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事業承継・M&A補助金とは?4つの申請枠・補助上限・対象経費を公認会計士・税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 3 日前
  • 読了時間: 13分

こんばんは!代表の安田です。


中小企業にとって、事業承継やM&Aは大きな転換点です。


親族や従業員に会社を引き継ぐ場合、第三者に事業を譲渡する場合、他社を買収して新たな事業を引き継ぐ場合、M&A後に組織や業務を統合する場合など、さまざまな場面で専門家費用や設備投資、システム導入、廃業費用が発生します。


そのような費用負担を支援する制度が「事業承継・M&A補助金」です。

事業承継・M&A補助金は、中小企業や小規模事業者等が、事業承継やM&Aに際して行なう設備投資、専門家活用、PMI、廃業・再チャレンジ等に係る費用の一部を補助する制度です。


本日は、事業承継・M&A補助金について、4つの申請枠、補助上限額、補助率、対象経費、申請時の注意点、会計・税務上のポイントを、公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。


事業承継・M&A補助金とは

事業承継・M&A補助金とは、中小企業者・小規模事業者等が、事業承継やM&Aをきっかけとして行なう取組を支援する補助金です。


補助対象となる取組は、大きく分けると次のようなものです。

  • 親族内承継や従業員承継に伴う設備投資

  • M&Aに係るFA、仲介、デュー・デリジェンス等の専門家費用

  • M&A後のPMIに係る専門家費用や設備投資

  • 事業承継やM&Aに伴う廃業費用

  • M&Aで譲渡できなかった場合の再チャレンジに係る廃業費用


単なる設備購入や専門家費用の補助ではなく、事業承継やM&Aを通じて経営資源の引継ぎを促進し、中小企業の生産性向上や地域経済の活性化につなげることを目的としています。


4つの申請枠

事業承継・M&A補助金には、主に次の4つの申請枠があります。

  1. 事業承継促進枠

  2. 専門家活用枠

  3. PMI推進枠

  4. 廃業・再チャレンジ枠


それぞれ対象となる場面や補助対象経費が異なるため、自社の状況に合った枠を選ぶことが重要です。


事業承継促進枠

事業承継促進枠は、親族内承継や従業員承継などを予定している中小企業者等が、事業承継に向けて設備投資等を行なう場合に利用できる枠です。


対象となるのは、公募申請期日から5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している事業者です。たとえば、次のようなケースが考えられます。

  • 後継者への承継を予定しており、生産性向上のために機械装置を導入する

  • 店舗を後継者に引き継ぐ前に、店舗改装を行なう

  • 従業員承継に向けて、新たな事業展開に必要な設備投資を行なう

  • 事業承継後の収益力を高めるために、業務効率化システムを導入する


補助対象経費には、設備費、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費などが含まれます。


補助上限額は原則800万円ですが、一定の賃上げを実施する場合には1,000万円まで引き上げられることがあります。


補助率は原則2分の1ですが、小規模事業者に該当する場合は3分の2となる場合があります。


事業承継促進枠で注意したい「実質的な事業承継」

事業承継促進枠では、形式的に代表者を変更するだけでは補助対象にならない可能性があります。


たとえば、経営権と所有権のいずれも移転しない代表者交代、グループ内の事業再編、物品や不動産のみを保有する事業の承継、フランチャイズ契約に近い取引、休眠会社での代表者交代などは、原則として補助対象外とされることがあります。


重要なのは、承継者と被承継者の間で実質的な事業承継が行われるかどうかです。

単に「役員を変える」「株主を少し変える」というだけではなく、経営資源、事業運営、取引先、従業員、設備、ノウハウなどが実質的に引き継がれることを説明できる必要があります。


専門家活用枠

専門家活用枠は、M&Aにより経営資源を譲り受ける、または譲り渡す予定の中小企業者等が、M&Aに係る専門家費用を補助対象とする枠です。


専門家活用枠には、主に次の2つの類型があります。

  • 買い手支援類型

  • 売り手支援類型


買い手支援類型は、M&Aにより株式や事業、経営資源を譲り受ける側の事業者を支援するものです。


売り手支援類型は、M&Aにより株式や事業、経営資源を譲り渡す側の事業者を支援するものです。


補助対象経費には、FAやM&A仲介に係る費用、デュー・デリジェンス費用、セカンド・オピニオン費用、表明保証保険料などが含まれます。


ただし、FAやM&A仲介に係る費用については、M&A支援機関登録制度に登録されたFAまたはM&A仲介業者による支援に係る費用に限られる点に注意が必要です。


補助上限額は、通常600万円から800万円程度とされることがあり、デュー・デリジェンス費用を申請する場合には上乗せされることがあります。また、買い手支援類型で一定の100億企業要件を満たす場合には、補助上限額が2,000万円となる場合があります。


専門家活用枠で注意したいポイント

M&Aでは、FAや仲介会社に支払う着手金、中間金、成功報酬、デュー・デリジェンス費用などが高額になることがあります。


専門家活用枠を活用できれば、M&Aに係る専門家費用の負担を軽減できる可能性があります。

ただし、補助金の対象となるかどうかは、契約内容、支払時期、専門家の登録状況、M&Aの進捗状況などによって変わります。


特に注意したいのは、交付決定前に契約や発注を行った費用が補助対象外となる可能性がある点です。


M&Aはスピードが求められることも多いですが、補助金の活用を考える場合は、契約締結や支払のタイミングを慎重に確認する必要があります。


また、M&Aの相手先が見つかっていない段階でも、補助対象となる費用とならない費用があります。補助金ありきで専門家契約を進めるのではなく、まずは公募要領に照らして対象経費や申請要件を確認することが大切です。


PMI推進枠

PMI推進枠は、M&A後の経営統合を支援する枠です。


PMIとは、Post Merger Integrationの略で、M&A後に経営、業務、組織、人事、会計、IT、営業体制などを統合していく取組を指します。


M&Aは、契約が成立すれば終わりではありません。むしろ、買収後にどのように統合し、シナジーを実現するかが成功の鍵になります。


PMI推進枠には、主に次の2つの類型があります。

  • PMI専門家活用類型

  • 事業統合投資類型


PMI専門家活用類型は、M&A後の経営統合に関して、専門家の支援を受ける場合に活用できる類型です。


事業統合投資類型は、M&A後の統合に必要な設備投資等を行う場合に活用できる類型です。


補助対象経費には、設備費、外注費、委託費などが含まれます。

PMI専門家活用類型の補助上限額は150万円、事業統合投資類型は800万円から1,000万円程度とされることがあります。事業統合投資類型では、一定の賃上げを実施する場合に補助上限額が引き上げられる場合があります。


PMI推進枠が重要な理由

M&Aでは、買収前の調査や契約交渉に注目が集まりがちです。


しかし、実務上は、買収後の統合がうまくいかず、期待していた効果が出ないケースも少なくありません。たとえば、次のような課題が生じることがあります。

  • 会計システムや販売管理システムが統一されていない

  • 給与制度や人事制度が異なる

  • 営業方針や価格設定がバラバラになっている

  • 取引先との契約条件が整理されていない

  • 従業員の不安が大きく、離職リスクがある

  • 買収後の事業計画が十分に実行されていない


PMI推進枠は、このようなM&A後の統合プロセスに係る専門家費用や投資を支援する制度です。M&Aを単なる買収で終わらせず、実際に利益や成長につなげたい場合には、PMIの設計が非常に重要です。


廃業・再チャレンジ枠

廃業・再チャレンジ枠は、事業承継やM&Aに伴って既存事業を廃業する場合や、M&Aで譲渡できなかった事業者が再チャレンジのために廃業する場合に活用できる枠です。


対象となる費用には、廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費、リース解約費、移転・移設費などがあります。


廃業・再チャレンジ枠は、単独で申請する場合のほか、事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠と併用申請できる場合があります。たとえば、次のようなケースです。

  • 事業承継により事業を引き継いだが、一部の不採算事業を廃業する

  • M&Aで事業を譲り受けるにあたり、既存事業の一部を廃止する

  • M&Aで事業を譲り渡した後、手元に残った事業を廃業する

  • M&A後の統合過程で、重複する事業や設備を整理する

  • M&Aによる譲渡を試みたが成約に至らず、廃業して再チャレンジする


補助上限額は300万円とされ、併用申請の場合には各枠の補助上限に加算されることがあります。


補助対象となる主な経費

事業承継・M&A補助金では、申請枠によって補助対象経費が異なります。

主な対象経費は次のとおりです。

  • 設備費

  • 店舗、事務所等の改築工事費

  • 外注費

  • 委託費

  • 産業財産権等関連経費

  • 謝金

  • 旅費

  • システム利用料

  • FA、仲介、デュー・デリジェンス等の専門家費用

  • 表明保証保険料

  • 廃業支援費

  • 在庫廃棄費

  • 解体費

  • 原状回復費

  • リース解約費

  • 移転、移設費


ただし、すべての費用が無条件で対象になるわけではありません。

補助対象となるには、補助事業に必要な経費であること、補助事業期間内に契約・発注・支払が行なわれていること、証憑で確認できることなどが求められます。


また、同じ費用でも、申請枠によって対象になる場合とならない場合があります。


申請の流れ

事業承継・M&A補助金は、電子申請で行ないます。


申請には、GビズIDプライムアカウントが必要です。GビズIDプライムアカウントの取得には時間がかかるため、補助金の活用を検討している場合は早めに準備しておくことが重要です。大まかな流れは次のとおりです。


  1. 自社の事業承継・M&Aの状況を整理する

  2. どの申請枠に該当するか確認する

  3. 公募要領で対象者・対象経費・補助率を確認する

  4. GビズIDプライムアカウントを取得する

  5. 必要書類を準備する

  6. Jグランツで申請する

  7. 採択結果を確認する

  8. 採択後、交付申請を行う

  9. 交付決定後に補助事業を開始する

  10. 補助事業を実施する

  11. 実績報告を行う

  12. 補助金額の確定を受ける

  13. 補助金を請求する

  14. 補助金の交付を受ける

  15. 補助期間終了後、事業化状況報告を行う


重要なのは、採択された時点ですぐに補助金が支払われるわけではないことです。

補助金は、補助事業を実施し、実績報告を行い、事務局の検査を受け、補助金額が確定した後に支払われます。


また、交付決定前に契約、発注、支払いを行った経費は、原則として補助対象外となる可能性があります。


必要書類の例

事業承継・M&A補助金では、申請枠によって必要書類が異なります。


たとえば、事業承継促進枠では、事業承継計画に関する資料、事業承継の要件充足を証明する資料、履歴事項全部証明書、決算書、確定申告書などが求められます。


専門家活用枠では、M&Aに関する契約書、専門家との契約内容、履歴事項全部証明書、代表者の住民票、補助率に関する要件を証明する資料などが必要になる場合があります。


PMI推進枠では、M&Aの最終契約書、クロージング証憑、デュー・デリジェンスの実施証跡、PMIに関する事業計画書などが求められる場合があります。


廃業・再チャレンジ枠では、認定経営革新等支援機関による確認書、再チャレンジ計画書、M&Aに着手したことを示す証憑、M&A支援機関との業務委託契約書、M&Aマッチングサイトへの登録証跡などが必要になる場合があります。


M&Aや事業承継では、契約書や証憑が後から揃わないこともあります。補助金の活用を検討する場合は、取引の初期段階から必要資料を意識して保存しておくことが大切です。


採択されるために重要なポイント

事業承継・M&A補助金では、単に「費用が発生するから補助してほしい」というだけでは不十分です。


審査では、事業承継やM&Aを通じて、どのように生産性向上、収益力強化、雇用維持、地域経済への貢献につながるのかが重要になります。特に次のような点を整理しておく必要があります。

  • なぜ事業承継やM&Aが必要なのか

  • 引き継ぐ経営資源は何か

  • 承継後またはM&A後にどのような成長を目指すのか

  • 設備投資や専門家活用がなぜ必要なのか

  • 補助事業により売上、利益、生産性がどう改善するのか

  • 従業員や取引先、地域経済にどのような効果があるのか

  • PMIや廃業をどのように進めるのか

  • 資金繰りに無理がないか


事業承継やM&Aは、単なる手続きではなく、会社の将来を左右する経営判断です。

補助金申請でも、事業の将来像と費用の必要性を一貫して説明することが重要です。


M&A支援機関の登録状況に注意

専門家活用枠でFAやM&A仲介費用を補助対象とする場合、M&A支援機関登録制度に登録された支援機関による支援費用であることが求められます。


そのため、M&A仲介会社やFAと契約する前に、登録状況を確認しておく必要があります。

契約後に「この専門家費用は補助対象外だった」となると、資金計画に大きな影響が出ることがあります。


M&Aの専門家を選ぶ際は、報酬体系、支援内容、利益相反の有無、登録状況、契約解除条件などを確認することが大切です。


会計・税務上の注意点

事業承継・M&A補助金を受け取った場合、法人であれば原則として収益に計上され、法人税の課税対象となります。


個人事業主の場合も、原則として事業所得の収入金額に含まれます。

一方で、補助金を使って固定資産を取得した場合には、一定の要件を満たせば圧縮記帳の適用を検討できることがあります。


圧縮記帳を行なうと、補助金を受け取った年度の税負担を一定程度繰り延べることができます。ただし、税金が完全になくなるわけではなく、将来の減価償却費が少なくなるため、課税時期を調整する制度です。


また、M&Aに係る専門家費用については、会計・税務上の処理にも注意が必要です。

株式取得に直接関連する費用、事業譲受に関連する費用、デュー・デリジェンス費用、仲介手数料、PMI費用などは、内容によって資産計上すべきものと費用処理できるものの判断が必要になる場合があります。


さらに、補助金収入そのものは通常、消費税の課税売上には該当しませんが、補助対象経費に係る消費税、税込・税抜の申請金額、仕入税額控除の取扱いには注意が必要です。


補助金申請だけでなく、会計処理、税務申告、固定資産管理、証憑保存まで見据えて管理することが重要です。


事業承継・M&A補助金が向いている事業者

事業承継・M&A補助金は、次のような事業者に向いています。

  • 親族内承継や従業員承継を予定している

  • 後継者への承継前に設備投資を行ないたい

  • M&Aで会社や事業を譲り受けたい

  • M&Aで会社や事業を譲り渡したい

  • M&Aに係るFA、仲介、デュー・デリジェンス費用を抑えたい

  • M&A後のPMIを専門家に支援してもらいたい

  • M&A後の統合に必要な設備投資を行ないたい

  • 事業承継やM&Aに伴って一部事業を廃業したい

  • M&Aで譲渡できなかった事業を整理し、再チャレンジしたい


一方で、単なる設備更新、通常の経営改善、事業承継やM&Aと関係のない専門家費用などは、別の補助金を検討した方がよい場合があります。


たとえば、省力化設備の導入であれば中小企業省力化投資補助金、大規模な成長投資であれば中小企業成長加速化補助金、販路開拓であれば小規模事業者持続化補助金など、目的に応じた制度選択が必要です。


まとめ

事業承継・M&A補助金は、中小企業や小規模事業者等が事業承継やM&Aに取り組む際の費用負担を軽減する補助金です。


申請枠には、事業承継促進枠、専門家活用枠、PMI推進枠、廃業・再チャレンジ枠があります。


補助対象経費には、設備費、外注費、委託費、産業財産権等関連経費、FA・仲介費用、デュー・デリジェンス費用、表明保証保険料、廃業支援費、在庫廃棄費、解体費、原状回復費などが含まれます。


ただし、補助金は申請すれば必ず受けられるものではありません。事業承継やM&Aの必要性、補助事業の内容、成長性、生産性向上、地域経済への影響、資金繰り、証憑書類の整備などが重要になります。


また、申請はJグランツによる電子申請が基本であり、GビズIDプライムアカウントの取得が必要です。補助金は原則として後払いであり、交付決定前の契約・発注・支払いは補助対象外となる可能性があります。


事業承継やM&Aは、税務、会計、法務、労務、資金調達が複雑に関係する重要な経営判断です。


補助金の活用を検討する場合は、制度要件だけでなく、M&Aスキーム、税務処理、資金繰り、PMI、事業計画まで含めて、早めに専門家へ相談することをおすすめします。




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