令和4年から変わった短期退職手当等とは?5年以下勤務の退職金と2分の1課税の注意点を税理士が解説
- 安田 亮
- 5 時間前
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こんにちは!代表の安田です。
退職金は、給与や賞与とは異なり、税務上かなり優遇された取扱いが設けられています。
代表的なのが、退職所得控除と、いわゆる「2分の1課税」です。
通常の退職所得では、退職金の収入金額から退職所得控除額を差し引いた残額の2分の1を退職所得として計算します。これは、退職金が長年の勤務に対する報償であり、給与の後払い的な性質や退職後の生活保障的な性格を持つためです。
しかし、令和4年分以後の所得税から、勤続年数5年以下の一定の退職金について、この2分の1課税の適用範囲が制限されています。
これが「短期退職手当等」に関する改正です。
短期退職手当等に該当する場合、退職所得控除額を控除した後の金額のうち300万円を超える部分については、2分の1課税が適用されません。
本日は、短期退職手当等とは何か、令和4年からの改正内容、退職所得の計算方法、特定役員退職手当等との違い、取締役から執行役員になる場合の注意点について解説します。

退職所得はなぜ優遇されているのか
退職所得とは、退職により一時に受ける給与や、これに類する性質を持つ給与をいいます。
退職金は、長年の勤務に対する勤続報償であり、毎月の給与の一部を後払いでまとめて受け取る性質もあります。また、退職後の生活資金としての役割もあります。
そのため、所得税では、退職金に対して次のような優遇措置が設けられています。
勤続年数に応じた退職所得控除がある
原則として、控除後の金額の2分の1だけが課税対象になる
他の所得と分けて税額計算される
通常の退職所得の計算方法
通常の退職所得は、次の算式で計算します。
退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2退職所得控除額は、勤続年数に応じて計算します。
勤続年数20年以下→ 40万円 × 勤続年数勤続年数20年超→ 800万円 + 70万円 ×(勤続年数-20年)勤続年数に1年未満の端数がある場合は、原則として1年に切り上げます。
たとえば、勤続年数が4年2か月であれば、退職所得控除額の計算上は5年として扱います。
令和4年から短期退職手当等の2分の1課税が制限
令和3年度税制改正により、短期退職手当等に係る退職所得の計算について、2分の1課税の適用範囲が制限されました。
国税庁は、短期退職手当等について、収入金額から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円を超える部分については2分の1課税を適用しないと説明しています。また、この取扱いは令和4年1月1日以後に支払うべき退職手当等について適用されます。
この改正により、短期間勤務で高額な退職金を受け取るケースについて、退職所得課税の優遇が一部制限されることになりました。
短期退職手当等とは
短期退職手当等とは、退職手当等のうち、短期勤続年数に対応する退職手当等として支払を受けるもので、特定役員退職手当等に該当しないものをいいます。
ここでいう短期勤続年数とは、勤続年数のうち「役員等以外の者としての勤続年数」が5年以下であるものです。
国税庁も、短期退職手当等とは、短期勤続年数、つまり役員等以外の者として勤務した期間により計算した勤続年数が5年以下であるものに対応する退職手当等で、特定役員退職手当等に該当しないものと説明しています。なお、この勤続年数には、役員等として勤務した期間がある場合、その期間を含めて計算します。
簡単にいえば、役員ではない従業員などが、5年以下の短期勤務に対応して受け取る退職金のうち、一定のものが短期退職手当等です。
短期退職手当等と混同しやすいものに、特定役員退職手当等があります。
特定役員退職手当等とは、役員等としての勤続年数が5年以下である人が受け取る退職手当等のうち、その役員等勤続年数に対応する退職手当等をいいます。
特定役員退職手当等については、すでに平成24年度税制改正により、2分の1課税が適用されないこととされています。
両者の違いを整理すると、次のとおりです。
区分 | 主な対象 | 勤続年数 | 2分の1課税 |
一般退職手当等 | 通常の退職金 | 原則制限なし | 原則あり |
短期退職手当等 | 役員等以外の者に係る短期勤務の退職金 | 5年以下 | 300万円超部分はなし |
特定役員退職手当等 | 役員等に係る短期勤務の退職金 | 5年以下 | なし |
短期退職手当等は、2分の1課税が完全になくなるわけではありません。控除後300万円以下の部分には2分の1課税が残り、300万円を超える部分について2分の1課税がなくなります。
一方、特定役員退職手当等は、2分の1課税そのものが適用されません。
短期退職手当等の計算方法
短期退職手当等に係る退職所得の金額は、退職金の収入金額から退職所得控除額を差し引いた残額が300万円以下か、300万円を超えるかで計算方法が変わります。
<控除後の残額が300万円以下の場合>
退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2この場合は、通常の退職所得と同じように、2分の1課税が適用されます。
<控除後の残額が300万円超の場合>
退職所得の金額=150万円+{収入金額-(300万円+退職所得控除額)}国税庁も、短期退職手当等について、「収入金額-退職所得控除額」が300万円を超える場合は、退職所得の金額を「150万円+{収入金額-(300万円+退職所得控除額)}」で計算すると示しています。
計算例:勤続5年で退職金800万円の場合
国税庁の例に沿って、使用人として4年2か月勤務し、退職金800万円を受け取ったケースを見てみます。
勤続期間は4年2か月ですが、勤続年数は1年未満を切り上げて5年です。
退職金収入金額:800万円勤続年数:5年退職所得控除額:40万円 × 5年 = 200万円控除後の残額:800万円-200万円=600万円控除後の残額600万円は300万円を超えます。
そのため、短期退職手当等の退職所得は次のように計算します。
退職所得の金額=150万円+{800万円-(300万円+200万円)}=150万円+300万円=450万円通常の退職所得計算であれば、控除後600万円の2分の1で300万円になります。
しかし、短期退職手当等に該当する場合は450万円となり、課税対象が大きくなります。
改正の背景
短期退職手当等の改正は、退職所得課税の趣旨に合わない高額な短期退職金に対応するために行われたものです。
もともと特定役員退職手当等について、2分の1課税を前提に短期間のみ在職する法人役員等が給与の受け取りを繰り延べて高額な退職金を受け取ることによる税負担回避が指摘されていたことから、平成24年度改正で2分の1課税が制限されたと説明されており、さらに、令和3年度改正では、法人役員等以外についても勤続年数5年以下の短期間で支払われる退職金について、平準化の趣旨にそぐわない高額な支給実態が見られたことが背景とされています。
退職所得の優遇は、長年勤務した人の退職金に対する配慮です。
短期間勤務で高額な退職金を受け取る場合には、その趣旨に合わない部分があるため、一定の制限が設けられたということです。
「5年以下」の判定で注意すべき点
短期退職手当等に該当するかどうかは、勤続年数が5年以下かどうかで判定します。
ただし、ここでいう勤続年数は、単にカレンダー上の在籍期間だけを見ればよいわけではありません。
「役員等以外の者としての勤続年数」は、役員等以外の者として勤務した期間により計算した勤続年数であるものの、役員等勤続期間がある場合には、その役員等勤続期間を含めて計算すると説明されています。たとえば、次のようなケースです。
使用人として4年勤務その後、役員として2年勤務合計6年勤務使用人としての期間だけを見ると4年なので短期退職手当等に該当しそうに見えます。
しかし、役員等勤続期間がある場合、その期間も含めて判定するため、役員等以外の者としての勤続年数は6年として扱われる場合があります。
この結果、使用人期間に対応する退職手当等は、短期退職手当等に該当しないことがあります。
同一年中に複数の退職金を受け取る場合
同じ年に、複数の会社から退職金を受け取るケースもあります。
この場合、それぞれの退職手当等ごとに、短期退職手当等、特定役員退職手当等、一般退職手当等のいずれに該当するかを判定します。
同一年中に異なる会社からそれぞれ退職手当等の支給を受ける場合は、それぞれの退職手当等ごとに、短期退職手当等、特定役員退職手当等または一般退職手当等に該当するか否かを判定することとなります。
また、同じ年に一般退職手当等、短期退職手当等、特定役員退職手当等のうち複数の退職手当等がある場合には、退職所得控除額の按分や重複勤続年数の調整が必要になり、計算が複雑になります。
重複期間がない場合、重複勤続年数がある場合、全重複勤続年数がある場合で控除額の割振りが変わるため、複数退職金がある場合は特に注意が必要です。
取締役から執行役員になる場合の退職金
近年、企業統治や経営体制の見直しにより、取締役から執行役員へ就任するケースがあります。
このとき、取締役としての在任期間に対応する退職手当等を打ち切り支給する場合、その所得区分が問題になります。
取締役から執行役員へ就任する際、取締役就任期間に係る退職手当を打ち切り支給した場合、原則として退職所得として取り扱われます。これは、執行役員は通常、会社法・法人税法・所得税法上は役員ではなく使用人であり、取締役から執行役員への就任には法令上の地位や責任の明確な変動があるためです。
ただし、執行役員と取締役との間の就任・退任を繰り返して、その都度一時金を退職手当等として支給するような場合には、慎重な判断が必要です。
退職所得として認められるには、単なる勤務関係の延長ではなく、勤務関係の性質や内容、労働条件等に重大な変動があることが重要です。
執行役員退任時の退職金は短期退職手当等に注意
取締役から執行役員へ就任した際の退職手当が退職所得になるとしても、その後の執行役員退任時に支払われる退職手当等には、別の注意点があります。
使用人から執行役員、または取締役から執行役員への就任時に退職手当等として一時金を受けている場合、その執行役員への就任後の勤務期間に対応する退職手当等については、勤続年数が5年以下の短期退職手当等に該当する可能性が高いと指摘されています。
たとえば、取締役を退任して執行役員となり、その後3年で執行役員を退任して退職金を受け取る場合です。
この執行役員期間に対応する退職金は、役員等ではない者としての短期勤続年数に対応する退職手当等として、短期退職手当等に該当する可能性があります。
高額な退職金であれば、300万円超部分の2分の1課税が使えず、源泉徴収税額にも大きく影響します。
役員退職慰労金制度を廃止した場合の打ち切り支給
企業が役員退職慰労金制度を廃止し、これまでの在任期間に対応する退職慰労金を打ち切り支給するケースもあります。
役員退職慰労金制度の廃止に伴い、株主総会で、各役員の就任時から総会終結時までの在任期間に対応する退職慰労金を打ち切り支給し、支給時期は各役員の退任時とすることを決議した事例が紹介されています。この場合、退任に基づきその際に支給される打ち切り支給の一時金である限り、退職手当等として扱われると考えられるとされています。
また、退職所得控除額を計算する勤続期間の終期については、退職慰労金の計算の基礎とされた株主総会終結時ではなく、役員退任時まで引き続き勤務した期間により勤続年数を計算すべきとされています。
役員退職慰労金制度の廃止時には、支給決議、支給時期、勤続期間、退職所得該当性を丁寧に整理しておく必要があります。
譲渡制限付株式報酬にも注意
退職所得の論点は、現金で支給される退職金だけではありません。
執行役員に対する譲渡制限付株式報酬制度を導入している場合、その退任をもって譲渡制限が解除されるときに、退職所得として取り扱われることがあります。
執行役員に対する譲渡制限付株式報酬制度について、退任をもって譲渡制限が解除される場合には退職所得として取り扱われるため、短期退職手当等の該当性に留意が必要とされています。
現金退職金だけでなく、株式報酬やインセンティブ報酬についても、退任時の課税関係を確認しておくことが重要です。
源泉徴収実務で注意すべきポイント
退職金を支払う法人は、源泉徴収義務者として、退職所得の金額と源泉徴収税額を正しく計算する必要があります。
短期退職手当等に該当する場合、従来の退職所得計算と異なるため、給与計算ソフトや退職所得の源泉徴収税額表の設定を確認する必要があります。
特に、次のようなケースでは注意が必要です。
勤続年数が5年以下の従業員に高額な退職金を支給する
取締役から執行役員へ就任する際に退職金を打ち切り支給する
執行役員退任時に退職金を支給する
同一年中に複数の退職金を支給する
一般退職手当等と短期退職手当等が混在する
特定役員退職手当等と短期退職手当等が混在する
退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の作成にも影響します。
退職金は金額が大きくなりやすいため、所得区分や計算方法の誤りは、本人の税額にも会社の源泉徴収実務にも大きな影響を与えます。
実務上のチェックポイント
短期退職手当等の判定・計算では、次の点を確認しましょう。
1. 退職金が退職所得に該当するか
退職に基因して一時に支払われるものか、単なる賞与や給与ではないかを確認します。
2. 勤続年数が5年以下か
役員等以外の者としての勤続年数が5年以下かどうかを確認します。
3. 役員等勤続期間があるか
役員等勤続期間がある場合、短期勤続年数の判定に含める必要があります。
4. 特定役員退職手当等に該当しないか
役員等勤続年数5年以下に対応する退職手当等であれば、短期退職手当等ではなく特定役員退職手当等に該当する可能性があります。
5. 控除後300万円を超えるか
短期退職手当等の場合、収入金額から退職所得控除額を差し引いた残額が300万円を超えるかどうかで計算方法が変わります。
6. 同一年中に他の退職金があるか
一般退職手当等、短期退職手当等、特定役員退職手当等が混在する場合、退職所得控除額の調整が必要です。
7. 源泉徴収票の記載が正しいか
短期退職手当等に該当する場合、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の記載内容にも注意します。
よくある誤解
勤続5年以下でも退職金は必ず2分の1課税できる
誤りです。短期退職手当等に該当し、控除後の残額が300万円を超える場合、その300万円超の部分については2分の1課税が適用されません。
短期退職手当等は2分の1課税がまったく使えない
これも誤りです。短期退職手当等では、退職所得控除後300万円以下の部分には2分の1課税が適用されます。300万円超の部分について適用されないという仕組みです。
役員退職金も短期退職手当等として計算する
役員等勤続年数5年以下に対応する退職手当等は、短期退職手当等ではなく特定役員退職手当等に該当する可能性があります。特定役員退職手当等は2分の1課税が適用されません。
使用人期間だけが5年以下なら必ず短期退職手当等になる
役員等勤続期間がある場合、その期間も含めて短期勤続年数を判定します。その結果、短期退職手当等に該当しない場合があります。
取締役から執行役員になった時の打ち切り退職金は退職所得にならない
添付資料では、取締役から執行役員への就任時に、取締役就任期間に係る退職手当を打ち切り支給した場合、原則として退職所得として取り扱われると説明されています。
まとめ
令和4年1月1日以後に支払うべき退職手当等について、短期退職手当等に該当するものは、退職所得の計算方法に注意が必要です。
短期退職手当等とは、役員等以外の者としての勤続年数が5年以下である短期勤続年数に対応する退職手当等で、特定役員退職手当等に該当しないものをいいます。
短期退職手当等では、退職金の収入金額から退職所得控除額を差し引いた残額のうち、300万円以下の部分には2分の1課税が適用されますが、300万円を超える部分には2分の1課税が適用されません。
一方、役員等勤続年数5年以下に対応する特定役員退職手当等は、2分の1課税自体が適用されません。
また、取締役から執行役員へ就任する場合、取締役期間に対応する退職手当等は原則として退職所得として取り扱われる一方、その後の執行役員としての勤務期間が5年以下であれば、執行役員退任時の退職手当等が短期退職手当等に該当する可能性があります。
退職金は金額が大きく、源泉徴収税額への影響も大きいため、短期退職手当等、特定役員退職手当等、一般退職手当等の区分を正確に判定し、退職所得控除額や2分の1課税の適用範囲を慎重に確認しましょう。



