大胆な設備投資促進税制の取得価額要件に注意|器具備品・建物附属設備の合計額判定を解説
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 13分
おはようございます!代表の安田です。
令和8年度税制改正で創設された制度の一つに、特定生産性向上設備等投資促進税制があります。一般には、大胆な設備投資促進税制とも呼ばれる制度です。
この制度は、青色申告法人が、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に基づいて一定の設備投資を行い、その設備を事業の用に供した場合に、即時償却または税額控除を受けられるというものです。
設備投資を検討している法人にとっては、非常に大きなメリットがある制度です。一方で、適用にあたっては、設備ごとに定められた取得価額要件を満たす必要があります。
特に注意したいのが、工具及び器具備品や建物附属設備の取得価額要件です。これらは、一定の条件を満たす場合、一事業年度における取得価額の合計額で判定できます。しかし、すべての設備を単純に合算できるわけではありません。
本日は、大胆な設備投資促進税制の概要と、誤解しやすい取得価額要件の判定方法について、税理士の視点から整理します。
大胆な設備投資促進税制とは?
大胆な設備投資促進税制とは、正式には特定生産性向上設備等投資促進税制とされる制度です。
青色申告法人が、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に基づき、一定の対象設備を取得等し、事業の用に供した場合に、その対象設備について税制優遇を受けられます。選択できる優遇措置は、主に次の2つです。
即時償却
税額控除
税額控除を選択する場合は、設備の種類に応じて一定割合の税額控除を受けることができます。ただし、税額控除には当期法人税額の20%という上限があります。
設備投資額が大きい法人では、即時償却による課税所得の圧縮や、税額控除による法人税負担の軽減が期待できます。
適用対象となる期間
この制度は、改正産業競争力強化法の施行日から令和11年3月31日までの間に、投資計画について経済産業大臣の確認を受けることが前提です。
そして、確認を受けた日から5年以内に対象設備を取得等し、事業の用に供した場合に適用対象となります。
つまり、単に設備を取得すればよいわけではなく、まず投資計画について経済産業大臣の確認を受け、その確認を受けた投資計画に基づいて設備を取得・事業供用する必要があります。この点は、通常の設備投資とは大きく異なる実務上のポイントです。
対象設備の種類
大胆な設備投資促進税制の対象となる設備は、生産等設備を構成する一定規模以上の設備です。主な対象設備は次の5つです。
機械装置
工具及び器具備品
建物
建物附属設備及び構築物
ソフトウェア
これらの設備であれば何でも対象になるわけではありません。それぞれの設備区分ごとに、取得価額要件が定められています。
また、設備ごとに税額控除率も異なります。たとえば、機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェアは税額控除7%、建物、建物附属設備及び構築物は税額控除4%とされています。
設備ごとに取得価額要件が異なる
この制度でまず押さえておきたいのは、取得価額要件が設備ごとに異なるという点です。
資料で示されている主な取得価額要件は、次のとおりです。
機械装置
機械装置は、1台または1基の取得価額が160万円以上であることが必要です。
機械装置については、1台・1基ごとの金額で判定します。
工具及び器具備品
工具及び器具備品は、原則として、それぞれ1台または1基の取得価額が120万円以上であることが必要です。ただし、一定の場合には、1台または1基の取得価額が40万円以上で、同一の投資計画に記載されたものについて、一事業年度における取得価額の合計額が120万円以上であれば対象に含まれます。
建物
建物は、一の取得価額が1,000万円以上であることが必要です。
建物附属設備及び構築物
建物附属設備及び構築物は、原則として、それぞれ一の取得価額が120万円以上であることが必要です。ただし、建物附属設備については、一の取得価額が60万円以上で、同一の投資計画に記載されたものについて、一事業年度における取得価額の合計額が120万円以上であれば対象に含まれます。
ソフトウェア
ソフトウェアは、一の取得価額が70万円以上であることが必要です。
このように、設備の種類によって金額基準が異なるため、対象設備をまとめて一律に判定しないことが重要です。
合計額判定ができる設備は限られる
実務で誤解しやすいのが、複数の設備を取得した場合の合計額判定です。
大胆な設備投資促進税制では、基本的には1台・1基あたり、または一の取得価額で取得価額要件を判定します。ただし、次の設備については、一定条件のもとで一事業年度における取得価額の合計額により判定できる場合があります。
工具及び器具備品
建物附属設備
一方、機械装置、建物、構築物、ソフトウェアについては、資料上このような合計額判定の対象として整理されていません。
したがって、複数の機械装置や複数のソフトウェアを取得したからといって、単純に合算して取得価額要件を満たすと判断するのは危険です。
工具及び器具備品の合計額判定
工具及び器具備品については、次のような場合に合計額判定が可能です。
それぞれ1台または1基の取得価額が40万円以上であること
同一の投資計画に記載された設備であること
一事業年度における取得価額の合計額が120万円以上であること
この3つを満たす必要があります。
ここで大切なのは、単に合計額が120万円以上であればよいわけではないという点です。
1台・1基あたりの取得価額が40万円未満のものは、合計額判定の対象に含めることができません。また、投資計画に記載されていない設備も、合計額判定の対象に含めることができません。
1台40万円未満の器具備品は合算できない
誤解しやすい例として、30万円の器具備品を5台取得したケースが挙げられます。
30万円の器具備品を5台取得すると、合計額は150万円になります。一見すると、取得価額要件である120万円以上を満たしているように見えます。
しかし、工具及び器具備品の合計額判定では、1台または1基の取得価額が40万円以上であることが必要です。30万円の器具備品は、1台あたり40万円未満です。そのため、合計額判定上は合算対象外となります。
この場合、判定上の合計額は150万円ではなく0円となり、取得価額要件を満たしません。
40万円・50万円・60万円なら合算可能
一方、40万円の器具備品、50万円の器具備品、60万円の器具備品をそれぞれ取得した場合はどうでしょうか。
この場合、各器具備品の取得価額はいずれも40万円以上です。
そのため、合計額判定の対象に含めることができます。
合計額は、40万円+50万円+60万円=150万円です。120万円以上となるため、取得価額要件を満たすことになります。
同じ合計150万円でも、1台ごとの金額が40万円以上かどうかで結果が変わる点が、実務上の落とし穴です。
投資計画への記載漏れにも注意
もう一つ重要なのが、同一の投資計画に記載されていることです。
工具及び器具備品の合計額判定では、同一の投資計画に記載された設備でなければ合算できません。
たとえば、投資計画には45万円の器具備品と55万円の器具備品を取得する旨を記載していたとします。実際には、これに加えて65万円の器具備品も取得したとします。
この場合、実際に取得した器具備品の合計額は、45万円+55万円+65万円=165万円です。一見すると120万円以上の取得価額要件を満たしているように見えます。
しかし、65万円の器具備品が投資計画に記載されていなければ、その65万円は合算対象外です。判定上の合計額は45万円+55万円=100万円となり、120万円以上の要件を満たしません。
追加取得する設備も投資計画への記載が必要
もし65万円の器具備品についても投資計画に記載されていれば、45万円、55万円、65万円のすべてが合算対象となります。
この場合、判定上の合計額は165万円となり、取得価額要件を満たします。
つまり、合計額判定を利用する場合には、設備の取得価額だけでなく、投資計画に正しく記載されているかが非常に重要です。
設備投資の実務では、当初計画になかった設備を後から追加取得することがあります。その場合、追加設備が投資計画上どのように扱われるかを確認しないまま取得してしまうと、税制適用上の取得価額要件を満たせない可能性があります。
建物附属設備の合計額判定
建物附属設備についても、一定の条件を満たせば、一事業年度における取得価額の合計額で判定できます。建物附属設備の場合は、次のように整理できます。
原則は、一の取得価額が120万円以上
例外として、一の取得価額が60万円以上であること
同一の投資計画に記載されていること
一事業年度における取得価額の合計額が120万円以上であること
工具及び器具備品では最低ラインが40万円以上でしたが、建物附属設備では60万円以上です。
この違いにも注意が必要です。
たとえば、50万円の建物附属設備を3つ取得して合計150万円になったとしても、それぞれの取得価額が60万円未満であれば、合計額判定の対象に含めることはできません。
構築物は合計額判定の対象ではない点に注意
建物附属設備及び構築物は、税額控除率の表では同じ区分で整理されています。
しかし、合計額判定が認められているのは、建物附属設備についてです。
構築物については、それぞれ一の取得価額が120万円以上であることが必要とされています。このため、建物附属設備と構築物を同じ感覚で合算してしまうと、判定を誤る可能性があります。
設備の種類が建物附属設備なのか、構築物なのかは、減価償却資産の区分や契約内容を確認して判断する必要があります。
一事業年度の範囲にも注意
合計額判定では、「一事業年度における取得価額の合計額」が問題になります。
ただし、経済産業大臣の確認を受けた日から5年を経過する日以前に開始し、かつ、その日後に終了する事業年度については、事業年度開始日から5年を経過する日までの期間に限られるとされています。
つまり、確認日から5年以内という制度上の期間制限も意識する必要があります。
投資計画の確認を受けた後、複数年度にわたって設備を取得する場合には、どの事業年度で合計額判定を行うのか、確認日から5年以内に取得・事業供用しているかを管理しておく必要があります。
税額控除と即時償却は設備ごとに選択可能
大胆な設備投資促進税制では、設備ごとに税額控除または即時償却を選択できます。
たとえば、ある設備については即時償却を選び、別の設備については税額控除を選ぶことも可能です。
ただし、税額控除率は設備区分によって異なります。
機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェアは7%。建物、建物附属設備及び構築物は4%です。
また、税額控除には当期法人税額の20%という上限があります。
したがって、実務上は、設備ごとに取得価額要件を確認したうえで、即時償却と税額控除のどちらが有利かをシミュレーションすることが大切です。
実務で誤りやすいポイント
大胆な設備投資促進税制では、次のような誤りが起こりやすいと考えられます。
1. 取得価額を設備ごとに判定していない
対象設備ごとに取得価額要件が異なります。機械装置、器具備品、建物、建物附属設備、ソフトウェアを一括りにして判定しないよう注意が必要です。
2. 40万円未満の器具備品を合算してしまう
工具及び器具備品の合計額判定では、1台または1基の取得価額が40万円以上であることが必要です。40万円未満のものは合算対象外です。
3. 60万円未満の建物附属設備を合算してしまう
建物附属設備の合計額判定では、一の取得価額が60万円以上であることが必要です。60万円未満のものは合算対象外です。
4. 投資計画に未記載の設備を合算してしまう
同一の投資計画に記載されていない設備は、実際に取得していても合算対象にできません。
5. 構築物を建物附属設備と同じように合算してしまう
建物附属設備と構築物は同じ税額控除率の区分にありますが、合計額判定の取扱いは同じではありません。
投資計画作成時に確認すべきこと
この制度では、投資計画の内容が非常に重要です。
特に、合計額判定を利用したい場合には、投資計画に設備を漏れなく記載しておく必要があります。投資計画作成時には、次の点を確認しておきましょう。
取得予定設備の種類
設備ごとの取得価額
1台・1基あたりの金額
建物附属設備か構築物かの区分
同一の投資計画に記載されているか
取得予定時期
事業供用予定時期
合計額判定を利用する設備か
税額控除と即時償却のどちらを選ぶ予定か
投資計画に記載がない設備は、後から取得しても合計額判定に含められない可能性があります。設備追加や仕様変更がある場合には、税制適用への影響を早めに確認することが重要です。
経理担当者が確認したいチェックリスト
大胆な設備投資促進税制の適用を検討する場合、経理担当者は次の点を確認しておくと安心です。
経済産業大臣の確認を受けた投資計画があるか
対象設備が生産等設備を構成するものか
設備区分ごとの取得価額要件を満たしているか
工具及び器具備品は1台40万円以上か
工具及び器具備品の合計額が120万円以上か
建物附属設備は一の取得価額が60万円以上か
建物附属設備の合計額が120万円以上か
合算する設備が同一の投資計画に記載されているか
投資計画に未記載の追加設備がないか
取得日・事業供用日が制度対象期間内か
即時償却と税額控除の有利不利を比較しているか
税額控除の法人税額20%上限を確認しているか
設備投資の金額が大きいほど、適用可否による税負担への影響も大きくなります。契約前、発注前、投資計画作成時から税務確認を行うことが重要です。
まとめ
令和8年度税制改正で創設された特定生産性向上設備等投資促進税制、いわゆる大胆な設備投資促進税制では、青色申告法人が、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に基づき対象設備を取得等し、事業供用した場合に、即時償却または一定の税額控除を受けることができます。
対象設備は、機械装置、工具及び器具備品、建物、建物附属設備及び構築物、ソフトウェアであり、それぞれ取得価額要件が異なります。税額控除率は、機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェアが7%、建物、建物附属設備及び構築物が4%です。
取得価額要件は、基本的には1台・1基あたり、または一の取得価額で判定します。ただし、工具及び器具備品と建物附属設備については、一定条件を満たす場合、一事業年度における取得価額の合計額で判定できます。
工具及び器具備品では、1台または1基の取得価額が40万円以上で、同一の投資計画に記載されたものについて、一事業年度の取得価額合計額が120万円以上であることが必要です。たとえば、30万円の器具備品を5台取得して合計150万円となっても、1台40万円未満であるため合算対象外となり、取得価額要件を満たしません。一方、40万円、50万円、60万円の器具備品を取得した場合は、いずれも40万円以上であるため合算対象となり、合計150万円として取得価額要件を満たします。
また、投資計画への記載漏れにも注意が必要です。45万円と55万円の器具備品を投資計画に記載し、実際には65万円の器具備品も追加取得した場合、65万円の器具備品が投資計画に未記載であれば合算対象外となります。この場合、判定上の合計額は100万円となり、120万円以上の要件を満たしません。
大胆な設備投資促進税制は、即時償却や税額控除という大きなメリットがある一方、取得価額要件の判定を誤ると適用できないリスクがあります。設備投資を検討する際は、設備区分、1台・1基あたりの金額、同一投資計画への記載、取得・事業供用時期を事前に確認し、税制適用を前提とした投資計画を慎重に作成しましょう。



