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中小企業の賃上げ促進税制とは?雇用者給与等支給額と継続雇用者給与等支給額の違いを税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 8月2日
  • 読了時間: 14分

こんにちは!代表の安田です。


中小企業が従業員の給与を引き上げた場合、一定の要件を満たせば法人税の税額控除を受けられる制度があります。


いわゆる「賃上げ促進税制」です。

人手不足や物価上昇への対応として、ベースアップ、昇給、賞与の増額などを検討する会社は多いでしょう。


その際、税務上も賃上げ促進税制を活用できるかどうかを確認しておくことが重要です。

ただし、この制度は年度改正が多く、適用対象期間や要件、控除率が変わることがあります。


また、中小企業向けの制度では「雇用者給与等支給額」を使って判定する一方、全企業向け・中堅企業向けの制度では「継続雇用者給与等支給額」を使って判定する場面があります。


この違いを理解していないと、本来使える税額控除を見落としてしまうことがあります。

たとえば、中小企業向けの要件である「雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増」を満たさない場合でも、継続雇用者だけで見ると給与等支給額が3%以上増加しているケースがあります。


このような場合、中小企業であっても、別枠の賃上げ促進税制の適用を検討できる可能性があります。


本日は、中小企業が賃上げ促進税制を検討する際に押さえておきたい基本、雇用者給与等支給額と継続雇用者給与等支給額の違い、適用漏れを防ぐチェックポイントを解説します。


賃上げ促進税制とは

賃上げ促進税制とは、企業が従業員への給与等支給額を前年度より増加させた場合に、その増加額の一定割合を法人税額または所得税額から控除できる制度です。


中小企業にとっては、賃上げによる人件費負担を一部税額控除で軽減できるため、従業員の処遇改善と税負担の軽減を同時に検討できる制度といえます。


賃上げ促進税制の対象となる給与等には、従業員に対する給料、賃金、賞与などが含まれます。


一方で、役員給与や役員の特殊関係者に対する給与などは、制度上の給与等から除外されることがあります。


そのため、単純に決算書の給与手当や賞与の金額を比較すればよいわけではありません。

税務上の定義に従って、対象となる給与等を正しく集計する必要があります。


中小企業向け賃上げ促進税制の基本

中小企業向けの賃上げ促進税制では、青色申告書を提出する中小企業者等が、国内雇用者に対して給与等を支給し、雇用者給与等支給額が前年度より一定割合以上増加している場合に、税額控除を受けられます。


基本的な考え方は、当期の雇用者給与等支給額と、前期の比較雇用者給与等支給額を比較し、一定割合以上増えているかを判定するというものです。


中小企業向け制度では、通常要件として、雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加しているかどうかを確認します。


この要件を満たす場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の一定割合について、法人税額から控除できます。


さらに、より高い賃上げ率や教育訓練費の増加、一定の認定取得など、上乗せ要件を満たす場合には、控除率が加算される仕組みになっています。


雇用者給与等支給額とは

雇用者給与等支給額とは、国内雇用者に対して支給する給与等の額をいいます。


ここでいう国内雇用者とは、法人の使用人のうち、その法人の国内事業所に勤務する雇用者を指します。


中小企業向け制度で重要なのは、この雇用者給与等支給額が「継続雇用者」に限定されていない点です。


つまり、当期に新たに採用した従業員への給与、当期中に退職した従業員への給与、パート・アルバイトなどへの給与も、要件を満たす範囲で集計対象になることがあります。


そのため、従業員の入退社が多い会社では、雇用者給与等支給額の増加率が実態としての賃上げ率と一致しないことがあります。


たとえば、既存社員の給与を大きく引き上げていても、退職者が多く全体の給与総額が伸びていない場合、中小企業向け制度の通常要件を満たせないことがあります。


継続雇用者給与等支給額とは

一方、継続雇用者給与等支給額とは、前期と当期を通じて継続して雇用されている一定の従業員に対する給与等の支給額をいいます。


つまり、継続雇用者に絞って、当期と前期の給与等支給額を比較する考え方です。

この判定では、新入社員や退職者の影響を除いて、継続して勤務している従業員の給与がどれだけ増えたかを確認します。


そのため、会社全体の給与総額では増加率が小さくても、継続雇用者だけを見れば高い賃上げ率になるケースがあります。


たとえば、既存社員には昇給や賞与増額を行ったものの、前期に比べて従業員数が減少している会社では、雇用者給与等支給額全体はあまり増えないことがあります。


しかし、継続雇用者に限って比較すると、給与等支給額が3%以上増えていることもあります。


このような場合、別の制度区分の適用を検討する余地があります。


中小企業でも全企業向け・中堅企業向け制度を検討できる場合がある

賃上げ促進税制では、企業規模に応じて複数の制度区分があります。


中小企業であれば、まず中小企業向け制度を検討するのが一般的です。

しかし、中小企業だからといって、中小企業向け制度だけを見ればよいとは限りません。


制度上、中小企業であっても、要件を満たす場合には全企業向けや中堅企業向けの制度を選択できる場合があります。


この点が、重要なポイントです。


中小企業向け制度では、雇用者給与等支給額の前年度比1.5%以上増加が基本要件になります。一方、全企業向け・中堅企業向けの制度では、継続雇用者給与等支給額の増加率を使って判定することがあります。


そのため、中小企業向け制度では要件を満たさない場合でも、継続雇用者給与等支給額の要件を満たし、別の制度区分を使える可能性があります。


具体例:全体では1.5%未満でも継続雇用者では3%以上

具体例で考えてみましょう。


ある中小企業では、前期から当期にかけて既存社員の基本給を引き上げ、賞与も増額しました。


継続して勤務している従業員だけで見ると、給与等支給額は前年度比3%以上増加しています。しかし、当期中に退職者が多く、新規採用も遅れたため、会社全体の雇用者給与等支給額は前年度比1.5%未満の増加にとどまりました。


この場合、中小企業向け制度の通常要件である「雇用者給与等支給額1.5%以上増」は満たせません。そのため、ここだけを見れば、賃上げ税制は使えないように見えます。


しかし、継続雇用者給与等支給額は3%以上増加しています。

この場合、中小企業であっても、継続雇用者給与等支給額を判定対象とする制度区分の要件を満たすかどうかを検討する価値があります。


つまり、「中小企業向け制度が使えない=賃上げ促進税制は全く使えない」と即断しないことが重要です。


なぜ適用漏れが起きやすいのか

賃上げ促進税制で適用漏れが起きやすい理由は、制度ごとに判定対象となる給与等の範囲が異なるためです。

中小企業向け制度では、国内雇用者全体の給与等支給額を見ます。

一方、別の制度区分では、継続雇用者に対する給与等支給額を見ます。

そのため、会社の人員構成や採用・退職の状況によって、判定結果が変わります。

特に、次のような会社では注意が必要です。

  • 従業員の入退社が多い会社

  • 前期に一時的に人員が多かった会社

  • 当期に退職者が多かった会社

  • 新規採用を抑制した会社

  • 既存社員の待遇改善に重点を置いた会社

  • 賞与増額はしたが、従業員数が減少した会社


このような会社では、全体の給与総額だけを見ると要件未達でも、継続雇用者ベースでは要件を満たす可能性があります。


税額控除率の基本

中小企業向け制度では、通常要件を満たす場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の一定割合について税額控除を受けられます。


令和4年度改正後の制度では、通常要件を満たす場合の基本控除率は15%とされ、一定の上乗せ要件を満たすことで控除率が加算される仕組みでした。


また、教育訓練費の増加要件を満たす場合にも、控除率の上乗せが認められる制度設計になっていました。


現行制度でも、中小企業向け賃上げ促進税制では、基本要件を満たしたうえで、賃上げ率、教育訓練費、子育て支援・女性活躍支援などの要件に応じて控除率が上乗せされる仕組みがあります。


ただし、控除できる金額には上限があります。

一般に、当期の法人税額の一定割合までが控除限度とされるため、赤字法人や法人税額が少ない法人では、控除しきれないことがあります。


教育訓練費の上乗せも確認する

賃上げ促進税制では、給与の増加だけでなく、教育訓練費の増加が控除率の上乗せ要件になることがあります。


教育訓練費とは、従業員の職務に必要な知識や技能を習得させるための研修費、講習費、外部研修の受講料などをいいます。


ただし、教育訓練費に該当するかどうかは、支出内容により判断が必要です。

単なる福利厚生、資格取得と業務との関連性が薄い支出、役員向けの研修などは、対象外となることがあります。


また、教育訓練費の明細を保存し、申告時に一定の書類を作成する必要があります。

賃上げ税制の適用を検討する場合には、給与データだけでなく、研修費や教育訓練費の集計も早めに行いましょう。


控除対象雇用者給与等支給増加額とは

税額控除の対象となるのは、控除対象雇用者給与等支給増加額です。


これは、単純な給与増加額そのものとは限りません。

制度上、比較雇用者給与等支給額や雇用安定助成金額などの調整が必要になることがあります。そのため、会計上の給与手当の増加額だけを見て、税額控除額を計算するのは危険です。


実務では、次のような資料を整理して計算します。

  • 当期の給与台帳

  • 前期の給与台帳

  • 役員給与の除外資料

  • 国内雇用者の判定資料

  • 継続雇用者の抽出資料

  • 雇用保険一般被保険者の状況

  • 賞与台帳

  • 教育訓練費の明細

  • 助成金の受給状況


これらをもとに、制度上の定義に沿って集計する必要があります。


役員給与は対象外

賃上げ促進税制で特に間違いやすいのが、役員給与の取扱いです。


この制度は、従業員への賃上げを促進するための税制です。

そのため、法人の役員に対する給与は、原則として対象となる雇用者給与等支給額には含まれません。


また、役員の特殊関係者に対する給与についても、対象から除外されることがあります。

たとえば、同族会社で代表者の親族が従業員として勤務している場合、その人が役員の特殊関係者に該当するかどうかを確認する必要があります。


中小企業では、家族従業員や親族従業員がいるケースも多いため、給与台帳の総額をそのまま使わないように注意しましょう。


新設法人は使えない場合がある

賃上げ促進税制は、原則として前年度との比較により判定する制度です。


そのため、前事業年度がない新設法人では、比較対象がないため適用できない場合があります。会社を設立したばかりの年度では、給与を支給していても、前期との増加率を計算できません。


また、合併や分割などの組織再編がある場合には、比較雇用者給与等支給額の計算に特別な取扱いが必要になることがあります。


単純な前期比較ができない場合には、個別に制度上の取扱いを確認する必要があります。


申告書への記載と明細書が必要

賃上げ促進税制は、要件を満たしていても、自動的に法人税が安くなる制度ではありません。


適用を受けるためには、法人税の確定申告書で税額控除額を計算し、必要な明細書を添付する必要があります。


また、租税特別措置法上の税額控除であるため、適用額明細書の記載も必要になります。

申告書に必要な記載がない場合、適用を受けられないことがあります。


そのため、決算作業の段階で要件判定を行い、申告書作成時に漏れなく反映することが大切です。


特に、顧問税理士へ給与データを渡すタイミングが遅いと、制度適用の検討が十分にできないことがあります。決算前から給与等支給額の見込みを確認しておきましょう。


中小企業が確認すべき実務フロー

中小企業が賃上げ促進税制を検討する場合、次の流れで確認すると実務がスムーズです。

まず、対象法人に該当するかを確認します。


資本金、従業員数、青色申告の有無、大規模法人との関係などを確認します。

次に、当期と前期の給与等支給額を集計します。


このとき、役員給与や対象外となる給与を除外します。

そのうえで、中小企業向け制度の要件を判定します。

雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加しているかを確認します。

要件を満たす場合は、上乗せ要件も確認します。


もし中小企業向け制度の要件を満たさない場合でも、そこで検討を終えないことが重要です。継続雇用者給与等支給額を集計し、全企業向けや中堅企業向けの制度区分で要件を満たす可能性がないかを確認します。


最後に、税額控除額、法人税額の控除限度、必要書類、適用額明細書を確認します。


よくある誤解

賃上げ促進税制について、実務上よくある誤解を整理します。


まず、「中小企業は中小企業向け制度だけを見ればよい」という誤解です。

中小企業向け制度の要件を満たさない場合でも、別の制度区分の要件を満たす可能性があります。


次に、「給与総額が1.5%以上増えていなければ絶対に使えない」という誤解です。

雇用者給与等支給額では要件未達でも、継続雇用者給与等支給額では要件を満たすケースがあります。


また、「会計上の給与手当を比較すればよい」という誤解もあります。

税務上の給与等支給額は、役員給与や特殊関係者への給与、助成金の調整などに注意が必要です。


さらに、「赤字なら検討不要」という誤解もあります。

現行制度では、控除しきれなかった金額について繰越制度が設けられている場合があります。


赤字や法人税額が少ない会社でも、制度適用の要件判定を行っておく価値があります。


実務上のチェックポイント

賃上げ促進税制の適用を検討する際は、次の点を確認しましょう。

  • 対象法人に該当するか

  • 青色申告書を提出しているか

  • 当期と前期の給与等支給額を正しく集計しているか

  • 役員給与や対象外給与を除外しているか

  • 国内雇用者の範囲を確認しているか

  • 継続雇用者の範囲を確認しているか

  • 雇用者給与等支給額の増加率を計算しているか

  • 継続雇用者給与等支給額の増加率も確認しているか

  • 中小企業向け制度だけで判断していないか

  • 教育訓練費の上乗せ要件を確認しているか

  • 認定取得による上乗せ要件を確認しているか

  • 税額控除限度額を確認しているか

  • 申告書別表と適用額明細書を作成しているか

  • 制度改正後の適用年度を確認しているか


まとめ

中小企業が従業員の給与を引き上げた場合、賃上げ促進税制により法人税の税額控除を受けられる可能性があります。


中小企業向け制度では、雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加しているかどうかが基本的な判定ポイントになります。


この雇用者給与等支給額は、国内雇用者全体を対象としており、継続雇用者に限られません。そのため、新入社員や退職者の影響を受けることがあります。


一方、全企業向け・中堅企業向けの賃上げ促進税制では、継続雇用者給与等支給額の増加率を使って判定する場面があります。


継続雇用者給与等支給額は、前期と当期を通じて継続して雇用されている従業員に対する給与等を対象とするため、会社全体の給与総額とは異なる動きになることがあります。


その結果、中小企業向け制度の通常要件である雇用者給与等支給額1.5%以上増を満たさない場合でも、継続雇用者給与等支給額が3%以上増加しており、別の制度区分で賃上げ促進税制を適用できる可能性があります。


したがって、賃上げ税制を検討する際は、「中小企業だから中小企業向け制度だけを見る」「給与総額が1.5%増えていないから対象外」と早合点しないことが重要です。


雇用者給与等支給額と継続雇用者給与等支給額の両方を確認し、適用できる制度区分がないかを検討しましょう。


実際に申告する際には、適用事業年度に応じた最新の要件を確認し、給与台帳、教育訓練費の明細、申告書別表、適用額明細書を整備することが大切です。


賃上げ促進税制の適用可否や税額控除額の計算で迷う場合は、早めに税理士へ相談することをおすすめします。


神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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