内部監査の体制整備と開示とは?デュアルレポーティングラインを公認会計士が解説
- 安田 亮
- 1 日前
- 読了時間: 13分
こんばんは!代表の安田です。
上場会社のコーポレート・ガバナンスを考えるうえで、内部監査の重要性が高まっています。
内部監査は、会社の業務が適切に行われているか、法令や社内規程に違反していないか、内部統制が有効に機能しているかを確認する重要な仕組みです。
しかし、内部監査部門が形式的に存在しているだけでは、十分な効果は期待できません。特に、内部監査部門が代表取締役など経営トップのみに報告する体制の場合、経営陣に関係する不正や不適切な取引が発生した際に、独立した立場で十分に機能できるのかという問題があります。
そこで注目されているのが「デュアルレポーティングライン」です。
近年、有価証券報告書におけるコーポレート・ガバナンス開示の拡充により、内部監査の体制や、内部監査部門と取締役会・監査役会等との連携状況について、より具体的な説明が求められるようになっています。
本日は、内部監査の役割、デュアルレポーティングラインの意味、有価証券報告書での開示、実効性を確保するためのポイントについて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
内部監査とは
内部監査とは、会社内部の独立した立場から、業務の適正性や内部統制の有効性を評価する活動です。
会社では、営業、購買、製造、経理、人事、情報システムなど、さまざまな部門が業務を行っています。これらの業務が法令、社内規程、承認ルール、会計方針などに従って適切に行われているかを確認することが内部監査の役割です。
内部監査では、たとえば次のような事項を確認します。
社内規程に従って承認が行なわれているか
売上や費用の計上が適切か
不正や誤謬を防ぐ内部統制が機能しているか
在庫や固定資産が適切に管理されているか
情報セキュリティ体制に問題がないか
子会社や海外拠点の管理が適切か
法令違反やコンプライアンス上の問題がないか
内部監査は、単なる粗探しではありません。会社のリスクを早期に把握し、業務改善につなげるための重要な仕組みです。
内部監査が重視される背景
内部監査が重視される背景には、企業不祥事やガバナンス不全への問題意識があります。
会社の不正や不適切会計は、現場部門だけで発生するとは限りません。経営陣が関与する不正、子会社での不正、取締役会への報告不足、内部通報制度の機能不全など、組織全体のガバナンスに関わる問題として発生することがあります。
このような場合、内部監査部門が経営トップのみに報告する体制だと、経営陣に関係する問題を十分に指摘できない可能性があります。
たとえば、内部監査部門が代表取締役の指揮命令下にあり、人事評価や予算も経営トップの影響を強く受ける場合、経営陣に不都合な監査結果をそのまま報告できるのかという懸念が生じます。
そのため、内部監査部門が取締役会や監査役会等にも直接報告できる体制を整えることが、内部監査の実効性を高める方法として注目されています。
デュアルレポーティングラインとは
デュアルレポーティングラインとは、内部監査部門が代表取締役などの業務執行側だけでなく、取締役会や監査役会等にも直接報告を行なう仕組みをいいます。
従来、内部監査部門は、代表取締役や経営会議に対して監査結果を報告する体制が多く見られました。これは、内部監査が会社内部の業務改善を目的とする面を持つため、経営トップに報告すること自体は自然な仕組みです。
しかし、それだけでは不十分な場合があります。
内部監査部門が取締役会や監査役会等にも直接報告できるようにすることで、業務執行から一定の独立性を確保し、監査上重要な問題をガバナンス機関へ直接伝えることができます。
つまり、デュアルレポーティングラインは、内部監査部門の報告先を二重化することで、内部監査の独立性と実効性を高める仕組みです。
なぜデュアルレポーティングラインが必要なのか
デュアルレポーティングラインが必要とされる理由は、内部監査部門の独立性を高めるためです。
内部監査部門は、会社内部の組織である以上、完全に外部独立しているわけではありません。人事、予算、評価、業務指示などについて、経営陣の影響を受ける可能性があります。
このような中で、内部監査部門が経営トップのみに報告する体制だと、経営陣自身に関係する問題を発見した場合に、適切に報告できないリスクがあります。
一方、取締役会や監査役会等にも直接報告できる体制があれば、内部監査部門は業務執行側から独立したガバナンス機関に情報を伝えることができます。
これにより、経営者不正、重要な内部統制上の不備、子会社管理の問題、コンプライアンス違反などについて、より早期に取締役会や監査役会等が把握できる可能性があります。
コーポレートガバナンス・コードとの関係
デュアルレポーティングラインは、コーポレートガバナンス・コードでも重要な考え方として示されています。
改訂版コーポレートガバナンス・コードの補充原則では、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきであるとされています。その手法の一つとして、デュアルレポーティングラインの構築が挙げられています。
これは、内部監査部門を単なる社長直轄のチェック部門として位置づけるのではなく、取締役会や監査役会等と連携するガバナンス上の重要な機能として捉える考え方です。
内部監査の結果は、経営改善に役立つだけでなく、取締役会による監督や監査役等による監査にも活用されます。
そのため、内部監査部門が取締役会・監査役会等と定期的に情報共有し、重要な監査結果を直接報告する体制を整えることが求められています。
有価証券報告書での開示拡充
近年、有価証券報告書では、コーポレート・ガバナンスに関する開示が拡充されています。
その一環として、内部監査の実効性を確保するための取組についても、投資家が確認できるようになっています。
内部監査部門がどのような体制で運営されているのか、取締役会や監査役会等とどのように連携しているのか、デュアルレポーティングラインがあるのかといった情報は、会社のガバナンスの実態を理解するうえで重要です。
投資家にとって、内部監査が形式的な組織にとどまっているのか、それとも実際に経営監督やリスク管理に役立っているのかは、会社の信頼性を判断する材料になります。
そのため、会社は単に「内部監査部門を設置しています」と記載するだけでなく、内部監査の報告経路、監査役等との連携、取締役会への報告状況などを具体的に説明することが重要です。
体制を作るだけでは不十分
デュアルレポーティングラインは、内部監査の実効性を高める有効な仕組みです。
しかし、仕組みを作るだけで内部監査が十分に機能するわけではありません。
たとえば、内部監査部門が取締役会や監査役会等に報告できる規程になっていても、実際には年に一度の形式的な報告だけで終わっている場合、実効性は限定的です。
また、内部監査人が1名しかいない場合や、他部門との兼任で内部監査を行っている場合には、十分な監査範囲を確保することが難しいことがあります。
さらに、内部監査部門の人事権や評価権が代表取締役に集中している場合、取締役会や監査役会等への直接報告が制度上可能であっても、心理的な独立性が十分に確保されない可能性があります。
つまり、デュアルレポーティングラインは重要ですが、それだけで十分ではありません。人員、権限、予算、専門性、報告頻度、監査計画の承認プロセスまで含めて、内部監査の実効性を考える必要があります。
内部監査部門が少人数の場合の課題
日本企業では、内部監査部門の体制が会社によって大きく異なります。
大企業では、専門の内部監査部門があり、複数名の内部監査人が国内外の拠点を監査しているケースがあります。
一方で、中堅上場会社やIPO準備会社では、内部監査人が1名だけというケースもあります。また、管理部門や経理部門の担当者が内部監査を兼任している場合もあります。
少人数体制では、内部監査の範囲や深度に限界が出やすくなります。
たとえば、年間監査計画を作っても、全拠点・全業務を十分に監査できないことがあります。また、兼任者が自分の所属部門を監査することになれば、自己監査の問題も生じます。
このような場合には、リスクの高い領域に重点を置く、外部専門家を活用する、監査役や監査法人と連携するなど、限られた体制の中で実効性を高める工夫が必要です。
内部監査と監査役等との連携
内部監査の実効性を高めるためには、監査役、監査等委員会、監査委員会との連携が重要です。
内部監査部門は、会社内部の業務や内部統制を詳細に確認します。一方、監査役等は、取締役の職務執行を監査する立場にあります。両者が連携することで、会社全体の監査機能が強化されます。
たとえば、内部監査部門が実施した監査結果を監査役等に報告することで、監査役等は現場のリスクや内部統制上の問題を把握しやすくなります。
また、監査役等が重要と考えるテーマを内部監査計画に反映することで、よりガバナンス上重要な領域を監査対象にできます。
内部監査部門と監査役等の定期的なミーティング、監査計画の共有、監査結果の報告、改善状況のフォローアップは、実務上非常に重要です。
内部監査と取締役会の関係
内部監査の結果は、取締役会にも重要な情報を提供します。
取締役会は、経営の基本方針や重要な業務執行を決定するとともに、経営陣を監督する役割を担っています。そのため、会社内部でどのようなリスクが発生しているのか、内部統制が有効に機能しているのかを把握する必要があります。
内部監査部門が取締役会に直接報告することで、取締役会は現場のリスクや改善課題をより的確に把握できます。
特に、社外取締役にとって、内部監査部門からの報告は重要な情報源になります。社外取締役は日常業務に直接関与していないため、内部監査の結果を通じて会社の実態を理解することができます。
その意味で、内部監査と取締役会の連携は、社外取締役の監督機能を高めるうえでも重要です。
開示で問われるのは「実態」
有価証券報告書で内部監査体制を開示する際には、形式的な記載では不十分です。
たとえば、「当社は内部監査部門を設置し、監査役会と連携しています」というだけでは、投資家にとって十分な情報とはいえません。重要なのは、実際にどのような体制で、どのような頻度で、誰に対して、どのような内容を報告しているのかです。
開示では、次のような点が注目されます。
内部監査部門の人員数
専任か兼任か
内部監査部門の報告先
代表取締役への報告状況
取締役会への報告状況
監査役会等への報告状況
監査計画の承認プロセス
監査結果のフォローアップ体制
内部監査、監査役等、会計監査人の三様監査の連携状況
投資家は、開示文言から会社の内部監査が実際に機能しているかを読み取ろうとします。そのため、実態に即した具体的な開示が重要です。
IPO準備会社にとっての内部監査
内部監査体制の整備は、IPO準備会社にとっても重要なテーマです。
上場審査では、会社の内部管理体制が重視されます。内部監査が形式的なものではなく、実際にリスクを発見し、改善につなげる仕組みとして機能しているかが確認されます。
IPO準備会社では、上場準備の過程で内部監査担当者を選任し、内部監査規程や年間監査計画を整備することが一般的です。
しかし、内部監査担当者が少人数であったり、他部門と兼任していたりする場合には、独立性や実効性に注意が必要です。
また、上場後を見据えると、内部監査部門が代表取締役だけでなく、取締役会や監査役会等にも報告する体制を早めに整えておくことが望ましいでしょう。
IPO準備段階からデュアルレポーティングラインを意識しておくことで、上場後のコーポレート・ガバナンス開示にも対応しやすくなります。
中小企業にも内部監査の考え方は有効
内部監査というと、上場会社や大企業だけのものと思われるかもしれません。
しかし、中小企業でも内部監査の考え方は有効です。
たとえば、店舗や拠点が複数ある会社、現金取引が多い会社、在庫を多く持つ会社、経理担当者が少人数の会社、親族外承継やM&Aを検討している会社では、内部チェック体制が重要になります。
中小企業では、独立した内部監査部門を設けることは難しいかもしれません。しかし、定期的な業務チェック、現金・在庫の棚卸、承認ルールの確認、外部専門家によるレビューなどを行うことで、内部監査に近い機能を持たせることができます。
会社規模に応じた内部監査・内部統制の仕組みを整えることは、不正防止、業務効率化、金融機関対応、事業承継にも役立ちます。
実務で確認すべきチェックポイント
内部監査体制を整備する際には、次の点を確認するとよいでしょう。
内部監査部門または担当者が明確に定められているか
内部監査担当者の独立性が確保されているか
内部監査規程が整備されているか
年間監査計画が作成されているか
リスクに応じた監査対象が選定されているか
監査結果が代表取締役だけでなく取締役会や監査役会等にも報告されているか
改善指摘事項のフォローアップが行なわれているか
監査役等や会計監査人との情報共有が行われているか
内部監査部門の人員・専門性が十分か
有価証券報告書の開示内容が実態と一致しているか
内部監査は、規程や組織図を作って終わりではありません。重要なのは、実際にリスクを発見し、改善につなげる仕組みとして機能していることです。
まとめ
内部監査は、会社の業務が適切に行われているか、内部統制が有効に機能しているかを確認する重要な仕組みです。
近年、有価証券報告書におけるコーポレート・ガバナンス開示の拡充により、内部監査の体制や実効性がより注目されるようになっています。
特に重要なのが、デュアルレポーティングラインです。これは、内部監査部門が代表取締役だけでなく、取締役会や監査役会等にも直接報告する仕組みをいいます。
デュアルレポーティングラインを整備することで、内部監査部門の独立性を高め、経営陣に関係する不正や内部統制上の重要な問題を、ガバナンス機関へ直接報告しやすくなります。
ただし、体制を作るだけでは十分ではありません。内部監査人が1名しかいない、兼任である、人事権が代表取締役に集中しているといった場合には、内部監査の実効性に課題が残る可能性があります。
内部監査を有効に機能させるためには、人員、専門性、独立性、報告経路、監査計画、フォローアップ、監査役等や会計監査人との連携を総合的に整備することが重要です。
上場会社やIPO準備会社では、有価証券報告書や上場審査において、内部監査体制の実態が問われます。形式的な開示ではなく、自社の内部監査がどのように機能しているのかを具体的に説明できるよう、早めに体制を見直しておくことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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