財産債務調書の提出義務はいつ発生する?相続で財産が増えた場合の注意点を税理士が解説
更新日:8月30日
こんにちは!代表の安田です。
確定申告では、所得税の計算に意識が向きがちです。
不動産所得、事業所得、譲渡所得、配当所得などを集計し、所得控除や税額控除を反映して、所得税を計算する。
通常の確定申告では、この流れが中心になります。
しかし、一定以上の所得や財産を持っている方については、所得税の申告書だけでなく、「財産債務調書」の提出が必要になることがあります。
特に注意したいのが、相続や遺贈によって不動産・預貯金・有価証券などを取得したケースです。
去年までは対象外だったから今年も大丈夫
不動産所得はそこまで多くないから関係ない
相続税の申告とは別の話だから後でよい
このように考えていると、財産債務調書の提出義務を見落とす可能性があります。
この記事では、財産債務調書の提出義務、相続で財産が増えた場合の判定、提出期限、提出漏れがあった場合の加算税への影響について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
財産債務調書とは
財産債務調書とは、一定の要件に該当する方が、その年の12月31日時点で保有している財産の種類、数量、価額、債務の金額などを記載して税務署へ提出する書類です。
所得税の確定申告書は「その年の所得」を申告する書類ですが、財産債務調書は「その年末時点の財産と債務の状況」を報告する書類です。
対象となる財産には、たとえば次のようなものがあります。
土地
建物
預貯金
有価証券
投資信託
貸付金
貴金属
書画骨とう
事業用資産
一方、債務には、住宅ローン、事業借入金、未払金などが含まれます。
財産債務調書は、所得税の計算そのものに直接使う書類ではありません。
しかし、高額な財産を保有する方について、適正な所得税・相続税の申告を確保するための重要な資料です。
財産債務調書の提出義務者
財産債務調書の提出義務があるのは、次のいずれかに該当する方です。
1つ目は、所得税の確定申告書を提出する必要がある方、または一定の所得税の還付申告書を提出できる方で、その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、その年12月31日時点で価額の合計額が3億円以上の財産、または価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産を有する方です。
2つ目は、その年12月31日時点で、価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者の方です。こちらは、所得金額が2,000万円以下であっても対象になる可能性があります。
ここで注意したいのは、「財産の価額」は、債務を差し引いた純財産額ではないという点です。
国税庁は、財産の価額とは財産の価額の総額であり、財産の価額から債務の金額を差し引いた金額ではないと説明しています。
たとえば、不動産の価額が3億円、借入金が2億円ある場合、純資産は1億円ですが、財産債務調書の判定上は「財産3億円」として考えます。
借入金が多いから提出義務がない、とは限りません。
提出期限は翌年6月30日
財産債務調書の提出期限は、その年の翌年6月30日です。
令和7年分の財産債務調書についても、提出期限は令和8年6月30日とされています。
以前は、所得税の確定申告期限と近い時期が提出期限でしたが、令和5年分以後は提出期限が後倒しされました。国税庁の資料でも、令和5年分以後の財産債務調書について、提出期限はその年の翌年6月30日とされています。
ただし、提出期限が延びたからといって、準備を後回しにしてよいわけではありません。
財産債務調書の作成には、固定資産評価証明書、登記事項証明書、預貯金残高、有価証券残高、借入金残高など、さまざまな資料が必要になります。
特に不動産や相続財産がある場合、財産の把握と評価に時間がかかることがあります。
確定申告作業とあわせて、早めに提出義務の有無を確認しておくことが大切です。
相続で財産が増えた場合は要注意
財産債務調書で実務上よく問題になるのが、相続や遺贈によって財産を取得したケースです。
たとえば、もともと自宅とアパートを所有していた方が、親族から土地を相続したことで、年末時点の財産総額が3億円を超えるような場合です。
この場合、「相続税の申告をするかどうか」と「財産債務調書の提出義務があるかどうか」は別に考える必要があります。
財産債務調書は、原則として、その年12月31日時点の財産の価額を基準に提出義務を判定します。
ただし、相続開始年の財産債務調書については特別な取扱いがあります。
国税庁は、相続開始年の年分の財産債務調書については、その相続または遺贈により取得した財産または債務を記載しないで提出できるとしています。また、その場合、提出義務の判定では、財産の価額の合計額から相続または遺贈により取得した財産の価額を除外して判定します。
つまり、相続が発生した年については、相続財産を除外して提出義務を判定できる場合があります。
ただし、翌年以降はその相続財産も本人の財産として含めて判定する必要があります。
「相続財産だから財産債務調書とは関係ない」と考えないようにしましょう。
相続開始年と翌年以降で取扱いが変わる
相続財産がある場合、財産債務調書の判定は年によって変わることがあります。
たとえば、令和7年中に土地を相続したとします。
令和7年分の財産債務調書については、相続により取得した財産を記載しないで提出できる場合があります。また、提出義務の判定でも、その相続財産を除外できる取扱いがあります。
一方、令和8年12月31日時点では、その土地はすでに本人が保有する財産です。
したがって、令和8年分以後の財産債務調書では、その相続財産も含めて提出義務を判定する必要があります。
この点は、相続税申告と混同しやすいところです。
相続税申告は、原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内に行います。
一方、財産債務調書は、毎年12月31日時点の財産債務の状況を基準に、翌年6月30日までに提出します。
相続税申告が終わったからといって、翌年以降の財産債務調書の確認が不要になるわけではありません。
不動産所得が2,000万円を超えた場合の注意点
不動産賃貸業を営む方について、これまで所得が2,000万円以下だったため財産債務調書の提出義務がなかったものの、ある年に不動産所得が2,000万円を超え、さらに相続で取得した土地を含めると財産総額が3億円を超える可能性がある、というケースが紹介されていました。
このような場合、まず確認すべきなのは、退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超えるかどうかです。
不動産所得、事業所得、給与所得、配当所得、譲渡所得などがある場合、それらを合計して判定します。
次に、その年12月31日時点の財産価額の合計額が3億円以上かどうかを確認します。
不動産所得が2,000万円を超えた年は、財産債務調書の提出義務が初めて発生することがあります。
特に、不動産オーナーの場合、不動産所得が毎年一定とは限りません。
空室状況、修繕費、減価償却、借入金利息、売却の有無などにより所得が変動します。
「去年は対象外だったから今年も対象外」と思い込まず、毎年確認する必要があります。
財産価額の確認には時間がかかる
財産債務調書を作成するには、年末時点の財産価額を確認する必要があります
不動産については、固定資産税評価額などを確認することが多いです
有価証券については、証券会社の年間取引報告書や残高報告書などを確認します
預貯金については、12月31日時点の残高を確認します
借入金については、年末残高証明書や返済予定表を確認します
相続で取得した土地がある場合、登記簿、固定資産評価証明書、遺産分割協議書、相続税申告書の資料なども必要になることがあります
財産債務調書は、所得税の確定申告書と違い、手元にある帳簿だけでは作れないことが多いです。
関与先から資料を集めるのに時間がかかるため、提出義務がありそうな場合には、確定申告の段階から早めに案内しておくことが重要です。
提出しないこと自体に罰則はあるのか
財産債務調書を提出しなかったこと自体について、直接の罰則があるわけではありません。
しかし、提出しない場合や記載が不十分な場合には、後日の申告漏れがあったときに不利な取扱いを受けることがあります。
国税庁は、提出期限内に財産債務調書を提出していない場合や、提出期限内に提出した調書に記載すべき財産・債務の記載がない場合、その財産または債務に関して所得税の申告漏れが生じたときは、過少申告加算税等が5%加重されると説明しています。
一方で、提出期限内に提出された財産債務調書に記載がある財産または債務に関して所得税・相続税の申告漏れが生じた場合には、その財産または債務に係る過少申告加算税または無申告加算税が5%軽減されます。
つまり、財産債務調書は、提出しておくことで将来の申告漏れがあった場合の加算税軽減につながる一方、提出漏れや記載漏れがあると加算税が重くなる可能性があります。
「罰則がないから提出しなくてもよい」という考え方は危険です。
相続財産については加重措置の例外もある
相続財産については、加重措置に関して一定の配慮があります。
国税庁は、相続財産債務について、相続財産債務を有する方の責めに帰すべき事由がなく提出期限内に財産債務調書を提出していない場合や、記載すべき相続財産債務の記載がない場合には、加重措置の対象にならないと説明しています。
ただし、これは相続財産なら常に安心という意味ではありません。
相続財産の内容や価額を把握できているにもかかわらず記載しなかった場合、または翌年以後も提出義務の確認を怠った場合には、問題になる可能性があります。
相続が絡む場合には、相続開始年、翌年以後、相続税申告の有無、財産の把握状況を丁寧に整理することが大切です。
提出するメリットもある
財産債務調書は、提出義務がある方にとっては手間のかかる書類です。
しかし、提出には一定のメリットもあります。
最大のメリットは、申告漏れがあった場合の加算税軽減措置です。
期限内に提出された財産債務調書に記載された財産や債務について、後日、所得税や相続税の申告漏れが見つかった場合、過少申告加算税等が5%軽減されます。
もちろん、申告漏れを前提にするわけではありません。
しかし、不動産や有価証券など財産が多い方は、将来の相続税申告や譲渡所得申告で資料確認が必要になる場面が多くあります。
財産債務調書を作成することで、財産の棚卸しができ、将来の相続対策や資産管理にも役立ちます。
財産債務調書作成のチェックポイント
財産債務調書の提出義務を確認する際には、次の点を整理しましょう。
その年分の退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超えるか
12月31日時点の財産価額の合計額が3億円以上か
1億円以上の国外転出特例対象財産を有しているか
所得にかかわらず、12月31日時点の財産価額の合計額が10億円以上か
相続開始年に該当するか
相続により取得した財産を提出義務判定から除外できるか
翌年以後、相続財産を含めて判定する必要があるか
不動産の評価資料を取得しているか
有価証券や預貯金の年末残高を確認しているか
借入金など債務の年末残高を確認しているか
提出期限である翌年6月30日までに作成できるか
財産債務調書は、提出義務の判定だけでも意外と時間がかかります。
確定申告が終わってから慌てるのではなく、申告作業の段階で並行して準備するのがおすすめです。
まとめ:財産債務調書は「所得」と「財産」の両方で判定する
財産債務調書は、一定以上の所得や財産を持つ方が、その年12月31日時点の財産と債務を税務署に報告する書類です。
提出義務は、主に次の2つのパターンで判定します。
1つ目は、退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、12月31日時点で3億円以上の財産または1億円以上の国外転出特例対象財産を有する場合です。
2つ目は、所得金額にかかわらず、12月31日時点で10億円以上の財産を有する居住者の場合です。
提出期限は、その年の翌年6月30日です。
相続があった年については、相続や遺贈により取得した財産・債務を記載しないで提出できる場合があり、その場合、提出義務の判定でも相続財産を除外できます。
ただし、翌年以後は、その相続財産も含めて提出義務を判定する必要があります。
財産債務調書を提出しなかった場合や記載漏れがある場合、その財産・債務に関して所得税の申告漏れが生じると、過少申告加算税等が5%加重される可能性があります。
一方、期限内に適切に提出していれば、申告漏れがあった場合に加算税が5%軽減される措置もあります。
財産債務調書は、単なる添付書類ではなく、高額財産を保有する方にとって重要な税務書類です。不動産所得が増えた方、相続で財産を取得した方、不動産や有価証券を多く保有する方は、確定申告の時期から早めに提出義務の有無を確認しておきましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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