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法人が詐欺被害にあった場合の税務処理は? 損失計上と貸倒損失を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 23 時間前
  • 読了時間: 9分

こんにちは!代表の安田です。


企業活動を行なっていると、取引先の倒産や売掛金の未回収だけでなく、詐欺などの不法行為により大きな損害を受けることがあります。


たとえば、実在する土地所有者になりすました人物から不動産を購入してしまう、いわゆる地面師詐欺のようなケースです。法人がこのような詐欺被害にあった場合、会計上・税務上どのように処理すべきかは非常に重要な問題です。


実務では、次のような相談を受けることがあります。

  • 詐欺被害で失った金額は、すぐに損金にできるのか

  • 損害賠償請求権を取得した場合、益金も計上する必要があるのか

  • 犯人から回収できない場合、貸倒損失にできるのか

  • 損害賠償金を実際に受け取るまで益金にしない方法はあるのか


詐欺被害は、通常の売掛金回収不能とは異なり、損害損失、損害賠償請求権、貸倒損失が複雑に関係します。詐欺被害と貸倒損失の法人税処理について整理されています。

今回は、法人が詐欺被害にあった場合の税務処理について、税理士の視点からわかりやすく解説します。


1.詐欺被害による損失は損金になる

法人が詐欺などの不法行為により損害を受けた場合、その損失は法人税法上、原則として損失が発生した日の属する事業年度の損金に算入されます。


法人が詐欺等の不法行為により多額の損失を出した場合、損失が発生した日の属する事業年度の損金に算入されると整理されています。


たとえば、土地を取得したつもりで代金を支払ったものの、実際には詐欺であり、会社が資産を取得できなかった場合、その損害は損失として認識することになります。


2.損害賠償請求権も発生する点に注意

詐欺被害を受けた場合、会社には損失が発生します。しかし、それと同時に、加害者に対する損害賠償請求権も発生します。


詐欺による損害を受けた時点で、自動的に民事上の損害賠償請求権を取得するため、損金と益金が同額となり、所得には影響しないと説明されています。


つまり、単に「詐欺被害を受けたから損失だけを計上する」という処理では終わらない点に注意が必要です。


3.原則的な仕訳イメージ

損失を100とした場合の処理を考えてみましょう。


詐欺被害によって資産を失った場合、まず損害損失を計上します。

 損害損失 100 / 土地 100


一方で、加害者に対する損害賠償請求権が発生するため、未収入金と収益を計上します。

 未収入金 100 / 収益 100


この場合、損害損失100が損金になりますが、同時に収益100が益金になるため、法人税の所得計算上は差し引きゼロになります。


4.翌期以降に回収できた場合

詐欺被害により発生した損害賠償請求権について、翌事業年度以降に加害者などから回収できた場合は、未収入金を回収する処理になります。


翌事業年度に損失分を回収できた場合、次のような処理を行ないます。

 現預金 100 / 未収入金 100


すでに未収入金として収益計上しているため、実際に入金された時点では、原則として新たな収益を計上するのではなく、未収入金の回収として処理します。


5.回収できない場合は貸倒損失を検討する

一方で、詐欺の加害者から損害賠償金を回収できないことも多くあります。

この場合、未収入金として計上した損害賠償請求権について、貸倒損失を検討することになります。


翌事業年度に損失分を回収できなかった場合の処理として、次の仕訳が示されています。

 貸倒損失 100 / 未収入金 100


ただし、ここで重要なのは、回収できないからといって、すぐに貸倒損失として損金算入できるわけではないという点です。


6.税務上の貸倒れの要件は厳しい

税務上の貸倒れの要件は厳しいとされています。

とくに、事実上の貸倒れの場合には、債務者の資産状況や支払能力などからみて、債権の全額が回収できないことが明らかになった時に限り、損金経理ができると整理されています。

つまり、次のような事情を客観的に確認する必要があります。

  • 加害者の所在が不明である

  • 加害者に資産がない

  • 差押え可能な財産が見当たらない

  • 破産や無資力の状況が確認されている

  • 回収努力をしても回収見込みがない

  • 損害賠償請求権の全額が回収不能と判断できる


単に「返してもらえそうにない」という感覚だけでは、貸倒損失として認められない可能性があります。


7.損害賠償金は実際に受け取った時点で益金にできる場合もある

詐欺被害では、損害賠償請求権が発生しても、現実には回収できないケースが少なくありません。このような事情を踏まえ、損失は損失として発生時点で計上し、損害賠償金については実際に支払を受けた時点で益金に算入することも認められています。


これは実務上重要です。

相手方に支払能力がないなど、損害賠償金を受け取れるかどうか不確実な場合、損害賠償請求権を直ちに益金計上するのではなく、実際に回収した時点で益金算入する処理が認められる場合があります。


8.詐欺被害時の処理は事実関係の整理が重要

詐欺被害の税務処理では、次のような事実関係を整理する必要があります。

  • いつ損害が発生したのか

  • どの資産や金銭を失ったのか

  • 加害者は誰か

  • 損害賠償請求権が発生しているか

  • 回収可能性はあるか

  • 警察への被害届や告訴を行っているか

  • 民事上の請求手続を行っているか

  • 保険金や補償金の有無

  • 役員や従業員に重過失がないか


特に、損害賠償請求権を益金計上するのか、実際の回収時に益金計上するのか、また未収入金を貸倒損失にできるのかは、事実関係によって判断が変わります。


9.貸倒損失を計上するために残しておきたい資料

詐欺被害により発生した未収入金について貸倒損失を検討する場合、次のような資料を保存しておくことが重要です。

  • 詐欺被害の経緯を記録した社内資料

  • 契約書、請求書、振込記録

  • 警察への被害届、告訴状、受理番号

  • 弁護士との相談記録

  • 加害者への請求書、内容証明郵便

  • 民事訴訟や強制執行に関する資料

  • 加害者の所在不明や無資力を示す資料

  • 回収努力を行なった記録

  • 取締役会議事録や稟議書

  • 貸倒処理の判断根拠


税務調査では、貸倒損失について、なぜその事業年度に回収不能と判断したのかが確認されやすいです。後から説明できるよう、証拠資料を整えておくことが大切です。


10.加害者が親密関係者の場合は注意

事実上の貸倒れに該当する場合であっても、加害者が親密関係者の場合には、利益供与として寄附金等の課税処分が見受けられるとされています。


これは非常に重要な注意点です。

たとえば、加害者が役員、親族、グループ会社、関係会社、実質的な支配関係のある者などの場合、通常の第三者間取引とは異なる見方をされる可能性があります。


会社が本来回収努力をすべき債権について、安易に回収不能として処理した場合、税務上は貸倒損失ではなく、関係者への利益供与や寄附金と見られるリスクがあります。


11.保険金や補償金がある場合の処理

詐欺被害に関連して、保険金や補償金を受け取る場合もあります。

この場合、損害損失の計上だけでなく、保険金収入や補償金収入の益金計上時期も確認する必要があります。


詐欺被害の税務処理では、被害額だけでなく、回収見込み額、保険金、損害賠償金、補填金などを総合的に整理することが重要です。


特に大きな被害額が発生した場合は、税務処理だけでなく、会計監査、金融機関対応、株主・取引先への説明にも影響する可能性があります。


12.実務でよくある誤解

① 詐欺被害額は全額すぐに損金になり、税金が減る

これは必ずしも正しくありません。詐欺被害による損失は発生事業年度の損金になりますが、同時に損害賠償請求権を取得するため、未収入金と収益を計上する場合があります。その場合、損金と益金が同額となり、所得に影響しないことがあります。


② 加害者から回収できなければ、すぐ貸倒損失にできる

これも危険です。税務上の貸倒れの要件は厳しく、事実上の貸倒れの場合は、債務者の資産状況や支払能力等からみて、全額回収できないことが明らかになった時に限り損金経理できます。


③ 損害賠償請求権は必ず発生時に益金計上しなければならない

これも一概にはいえません。損害賠償金の支払を受けることや金額が確定しても、相手方の支払能力がない等の理由で支払を受けられないことがあります。そのような事情も踏まえ、損害賠償金を実際に受けた時点で益金算入することも認められています。


④ 関係者による詐欺でも通常の貸倒れとして処理できる

これは注意が必要です。加害者が親密関係者の場合、事実上の貸倒れに該当するように見えても、利益供与として寄附金等の課税処分が問題になることがあります。


13.会社が確認しておきたい実務ポイント

法人が詐欺被害にあった場合は、次の点を確認しましょう。

  • 損害が発生した事業年度はいつか

  • 損害額を客観的に確認できるか

  • 損害賠償請求権の発生を認識しているか

  • 損害賠償金を益金計上する時期を検討しているか

  • 加害者からの回収可能性を調査しているか

  • 貸倒損失の要件を満たすか

  • 回収不能と判断した根拠資料を保存しているか

  • 加害者が親密関係者でないか

  • 警察・弁護士・税理士に早期相談しているか


まとめ

法人が詐欺などの不法行為により損害を受けた場合、その損失は、原則として損失が発生した日の属する事業年度の損金に算入されます。一方で、詐欺被害を受けた時点で、加害者に対する損害賠償請求権も発生するため、未収入金と収益を計上する場合があります。その場合、損失による損金と損害賠償請求権による益金が同額となり、法人税の所得には影響しないことがあります。


その後、損害賠償金を回収できた場合は未収入金の回収として処理し、回収できない場合には貸倒損失を検討します。ただし、税務上の貸倒れの要件は厳しく、事実上の貸倒れの場合には、債務者の資産状況や支払能力などからみて、全額回収できないことが明らかになった時に限り損金経理できます。


また、相手方の支払能力がないなど、損害賠償金を受け取れるか不確実な場合には、損失は発生時点で計上し、損害賠償金は実際に支払を受けた時点で益金算入する処理も認められています。


詐欺被害は金額が大きくなりやすく、税務処理を誤ると法人税申告にも大きな影響を与えます。だからこそ、被害発生時点、損害賠償請求権、回収可能性、貸倒損失の要件、関係者取引の有無を整理し、証拠資料を残しながら慎重に処理することが大切です。


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