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関連者間取引の書類保存特例に要注意|特定事項記載書類の未保存で青色申告取消し・推計課税の可能性も

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 3 日前
  • 読了時間: 7分

おはようございます!代表の安田です。


令和8年度税制改正では、グループ内取引や親子会社間取引に関する新ルールとして、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。親会社からの技術指導、経営支援、ノウハウ提供、工業所有権等の貸付けなど、実務でよく見られる関連者間取引について、契約書や請求書だけでは足りず、必要に応じて補完資料の保存まで求められる制度です。


この改正で特に注意したいのは、単なる文書管理の話にとどまらない点です。添付資料によると、特定事項記載書類が保存されていない場合、青色申告の承認取消事由に該当し得るとされており、さらに、青色申告の承認が取り消されて白色申告法人になった場合には、推計課税の対象となる可能性があります。


今回は、この新しい書類保存特例について、実務上の誤解が生じやすい「損金否認との違い」も含めて整理して解説します。


関連者間取引の書類保存特例とは?

この特例は、内国法人が関連者との間で行なう一定の取引について、契約書や領収書などの保存義務書類に必要事項の記載がない場合に、その不足事項を明らかにする書類の取得・作成・保存を求める制度です。


内国法人が令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行なう関連者間取引について、契約書等に対価の額の明細などの記載がない場合には、その記載されていない事項、すなわち特定事項を明らかにする特定事項記載書類の取得等・保存が必要になるとされています。


つまり、取引自体が実際に行なわれているとしても、その内容や対価の算定根拠が書面で十分に示されていない場合には補完資料が必要になるということです。


どんな取引が対象になるのか

資料によると、対象となる関連者間取引は大きく次の2つです。


  • 工業所有権等の譲渡又は貸付け

  • 役務提供


役務提供の中には、親会社等から子会社等への技術指導料や経営管理料のような取引も含まれます。内国法人(子会社等)から関連者(親会社等)に支払われる技術指導料などに関して税務調査で指摘リスクが高まることを危惧する声があると紹介されています。


したがって、製造業の技術支援契約だけでなく、ホールディングス体制の管理料や、海外親会社からのサービス提供なども関係してくる可能性があります。


何が書いていないと問題になるのか

この制度では、単に契約書が存在するかどうかだけでは足りません。

法人税法等で保存義務のある書類に、対価の額の明細や計算方法など、一定の記載事項がない場合に対応が必要になると説明されています。


たとえば、

  • 技術指導の内容は書いてある

  • 役務提供期間もわかる

  • しかし、なぜその金額になるのかという計算根拠が書かれていない

といったケースでは、特定事項記載書類の作成または取得が必要になる可能性があります。


特定事項記載書類とは何か

特定事項記載書類とは、契約書等に記載されていない事項を明らかにするための書類です。


具体的には、保存義務のある書類に不足している事項、たとえば対価の額の明細や計算方法などを補完する役割を持ちます。これを取得又は作成し、整理保存することが求められます。


保存期間については、事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日等を起算日として7年間とされています。


いつから適用されるのか

この制度は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行なう関連者間取引から適用されます。3月決算法人であれば、通常は令和9年3月期が最初の本格対応年度になり、令和8年4月1日以後開始事業年度から適用されることとなります。


そのため、今はまだ申告時期に少し余裕があるように見えても、対象取引の洗い出しや契約書の点検は早めに進めるべきです。


よくある誤解:書類がなければそのまま損金否認されるのか?

この改正で実務家の間に広がりやすい誤解が、「書類保存特例に違反すると、その関連者間取引の支払額は直ちに損金算入否認されるのではないか」というものです。


しかし、この点について、同特例を根拠に損金算入が否定されることはないとされています。同特例の主な目的は、関連者間で実際に取引が行なわれたかの確認と、対価の額や算定根拠の把握であり、基本的には対価の額の妥当性そのものを直接問う制度ではないとされています。


したがって、同特例だけを理由に、内国法人側で対価の額の損金算入が否定されることはないという説明です。


それでも危険なのはなぜか

では、損金否認されないなら安心かというと、そうではありません。

本当に注意しなければならないのは、青色申告の承認取消しにつながり得る点です。


令和8年度税制改正大綱では、特定事項記載書類が保存されていないことは、青色申告の承認取消事由に該当する旨が明示されていました。たしかに、施行規則59条の2そのものには「取消し」の直接規定はありませんが、法人税法127条では、帳簿書類の備付け・記録・保存が財務省令の定めに従っていないことが取消事由の一つとされているため、法規59条の2で定める特定事項記載書類の保存がない場合には、結果として青色申告の承認取消事由に該当すると整理されています。


つまり、「この特例で損金否認されるわけではない」けれども、「青色申告を失うリスクがある」というのが、この制度の本当の怖さです。


青色申告が取り消されるとどうなるのか

青色申告法人にとって、青色申告の承認は非常に重要です。これが取り消されると、その法人は白色申告法人となります。


白色申告法人となった場合には、推計課税(法人税法131条)の対象となると考えられます。推計課税とは、税務当局が帳簿書類の状況等を踏まえ、法人税の課税標準等を推計して更正又は決定する仕組みです。青色申告の承認が取り消されて白色申告法人となった場合には、税務当局から法人税の課税標準等を推計して更正又は決定が行なわれる可能性があると説明されています。


これは、単に一つの費用項目の否認にとどまらない、はるかに大きな影響を持ち得ます。


税務調査で特に注意したい場面

この新特例との関係で、税務調査で特に注目されやすいのは、親会社・子会社間の管理料や技術指導料のような取引です。資料でも、子会社等から親会社等に支払われる技術指導料などについて、調査リスクが高まることを危惧する声があると紹介されています。


実務上、こうした取引では、

  • 契約書はあるが内容が抽象的

  • 毎月定額で請求しているが明細が薄い

  • 金額の計算方法が社内でしか共有されていない

  • 役務提供の実態と支払額の関係が書面化されていない

というケースが珍しくありません。新ルールの下では、こうした「なんとなく運用」で済ませていた取引ほど見直しが必要になります。


今のうちに確認しておきたい実務対応

この改正を踏まえると、法人としては少なくとも次の点を確認しておくべきです。


まず、関連者間取引の棚卸しです。工業所有権等の貸付け、技術指導、経営支援、情報提供など、対象取引を洗い出します。


次に、契約書・請求書・社内計算資料の点検です。対価の額の明細や計算方法が書類上明らかになっているかを確認し、不足があれば特定事項記載書類で補えるようにします。


さらに、保存体制の整備も必要です。単に作ればよいのではなく、起算日から7年間、調査時に説明できる状態で保存しておくことが大切です。


まとめ

令和8年度税制改正で創設された関連者間取引に係る書類の整理保存の特例では、令和8年4月1日以後開始事業年度の関連者間取引について、契約書等に対価の額の明細や計算方法などの記載がない場合、特定事項記載書類の取得・作成と7年間の保存が必要になります。


この特例そのものを根拠に、直ちに対価の損金算入が否定されるわけではありませんが、青色申告法人で特定事項記載書類の保存がない場合には、青色申告の承認取消事由に該当し得る点が重要です。そして、青色申告の承認が取り消されて白色申告法人になると、推計課税の対象となる可能性があります。


関連者間取引の税務で本当に怖いのは、単発の費用否認だけではなく、文書保存の不備が青色申告全体のリスクに広がることです。親子会社間の管理料や技術指導料がある法人は、今のうちに契約書や計算根拠資料を見直し、保存体制を整えておくことをおすすめします。


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