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収益認識基準で何が変わった?一定期間収益認識と本人・代理人の判定を公認会計士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 1 日前
  • 読了時間: 15分

こんにちは!代表の安田です。


2021年4月1日以後開始する事業年度から、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が原則適用されています。


収益、つまり売上高は、財務諸表を見るうえで最も重要な指標の一つです。売上高は、企業規模、成長性、収益力、株価評価、金融機関の与信判断、M&Aにおける企業価値評価にも影響します。


そのため、収益認識基準の適用は、単なる会計処理の変更にとどまりません。

売上をいつ計上するのか。売上を総額で表示するのか、純額で表示するのか。契約ごとの履行義務は何か。原価管理体制は十分か。新規事業やM&Aで取得した会社の売上は適切に計上されているか。


これらは、経理部門だけでなく、経営管理、営業、法務、IT、事業部門にも関係する実務論点です。


本日は、収益認識基準の適用が企業にもたらした影響のうち、特に実務で議論が多い「一定の期間にわたり収益を認識する方法」と「本人・代理人の判定」を中心に、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。


収益認識基準とは

収益認識基準とは、顧客との契約から生じる収益について、いつ、いくら売上を認識するかを定めた会計基準です。


従来の日本基準では、売上計上について業種ごとの実務慣行が大きく、取引の種類によって処理が分かれていました。


たとえば、工事契約については工事契約会計基準、ソフトウェア取引については実務対応報告など、個別の基準や実務上の取扱いを参照する場面がありました。


しかし、収益認識基準の適用により、顧客との契約から生じる収益については、基本的に共通した考え方で処理することになりました。


その中心となるのが、収益認識の5つのステップです。


収益認識の5つのステップ

収益認識基準では、次の5つのステップに基づいて収益を認識します。


1つ目は、顧客との契約を識別することです。

まず、その取引が収益認識基準の対象となる顧客との契約に該当するかを確認します。契約の目的、当事者の権利義務、支払条件などを把握します。


2つ目は、契約における履行義務を識別することです。

履行義務とは、企業が顧客に財またはサービスを移転する約束です。商品の販売であれば商品を引き渡す義務、サービス提供であれば契約に基づきサービスを提供する義務が該当します。


3つ目は、取引価格を算定することです。

取引価格が固定されているか、変動対価があるか、現金以外の対価があるかなどを確認します。


4つ目は、取引価格を履行義務に配分することです。

複数の履行義務がある場合には、取引価格を各履行義務に配分します。


5つ目は、履行義務を充足した時点または充足するにつれて収益を認識することです。

このステップでは、財またはサービスの支配が顧客に移転した時点で収益を認識します。一時点で収益を認識する場合もあれば、一定の期間にわたり収益を認識する場合もあります。


収益認識基準の適用で議論が多かった論点

収益認識基準の適用にあたり、多くの会社で議論になったのが、一定の期間にわたり収益を認識する方法と、本人・代理人の判定です。


一定の期間にわたり収益を認識する方法は、従来の工事進行基準に近いように見えます。しかし、収益認識基準では、単に進捗度を合理的に見積もれるかどうかだけで判断するわけではありません。


履行義務が充足されるにつれて、顧客に支配が移転しているかどうかを判断します。

一方、本人・代理人の判定は、売上高を総額で表示するか、純額で表示するかに関係します。


利益の金額には影響しない場合でも、売上高が大きく減少する可能性があるため、経営指標や企業価値評価に大きな影響を与えます。


一定の期間にわたり収益を認識する方法とは

一定の期間にわたり収益を認識する方法とは、履行義務が一時点ではなく、一定期間にわたって充足される場合に、その進捗に応じて収益を認識する方法です。


たとえば、建設工事、受注制作ソフトウェア、システム開発、長期サービス契約などでは、顧客に対する履行義務が一定期間にわたって充足されることがあります。

この場合、完成時点まで売上を認識しないのではなく、履行義務の進捗に応じて売上を認識します。


収益認識基準では、履行義務が充足されるにつれて支配が顧客に移転している場合、一定の期間にわたり収益を認識します。つまり、判断の出発点は「完成したかどうか」ではなく、「顧客がいつ支配を獲得しているか」です。


従来の工事進行基準との違い

従来、建設業や受注ソフトウェア業では、工事契約会計基準に基づいて、工事進行基準または工事完成基準が適用されていました。


工事進行基準では、工事進捗度を合理的に見積もれる場合に、進捗度に応じて収益を認識していました。一方、工事進捗度を合理的に見積もれない場合には、工事完成基準を適用することがありました。


しかし、収益認識基準では、進捗度を合理的に見積もれないという理由だけで、従来の工事完成基準のように完成時まで収益認識を遅らせる考え方は採られていません。


進捗度を合理的に見積もることができなくても、発生する費用を回収することが見込まれる場合には、原価回収基準により収益を認識します。


原価回収基準では、進捗度を合理的に見積もれるようになるまで、発生した原価と同額の収益を認識します。そのため、利益は計上されません。


この点は、従来の工事完成基準とは大きく異なる実務上のポイントです。


原価管理体制の重要性

一定の期間にわたり収益を認識する方法では、原価管理体制が非常に重要になります。


進捗度に応じて収益を認識する場合、発生原価、見積総原価、進捗度、採算見込みを適切に管理する必要があります。特に、個別受注取引では、案件ごとの収益性を把握できなければ、適切な売上計上が難しくなります。


また、進捗度を合理的に見積もれない場合には原価回収基準が適用される可能性がありますが、この場合も発生原価の正確な把握が必要です。


つまり、収益認識基準の適用により、単に会計上の処理を変えるだけでなく、案件別原価管理、工数管理、プロジェクト管理、見積総原価の更新プロセス、ITシステムの整備が重要になりました。


原価管理が弱い会社では、売上計上だけでなく、採算管理や経営判断にも影響します。


「ごく短い」期間の代替的な取扱い

収益認識基準では、契約開始日から履行義務を完全に充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、履行義務を完全に充足した時点で収益を認識できる代替的な取扱いがあります。


これは、実務上の負担を考慮した取扱いです。

しかし、「ごく短い」という期間について、明確な日数が定められているわけではありません。そのため、会社ごとに、取引の性質、四半期決算への影響、金額的重要性、契約期間、実務負担などを踏まえて判断する必要があります。


たとえば、3か月未満を一つの目安として検討する考え方もありますが、すべての会社に機械的に当てはまるわけではありません。


重要なのは、代替的な取扱いを適用しなかった場合に、毎四半期決算へどの程度の影響があるかを把握することです。


本人・代理人の判定とは

本人・代理人の判定とは、企業が顧客に財またはサービスを自ら提供しているのか、それとも他の当事者による提供を手配しているだけなのかを判断する論点です。


企業が本人に該当する場合、収益は総額表示されます。

一方、企業が代理人に該当する場合、収益は純額表示されます。つまり、手数料やマージン部分だけを売上として表示します。


この判定は、利益には影響しない場合でも、売上高には大きな影響を与えます。

たとえば、これまで100億円の売上を総額表示していた取引が、代理人取引と判断されると、売上は手数料部分の数億円だけになる可能性があります。


売上規模を使った経営指標、予算、金融機関への説明、投資家への説明、M&Aの企業価値評価にも影響するため、非常に重要な論点です。


本人・代理人判定の中心は「支配」

本人・代理人を判断するうえで最も重要なのは、顧客に提供する財またはサービスが顧客に提供される前に、企業がその財またはサービスを支配しているかどうかです。


企業が提供前に財またはサービスを支配している場合、企業は本人として収益を総額表示します。反対に、企業が他の当事者による財またはサービスの提供を手配しているだけであれば、代理人として純額表示します。


この支配の判定にあたっては、次の3つの指標が重要になります。


1つ目は、企業が約束の履行に対して主たる責任を有しているかです。

2つ目は、企業が在庫リスクを有しているかです。

3つ目は、企業が価格設定について裁量権を有しているかです。


これらの指標を総合的に検討し、企業が本人なのか代理人なのかを判断します。


商社取引・在庫を持たない取引の注意点

本人・代理人の判定で特に難しいのが、在庫を持たない取引です。


いわゆる商社取引のように、企業が物理的な在庫を持たずに、顧客と仕入先の間に入る取引は多くの業種で見られます。


この場合、単に在庫を持っていないから代理人になる、というわけではありません。

重要なのは、その会社がどのようなリスクを負っているかです。


たとえば、取引を実質的に仲介しているだけで、仲介報酬として一定率のマージンを受け取るような場合には、代理人取引と判断される可能性が高くなります。


一方で、顧客にサービスを提供する契約を自社が締結し、外注先の作業に対して顧客の受入状況にかかわらず支払義務を負っている場合には、企業が一定のリスクを負っていると考えられます。


この場合、在庫を持っていなくても本人取引と判断される可能性があります。

つまり、在庫リスクは「モノとして在庫を持っているか」だけでなく、契約上・経済上どのようなリスクを負っているかを見極める必要があります。


消化仕入では純額表示となるケースが多い

小売業などで行われる消化仕入も、本人・代理人の判定で重要な論点です。


消化仕入とは、商品が店舗に納品された時点では仕入を認識せず、顧客に販売された時点で売上と仕入を同時に計上するような取引です。


このような取引では、商品の法的所有権、保管管理責任、滅失リスクなどを仕入先が有していることがあります。


また、商品の品揃えや販売価格の決定権を仕入先が持つ場合もあります。

顧客への販売時に初めて、商品の所有権が仕入先から小売業者へ移転し、同時に小売業者から顧客へ移転するような実態であれば、小売業者は商品の提供を手配しているだけと判断される可能性があります。


この場合、代理人取引として収益は純額表示となります。

その結果、従来は売上と仕入を総額で表示していた会社で、売上高が大きく減少するケースがあります。


不動産賃貸業の水道光熱費収入

不動産賃貸業でも、収益認識基準の影響を受ける取引があります。


賃料や共益費などはリース会計基準の対象となる場合がありますが、テナントから受け取る水道代、電気代、ガス代などの水道光熱費収入は、収益認識基準の対象となることがあります。


水道光熱費を単に実費精算している場合には、企業は顧客のために支払いを手配しているにすぎないと考えられます。この場合、代理人取引として純額表示となる可能性があります。


一方で、企業が電力設備を設置し、安定的に電気を供給するサービスを提供しているような場合には、単なる実費精算とは異なります。


たとえば、電力会社との契約に固定料金が含まれており、ビルの稼働率が低下しても企業が固定料金を負担するリスクを負っている場合には、本人取引と判断される可能性もあります。


このように、水道光熱費収入も、単に名目だけで判断するのではなく、契約内容とリスク負担の実態を確認する必要があります。


収益認識基準は経営管理にも影響する

収益認識基準の影響は、財務諸表だけにとどまりません。


特に本人・代理人の判定により、売上高が総額表示から純額表示に変わる場合、経営管理指標に大きな影響が生じます。


売上高を使ったKPI、予算、業績評価、事業部別管理、取締役会資料、投資家向け説明資料、金融機関向け説明資料を見直す必要があります。


たとえば、これまで売上高成長率を重要なKPIとしていた会社では、収益認識基準適用後の売上高が従来と比較可能かどうかを確認する必要があります。


また、売上高を基礎に役員報酬や従業員インセンティブを設計している場合にも、指標の見直しが必要になることがあります。


収益認識基準は、会計処理だけでなく、経営管理の物差しそのものに影響する基準です。


IPO準備会社・スタートアップへの影響

上場を目指す会社やスタートアップにとっても、収益認識基準は非常に重要です。


特に個別受注取引がある会社では、一定の期間にわたり収益を認識する方法の適用により、案件別の原価管理や利益管理が重要になります。


また、プラットフォームビジネス、マッチングビジネス、代理店取引、マーケットプレイス型ビジネスでは、本人・代理人の判定が売上高に大きな影響を与えることがあります。

スタートアップの企業価値評価では、PSR、つまり株価売上高倍率が用いられることがあります。


PSRは時価総額を年間売上高で割る指標です。そのため、本人・代理人判定により売上高が総額表示から純額表示に変わると、企業価値評価にも影響する可能性があります。


IPO準備会社では、上場直前になって売上認識の見直しが必要になると、過年度決算の修正や内部統制対応に大きな負担が生じます。


早い段階から収益認識基準に照らして、主要取引の売上計上ルールを整理しておくことが大切です。


M&Aで収益認識が問題になる理由

M&Aでも収益認識基準は重要です。


買収対象会社の売上高が、収益認識基準に照らして適切に計上されているかを確認しなければ、企業価値評価を誤る可能性があります。


特に、非上場会社を買収する場合、上場会社ほど収益認識の検討や内部統制が整備されていないことがあります。


本人・代理人の判定により売上高が大きく変わる場合、売上倍率を使った企業価値評価に影響します。また、一定の期間にわたり収益を認識すべき取引について、完成時点で一括計上している場合には、期間損益が歪んでいる可能性があります。


M&Aの財務デューデリジェンスでは、売上高の推移を見るだけでなく、主要な契約、履行義務、取引価格、本人・代理人、収益認識時点を確認することが重要です。


新規事業を始めるときのチェックポイント

収益認識基準は、新規事業の検討段階から意識すべきです。


新しいビジネスを始める場合、まず顧客が誰かを確認します。

次に、その顧客に対して何を約束しているのか、つまり履行義務を整理します。

さらに、会社は財またはサービスを自ら提供しているのか、他社の提供を手配しているだけなのかを検討します。


また、取引価格に変動要素があるか、複数の履行義務があるか、支配が一時点で移転するのか、一定期間にわたり移転するのかも確認します。


新規事業では、契約書、利用規約、価格体系、業務フロー、システム設計が会計処理に影響します。そのため、経理部門が後から判断するのではなく、事業企画、営業、法務、経理が初期段階から連携することが望ましいです。


実務で確認すべきチェックポイント

収益認識基準への対応では、次の点を確認しましょう。

  • 主要な収益取引を網羅的に把握しているか

  • 顧客との契約を識別しているか

  • 契約ごとの履行義務を整理しているか

  • 一定期間にわたり収益を認識すべき取引がないか

  • 進捗度や原価回収基準に対応できる原価管理体制があるか

  • 代替的な取扱いを適用する場合、その根拠を整理しているか

  • 本人・代理人の判定を取引ごとに実施しているか

  • 主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権を確認しているか

  • 売上高が純額表示になる取引がないか

  • 水道光熱費収入や実費精算取引を総額表示していないか

  • 収益認識の変更がKPIや予算に与える影響を把握しているか

  • 新規事業やM&Aで収益認識基準を事前に検討しているか


収益認識は、経理だけで完結する論点ではありません。契約、業務フロー、ITシステム、経営管理、企業価値評価にまで影響するため、部門横断で対応することが重要です。


まとめ

収益認識基準の適用により、企業の売上計上ルールは大きく見直されました。


特に実務で議論が多かったのが、一定の期間にわたり収益を認識する方法と、本人・代理人の判定です。


一定の期間にわたり収益を認識する方法では、履行義務が充足されるにつれて支配が顧客に移転しているかを判断します。従来の工事進行基準とは考え方が異なり、進捗度を合理的に見積もれない場合でも、費用回収が見込まれる場合には原価回収基準により収益を認識します。


そのため、案件別原価管理、進捗管理、見積総原価の更新、ITシステムの整備が重要になります。


本人・代理人の判定では、顧客に提供する財またはサービスが提供される前に、企業がその財またはサービスを支配しているかが重要です。


主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権を踏まえて、本人であれば総額表示、代理人であれば純額表示となります。


この判定は、利益額には影響しない場合でも、売上高に大きな影響を与える可能性があります。売上高を使ったKPI、予算、企業価値評価、PSR、M&A、IPO準備にも影響するため、経営上も重要な論点です。


収益認識基準への対応は、初年度だけで終わるものではありません。

新規事業、契約変更、M&A、ビジネスモデルの変化があるたびに、顧客、履行義務、取引価格、支配の移転、本人・代理人を確認する必要があります。


企業が顧客に何を提供し、その対価として何を売上として表示すべきなのか。収益認識基準は、この問いを改めて企業に投げかける会計基準です。


経理部門だけでなく、経営者、事業部門、営業、法務、IT部門が連携し、自社のビジネスモデルに合った収益認識のルールを継続的に整備していきましょう。


神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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