年末調整で源泉所得税を還付しきれない場合は?会社が税務署へ還付請求する手続きを解説
- 安田 亮
- 13 時間前
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こんばんは!代表の安田です。
年末調整では、従業員や役員から毎月預かった源泉所得税と、その年に本来納めるべき所得税との差額を精算します。
一般的には、生命保険料控除、扶養控除、住宅ローン控除などを反映した結果、源泉所得税を徴収し過ぎていたことが判明し、12月や翌年1月の給与で還付するケースが多いでしょう。
しかし、次のような事情があると、会社が通常の方法では還付しきれないことがあります。
年の途中で従業員数が大きく減った
翌年以降に納付する源泉所得税が少ない
役員や従業員の給与が大幅に減少した
介護保険料や後期高齢者医療保険料などの控除を追加した
過去の年末調整を訂正した結果、多額の過納額が生じた
会社が休業・解散し、今後給与を支払わない
このような場合、会社は「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を税務署へ提出し、還付を受けることができます。
本日は、年末調整で生じた源泉所得税の過納額について、通常の還付方法、税務署へ還付請求できるケース、提出書類や期限、役員・従業員本人へ直接還付してもらう場合の取扱いを税理士が解説します。
年末調整では源泉所得税の過不足を精算する
会社は毎月の給与や賞与を支払う際、源泉徴収税額表などに基づいて所得税および復興特別所得税を徴収します。
ただし、毎月の源泉徴収税額は、年間の所得税額を概算で前払いしているものです。生命保険料控除や配偶者控除、住宅ローン控除などは、通常、年末調整でまとめて反映されます。
そのため、年末調整では次の金額を比較します。
1年間に源泉徴収した所得税等の合計額-年末調整で計算した年調年税額
源泉徴収済みの金額が年調年税額より多ければ、その差額が「過納額」となり、会社から役員や従業員へ還付されます。
反対に、源泉徴収済みの金額が年調年税額より少ない場合は、不足額を年末調整月の給与などから追加徴収します。
過納額は、まず会社が従業員へ還付する
年末調整で過納額が生じた場合、原則として税務署が従業員へ直接還付するのではありません。
まずは給与の支払者である会社が、役員・従業員ごとに還付します。
通常は、年末調整を行った月に納付する源泉所得税から過納額を差し引き、その分を従業員へ支払います。
たとえば、12月の状況が次のとおりだったとします。
12月分の給与などから徴収した源泉所得税:50万円
年末調整で従業員へ還付すべき金額:30万円
この場合、会社は従業員へ30万円を還付し、税務署へは差額の20万円を納付します。
会計処理の例
過去に給与から預かった源泉所得税5万円を、年末調整により従業員へ返金する場合の仕訳例は次のとおりです。
預り金 50,000円/普通預金 50,000円源泉所得税の還付は、会社の経費ではありません。
会社が一時的に預かっていた税金を本人へ返す処理であるため、給与手当や雑損失ではなく、原則として源泉所得税の預り金を減額します。
1か月で還付しきれない場合は翌月以後へ繰り越す
年末調整を行なった月の源泉所得税だけでは過納額を還付しきれない場合、残額を翌月以後に納付する源泉所得税から順次差し引きます。
たとえば、次のケースを考えます。
従業員への還付総額:100万円
12月分の納付予定源泉所得税:40万円
12月には40万円分を充当し、残る60万円は翌年1月以降に納付する源泉所得税から差し引きながら還付します。
給与だけでなく、一定の報酬・料金や退職所得から徴収した源泉所得税も、年末調整過納額の還付原資に充てられます。
国税庁は、年末調整月の税額で還付しきれないときは、その後に納付する給与、退職所得、弁護士・司法書士・税理士等への報酬などに係る源泉所得税から差し引き、順次還付する取扱いを示しています。
税務署へ年末調整過納額の還付請求ができるケース
会社が通常の方法で還付できない場合は、所轄税務署へ還付請求書を提出できます。
対象となるのは、主に次のケースです。
1.会社が解散・廃業・休業した場合
会社が解散・廃業したり、休業して給与を支払わなくなったりした場合、今後差し引く源泉所得税が発生しません。
そのため、会社側で従業員へ還付できなくなった残額について、税務署へ還付請求できます。
2.今後納付する源泉所得税がなくなった場合
会社自体は存続していても、次のような事情により徴収すべき税額がなくなることがあります。
従業員が全員退職した
役員報酬や給与の支給を停止した
給与額が低下し、源泉徴収税額がゼロとなった
源泉徴収対象となる報酬の支払いもなくなった
この場合も、会社で過納額を精算できないため、税務署への還付請求を検討します。
3.2か月を経過しても還付しきれない場合
過納額を還付することとなった月の翌月1日から起算して2か月を経過しても、還付すべき過納額が残っている場合は、税務署へ還付請求できます。
たとえば、12月に年末調整を行った場合、原則として翌年1月1日から2か月を経過した後も残額があることが一つの基準です。
2か月を待たずに請求できる場合もある
還付額が会社の毎月の源泉所得税と比べて著しく多く、2か月を経過しても全額を還付することが極めて困難であると見込まれる場合は、2か月経過前でも還付請求が認められることがあります。
たとえば、毎月の源泉所得税が2万円程度しかない会社で、年末調整過納額が100万円発生した場合です。
通常の充当だけでは何年もかかることが明らかなため、最初から税務署への請求を検討する余地があります。
税務署へ提出する還付請求書
使用する書類は、次のものです。
「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」
この書類には、主に次の内容を記載します。
年末調整を行なった年分
過納額が生じた理由
年末調整を行った日
役員・従業員ごとの年末調整過納額
すでに会社が還付・充当した金額
税務署へ還付請求する残額
還付金の受取口座
還付金を会社と本人のどちらが受け取るか
提出先は、給与等の支払者である会社の所轄税務署です。e-Taxまたは書面で提出できます。
還付請求時に必要となる添付書類
還付請求書には、原則として次の書類を添付します。
<源泉徴収簿の写し>
過納額が生じた役員・従業員ごとの給与所得の源泉徴収簿を添付します。
過納額が生じた年分だけでなく、翌年に繰り越して一部を還付している場合は、還付を行った翌年分の源泉徴収簿も必要です。
<委任状>
税務署から会社がまとめて還付金を受け取り、その後、会社から従業員へ支払う場合は、各人から還付金の請求・受領に関する委任を受けます。
国税庁所定の委任状を作成し、還付請求書へ添付します。
<その他の説明資料>
還付額の計算根拠や年末調整の訂正理由によっては、税務署から追加資料を求められることがあります。たとえば、次のような資料です。
年末調整計算資料
保険料控除証明書
社会保険料の支払証明書
扶養控除等申告書
住宅ローン控除関係書類
給与明細
納付書やダイレクト納付の記録
還付済み金額を確認できる振込明細
税務署から照会を受けたときに説明できるよう、還付請求額と源泉徴収簿・納付書の金額を照合しておきましょう。
還付金は会社が受け取る方法と本人が受け取る方法がある
税務署からの還付金は、次のいずれかの方法で受け取れます。
会社がまとめて受け取る
役員・従業員から委任状を取得し、会社が税務署から還付を受けます。
その後、会社から各本人へ過納額を支払います。
従業員が多数いる場合は、この方法の方が管理しやすいでしょう。
ただし、税務署から会社に還付された金額は会社の収益ではありません。従業員へ支払うまで預り金などで管理します。
役員・従業員が直接受け取る
退職者と連絡が取れない、委任状を取得できないなどの場合は、税務署から本人へ直接還付してもらうこともできます。
この場合は、本人ごとに還付請求書を分けて作成し、委任状は不要です。
本人へ直接還付する場合でも、請求手続きを行う主体は原則として年末調整を行った給与支払者です。
還付請求書の提出期限
年末調整過納額の還付請求書には、通常の確定申告のような一律の提出期限は定められていません。
ただし、還付請求権には時効があります。
国税庁は、還付請求ができる事由が生じた日から5年間に提出しなければ、時効により請求権が消滅すると案内しています。
「急がなくてもよい」と放置すると、退職者と連絡が取れなくなったり、源泉徴収簿や証明資料の確認が難しくなったりします。
還付しきれないことが判明した段階で、早めに手続きを進めるのが安全です。
還付請求書を提出した後は会社で二重に還付しない
税務署へ還付請求書を提出した後は、その請求対象となった金額を会社側で源泉所得税へ充当したり、従業員へ再度還付したりしてはいけません。
請求後に会社の給与支給が再開し、源泉所得税を納付することとなった場合でも、請求済みの過納額は税務署の還付処理に委ねます。
国税庁の記載要領でも、還付請求書の提出後は、会社側で精算できる状態になったとしても、その金額を還付・充当することはできないとされています。
二重還付を防ぐため、請求対象額を源泉徴収簿や管理表へ明記しておきましょう。
介護保険料や後期高齢者医療保険料も年末調整の対象になる?
年末調整で過納額が大きくなる原因として、社会保険料控除の追加があります。
給与から天引きされた社会保険料は、会社側で通常把握できます。
一方、本人や生計を一にする配偶者・親族の社会保険料を本人が支払った場合、その支払額が社会保険料控除の対象になることがあります。
代表的なものとして、次の保険料があります。
国民健康保険料
国民年金保険料
介護保険料
後期高齢者医療保険料
ただし、誰の保険料かだけでなく、実際に誰が支払ったかを確認する必要があります。
たとえば、配偶者の介護保険料が配偶者自身の年金から特別徴収されている場合、その保険料を夫の社会保険料控除に含めることは通常できません。
一方、夫の銀行口座から口座振替により支払っているなど、夫が実際に負担した場合は、夫の社会保険料控除の対象となる可能性があります。
保険料控除を追加訂正する場合は、納付通知書や口座振替記録などから、支払者と金額を確認することが重要です。
年末調整後に控除漏れが判明した場合
年末調整後に、従業員から次のような申出を受けることがあります。
生命保険料控除証明書を出し忘れた
社会保険料の支払額を記載していなかった
扶養親族の記載が漏れていた
配偶者控除等の判定を誤っていた
住宅ローン控除額を誤っていた
会社が翌年1月31日までに年末調整をやり直すことができる場合は、再計算して過不足額を精算します。
その結果、多額の過納額が発生し、会社で還付しきれない場合には、今回の還付請求手続きを検討します。
一方、会社で年末調整をやり直さない場合でも、本人が所得税の還付申告を行うことで、税金の還付を受けられることがあります。
どちらの方法を取るかは、訂正時期、会社の給与計算体制、法定調書や給与支払報告書の提出状況などを踏まえて判断しましょう。
年末調整過納額の還付で起こりやすいミス
1.還付額を会社の経費にする
年末調整の還付は会社の費用ではありません。
源泉所得税の預り金を本人へ返す処理です。
2.源泉所得税の納付額を超えて無理に相殺する
納付書上の税額をマイナスにはできません。
その月の徴収税額で還付しきれない部分は翌月以後へ繰り越すか、所定の要件を満たせば税務署へ還付請求します。
3.2か月経過後でなければ絶対に請求できないと思う
2か月以内に全額還付することが極めて困難と見込まれる場合は、2か月の経過前でも請求できる余地があります。
4.退職者の過納額をそのまま放置する
委任状を取得できない退職者についても、税務署から本人へ直接還付する方法があります。
退職したから精算できないと決めつけないようにしましょう。
5.還付請求後も翌月の源泉所得税から差し引く
税務署へ請求した金額を、会社が再度充当すると二重還付になります。
還付請求書提出後は、請求額を社内の充当対象から除外します。
6.源泉徴収簿と納付書の金額が合っていない
年末調整過納額、すでに充当した金額、残額を月ごとに整理し、給与台帳・源泉徴収簿・納付書を一致させる必要があります。
還付請求前のチェックリスト
<年末調整の計算>
年調年税額を正しく計算したか
扶養控除等申告書の内容を確認したか
社会保険料控除の支払者を確認したか
住宅ローン控除の適用年数・限度額を確認したか
源泉徴収簿と給与台帳が一致しているか
<還付状況>
従業員ごとの過納額はいくらか
すでに会社から還付した金額はいくらか
源泉所得税へ充当した金額はいくらか
今後2か月以内に全額を還付できる見込みがあるか
今後給与や源泉徴収対象報酬を支払う予定があるか
<還付請求手続き>
還付請求書兼残存過納額明細書を作成したか
過納額が生じた年分の源泉徴収簿を添付したか
翌年分の源泉徴収簿が必要ではないか
各人から委任状を取得したか
退職者への直接還付分を別にしたか
還付口座を確認したか
請求済み金額を翌月以後の充当対象から外したか
まとめ
年末調整で源泉所得税の過納額が生じた場合、原則として会社が役員や従業員へ還付します。
年末調整月の源泉所得税だけで還付しきれなければ、翌月以後に納付する源泉所得税から順次差し引きます。
それでも還付できない場合には、税務署へ還付請求できます。
重要なポイントは次のとおりです。
年末調整の過納額は、まず会社が本人へ還付する
還付額は会社の経費ではなく、源泉所得税の預り金の精算である
年末調整月に還付しきれない場合は、翌月以後の源泉所得税から差し引く
解散・休業や徴収税額の消滅により還付できない場合は、税務署へ請求できる
翌月1日から2か月を経過しても残額がある場合も請求対象となる
2か月以内に全額還付することが明らかに困難な場合は、早期請求できることがある
還付請求には源泉徴収簿や委任状を添付する
退職者等には税務署から直接還付してもらう方法がある
還付請求書を提出した後は、会社側で同じ金額を再度還付・充当しない
請求権は原則として5年で時効となる
年末調整の還付額が大きいケースでは、給与計算の誤りなのか、控除額の変化によるものなのかを最初に確認する必要があります。
計算が正しくても、会社が還付資金を一時的に立て替えたまま処理を放置すると、預り金の残高が合わなくなり、従業員への返金も遅れてしまいます。
通常の相殺で還付しきれないことが見込まれる場合は、源泉徴収簿と納付状況を整理したうえで、早めに税務署への還付請求を検討しましょう。




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