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完全支配関係のある法人間で保険契約を譲渡したら課税繰延べできる?法人保険の名義変更と譲渡損益を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 12 時間前
  • 読了時間: 12分

こんにちは!代表の安田です。


法人が役員退職金の財源準備や福利厚生、事業保障などを目的として、養老保険や生命保険に加入しているケースは少なくありません。


グループ会社がある場合には、役員の転籍や事業再編に伴い、保険契約の契約者や受取人を別の法人へ変更することもあります。たとえば、子会社の役員が親会社へ転籍したため、子会社名義の養老保険契約を親会社へ移すようなケースです。


このとき税務上問題になるのが、保険契約の名義変更により譲渡損益が生じるのか、そして完全支配関係のある法人間であれば、その譲渡損益を繰り延べできるのかという点です。


結論からいうと、完全支配関係のある法人間で保険契約を譲渡・名義変更した場合でも、保険契約等の権利は、法人税法上の「譲渡損益調整資産」には該当しないと考えられます。


そのため、保険契約の譲渡対価と保険積立金などの譲渡原価に差額がある場合には、その譲渡損益を譲渡事業年度に計上する必要があります。


「100%グループ内だから課税は繰り延べられる」と安易に考えると、思わぬ課税が生じる可能性があります。


本日は、完全支配関係のある法人間で保険契約を名義変更した場合の法人税処理、譲渡損益調整資産に該当しない理由、保険契約の時価評価、実務上の注意点を解説します。


完全支配関係法人間の譲渡損益調整とは

法人税では、完全支配関係のある法人間で一定の資産を譲渡した場合、その譲渡損益について課税を繰り延べる制度があります。


これは、いわゆるグループ法人税制における譲渡損益調整です。

たとえば、親会社が100%子会社へ土地や有価証券などを譲渡した場合、グループ内で資産が移動しただけで、グループ外へ実現したわけではないと考えられます。


そのため、一定の要件を満たす「譲渡損益調整資産」については、譲渡法人側で譲渡利益または譲渡損失の計上を繰り延べる仕組みが設けられています。


対象となる資産には、一定の固定資産、土地等、有価証券、金銭債権、繰延資産などがあります。

ただし、完全支配関係法人間の取引だからといって、すべての資産の譲渡損益が繰り延べられるわけではありません。課税繰延べの対象になるのは、あくまで法人税法上の「譲渡損益調整資産」に該当する資産に限られます。


ここが、保険契約の名義変更で重要なポイントです。


保険契約の権利は譲渡損益調整資産に該当しない

法人が保有する生命保険契約には、将来の保険金や解約返戻金を受け取る可能性があります。そのため、保険契約の権利を「金銭債権のようなもの」と考え、完全支配関係法人間で譲渡した場合には譲渡損益調整資産に該当するのではないか、と疑問に思うかもしれません。


しかし、法人税の取扱いでは、保険契約等の権利は、譲渡損益調整資産に含まれる金銭債権には該当しないものと考えられます。


保険契約の名義変更は、将来の確定した金銭債権を譲渡するというよりも、契約者や受取人としての「契約上の地位」を移転する行為に近いものです。


また、法人が保険積立金として資産計上している金額は、将来必ず受け取る金銭債権の額ではなく、これまで支払った保険料のうち資産計上すべき部分を積み上げた金額です。


そのため、完全支配関係のある法人間で保険契約を名義変更しても、保険契約等の権利は譲渡損益調整資産には該当せず、譲渡損益の課税繰延べは認められないと考えられます。


名義変更時には時価で譲渡したものとして処理する

法人間で保険契約の名義変更を行う場合、税務上は、その保険契約等の権利を時価で譲渡したものとして処理することになります。


ここでいう時価は、保険契約の種類や内容によって判断します。

養老保険などで、解約返戻金相当額がその保険契約等の権利の価値を適切に表していると考えられる場合には、解約返戻金相当額を時価として扱うことが考えられます。


一方、保険契約には、低解約返戻金型の保険、逓増定期保険、長期平準定期保険など、契約内容によって解約返戻金と経済的価値が一致しにくいものもあります。法人間の名義変更では、所得税の評価通達をそのまま機械的に使うのではなく、法人税上の時価として妥当な金額を検討する必要があります。


実務では、次のような資料を確認します。

・保険証券
・契約内容の明細
・名義変更日時点の解約返戻金証明書
・保険積立金の帳簿価額
・過去の保険料支払額
・保険料の経理処理
・保険会社からの試算資料
・名義変更契約書、譲渡契約書

保険契約の評価額を誤ると、譲渡法人・譲受法人の双方で税務上の問題が生じる可能性があります。


譲渡損益の計算例

次のようなケースを考えます。

子会社が契約者・保険金受取人となっている養老保険を、親会社へ名義変更する。

譲渡法人:子会社
譲受法人:親会社
親会社と子会社の関係:100%完全支配関係あり
保険積立金:1,000万円
名義変更時の解約返戻金相当額:1,500万円

この場合、解約返戻金相当額1,500万円を時価と考えるのであれば、子会社は親会社へ保険契約等の権利を1,500万円で譲渡したものとして処理します。


子会社側の譲渡原価は、帳簿上の保険積立金1,000万円です。

したがって、譲渡益は次のようになります。

譲渡対価:1,500万円
譲渡原価:1,000万円
譲渡益:500万円

この500万円は、完全支配関係法人間の取引であっても、譲渡損益調整の対象にはなりません。そのため、子会社は譲渡事業年度に雑収入などとして譲渡益500万円を計上する必要があります。

仕訳イメージは次のとおりです。

現金預金   1,500万円 / 保険積立金 1,000万円
             / 雑収入    500万円

一方、親会社側では、取得した保険契約等の権利を1,500万円で受け入れることになります。


100%グループ内でも課税繰延べできない点に注意

グループ法人税制のイメージから、「親子会社間の取引であれば譲渡損益は繰り延べられる」と考えてしまうことがあります。


しかし、これは誤解です。

譲渡損益の繰延べが認められるのは、完全支配関係法人間で、譲渡損益調整資産に該当する資産を譲渡した場合です。


保険契約等の権利は、法人税上、この譲渡損益調整資産に該当しないと考えられます。

したがって、完全支配関係がある親子会社間であっても、保険契約の名義変更によって譲渡益または譲渡損が生じる場合には、その事業年度に損益を認識する必要があります。


特に、長期間加入している養老保険や解約返戻率が高まっている保険では、帳簿上の保険積立金よりも解約返戻金相当額が大きくなっていることがあります。

その場合、名義変更をしただけで課税所得が発生することがあります。


無償や低額で名義変更した場合は別の税務問題もある

グループ内の法人間では、事務手続きの一環として、保険契約を無償または帳簿価額で名義変更してしまうことがあります。


しかし、法人間取引では、原則として時価による取引が求められます。

保険契約の時価が1,500万円であるにもかかわらず、帳簿価額1,000万円で譲渡した場合、差額500万円について、寄附金、受贈益、あるいは完全支配関係法人間の寄附金・受贈益の取扱いなど、別の税務論点が生じる可能性があります。


また、譲渡法人側で本来計上すべき譲渡益を計上していないと、税務調査で修正を求められる可能性があります。


完全支配関係法人間であっても、取引価格を自由に決めてよいわけではありません。

保険契約の名義変更を行う場合には、名義変更時点の時価を確認し、譲渡契約書や社内決裁資料に算定根拠を残しておくことが重要です。


消費税と法人税の考え方を混同しない

保険契約等の権利は、消費税の取扱いでは金銭債権に近いものとして扱われる場面があります。そのため、消費税の感覚で考えると、法人税でも金銭債権として譲渡損益調整資産に該当するのではないかと思うかもしれません。


しかし、法人税と消費税では、同じ取引であっても判断の枠組みが異なります。

法人税上の譲渡損益調整資産に該当するかどうかは、法人税法上の資産区分や制度趣旨に基づいて判断します。


消費税上の取扱いがそのまま法人税上の譲渡損益調整資産該当性を決めるわけではありません。実務では、「消費税ではこうだから、法人税でも同じ」と短絡的に判断しないことが大切です。


役員の転籍時には保険契約の整理が必要

保険契約の名義変更が生じやすいのは、役員や従業員がグループ会社間で転籍するケースです。

たとえば、子会社の役員を被保険者とする保険契約について、その役員が親会社へ転籍した場合、今後の退職金負担や保険金受取人を親会社へ移すために、保険契約の契約者を変更することがあります。このような場合には、次の点を事前に確認しましょう。

・誰が被保険者か
・契約者はどの法人か
・保険金受取人はどの法人か
・保険料を負担してきた法人はどこか
・保険積立金の帳簿価額はいくらか
・名義変更時の解約返戻金相当額はいくらか
・名義変更後の保険料負担者はどこか
・役員退職金規程との関係はどうなっているか

単に保険会社の名義変更手続きをするだけでは、税務処理として不十分です。

法人税、会計処理、役員退職金規程、グループ内契約を合わせて確認する必要があります。


保険積立金と解約返戻金の差額を事前に試算する

保険契約の名義変更を検討する際には、必ず保険積立金と解約返戻金相当額の差額を確認しましょう。


保険積立金は、法人が過去に支払った保険料のうち資産計上してきた金額です。

一方、解約返戻金相当額は、名義変更時点で保険契約を解約した場合に返戻される金額です。両者は一致するとは限りません。


特に、契約から一定期間が経過した保険契約では、解約返戻金相当額が保険積立金を上回ることがあります。この場合、名義変更により譲渡益が発生します。

反対に、解約返戻金相当額が保険積立金を下回る場合には、譲渡損が発生する可能性があります。


いずれの場合も、完全支配関係法人間だからといって課税繰延べできない点に注意が必要です。名義変更前に、次のような試算表を作成しておくと実務上有用です。

保険積立金:〇〇円
解約返戻金相当額:〇〇円
差額:〇〇円
譲渡益または譲渡損:〇〇円
法人税等への影響額:〇〇円
譲受法人の取得価額:〇〇円

税務調査で確認されやすいポイント

法人保険の名義変更は、税務調査で確認されやすい項目です。

特に、完全支配関係法人間で名義変更が行われている場合、次の点が確認される可能性があります。

・名義変更の理由
・完全支配関係の有無
・被保険者の所属変更や転籍の事実
・名義変更時の保険積立金
・名義変更時の解約返戻金相当額
・譲渡対価の有無
・譲渡益または譲渡損の計上有無
・譲渡損益調整資産として処理していないか
・無償または低額譲渡になっていないか
・譲受法人側の取得価額
・保険料の過去の経理処理

保険契約は長期間継続することが多く、過去の保険料処理や契約変更の記録が残っていないこともあります。

名義変更を行なう場合は、保険会社から資料を取り寄せ、社内の会計資料と突合しておきましょう。


実務上のチェックリスト

完全支配関係のある法人間で保険契約を名義変更する場合には、次の点を確認しましょう。


1. 名義変更の理由を整理する

役員の転籍、事業移管、退職金負担法人の変更など、名義変更の合理的な理由を明確にします。


2. 保険契約の内容を確認する

契約者、被保険者、保険金受取人、保険種類、保険期間、解約返戻金の推移を確認します。


3. 帳簿価額を確認する

譲渡法人側の保険積立金や前払保険料など、資産計上額を確認します。


4. 時価を確認する

名義変更時点の解約返戻金相当額など、時価算定の基礎資料を取得します。


5. 譲渡損益を試算する

時価と帳簿価額との差額により、譲渡益または譲渡損を計算します。


6. 課税繰延べできない前提で税額を確認する

保険契約等の権利は譲渡損益調整資産に該当しないため、譲渡事業年度の損益として処理します。


7. 譲渡契約書・議事録を残す

取引価格、算定根拠、名義変更理由を文書化します。


8. 譲受法人側の取得価額を確認する

譲受法人は、時価で取得した保険契約等の権利として会計処理する必要があります。


よくある誤解

  • 完全支配関係のある法人間なら、保険契約の譲渡益は繰り延べられる

誤りです。保険契約等の権利は法人税法上の譲渡損益調整資産に該当しないと考えられるため、完全支配関係法人間であっても譲渡損益の課税繰延べは認められません。


  • 保険契約は解約返戻金を受け取れるので金銭債権に該当する

法人税上は、保険契約等の権利は金銭債権ではなく、契約上の地位に近いものと考えられます。譲渡損益調整資産に含まれる金銭債権には該当しないと考えられます。


  • 名義変更だけなら譲渡損益は発生しない

法人間で保険契約の契約者や受取人を移す場合、税務上は保険契約等の権利の移転として、時価と帳簿価額との差額により譲渡損益が生じることがあります。


  • 帳簿価額で譲渡すれば課税は発生しない

時価より低い金額で譲渡した場合、低額譲渡や寄附金・受贈益など別の税務問題が生じる可能性があります。法人間取引では時価を確認することが重要です。


  • 所得税の評価通達をそのまま法人税にも使えばよい

法人間の保険契約の評価は、法人税上の時価として検討する必要があります。契約内容や解約返戻金相当額、経済的価値を踏まえて判断しましょう。


まとめ

法人が役員退職金の財源確保などを目的として加入している生命保険契約について、役員の転籍やグループ内再編に伴い、完全支配関係のある法人間で契約者や受取人を変更することがあります。


この場合、保険契約等の権利を譲渡したものとして、名義変更時点の時価と譲渡法人側の保険積立金などの帳簿価額との差額により、譲渡益または譲渡損が生じることがあります。

完全支配関係法人間で一定の資産を譲渡した場合には、法人税法上、譲渡損益調整資産について課税繰延べが認められる制度があります。


しかし、保険契約等の権利は、法人税法上の譲渡損益調整資産には該当しないと考えられます。そのため、完全支配関係のある親子会社間で保険契約を名義変更した場合であっても、譲渡損益の課税繰延べはできません。


たとえば、子会社の保険積立金が1,000万円、名義変更時の解約返戻金相当額が1,500万円であれば、子会社では500万円の譲渡益を譲渡事業年度に計上する必要があります。


保険契約の名義変更は、保険会社への手続きだけで完了するものではありません。

法人税上の時価評価、譲渡損益の計上、譲受法人側の取得価額、低額譲渡や寄附金のリスクまで確認する必要があります。


グループ内で法人保険の名義変更を行う場合には、事前に保険積立金と解約返戻金相当額を確認し、税額影響を試算したうえで、契約書や社内決裁資料を整備しておきましょう。


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