期中会計基準の経過措置とは?切放し法から期中洗替え法へ変更する場合の実務上の注意点
- 安田 亮
- 8月1日
- 読了時間: 10分
おはようございます!代表の安田です。
2027年3月期の第1四半期から、企業会計基準第37号「期中財務諸表に関する会計基準」、いわゆる期中会計基準が順次適用されます。
期中会計基準は、従来の中間会計基準と四半期会計基準を統合した新しい会計基準です。第1種中間財務諸表と四半期財務諸表に適用する会計処理等を定めるもので、上場会社の四半期決算・中間決算実務に影響します。
適用初年度において、同基準の定めに従って会計方針を変更する場合には、遡及適用を求めず、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用する経過措置が設けられています。
ただし、この経過措置は、どのような会計方針の変更にも使えるわけではありません。対象は限定的であり、特に注意すべきなのが、有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げに関する方法の変更です。
本日は公認会計士の視点から、期中会計基準の概要、経過措置の対象、切放し法と期中洗替え法の違い、実務上の注意点を解説します。
期中会計基準とは
期中会計基準とは、従来の中間会計基準と四半期会計基準を統合した会計基準です。
金融商品取引法上の第1種中間財務諸表と、取引所規則に基づく四半期財務諸表に適用する会計処理等を定めています。
これまで、四半期財務諸表と中間財務諸表では、それぞれの基準に基づいて期中決算処理が行われていました。しかし、制度改正により四半期開示の位置づけが変化する中で、期中財務諸表の会計処理を整理する必要が生じました。
期中会計基準は、そのような流れの中で、四半期・中間の期中財務諸表に関する会計処理を統合的に定めるものです。
適用時期
期中会計基準は、2027年3月期の第1四半期から順次適用されます。
3月決算会社であれば、2026年4月1日以後開始する事業年度の第1四半期から適用されるイメージです。
適用初年度は、従来の四半期会計基準・中間会計基準から期中会計基準へ移行するタイミングとなるため、会計方針や開示方針の確認が必要になります。
基本的には従来処理を継続できる
期中会計基準が導入されるからといって、すべての会計処理を大きく見直す必要があるわけではありません。四半期・中間期に適用される会計基準が期中会計基準に変わっても、基本的にはこれまでの処理を継続できるとされています。
ただし、一部の処理については、従来と取扱いが変わります。具体的に重要なのが、次の2つです。
有価証券の減損処理
棚卸資産の簿価切下げ
これらについては、従来、切放し法と洗替え法の選択適用が認められていましたが、期中会計基準では期中洗替え法が原則とされました。
切放し法と洗替え法の違い
期中会計基準を理解するうえで、まず「切放し法」と「洗替え法」の違いを押さえておく必要があります。
切放し法とは
切放し法とは、期中会計期間でいったん計上した評価損や簿価切下げを、その後の期中会計期間で戻し入れない方法です。
たとえば、第1四半期末に有価証券の時価が大きく下落し、減損処理を行った場合、その後の中間期末で時価が回復していたとしても、第1四半期で認識した損失をそのまま維持する考え方です。
洗替え法とは
洗替え法とは、期中会計期間ごとに評価損や簿価切下げの状況を見直し、前回の処理を洗い替える方法です。
第1四半期末で評価損を計上していても、中間期末で状況が変わっていれば、その時点の状況に応じて評価損の金額を見直します。
期中会計基準では期中洗替え法が原則
期中会計基準では、有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げについて、期中洗替え法が原則とされています。
一方で、期中切放し法については、期中会計基準の適用前から切放し法を適用していた企業に限り、例外的に継続適用が認められます。
つまり、新たに切放し法を選択することは基本的に想定されておらず、従来から切放し法を使っていた企業が継続する場合に限られる点がポイントです。
経過措置の内容
期中会計基準の適用初年度において、同基準の定めに従って会計方針を変更する場合には、遡及適用は求められません。
具体的には、新たな会計方針を、適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用します。
通常、会計方針を変更する場合には、過去の財務諸表に遡及適用することが原則となるケースがあります。しかし、期中会計基準の導入に伴う一定の変更については、実務負担を考慮し、将来適用でよいとする経過措置が設けられています。
経過措置の対象は限定的
ここで最も注意すべきなのは、経過措置の対象が限定的であることです。
期中会計基準の経過措置は、会計基準の改正による影響が生じないように手当されたものであり、具体的には、有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げに係る方法について、切放し法を適用していた企業が、原則とされた期中洗替え法へ変更する場合に適用されます。
つまり、期中会計基準の適用初年度だからといって、どのような会計方針変更にも経過措置を使えるわけではありません。
たとえば、適用初年度に企業が自発的に税金費用の計算方法などを変更した場合、その変更は期中会計基準の経過措置の対象にはなりません。
この点を誤解すると、本来は通常の会計方針変更として検討すべきものを、経過措置で処理してしまうリスクがあります。
自発的な会計方針変更には注意
期中会計基準の適用初年度には、企業が期中決算実務全体を見直すことがあります。
たとえば、次のような項目について、処理方法を見直したいと考えることがあるかもしれません。
税金費用の計算方法
連結上の見積計算の方法
引当金の計算方法
棚卸資産評価に関する運用方法
重要性基準の設定
グループ会社からの報告パッケージの作成方法
しかし、これらを自発的に変更する場合、その変更が期中会計基準の経過措置の対象になるとは限りません。
特に税金費用の計算方法などは、資料でも明確に、経過措置の対象とはならない例として示されています。
自発的な変更を行なう場合には、通常の会計方針の変更として、変更理由の合理性、遡及適用の要否、開示の必要性、監査人との協議を慎重に検討する必要があります。
期中洗替え法へ変更する場合の実務対応
従来、切放し法を採用していた企業が、期中会計基準の適用に伴って期中洗替え法へ変更する場合には、次のような対応が必要です。
(1)従来の処理方法を確認する
まず、有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げについて、自社が従来どの方法を採用していたかを確認します。
切放し法を採用していた場合には、期中洗替え法へ変更するか、例外的に切放し法を継続するかを検討します。
(2)期中洗替え法へ変更する影響を試算する
期中洗替え法へ変更すると、期中損益の見え方が変わる可能性があります。
特に、有価証券の時価変動が大きい企業や、棚卸資産の評価損が発生しやすい企業では、四半期ごとの損益変動が従来と異なる可能性があります。
(3)経過措置の適用を確認する
切放し法から期中洗替え法へ変更する場合には、経過措置により遡及適用せず、適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用できると考えられます。
ただし、経過措置の対象であることを明確に整理し、監査人と確認しておくことが望まれます。
(4)開示方針を検討する
会計方針の変更に該当する場合、注記や決算短信での説明が必要になる可能性があります。
期中会計基準の適用に伴う変更なのか、自発的な変更なのかによって、開示の書き方も変わります。
期中切放し法を継続する場合の注意点
期中会計基準では期中洗替え法が原則ですが、従来から切放し法を適用していた企業は、例外的に期中切放し法を継続できます。ただし、継続適用する場合には、次の点に注意が必要です。
適用前から切放し法を採用していたことを確認する
継続適用の方針を明確にする
期中切放し法を適用している旨の注記を確認する
第1・第3四半期決算短信での注記方針を検討する
投資家にとって損益影響が分かりにくくならないよう説明する
監査人・レビュー担当者と事前に協議する
期中切放し法を継続する場合も、従来どおりだから何もしなくてよいというわけではありません。期中会計基準上の例外処理として位置づけられるため、注記や開示対応を確認しておく必要があります。
監査人との協議ポイント
期中会計基準の適用初年度には、監査人・レビュー担当者との事前協議が重要です。
特に次の点は、早めに確認しておきましょう。
有価証券の減損処理について従来採用していた方法
棚卸資産の簿価切下げについて従来採用していた方法
期中洗替え法へ変更するか、期中切放し法を継続するか
経過措置の適用対象となるか
自発的な会計方針変更が含まれていないか
注記や決算短信での開示方針
比較情報への影響
期中決算プロセスやグループ会社への展開方法
「期中会計基準の適用初年度だから経過措置で処理できる」と一括りにせず、変更内容ごとに整理することが大切です。
実務チェックリスト
期中会計基準の経過措置に関して、企業は次の点を確認しておきましょう。
期中会計基準の適用時期を確認しているか
有価証券の減損処理について従来の方法を把握しているか
棚卸資産の簿価切下げについて従来の方法を把握しているか
切放し法を採用していた場合、期中洗替え法へ変更するか検討しているか
期中切放し法を継続する場合、適用前から採用していたことを確認しているか
期中洗替え法へ変更する場合、経過措置の対象となることを整理しているか
自発的な税金費用の計算方法変更などを経過措置の対象と誤解していないか
会計方針変更の影響額を試算しているか
注記・決算短信での開示方針を確認しているか
監査人・レビュー担当者と事前に協議しているか
グループ会社や連結パッケージへの影響を確認しているか
まとめ
期中会計基準は、従来の中間会計基準と四半期会計基準を統合した新しい会計基準であり、2027年3月期の第1四半期から順次適用されます。
適用初年度において、同基準の定めに従って会計方針を変更する場合には、遡及適用を求めず、適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって新たな会計方針を適用できる経過措置が設けられています。
ただし、この経過措置の対象は限定的です。具体的には、有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げについて、従来切放し法を適用していた企業が、期中会計基準で原則とされた期中洗替え法へ変更する場合が想定されています。
一方で、期中会計基準の適用初年度に、企業が自発的に税金費用の計算方法などを変更する場合は、経過措置の対象にはなりません。
企業は、期中会計基準の適用にあたり、どの変更が基準改正に伴うものなのか、どの変更が自発的な会計方針変更なのかを区分し、監査人と事前に協議しながら、適切な会計処理と開示対応を進めることが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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