従業員不正で過年度売上が過大だった場合の税務対応|更正の請求・仮装経理・過年度修正を税理士が解説
- 安田亮
- 19 時間前
- 読了時間: 12分
こんばんは!代表の安田です。
会社経営において、従業員による不正は決して他人事ではありません。
架空売上、架空請求、横領、キックバック、経費の水増し、売上の前倒し計上など、不正の形はさまざまです。
特に営業担当者が業績評価を気にして架空の売上伝票を回していたようなケースでは、発見が遅れると、会計処理だけでなく税務申告や会社法上の計算書類にも影響が及びます。
「過去の売上が過大だったなら、法人税を払い過ぎていたはず。すぐに税金を返してもらえるのでは?」
そう考えたくなりますが、実務はそれほど単純ではありません。
過年度の申告を直す場合には、更正の請求で対応できるのか、仮装経理に該当するのか、過年度の計算書類をどう扱うのか、株主総会への説明が必要かなど、複数の論点を整理する必要があります。
本日は、従業員不正により過年度の売上が過大計上されていた場合の税務・会計・会社法上の注意点を、税理士の視点から解説します。
従業員不正が発覚したときに最初に確認すべきこと
従業員不正が発覚した場合、まず行なうべきことは「事実関係の確認」です。
たとえば、次のような点を確認します。
不正を行った従業員は誰か
不正の期間はいつからいつまでか
架空売上なのか、売上の前倒しなのか
取引先は実在するのか
請求書・納品書・契約書は存在するのか
入金はあったのか
入金がない場合、債権として残っているのか
上司や管理者の関与はあったのか
決算書や申告書にどの程度影響しているのか
不正を発見すると、すぐに「修正申告」や「更正の請求」を考えたくなります。
しかし、税務上の手続きに進む前に、まずは不正の原因、金額、期間、関係者、証拠資料を整理する必要があります。
事実関係が曖昧なまま税務処理を行なうと、後で説明がつかなくなる可能性があります。
過年度売上が過大だった場合、税金は戻るのか
過年度の売上が過大に計上されていた場合、法人税の課税所得も過大になっていた可能性があります。そのため、原則的には過去の法人税申告について「更正の請求」を検討することになります。
更正の請求とは、納め過ぎた税金を減額してもらうために、納税者側から税務署長に対して行なう手続きです。
国税庁の手続案内では、法人税及び地方法人税の確定申告に係る税額等について更正の請求を行なう場合、取引の記録等に基づいて請求理由の基礎となる事実を証明する書類を添付することとされています。
つまり、「過去の売上が間違っていたので税金を返してください」と言うだけでは足りません。架空売上であったこと、実際には取引が存在しなかったこと、どの事業年度の所得がいくら過大だったのかを、客観的な資料で説明できるようにする必要があります。
更正の請求には期限がある
更正の請求は、いつまでもできるわけではありません。
通常の更正の請求には期限があります。
また、法人税の更正の請求では、内容によって期限が異なる場合があります。国税庁の手続案内では、一定の場合について、平成30年4月1日以後に開始した事業年度に係るものは10年以内とする取扱いも示されています。
従業員不正が長期間にわたっていた場合、どの年度まで更正の請求ができるのかを整理する必要があります。
古い年度については、税務上の手続きが制限される可能性があります。
そのため、不正が発覚したら、まず対象年度と金額を一覧化し、税務手続きの期限を確認しましょう。
仮装経理に該当する場合は還付がすぐに受けられないことがある
従業員不正による売上過大計上で特に注意したいのが、「仮装経理」です。
仮装経理とは、実際よりも利益が多く見えるように、帳簿や決算書を仮装して経理処理するようなケースをいいます。
たとえば、架空売上を計上し、それに基づいて法人税を過大に申告していた場合、仮装経理として扱われる可能性があります。
この場合、更正の請求をしたからといって、ただちに法人税が還付されるとは限りません。
国税庁は、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額・地方法人税額の還付請求について、法人税法第135条第4項等に基づく手続として案内しており、その対象者や提出時期も別途定めています。
仮装経理の取扱いは、通常の計算誤りとは異なります。
これは、利益を過大に表示しておきながら、後から簡単に税金の還付を受けることを制限する趣旨があるためです。
不正が「単なるミス」なのか、「仮装経理」に該当するのかは、税務上非常に重要な判断になります。
従業員単独の不正でも会社の申告に影響する
「会社ぐるみではなく、従業員が勝手にやったことだから、会社の責任ではない」と感じることもあるでしょう。
しかし、法人税の申告は会社として行なっています。
従業員が作成した架空売上伝票が経理に回り、それが決算書や申告書に反映されていた場合、会社の課税所得や税額に影響します。
税務上は、従業員個人の責任論だけでなく、会社として過年度の申告をどう是正するかを検討する必要があります。
また、管理者が見逃していた、内部統制が機能していなかった、売掛金残高の確認が不十分だったといった事情がある場合には、再発防止策も求められます。
税務対応と同時に、社内管理体制の見直しも必要です。
会社法上、過去の計算書類はどう扱うか
過年度の売上が過大であった場合、会社法上の計算書類にも影響します。
株式会社では、計算書類を定時株主総会に提出し、承認を受けることが求められます。会社法438条では、計算書類及び事業報告の定時株主総会への提出等や、計算書類の承認について定められています。
では、過去に株主総会で承認された計算書類に誤りが見つかった場合、その承認が当然に無効になるのでしょうか。
通常は、過去の計算書類に誤りがあったとしても、その誤りが重要でなければ、過去の計算書類の承認決議まで直ちに無効になるとは限りません。
ただし、誤りが重要であり、株主の判断に影響を与えるような場合には、会社法上も慎重な対応が必要です。
株主への説明、注記、事業報告での開示、場合によっては修正後の計算書類の承認などを検討することになります。
会計上は過年度遡及会計の検討が必要
会計上は、過年度の誤謬として処理すべきかを検討します。
企業会計基準委員会が公表している企業会計基準第24号は、会計方針の変更、表示方法の変更、誤謬の訂正などが行われた場合の過去の財務諸表の遡及処理に関する取扱いを定めたものです。
重要な過年度誤謬が見つかった場合には、原則として修正再表示により、過去の財務諸表に反映させる処理が検討されます。
中小企業であっても、金融機関や株主、取引先へ決算書を提出している場合には、単に当期の雑損失や雑収入で処理すればよいとは限りません。
過去の売上過大計上がどの程度重要か、利害関係者にどのような影響があるかを踏まえ、会計処理を慎重に判断する必要があります。
税務と会計で処理が一致しないことがある
過年度誤謬の処理では、税務と会計の処理が一致しないことがあります。
会計上は、過年度遡及会計により期首利益剰余金を修正する場合があります。
一方、税務上は、過年度の所得金額を修正するために更正の請求や修正申告を行なうことになります。
その結果、会計上の期首利益剰余金と、法人税申告書別表5(一)の利益積立金額が一致しないことがあります。
そのため、別表5(一)の記載には注意が必要です。
過去の売上過大計上を当期に修正した場合、会計上の修正再表示と税務上の別表調整にズレが生じます。過年度の誤りを直す場合には、会計仕訳だけでなく、法人税申告書の別表調整まで確認することが重要です。
修正申告ではなく更正の請求になるケース
過年度の売上が過大だった場合、税金を多く納めていた可能性が高いため、通常は修正申告ではなく更正の請求を検討します。
修正申告は、過去の税額が少なかった場合に、追加で税金を納めるための手続きです。
一方、更正の請求は、過去の税額が多かった場合に、税額を減らしてもらうための手続きです。
ただし、不正の内容を調査した結果、売上過大だけでなく、架空経費や売上除外など別の誤りも発見されることがあります。
その場合、年度によっては追加納税となるケースもあり得ます。
「税金が戻るはず」と決めつけず、まずは年度別に正しい所得金額を再計算することが必要です。
更正の請求に必要な資料
従業員不正による過年度売上の修正では、次のような資料を準備しておきましょう。
不正発覚の経緯をまとめた資料
不正を行なった従業員の報告書・始末書
社内調査報告書
架空売上の一覧
対象年度別の影響額
請求書・納品書・契約書の有無
売掛金残高の推移
取引先への確認記録
入金がないことを示す資料
決算書・総勘定元帳・売掛金台帳
過去の法人税申告書
修正後の所得計算資料
取締役会議事録や株主総会関係資料
再発防止策
更正の請求では、請求理由を証明する資料が重要です。
税務署から見れば、「本当に過去の売上が存在しなかったのか」「単なる回収不能ではないのか」「仮装経理ではないのか」を確認する必要があります。
証拠資料を丁寧に整理しておくことが、スムーズな対応につながります。
架空売上と貸倒損失は違う
従業員不正で売掛金が残っている場合、「入金されないなら貸倒損失にすればよいのでは」と考えることがあります。
しかし、架空売上と貸倒損失は別物です。
貸倒損失は、実在する売上債権について、取引先の倒産や支払不能などにより回収できなくなった場合に問題となるものです。
一方、そもそも取引が存在しなかった架空売上であれば、売掛金自体が実在しません。
この場合、貸倒損失ではなく、過去の売上計上そのものを取り消す方向で検討する必要があります。
「売掛金が回収できない」という表面的な状況だけで判断すると、税務処理を誤る可能性があります。
消費税の修正も忘れない
架空売上を計上していた場合、法人税だけでなく消費税にも影響することがあります。
課税売上として消費税を申告していた場合、過年度の消費税申告も過大になっていた可能性があります。そのため、法人税の更正の請求だけでなく、消費税の更正の請求も検討する必要があります。
ただし、消費税についても、対象期間、インボイス、請求書発行、取引先側の仕入税額控除への影響などを確認する必要があります。
架空取引で請求書が発行されていた場合には、相手先の処理にも影響することがあるため、取引先への確認や説明も必要です。
従業員への損害賠償請求と税務
不正を行なった従業員に対して、会社が損害賠償請求を行なうことがあります。
この場合、損害賠償金を受け取ったときの税務処理にも注意が必要です。
架空売上を取り消し、過年度の税金について更正の請求を行ったうえで、別途従業員から損害賠償金を受け取る場合、その損害賠償金は会社の益金になる可能性があります。
また、会社の損害額と、従業員から実際に回収できる金額は一致しないことも多いです。
回収不能部分についてどのように処理するかも検討が必要です。
税務処理だけでなく、労務・法務の観点から、弁護士や社会保険労務士と連携することが望ましいです。
再発防止のために見直すべき内部管理
従業員不正が発覚した場合、税務処理と同じくらい大切なのが再発防止です。
特に売上計上に関する不正では、次のような管理体制を見直しましょう。
営業担当者が単独で売上伝票を作成できないようにする
契約書・発注書・納品書・検収書を確認してから売上計上する
請求書発行と売上計上を連動させる
売掛金の滞留状況を毎月確認する
長期未回収債権を経営者に報告する
取引先別残高確認を定期的に行なう
売上計上基準を文書化する
営業成績評価を売上だけに偏らせない
上司による承認を形式的にしない
経理部門が違和感を指摘できる体制を作る
不正は、個人の問題であると同時に、組織の仕組みの問題でもあります。
「不正をした従業員が悪い」で終わらせるのではなく、同じことが起きない仕組みを作ることが重要です。
税務調査で確認されやすいポイント
過年度の売上過大計上や従業員不正があった場合、税務調査では次の点が確認されやすくなります。
不正の事実関係
架空売上の発生年度と金額
取引先の実在性
売掛金の回収状況
社内調査の内容
経営者や管理者の関与
仮装経理に該当するか
更正の請求の根拠資料
消費税申告への影響
損害賠償金の処理
再発防止策
税務署に説明する際には、感情的に「従業員が勝手にやった」と主張するだけでは不十分です。事実、資料、会計処理、税務処理、再発防止策を整理して説明できるようにしておきましょう。
まとめ:過年度売上の誤りは、税務・会計・会社法をセットで確認する
従業員不正により過年度の売上が過大計上されていた場合、税金が戻る可能性はあります。
しかし、単純に「売上が過大だったから更正の請求をすればよい」という話ではありません。
まず、不正の内容、対象年度、影響額、証拠資料を整理する必要があります。
法人税では、更正の請求を検討しますが、架空売上のように仮装経理に該当する場合には、通常の更正の請求とは異なる取扱いになる可能性があります。
会計上は、過年度誤謬として遡及処理や修正再表示を検討する必要があります。
会社法上は、過去に承認された計算書類や株主への説明、注記、事業報告への記載なども問題になります。
また、法人税だけでなく消費税、別表5(一)、損害賠償金、内部管理体制の見直しまで含めて対応することが重要です。
従業員不正は、発覚した瞬間から会社に大きな負担を与えます。
だからこそ、慌てて税務手続きを進めるのではなく、事実関係を整理し、税理士・弁護士・社会保険労務士など専門家と連携しながら、税務・会計・法務・労務を一体で対応していきましょう。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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