SESCが不正会計リスクをシステムで自動検出へ|上場企業が押さえるべき開示・内部統制のポイント
- 安田 亮
- 8月6日
- 読了時間: 10分
こんばんは!代表の安田です。
証券取引等監視委員会(SESC)は、不正会計リスクの高い企業を自動的に検出するシステムを導入し、開示検査業務に活用しています。
近年、上場企業による不正会計や開示規制違反が相次いで明らかになる中、規制当局は、問題が表面化してから対応するだけでなく、より早い段階でリスクの高い企業を把握する体制を強化しています。
今回注目されているのが、SESCの開示検査課が導入した「不正会計検出モデル」です。
このシステムは、過去に不正会計を行なった企業の特徴や傾向を分析し、財務諸表の数値などを基に、不正会計リスクが高い企業を一覧で表示できるものとされています。
本記事では、公認会計士の視点から、SESCの不正会計検出モデルの概要、検査対象となりやすい企業の特徴、上場企業が今後意識すべき開示・内部統制上のポイントを整理します。
1. SESCの開示検査とは
証券取引等監視委員会(SESC)は、市場の公正性・透明性の確保や投資者保護を担う組織です。その中で、開示検査課は、上場会社等が提出する有価証券報告書、有価証券届出書、大量保有報告書などの開示書類に、重大な虚偽記載等の開示規制違反がないかを検査しています。
開示規制違反が認められた場合、SESCは金融庁長官等に対して課徴金納付命令の勧告を行います。開示検査課の主な業務は、次の4つに整理できます。
各種情報の収集・分析
上場会社等に対する検査
開示規制違反が認められた場合の課徴金納付命令勧告等
再発防止・未然防止
つまり、SESCの開示検査は、単に違反企業を処分するためだけのものではありません。市場全体の信頼を守るため、不正会計や不適切開示を早期に発見し、再発・未然防止につなげる役割も担っています。
2. 不正会計検出モデルとは
SESCが導入した「不正会計検出モデル」は、開示検査における情報収集・分析を支援するシステムです。
このモデルは、過去に不正会計を行った企業の特徴や傾向を分析し、それを指標として組み込んでいます。そして、財務諸表の数値などから、不正会計リスクが相対的に高い企業を抽出できる仕組みです。
これまで、調査対象候補の選定は、第三者委員会報告書が公表された企業、証拠物を伴う内部通報があった企業など、不正リスクの確度が高い企業を中心に行われることが多かったとされています。
しかし、システムの導入により、問題がまだ表面化していない企業であっても、一定の根拠に基づいて調査対象候補にできるようになっています。これは、規制当局の監視が「事後対応」から「早期検知」へ進んでいることを意味します。
3. 不正会計リスクが高い企業の指標とは
不正会計検出モデルでは、過去の不正会計事例から得られた特徴や傾向が指標として活用されています。不正会計リスクが高い企業の指標として、たとえば次のような項目が挙げられています。
業績の急回復
監査法人の交代
これらは一見すると、必ずしも不正を意味するものではありません。
業績の急回復は、実際に経営改善や市場環境の好転によって生じることもありますし、監査法人の交代も、任期満了やグループ監査体制の見直しなど、正当な理由で行われることがあります。
しかし、規制当局の視点では、こうした変化が不正会計リスクの兆候となる場合があります。たとえば、業績が悪化し、債務超過や上場廃止リスクが意識される局面では、企業に業績をよく見せたいインセンティブが生じやすくなります。その後、急激に業績が回復した場合には、その回復が実態に基づくものか、会計処理に無理がないかが注目されます。
また、監査法人の交代についても、会社と監査法人の間で会計処理をめぐる見解の相違や、監査上の緊張関係があった可能性があるため、リスク指標の一つとして見られます。
4. 調査対象候補の選定はどう変わるのか
まず、情報収集チームが、適時開示、証拠物がある内部通報、不正会計検出モデルの活用などにより、調査対象候補となる企業を複数選定します。その後、開示検査を行なうチームが、その候補の中から不正リスクが高い企業を決定し、検査を実施する流れです。
このプロセスから分かるのは、システムが自動的に「違反企業」を決めるわけではないという点です。
不正会計検出モデルは、あくまで調査対象候補を選ぶための分析支援ツールです。最終的には、人による判断や、他の情報との組み合わせにより、検査対象が決定されます。
ただし、システムにより不正リスクの原因や傾向を共有しやすくなるため、従来よりも効率的かつ深度ある調査が可能になると考えられます。
5. 上場企業にとっての意味
SESCによる不正会計検出モデルの導入は、上場企業にとって重要なメッセージを持っています。それは、企業側が「まだ問題は表面化していない」「内部通報も出ていない」「第三者委員会も設置していない」と考えていても、財務数値や開示情報の異常な動きから、当局の監視対象となる可能性があるということです。
特に、次のような企業は、より慎重な説明責任が求められます。
業績が急激に改善している企業
赤字・債務超過から短期間で回復している企業
監査法人を交代した企業
売上・利益・在庫・売掛金などに不自然な増減がある企業
大型の会計見積りや一過性損益が多い企業
内部統制報告書や監査報告書で重要な指摘がある企業
もちろん、これらに該当すること自体が不正を意味するわけではありません。しかし、外部から見て説明が難しい変動がある場合には、開示・内部統制・監査対応の面で、より丁寧な準備が必要になります。
6. 不正会計リスクを高める典型的な状況
不正会計は、単独の要因で発生するというより、複数の要因が重なったときにリスクが高まります。公認会計士の視点では、特に次のような状況に注意が必要です。
(1)業績プレッシャーが強い
上場維持基準、金融機関との財務制限条項、業績予想、役員報酬、資金調達などの事情により、業績をよく見せたい圧力が強まると、不正会計リスクは高まります。
(2)会計見積りの裁量が大きい
減損、貸倒引当金、棚卸資産評価、繰延税金資産、工事進行基準、収益認識など、経営者の見積りや判断が大きく影響する領域では、恣意的な会計処理が入り込みやすくなります。
(3)内部統制が弱い
経理部門の人員不足、職務分掌の不備、子会社管理の弱さ、承認プロセスの形骸化、内部監査の不足などは、不正の発見を遅らせる要因になります。
(4)監査法人との関係に変化がある
監査法人の交代は、それ自体が悪いわけではありません。しかし、交代理由や前任監査人とのコミュニケーションが不透明な場合、外部からはリスクシグナルとして見られることがあります。
7. 上場企業が整備すべき対応
SESCの監視強化を踏まえ、上場企業は、不正会計リスクを低減するために次の対応を進めることが重要です。
① 業績変動の説明可能性を高める
業績が急回復した場合や、売上・利益が大きく変動した場合には、その要因を定量・定性の両面から説明できるようにします。
単なる「販売好調」「コスト削減」ではなく、どの製品・地域・顧客・施策がどの程度寄与したのかを整理することが重要です。
② 監査法人交代の理由を明確にする
監査法人を交代する場合には、交代理由、選定プロセス、前任監査人との引継ぎ、会計処理上の重要な見解相違の有無などを明確に整理しておく必要があります。
開示文言が形式的だと、投資家や当局から疑念を持たれやすくなります。
③ 会計上の見積りの根拠を文書化する
会計上の見積りは、不正会計リスクが高まりやすい領域です。見積りの前提、使用したデータ、経営者の判断、感応度分析、過年度見積りとの差異分析などを文書化し、監査人や取締役会に説明できる状態にしておくことが重要です。
④ 内部通報・内部監査を機能させる
不正の早期発見には、内部通報制度と内部監査の実効性が不可欠です。
制度が存在するだけではなく、従業員が安心して通報できるか、通報後の調査プロセスが明確か、経営陣から独立したチェック機能があるかを確認する必要があります。
⑤ 子会社・海外拠点の管理を強化する
不正会計は、本社だけでなく、子会社や海外拠点で発生することもあります。特に、経理人材が限られる子会社や、現地任せになっている海外拠点では、売上計上、在庫、債権、関連当事者取引などの管理を強化する必要があります。
8. 取締役会・監査役等が確認すべきポイント
不正会計リスクへの対応は、経理部門だけの仕事ではありません。取締役会、監査役等、監査委員会、内部監査部門も含めたガバナンス上の課題です。
取締役会・監査役等は、次の点を確認すべきです。
業績急回復の要因が合理的に説明されているか
会計見積りの前提に過度な楽観性がないか
監査法人との重要な協議事項が共有されているか
監査法人交代の理由が透明か
内部通報制度が実際に利用されているか
内部監査がリスクの高い領域を対象にしているか
子会社・海外拠点の不正リスクを把握しているか
経営者による内部統制の無効化リスクに対応しているか
取締役会が不正会計リスクを定期的に議論し、その記録を残すことは、ガバナンスの実効性を示すうえでも重要です。
9. 実務チェックリスト
SESCの不正会計検出モデル導入を踏まえ、上場企業は次の点を確認しておくとよいでしょう。
業績の急回復や大幅変動について、定量的な説明資料を作成しているか
売上、利益、在庫、売掛金、営業キャッシュ・フローの動きに不自然な乖離がないか
監査法人の交代理由を社内外に説明できるか
重要な会計見積りについて、根拠資料と判断メモを残しているか
内部統制上の不備や監査人からの指摘を放置していないか
内部通報制度が周知され、通報者保護が機能しているか
子会社・海外拠点の財務報告リスクを定期的に評価しているか
取締役会・監査役等が不正会計リスクを議論しているか
適時開示・有報・決算説明資料の記載が一貫しているか
当局・投資家・監査人に説明できる証跡を整備しているか
まとめ
SESCは、不正会計リスクの高い企業を自動的に検出する「不正会計検出モデル」を導入し、開示検査業務に活用しています。過去の不正会計企業の特徴や傾向を基に、財務諸表の数値などから高リスク企業を一覧表示できる仕組みであり、問題が表面化する前の段階から調査対象候補を選定できるようになっています。
これにより、規制当局の監視は、第三者委員会報告書や内部通報などをきっかけとした事後対応だけでなく、データ分析を活用した早期発見へと進んでいます。
上場企業にとって重要なのは、業績の急回復や監査法人の交代といった事象が、外部からリスクシグナルとして見られ得ることを理解することです。該当する事象がある場合には、不正ではないことを前提としても、その背景や合理性を説明できるよう、開示、内部統制、監査対応を丁寧に整備する必要があります。
不正会計リスクへの対応は、経理部門だけで完結するものではありません。取締役会、監査役等、内部監査、監査法人が連携し、業績変動の説明可能性、会計見積りの妥当性、内部通報制度、子会社管理を継続的に点検することが、上場会社としての信頼性を守るために不可欠です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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