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役員が産休を取得した場合の役員給与は減額できる?定期同額給与の臨時改定事由を税理士が解説

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 8月3日
  • 読了時間: 14分

おはようございます!代表の安田です。


会社役員に対して毎月支給する役員給与は、法人税上、取扱いに注意が必要です。


従業員給与であれば、勤務状況や労働時間に応じて比較的柔軟に変更されることがあります。一方、役員給与については、法人税法上、原則として毎月同額で支給する定期同額給与でなければ、損金算入が認められにくい仕組みになっています。


そのため、事業年度の途中で役員給与を増額・減額すると、税務上問題になることがあります。


ここで実務上悩ましいのが、役員が出産に伴い産休を取得する場合です。

役員が産休に入り、当初予定されていた職務の一部または全部を執行できなくなった場合、会社として役員給与を減額したり、一時的に支給しなかったりすることはできるのでしょうか。


結論としては、産休により当初予定されていた職務執行ができなくなった場合には、基本的に、定期同額給与の臨時改定事由による改定に該当すると考えられます。


本日は、役員が産休を取得した場合の役員給与の減額・復帰後の支給再開について、法人税上の考え方を整理します。


定期同額給与とは

役員給与は、法人税上、原則として損金算入が制限されています。


ただし、一定の要件を満たす役員給与については、損金算入が認められます。

その代表的なものが定期同額給与です。

定期同額給与とは、簡単にいえば、毎月同じ時期に同じ金額を継続して支給する役員給与です。


たとえば、毎月25日に役員報酬50万円を支給するようなケースです。

役員給与は利益調整に使われやすい性質があるため、法人税法では、原則として事業年度の途中で自由に金額を変更できない仕組みになっています。


役員給与は原則として期中変更できない

定期同額給与として損金算入を受けるためには、原則として、事業年度を通じて毎月同額で支給する必要があります。


そのため、事業年度の途中で役員給与を増額したり、減額したりすると、変更後の支給額について損金算入が認められない可能性があります。


たとえば、利益が出そうだから期中に役員給与を増額する、反対に業績が悪いから一時的に減額する、といった対応は、税務上慎重に判断する必要があります。


ただし、すべての期中改定が認められないわけではありません。

法人税法では、一定の場合に限り、期中の役員給与改定が認められています。


期中改定が認められる3つのケース

定期同額給与について、事業年度の途中で改定が認められる主なケースは、次の3つです。


1つ目は、事業年度開始の日から3か月以内の改定です。通常、定時株主総会などで役員報酬を決定する場合がこれに当たります。


2つ目は、臨時改定事由による改定です。役員の地位や職務内容に大きな変更があった場合など、やむを得ない事情に基づく改定です。


3つ目は、業績悪化改定事由による改定です。経営状況が著しく悪化し、役員給与を減額せざるを得ないような場合です。


今回のテーマである「役員の産休」は、このうち臨時改定事由に該当するかどうかが問題になります。


臨時改定事由とは

臨時改定事由とは、役員給与の期中改定が認められるやむを得ない事情の一つです。

法人税法施行令では、臨時改定事由について、次のような内容が示されています。

  • 役員の職制上の地位の変更

  • その役員の職務内容の重大な変更

  • その他これらに類するやむを得ない事情


つまり、役員としての立場や職務内容に大きな変化があり、当初予定していた役員給与の額を維持することが実態に合わなくなった場合に、臨時改定事由による改定が認められる可能性があります。


重要なのは、単なる会社都合や利益調整ではなく、職務内容や職責に実質的な変化があることです。


病気による入院は臨時改定事由に該当する

国税庁の「役員給与に関するQ&A」では、役員が病気で入院したことなどにより、当初予定されていた職務の一部または全部を執行できなくなった場合には、臨時改定事由に該当するとされています。


たとえば、代表取締役が病気で長期入院し、当初予定していた職務を十分に行なえなくなった場合、役員給与を減額することは、臨時改定事由による改定として認められる可能性があります。


この考え方は、病気での入院に限られるものではありません。

ポイントは、役員が当初予定されていた職務を一部または全部執行できなくなったかどうかです。


産休も臨時改定事由に該当し得る

出産に伴う産休により、役員が当初予定されていた職務の一部または全部を執行できなくなった場合も、基本的には臨時改定事由による改定に該当すると考えられます。


産休中は、役員としての職務執行が制限されることがあります。

たとえば、次のようなケースです。

  • 取締役会への出席が難しくなる

  • 営業・管理・企画などの担当業務を一時的に他の役員へ引き継ぐ

  • 代表権や業務執行権限は形式上残るが、実際の職務執行は大幅に減少する

  • 産休期間中は会社業務を行わない

  • 産休期間中は一部の確認業務のみ行う


このように、産休により当初予定されていた役員としての職務を十分に行なえなくなるのであれば、役員給与を減額または不支給とすることには合理性があります。


産休中の役員給与を減額する場合

役員が産休を取得することにより、当初予定されていた職務の一部を執行できなくなった場合、取締役会等で役員給与の減額を決議することが考えられます。


この場合、減額改定が臨時改定事由に基づくものであれば、改定後の支給額についても定期同額給与として扱われる可能性があります。


たとえば、産休前は月額80万円だった役員給与を、産休期間中は月額20万円に減額するケースです。


この場合、単なる利益調整ではなく、産休によって職務執行量が大きく減少したことを理由に減額していることを明確にしておく必要があります。


また、減額のタイミングや金額についても、職務執行の実態と整合していることが大切です。


産休中に役員給与を支給しない場合

産休中に役員としての職務をまったく行なわない場合には、役員給与を支給しないという判断もあり得ます。


この場合も、当初予定されていた職務の全部を執行できない状態になったことを理由とするのであれば、臨時改定事由による改定と整理できる可能性があります。


ただし、実際には産休中も一定の業務判断を行なっている、重要な会議に参加している、役員としての職務を継続している場合には、完全に無支給とすることが実態に合っているか確認が必要です。


税務上は、役員給与の支給額と職務執行の実態のバランスが重要になります。


産休から復帰した後に元の金額へ戻せるか

産休中に役員給与を減額した場合、復帰後に産休前の金額へ戻せるかも重要な論点です。

役員が産休から復帰し、従前と同様の職務執行が可能になったため、産休前と同額の役員給与を支給することを決議した場合、これも基本的には臨時改定事由による改定に当たると考えられます。


つまり、産休により職務執行ができなくなったため減額し、復帰により従前どおりの職務を再開できるようになったため元の水準に戻す、という流れです。


この場合も、復帰の事実、職務内容の回復、支給額を戻す理由を取締役会議事録等に残しておくことが重要です。


減額と復帰後増額はセットで考える

産休による役員給与の取扱いでは、産休開始時の減額だけでなく、復帰時の増額もセットで考える必要があります。


産休開始時には、職務執行ができなくなるため減額する。復帰時には、従前と同様の職務執行が可能になるため元に戻す。


この2つは、いずれも職務内容の重大な変更に基づく改定として整理できます。

ただし、復帰後の増額が、産休前の水準を超えるような場合には注意が必要です。

産休前の月額80万円を、復帰後に100万円へ増額する場合、その増額部分については、産休からの復帰という臨時改定事由だけでは説明しにくい可能性があります。


復帰前の水準に戻すのか、それ以上に増額するのかで、税務上のリスクは変わります。


取締役会決議・株主総会決議を残す

役員給与の改定を行なう場合には、会社法上・税務上の手続も重要です。


株式会社であれば、役員報酬の総額を株主総会で決議し、その範囲内で個別支給額を取締役会や代表取締役に一任していることが多いでしょう。


産休に伴って役員給与を減額する場合も、会社の定めた手続に従って決議を行い、その議事録を残しておく必要があります。

特に、税務調査で確認される可能性があるのは、次のような資料です。

  • 産休取得に関する届出や社内資料

  • 役員給与減額に関する取締役会議事録

  • 復帰後の役員給与改定に関する取締役会議事録

  • 職務分担の変更資料

  • 産休中の担当業務の引継ぎ資料

  • 産休前後の役員給与額が分かる資料

  • 株主総会議事録

  • 役員報酬規程


税務上、臨時改定事由を主張するためには、単に給与を減らしたという事実だけでなく、なぜ減額せざるを得なかったのかを説明できる資料が重要です。


職務内容の変化を明確にする

臨時改定事由に該当するかどうかは、役員の職務内容など個々の実態に即して判断されます。そのため、産休により職務内容がどのように変化したのかを明確にしておくことが大切です。たとえば、次のような内容を整理しておくとよいでしょう。

  • 産休前に担当していた職務

  • 産休期間中に行えなくなる職務

  • 産休中に他の役員へ引き継ぐ職務

  • 産休中も継続する職務があるか

  • 復帰後に再開する職務

  • 復帰後の職責が産休前と同じか


このような整理がないと、税務調査で「本当に職務内容に重大な変更があったのか」「単なる任意の役員給与減額ではないのか」と疑義を持たれる可能性があります。


減額幅は職務実態と整合させる

産休中の役員給与を減額する場合、減額幅にも注意が必要です。


たとえば、産休中も一定の重要な意思決定に関与しているにもかかわらず、役員給与をゼロにする場合、職務実態と支給額が合っているかが問題になる可能性があります。


一方、産休中は会社業務を一切行なわず、職務の全部を他の役員へ引き継ぐのであれば、無支給とすることにも合理性があると考えられます。


つまり、減額後の金額は、産休中の職務執行の程度に応じて判断する必要があります。

「産休だから必ずゼロにできる」「産休だから必ず半額でよい」というものではありません。


産休と育休の違いにも注意

今回は産休がテーマですが、実務上は産休後に育児休業や育児のための勤務調整が続くことがあります。


役員については、労働者としての育児休業制度とは異なる部分がありますが、会社として職務執行の実態に応じて役員給与をどう扱うかを検討する場面があります。


産休後も引き続き職務執行が大幅に制限されるのであれば、役員給与の減額を継続する合理性があるかを検討します。


一方、復帰後に通常どおりの職務を再開しているのであれば、元の給与水準に戻すことが考えられます。


いずれの場合も、職務内容の変化、期間、役員給与の金額、決議内容を整合させることが重要です。


社会保険・労務面との関係

役員の産休に伴う役員給与の減額は、法人税だけでなく、社会保険や労務面にも影響することがあります。


役員であっても、健康保険・厚生年金保険に加入している場合、報酬額の変更により標準報酬月額の取扱いが問題になる可能性があります。


また、出産手当金や育児休業等給付との関係では、役員としての報酬支給の有無や雇用保険加入状況なども確認が必要です。


法人税上の定期同額給与の取扱いだけを見て判断するのではなく、社会保険労務士とも連携し、産休期間中の報酬・社会保険・給付関係を整理しておくと安心です。


税務調査で確認されやすいポイント

役員の産休に伴う役員給与改定について、税務調査では次のような点が確認される可能性があります。

  • 産休の取得事実

  • 産休期間

  • 産休前の役員職務

  • 産休中に執行できなくなった職務

  • 他の役員への業務引継ぎ状況

  • 減額改定の決議日

  • 減額後の役員給与額

  • 減額幅の合理性

  • 産休中も実際には業務を行っていなかったか

  • 復帰日

  • 復帰後の職務内容

  • 復帰後に給与を戻した決議内容

  • 役員報酬規程との整合性


これらについて説明できるように、議事録や社内資料を整えておくことが重要です。


よくある誤解

役員の産休と役員給与については、次のような誤解が起こりやすいです。


  • 役員給与は産休でも絶対に変更できない

役員給与は原則として期中変更できませんが、産休により当初予定されていた職務執行ができなくなった場合には、臨時改定事由による改定に該当する可能性があります。


  • 産休なら必ず無支給にできる

産休中も一部の職務を継続している場合には、完全に無支給とすることが実態に合っているか確認が必要です。職務執行の程度に応じて減額幅を検討する必要があります。


  • 復帰後に元の金額へ戻すと定期同額給与が崩れる

産休から復帰し、従前と同様の職務執行が可能となった場合に、産休前と同額の支給に戻すことは、基本的には臨時改定事由による改定と考えられます。


  • 議事録がなくても実態があれば大丈夫

実態は重要ですが、税務調査では決議内容や職務変更の記録が確認されます。取締役会議事録や職務分担変更資料を残しておくことが大切です。


経理担当者が確認したいチェックリスト

役員が産休を取得する場合、経理担当者は次の点を確認しておきましょう。

  • 産休の開始日と終了予定日

  • 産休前の役員給与額

  • 産休中に執行できなくなる職務

  • 産休中も継続する職務の有無

  • 減額または無支給とする理由

  • 減額後の金額の合理性

  • 取締役会または株主総会での決議

  • 議事録の作成・保存

  • 復帰後の職務内容

  • 復帰後に給与を戻す決議

  • 社会保険・出産手当金等への影響

  • 給与計算ソフトの設定変更


役員給与は税務上の影響が大きいため、産休開始直前に慌てて対応するのではなく、事前にスケジュールと必要資料を整理しておくことが重要です。


税理士として顧問先に伝えたいこと

税理士としては、役員の産休に関する相談を受けた場合、次の点を伝えるとよいでしょう。

  • 役員給与は原則として期中変更できない

  • ただし、産休により職務執行ができなくなる場合は臨時改定事由に該当し得る

  • 減額または無支給は職務実態に応じて判断する

  • 産休復帰後に従前の職務へ戻る場合、元の金額への復帰も臨時改定事由になり得る

  • 取締役会決議や議事録を必ず残す

  • 職務内容の変更、引継ぎ、復帰後の職務再開を資料化する

  • 社会保険・労務面もあわせて確認する


特に、女性役員が増えている中で、役員の産休・育休に関する実務対応は今後ますます重要になります。税務だけでなく、働き方や会社のガバナンスの観点からも、事前にルールを整えておくことが望ましいです。


まとめ

役員給与は、法人税上、原則として事業年度の途中で自由に変更することはできません。

毎月同額を定期的に支給する定期同額給与として損金算入を受けるためには、原則として同額支給が求められます。


ただし、法人税法上、事業年度開始から3か月以内の改定、臨時改定事由による改定、業績悪化改定事由による改定については、期中改定が認められています。


臨時改定事由とは、役員の職制上の地位の変更、その役員の職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情をいいます。


国税庁の役員給与に関するQ&Aでは、役員が病気で入院したことなどにより、当初予定されていた職務の一部または全部の執行ができなくなった場合には、臨時改定事由に該当するとされています。


この考え方は病気入院に限られるものではありません。役員が出産に伴い産休を取得し、当初予定されていた職務の一部または全部を執行できなくなった場合にも、役員給与の減額または無支給は、基本的に臨時改定事由による改定に該当すると考えられます。


また、産休から復帰し、従前と同様の職務執行が可能となったため、産休前と同額の役員給与に戻す場合も、基本的には臨時改定事由による改定と考えられます。


ただし、税務上認められるためには、産休によりどの職務が執行できなくなったのか、減額幅が職務実態に合っているか、復帰後にどの職務を再開したのかを明確にしておく必要があります。


役員が産休を取得する場合には、取締役会決議、議事録、職務分担の変更資料、業務引継ぎ資料、復帰後の職務再開に関する資料を残し、役員給与の改定が臨時改定事由に基づくものであることを説明できるようにしておきましょう。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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