる設備更新ではなく、自社にとって新しい事業分野に挑戦し、付加価値額の向上や賃上げにつなげる計画であることが求められます。
対象となる事業者
中小企業新事業進出補助金の対象となるのは、企業の成長・拡大に向けて新規事業への挑戦を行う中小企業者等です。
主な中小企業者の範囲は、業種ごとに資本金または従業員数で判断されます。
代表的な基準は次のとおりです。
製造業、建設業、運輸業:資本金3億円以下または常勤従業員300人以下
卸売業:資本金1億円以下または常勤従業員100人以下
サービス業:資本金5,000万円以下または常勤従業員100人以下
小売業:資本金5,000万円以下または常勤従業員50人以下
ソフトウェア業、情報処理サービス業:資本金3億円以下または常勤従業員300人以下
旅館業:資本金5,000万円以下または常勤従業員200人以下
また、一定の組合、公益法人等、農事組合法人、労働者協同組合、特定事業者の一部も対象となる場合があります。
一方で、対象外となる事業者もあります。
たとえば、みなし大企業、新規設立・創業後1年に満たない事業者、一定の他補助金の採択者、みなし同一事業者に該当する場合などは、申請できない可能性があります。
特に、親会社が議決権の50%以上を有する子会社が複数ある場合や、代表者・住所・実質的支配者が同じ法人がある場合などは、「みなし同一事業者」として申請制限を受けることがあります。
グループ会社や関連会社がある場合は、単独の会社だけで判断せず、資本関係や代表者、実質的支配関係まで確認することが重要です。
補助金額と補助率
中小企業新事業進出補助金の補助率は、補助対象経費の2分の1です。
補助金額には下限があり、原則として750万円以上の補助金額となる事業が対象です。つまり、補助率2分の1で考えると、一定規模以上の投資が必要になります。
補助上限額は、従業員数によって異なります。
通常の補助上限額は次のとおりです。
従業員20人以下:2,500万円
従業員21人から50人:4,000万円
従業員51人から100人:5,500万円
従業員101人以上:7,000万円
さらに、大幅な賃上げに取り組む場合には、賃上げ特例により補助上限額が引き上げられます。賃上げ特例を適用する場合の補助上限額は、次のとおりです。
従業員20人以下:3,000万円
従業員21人から50人:5,000万円
従業員51人から100人:7,000万円
従業員101人以上:9,000万円
補助金額が大きい制度である一方、投資規模も大きくなりやすいため、採択後の資金繰りには注意が必要です。
補助金は原則として後払いです。採択されたとしても、設備代金や工事代金を先に支払い、実績報告や補助金額の確定を経てから補助金が入金されます。
そのため、申請前の段階で、自己資金、金融機関借入、リース等を含めた資金調達計画を検討しておく必要があります。
補助対象経費
中小企業新事業進出補助金では、新規事業に必要な幅広い経費が補助対象となります。
主な補助対象経費は、次のとおりです。
機械装置・システム構築費
新規事業に必要な機械装置、専用設備、システム構築などに係る費用です。
たとえば、新製品の製造に必要な機械装置、検査装置、生産管理システム、専用の業務システムなどが考えられます。
ただし、汎用的なパソコン、タブレット、スマートフォンなどは対象外となる可能性があります。補助事業に専ら使用される設備・システムであることを説明できるかが重要です。
建物費
新規事業に必要な建物の建設、改修、増築などに係る費用です。
たとえば、新製品の製造ラインを設置するための工場改修や、新規事業用の加工施設・検査施設の整備などが考えられます。
一方で、単なる不動産取得や土地代、補助事業と直接関係しない建物投資は対象外となる可能性があります。
建物費を申請する場合は、その建物が新規事業の実施に不可欠であることを明確にする必要があります。
運搬費
補助事業に必要な設備や機械装置等の運搬に係る費用です。
単なる通常配送費ではなく、補助対象となる機械装置等の導入に伴って必要となる費用かどうかを確認する必要があります。
技術導入費
新規事業を実施するために必要な技術導入に関する費用です。
たとえば、外部から技術指導を受ける、ライセンスを取得する、特殊な製造技術を導入する場合などが考えられます。
知的財産権等関連経費
新規事業に関連する特許権、商標権、意匠権などの取得や活用に係る費用です。
新製品や新サービスを展開する場合、知的財産の保護は重要な経営課題になります。補助対象になる可能性がある場合は、早めに専門家へ相談することが望ましいでしょう。
外注費・専門家経費
新規事業に必要な加工、設計、検査、調査、専門家による技術指導や助言などに係る費用です。ただし、補助金申請のための事業計画作成費用や、補助事業と直接関係しないコンサルティング費用は対象外となる可能性があります。
クラウドサービス利用費
新規事業の実施に必要なクラウドサービス利用料も対象となる場合があります。
たとえば、新規事業用の販売管理、顧客管理、在庫管理、受発注管理などに使用するクラウドサービスが考えられます。
広告宣伝・販売促進費
新規事業の販売促進に必要な広告宣伝費、販促ツール作成費、展示会出展費などが対象となる可能性があります。
新しい製品やサービスを市場に投入する場合、設備投資だけでは売上につながりません。広告宣伝や販路開拓まで含めて計画を作ることが重要です。
基本要件
中小企業新事業進出補助金では、単に新しい設備を導入するだけではなく、3年から5年の事業計画において、複数の基本要件を満たす必要があります。
主な基本要件は、次のとおりです。
1. 新事業進出要件
新事業進出要件では、製品等の新規性、市場の新規性、新事業売上高の要件を満たす必要があります。
製品等の新規性とは、自社にとって新しい製品・商品・サービス等であることです。
市場の新規性とは、既存事業では対象としていなかったニーズや属性を持つ顧客層を対象とする市場であることです。
新事業売上高要件では、新たな製品等による売上が、一定割合以上になる計画であることが求められます。
ここで重要なのは、単に「少し違う商品を作る」だけでは足りないという点です。
自社にとって新しい製品・サービスであり、かつ、既存事業とは異なる市場・顧客層に向けた取組であることを、具体的に説明する必要があります。
2. 付加価値額要件
付加価値額について、年平均成長率が4.0%以上となる事業計画を作成する必要があります。
付加価値額は、一般的には営業利益、人件費、減価償却費などをもとに算定されます。
補助金申請では、新規事業によって売上が増えるだけでなく、企業全体として付加価値がどのように増加するのかを示すことが重要です。
3. 賃上げ要件
賃上げ要件では、1人あたり給与支給総額の年平均成長率が、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上であること、または給与支給総額の年平均成長率が一定以上であることが求められます。
賃上げ要件は、補助金の重要なポイントです。
申請時に掲げた目標を達成できない場合、補助金の全部または一部の返還が必要になる可能性があります。
そのため、売上計画、利益計画、人員計画、給与計画を整合させたうえで、無理のない賃上げ計画を立てる必要があります。
4. 事業場内最低賃金水準要件
事業計画期間中、毎年、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より一定額以上高い水準であることが求められます。
従業員を雇用している場合は、給与台帳や賃金台帳をもとに、事業場内最低賃金を正確に把握しておく必要があります。
5. ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表等が求められます。
この要件は見落とされやすいポイントです。
補助金のためだけでなく、採用や定着の観点からも、働きやすい職場づくりに向けた計画を整備しておくことが大切です。
6. 金融機関要件
補助事業の実施にあたり、金融機関等から資金提供を受ける場合には、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受ける必要があります。
中小企業新事業進出補助金は、投資規模が大きくなりやすい制度です。
金融機関借入を予定している場合は、補助金申請の直前ではなく、早い段階から金融機関に事業計画や資金計画を共有しておくことをおすすめします。
賃上げ特例を利用する場合の注意点
中小企業新事業進出補助金では、大幅な賃上げを行なう場合に、補助上限額が引き上げられる特例があります。
賃上げ特例を利用する場合、補助事業実施期間内に、給与支給総額を年平均6.0%以上増加させること、さらに事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げることなどが求められます。
この特例を利用すると補助上限額は大きくなりますが、要件を達成できなかった場合には、引き上げ分の補助金返還が求められる可能性があります。
そのため、賃上げ特例は「補助上限額が増えるから」という理由だけで選ぶべきではありません。
新規事業によって本当に売上や利益が増加し、その結果として給与支給総額や最低賃金を引き上げられるのかを慎重に検討する必要があります。
特に、人員を増やす計画がある場合、1人あたり給与支給総額と給与支給総額のどちらを見るのか、既存従業員と新規採用者のバランスをどう考えるのか、事前に整理しておくことが大切です。
申請の流れ
中小企業新事業進出補助金は、電子申請により申請します。
申請には、GビズIDプライムアカウントが必要です。GビズIDメンバーやGビズIDエントリーでは申請できないため、まだ取得していない場合は早めに準備しましょう。
大まかな申請の流れは、次のとおりです。
補助金の制度内容を確認する
自社が補助対象者に該当するか確認する
新規事業の内容を検討する
事業計画を作成する
必要に応じて認定支援機関、商工会議所、金融機関等に相談する
GビズIDプライムアカウントを取得する
電子申請システムで応募申請を行なう
採択結果を確認する
採択後、交付申請を行なう
交付決定後に補助事業を開始する
補助事業を実施し、実績報告を行なう
補助金額の確定後、補助金を請求する
補助金の入金を受ける
事業化状況報告を行なう
重要なのは、原則として交付決定前に契約、発注、購入、支払いを行った経費は補助対象外となる点です。
採択されたからといって、すぐに発注してよいわけではありません。
採択後に交付申請を行い、交付決定を受けてから補助事業を開始する必要があります。
申請時に準備すべき資料
申請時には、事業計画に加えて、複数の書類が必要になります。
主な資料としては、次のようなものがあります。
決算書
従業員数を示す書類
収益事業を行なっていることを説明する書類
固定資産台帳
賃上げ計画の表明書
新規事業の内容を説明する資料
見積書や設備内容がわかる資料
金融機関から資金提供を受ける場合の確認資料
一般事業主行動計画に関する資料
特に、事業計画書では、既存事業の内容、新規事業の新規性、市場性、競争優位性、売上計画、付加価値額計画、賃上げ計画、資金計画を整合的に説明する必要があります。
補助金額が大きい制度であるため、簡単な説明だけでは採択は難しいと考えた方がよいでしょう。
採択されるために重要なポイント
中小企業新事業進出補助金では、次のような点が重要になります。
まず、新規事業の内容が明確であることです。
既存事業と何が違うのか、どの製品・サービスが新しいのか、どの市場・顧客層を狙うのかを具体的に説明する必要があります。
次に、市場性があることです。
新しい事業に挑戦するとしても、その市場に需要がなければ事業として成り立ちません。市場規模、顧客ニーズ、競合状況、自社の強みを整理する必要があります。
また、投資内容と事業計画が整合していることも重要です。
導入する機械装置やシステム、建物改修、広告宣伝が、新規事業の実施に本当に必要なのかを説明する必要があります。
さらに、付加価値額の向上と賃上げにつながることも大切です。
補助金の目的は、新規事業への進出を通じて企業の成長を促し、賃上げにつなげることです。そのため、売上だけでなく、利益、人件費、減価償却費、給与水準まで含めた計画を作成する必要があります。
最後に、資金繰りの実現可能性も重要です。
補助金は後払いであるため、設備投資を実行するための資金調達ができるかどうかが問われます。金融機関借入を予定している場合は、融資の見通しを早めに確認しておきましょう。
会計・税務上の注意点
補助金は、採択された後の会計・税務処理にも注意が必要です。
法人が補助金を受け取った場合、原則として収益に計上され、法人税の課税対象となります。一方で、補助金を使って固定資産を取得した場合には、一定の要件を満たせば圧縮記帳の適用を検討できることがあります。
圧縮記帳を行なうと、補助金を受け取った年度の課税負担を一定程度繰り延べることができます。ただし、税金が完全になくなるわけではありません。将来の減価償却費が少なくなるため、課税時期を調整する制度と考える必要があります。
また、消費税についても注意が必要です。
補助金収入そのものは通常、消費税の課税売上には該当しません。しかし、補助対象経費の支払いに係る消費税、税込・税抜の申請金額、仕入税額控除の取扱いには注意が必要です。
さらに、補助金の実績報告では、見積書、契約書、発注書、納品書、請求書、振込明細、固定資産台帳など、多くの証憑が必要になります。
会計処理と補助金報告の内容が一致していないと、実績報告や税務申告で問題が生じる可能性があります。
補助金の申請段階から、採択後の経理処理、固定資産管理、税務申告まで見据えて準備することが重要です。
中小企業新事業進出補助金が向いている企業
中小企業新事業進出補助金は、次のような企業に向いています。
既存事業とは異なる新規事業に挑戦したい
新しい製品やサービスを開発・提供したい
新市場や新しい顧客層を開拓したい
新規事業のために機械装置やシステムを導入したい
建物改修や設備投資を伴う事業拡大を検討している
新規事業によって付加価値額を高めたい
賃上げを含めた成長計画を作りたい
金融機関と連携して大きめの投資を実行したい
一方で、次のようなケースでは、別の補助金の方が適している可能性があります。
単なる老朽設備の更新
既存商品の広告宣伝だけを行なう取組
小規模な販路開拓
人手不足対策として汎用的な省力化設備を導入する取組
創業直後の事業者による初期投資
たとえば、小規模な販路開拓であれば小規模事業者持続化補助金、汎用的な省力化設備であれば中小企業省力化投資補助金、大規模な成長投資であれば中小企業成長加速化補助金など、他制度との比較も必要です。
まとめ
中小企業新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新規事業への挑戦を支援する補助金です。
補助率は2分の1で、補助金額は従業員数に応じて異なり、賃上げ特例を活用する場合には最大9,000万円まで補助される可能性があります。
対象経費も、機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費など幅広く設定されています。
ただし、申請には、新事業進出要件、付加価値額要件、賃上げ要件、事業場内最低賃金水準要件、ワークライフバランス要件、金融機関要件など、複数の要件があります。
また、補助金は原則として後払いであり、交付決定前の発注・契約・支払いは補助対象外となる可能性があります。
申請を検討する場合は、新規事業の内容、投資計画、資金繰り、賃上げ計画、会計・税務処理まで含めて、早めに準備することをおすすめします。



