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役員報酬が高すぎると損金不算入?過大役員給与の実質基準・形式基準を税理士が解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
9月4日
読了時間: 21分

更新日:9月10日

おはようございます!代表の安田です。


中小企業の税務で、役員報酬は非常に重要な論点です。


役員報酬は、法人にとっては損金になります。

一方、役員個人にとっては給与所得として課税されます。


そのため、会社の利益、個人の所得税、社会保険料、資金繰り、金融機関への説明などに大きく影響します。


特にオーナー企業では、代表取締役や親族役員の報酬をどの程度に設定するかで悩むことが多いでしょう。


ただし、役員報酬は「毎月同額にしていれば必ず全額損金になる」というものではありません。


法人税法では、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与などの支給形態要件を満たしていても、なお「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入とされます。


これが、いわゆる過大役員給与です。

過大役員給与に該当すると、会社では損金不算入となり、法人税等の負担が増える可能性があります。


さらに、役員個人では給与として課税されているにもかかわらず、会社側では損金にならないという、いわば二重に痛い状態になります。


本日は、役員給与の過大判定について、実質基準、形式基準、非常勤役員の注意点、代表者報酬の急増リスク、使用人兼務役員の賞与まで、税理士の視点から分かりやすく解説します。


過大役員給与とは

過大役員給与とは、法人が役員に支給した給与のうち、不相当に高額な部分の金額をいいます。


法人税法では、役員給与について、一定の支給形態を満たすものに限り損金算入を認めています。


たとえば、中小企業で最も一般的なのは定期同額給与です。

毎月同じ金額を役員に支給する給与で、期首から原則3か月以内の通常改定など、一定のルールに従っていれば損金算入の対象になります。


しかし、定期同額給与に該当していても、その金額が役員の職務内容や会社の業績などから見て高すぎる場合には、その高すぎる部分は損金になりません。


つまり、役員給与には二段階のチェックがあります。

まず、支給形態として定期同額給与などに該当するか。

次に、金額として不相当に高額ではないか。


この2つを両方クリアして、はじめて損金算入が安全に認められると考えるべきです。


過大役員給与の判定区分

過大役員給与は、次の区分で判定します。

  • 退職給与以外の役員給与

  • 役員退職給与

  • 使用人兼務役員の使用人職務に対する賞与


このうち、毎月の役員報酬など、退職給与以外の役員給与については、さらに実質基準と形式基準があります。


実質基準は、その役員の職務内容、会社の収益状況、使用人給与、同業類似法人の役員給与水準などから見て、役員の職務対価として相当な金額を超える部分を損金不算入とするものです。


形式基準は、定款や株主総会決議などで定めた役員給与の支給限度額を超える部分を損金不算入とするものです。


退職給与以外の役員給与では、実質基準と形式基準でそれぞれ損金不算入額を計算し、いずれか多い金額が損金不算入になります。


実質基準とは

実質基準とは、役員給与がその役員の職務に対する対価として相当かどうかを実態で判断する基準です。法人税法施行令では、主に次の要素を参照することとされています。

  • その役員の職務の内容

  • その法人の収益の状況

  • その法人の使用人に対する給与の支給状況


同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の役員給与の支給状況。

これらを総合的に見て、役員の職務対価として相当と認められる金額を超える部分が損金不算入になります。


ここで重要なのは、具体的な上限額が法令で決まっているわけではないという点です。

  • 売上1億円なら代表者報酬はいくらまで

  • 利益1,000万円なら役員報酬はいくらまで

といった明確な表はありません。


そのため、実質基準は税務調査で争いになりやすい論点です。


実質基準では役員ごとに判定する

実質基準では、役員ごとに、その職務に対する相当額を判断します。

たとえば、代表取締役、専務取締役、非常勤取締役、監査役、相談役などでは、職務内容も責任も異なります。


当然、相当と認められる報酬額も異なります。

また、複数の役員がいる場合、ある役員の報酬が相当額を下回っていても、別の役員の過大額と通算して損金不算入額を減らすことはできません。


たとえば、代表取締役の報酬が相当額より600万円高く、専務取締役の報酬が相当額より600万円低かったとしても、代表取締役の過大額600万円はそのまま問題になります。


役員報酬の総額だけでなく、各役員ごとの職務内容と報酬額のバランスを確認する必要があります。


使用人兼務役員は使用人分も含めて実質基準で見る

使用人兼務役員については注意が必要です。


使用人兼務役員とは、取締役営業部長、取締役工場長など、役員でありながら使用人としての職制上の地位を有し、常時使用人としての職務にも従事する人をいいます。


実質基準では、その役員に対して支給した給与額に、役員分だけでなく使用人分の給料や手当も含めて判定します。


つまり、役員報酬部分だけが適正でも、使用人分給与を含めた総額が、その人の職務対価として高すぎる場合には、過大役員給与の問題が生じます。


使用人兼務役員については、役員としての職務、使用人としての職務、それぞれの内容と報酬水準を整理しておくことが重要です。


形式基準とは

形式基準とは、定款や株主総会決議などで定めた役員給与の支給限度額を超えて支給した部分を損金不算入とする基準です。


株式会社の場合、取締役や監査役の報酬は、原則として定款または株主総会の決議で定める必要があります。


実務では、定款に個別金額を定めることは少なく、定時株主総会で取締役全体の報酬限度額や監査役全体の報酬限度額を決議し、その範囲内で取締役会や代表取締役が各人別の支給額を決定することが多いです。


たとえば、株主総会で取締役報酬の年額限度額を8,500万円と決議している場合、その限度額を超える部分は形式基準で損金不算入となる可能性があります。


形式基準は、実質的に高いかどうかではなく、決議された限度額を超えているかどうかを見るものです。


そのため、会社法上の手続と税務処理が密接に関係します。


形式基準は限度額等を定めている法人に適用される

形式基準は、定款や株主総会等の決議により、役員給与の支給限度額または算定方法を定めている法人に適用されます。


逆にいえば、定款や株主総会決議で限度額等を定めていない法人については、法人税上の形式基準は適用されず、実質基準のみで過大役員給与を判定すると考えられます。


ただし、これは法人税上の話です。

会社法上は別問題です。

取締役の報酬について、定款の定めも株主総会決議もなく、全株主の同意もない場合には、取締役の具体的な報酬請求権が認められない可能性があります。


つまり、法人税上は形式基準が適用されないとしても、会社法上は手続不備という大きなリスクが残ります。


中小企業では、株主総会議事録や取締役会議事録を作成していないケースが少なくありません。


税務調査だけでなく、相続争い、株主間トラブル、役員退任時の紛争に備える意味でも、役員報酬の決議は必ず整備しておくべきです。


みなし役員は形式基準の対象外

法人税法には、会社法上の役員ではなくても、法人税上は役員として扱われる「みなし役員」という概念があります。


たとえば、同族会社の使用人であっても、一定の株式所有割合を有し、実質的に会社経営に従事している人は、法人税上の役員とされることがあります。


実質基準では、このみなし役員も判定対象になります。

一方、形式基準は、会社法上の役員報酬限度額等との関係で判定するため、法人税法独自の概念であるみなし役員に対する給与は、形式基準の対象にはなりません。


この点も、実質基準と形式基準の違いとして押さえておきたいところです。


非常勤役員への高額報酬は要注意

過大役員給与で特に問題になりやすいのが、非常勤役員への報酬です。


オーナー企業では、代表者の配偶者、親、子、親族などを役員にして報酬を支給しているケースがあります。


もちろん、実際に役員として業務に従事していれば、その職務に応じた報酬を支給すること自体は可能です。


しかし、ほとんど出社していない、具体的な業務記録がない、組織図にも職務分担が記載されていない、といった場合には、非常勤役員と判断される可能性があります。


非常勤役員の場合、常勤役員と比べて業務量や責任が限定的です。

そのため、相当と認められる報酬額も低くなりやすいです。

ある裁判例では、代表取締役の妻である役員に月200万円の報酬を支給していた事案について、出勤状況や業務内容などから非常勤役員と判断され、報酬の大部分が過大とされました。


常勤役員と認めてもらうには証拠が重要

非常勤役員か常勤役員かは、単に肩書で決まるものではありません。

  • 常務取締役

  • 取締役会長

  • 相談役

といった肩書があっても、実際の勤務状況や業務内容が伴っていなければ、常勤とは認められない可能性があります。


一方、毎日出勤していなければ常勤になれない、というわけでもありません。

病気療養中であっても、会社に出向いて指示を出していたり、病室で役員から報告を受けて経営判断をしていたりするような場合には、常勤性が認められた裁決事例もあります。

重要なのは、相当程度の職務に従事していることを証明できる資料です。


たとえば、次のような資料が役立ちます。

  • 出勤記録

  • 業務日報

  • メールやチャットのやり取り

  • 会議資料

  • 議事録

  • 決裁記録

  • 取引先との面談記録

  • 社内組織図

  • 職務分掌表

  • 従業員からの証言


非常勤役員への報酬を支給する場合でも、何の業務を、どの程度行っているのかを記録しておくことが大切です。


代表者報酬でも否認されることがある

「代表取締役なら、会社を背負っているのだから高額報酬でも問題ない」と考える方もいます。


確かに、非常勤役員に比べると、代表者報酬が実質基準で否認される事例は多くありません。しかし、代表者であっても、報酬額が極端に高い場合や、会社の業績・使用人給与の推移と比べて不自然に増加している場合には、過大役員給与として否認される可能性があります。


代表者であっても、無制限に報酬を取れるわけではありません。


業績と逆行する増額は危険

代表者報酬の実質基準で特に注意したいのが、会社の業績と逆行する増額です。


ある裁判例では、会社の売上や売上総利益が減少傾向にあり、使用人給与も横ばいまたは緩やかな減少傾向にある中で、代表者給与だけが急増していました。


その結果、役員給与が営業利益を大きく圧迫していました。

このような状況では、たとえ代表者が会社に大きく貢献していたとしても、報酬額の高さや増加率が著しく不自然と評価される可能性があります。


役員報酬を増額する際は、次のような点を確認すべきです。

  • 売上は増えているか

  • 売上総利益は増えているか

  • 営業利益は増えているか

  • 役員給与控除前の利益はどう推移しているか

  • 使用人給与はどう推移しているか

  • 他の役員給与とのバランスはどうか

  • 同業他社の水準と比べて説明できるか


特に、会社の業績が下がっているのに代表者給与だけを大幅に増やす場合は、慎重な検討が必要です。


支給額が極端に高くなくても急増はリスクになる

過大役員給与というと、年数億円のような極端な高額報酬をイメージするかもしれません。


しかし、別の裁判例では、支給額そのものは現在の感覚では必ずしも極端に高額とは見えないものの、前年度からの急激な増額が大きな問題になりました。


衣服等の縫製加工を行う同族会社で、代表取締役の報酬が前年度360万円から1,800万円へ5倍に増加し、その妻である取締役の報酬も前年度300万円から960万円へ3.2倍に増加した事案です。


会社では新商品の大量受注があり、役員の勤務時間も大幅に増えていました。

しかし、裁判所は、職務の質が前年から根本的に変化したわけではないこと、使用人給与の増加幅が限定的であったこと、同業類似法人の水準を大きく上回っていたことなどを踏まえ、相当額を超える部分を過大としました。


この事例から分かるのは、絶対額だけでなく、増加率も重要だということです。


役員報酬の急増には理由と資料が必要

役員報酬を大きく増額すること自体が直ちに悪いわけではありません。

会社の業績が大幅に伸び、役員の職務内容や責任が大きく変わり、同業他社の水準と比べても合理的であれば、増額は認められる可能性があります。


ただし、急増させる場合には、理由と資料が不可欠です。

たとえば、次のような事情があるかを確認しましょう。

  • 新規事業の開始

  • 海外展開

  • 事業規模の大幅拡大

  • 従業員数の増加

  • 資金調達や金融機関対応の負担増。

  • 役員の職務分担の変更。

  • 代表者の営業貢献の増加

  • 売上・利益の継続的増加

  • 同業他社水準との比較


増額理由は、議事録や社内資料に残しておくべきです。

  • 利益が出たから増やした

  • 社長が頑張ったから増やした

というだけでは、税務調査で説明が弱くなります。


同業類似法人との比較とは

実質基準では、同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の役員給与の支給状況が参照されます。


これを同業類似法人との比較といいます。

裁判例では、業種、地域、売上規模、利益状況、役員給与の支給状況などをもとに類似法人を抽出し、その平均額や最高額と比較する方法が使われています。

ただし、この方法には実務上の難しさがあります。


課税庁側は申告データをもとに類似法人を抽出できますが、納税者側が同じようなデータを集めるのは困難です。


また、同じ業種・同程度の売上でも、利益率、役員の職務内容、営業体制、地域性、会社の成長段階は異なります。


そのため、類似法人の平均額が常に相当額の上限になるわけではないとされた裁判例もあります。


一方で、代表者が会社に大きく貢献していた事例では、類似法人の平均額ではなく最高額を基準として相当額を認定した事例もあります。


同業類似法人との比較は重要ですが、それだけで機械的に決まるわけではありません。


平均額か最高額か

過大役員給与の裁判例では、類似法人の平均額が使われる場合もあれば、最高額が使われる場合もあります。


非常勤役員の事例では、類似法人の非常勤役員に対する平均報酬額を超える部分が不相当に高額と判断されました。


一方、代表者が会社収益に大きく貢献していた中古車輸出会社の事例では、類似法人の最高額を超える部分が不相当に高額とされました。


これは、役員の職務内容や会社への貢献度によって、平均額だけで評価するのが適切でない場合があるためです。


代表者が通常より高い職責を果たしているなら、平均額を超える報酬が認められる余地があります。


しかし、最高額をさらに大きく超えるような場合には、合理的な範囲を超えると判断される可能性があります。


結局のところ、職務内容、業績、会社規模、同業比較を総合して判断することになります。


形式基準と株主総会決議の整備

役員報酬については、税務上だけでなく会社法上の手続も重要です。


株式会社の取締役報酬は、原則として定款または株主総会決議で定める必要があります。

実務上は、次のような流れが一般的です。

  1. 定時株主総会で取締役全体の報酬限度額を決議する

  2. 監査役がいる場合は、監査役分を別枠で決議する

  3. 取締役会または代表取締役が、限度額の範囲内で各人別の報酬額を決定する

  4. 議事録を作成・保存する


中小企業では、株主と役員がほぼ同じであるため、手続が軽視されがちです。

しかし、議事録がないと、税務調査で形式基準や定期同額給与の根拠説明が弱くなります。

また、相続や親族間紛争が発生した場合、過去の役員報酬の有効性が問題になることもあります。


役員報酬は毎期、正式な決議と議事録で整備しましょう。


使用人兼務役員とは

使用人兼務役員とは、役員のうち、部長、課長、工場長など法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事する人をいいます。

たとえば、取締役営業部長、取締役製造部長、取締役工場長などです。

ただし、次のような人は使用人兼務役員には該当しません。

  • 代表取締役

  • 代表執行役

  • 清算人

  • 副社長、専務、常務など職制上の地位を有する役員

  • 監査役

  • 監査等委員である取締役


一定の同族会社の株主グループに属する役員。

特に同族会社では、取締役部長という肩書で実際に使用人職務を行っていても、株式所有割合の要件により使用人兼務役員に該当しない場合があります。


使用人兼務役員に該当するかどうかは、賞与の損金算入にも関わるため、事前に確認が必要です。


同族会社の役員は使用人兼務役員から除外されることがある

同族会社の役員については、一定の所有割合を満たす場合、使用人兼務役員には該当しません。


大まかにいうと、支配力の大きい株主グループに属し、その株主グループの所有割合が10%を超え、本人・配偶者・一定の関係会社を含めた所有割合が5%を超える場合です。


この場合、たとえ取締役営業部長として現場業務に従事していても、法人税上は通常の役員として扱われます。


したがって、部長分の賞与として支給したつもりでも、税務上は役員給与になります。

役員給与として損金算入するには、事前確定届出給与などの要件を満たす必要があります。

取締役就任に伴って株式を取得する場合や、相続・贈与で株式を取得した場合には、使用人兼務役員の判定が変わることがあります。


使用人兼務役員の賞与は支給時期に注意

使用人兼務役員の使用人職務に対する賞与は、一定の要件を満たせば損金算入できます。

しかし、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給した場合、その賞与は過大役員給与として損金不算入になります。


たとえば、他の従業員の夏季賞与が7月10日に支給されるのに、使用人兼務役員の部長分賞与だけを8月末に支給した場合は注意が必要です。


金額が相当額の範囲内であっても、支給時期が違うだけで損金不算入とされます。

これは、他の使用人と異なる時期に支給するものは、使用人職務に対する賞与ではなく役員賞与に近いものと考えられるためです。


使用人兼務役員に賞与を支給する場合は、他の使用人と同じ支給時期に支給することが重要です。


役員報酬の決め方で実務上確認すべきこと

役員報酬を決める際には、次の点を確認しましょう。

  • 定期同額給与などの支給形態要件を満たしているか

  • 役員ごとの職務内容に見合った金額か

  • 会社の売上、利益、資金繰りに照らして不自然ではないか

  • 使用人給与とのバランスが取れているか

  • 他の役員とのバランスが取れているか

  • 同業他社の水準と比べて説明できるか

  • 前期からの増加率が極端ではないか

  • 株主総会や取締役会の議事録があるか

  • 使用人兼務役員の判定をしているか

  • 非常勤役員の勤務実態を説明できるか


これらを確認せずに役員報酬を決めてしまうと、後から税務調査で過大役員給与と指摘されるリスクがあります。


役員報酬を増額する場合の実務ポイント

役員報酬を増額する場合には、特に慎重な対応が必要です。

増額理由を明確にし、議事録に残しましょう。

たとえば、次のような内容を記載しておくとよいです。

  • 増額対象者

  • 増額前の報酬額

  • 増額後の報酬額

  • 増額時期

  • 増額理由

  • 職務内容の変更

  • 会社業績の推移。

  • 使用人給与とのバランス

  • 同業他社水準の確認

  • 今後の事業計画


特に、前期比で2倍、3倍、5倍といった大幅増額をする場合には、合理的理由と客観資料が不可欠です。


単なる節税目的、利益調整目的と見られないように注意しましょう。


役員報酬を高く設定したい場合の考え方

オーナー経営者としては、会社に利益を残すか、役員報酬として個人に移すかは大きな経営判断です。

役員報酬を高くすれば、法人税の負担は下がる可能性があります。


一方で、個人の所得税・住民税・社会保険料は増えます。

さらに、報酬が不相当に高額と判断されれば、会社では損金不算入となります。


役員報酬を高く設定したい場合には、次の視点で検討しましょう。

  • 法人税と個人税のトータル税負担

  • 社会保険料

  • 会社の資金繰り

  • 金融機関から見た利益水準

  • 内部留保の必要性

  • 将来の退職金原資

  • 役員の職務内容

  • 会社の成長段階

  • 過大役員給与リスク


単年度の税負担だけで決めるのではなく、中長期の経営計画と税務リスクを踏まえて設定することが大切です。


税務調査で確認されやすいポイント

役員給与について、税務調査では次のような点が確認される可能性があります。

  • 役員報酬の決定時期

  • 定時株主総会議事録

  • 取締役会議事録

  • 報酬限度額の決議

  • 各人別支給額の決定資料

  • 役員の職務内容

  • 非常勤役員の出勤状況

  • 親族役員の業務実態

  • 使用人給与との比較

  • 会社の売上・利益の推移

  • 役員給与控除前の営業利益

  • 同業他社水準との乖離

  • 前期からの増額率

  • 使用人兼務役員の判定

  • 賞与の支給時期


特に親族役員、非常勤役員、大幅増額した代表者報酬は確認されやすい項目です。


実務で保存しておきたい資料

過大役員給与リスクに備えるため、次の資料を保存しておきましょう。

  • 定款

  • 株主総会議事録

  • 取締役会議事録

  • 役員報酬決定書

  • 職務分掌表

  • 組織図

  • 役員ごとの業務内容資料

  • 出勤記録

  • 会議議事録

  • メール・チャット等の業務記録

  • 営業実績資料

  • 会社業績の推移表

  • 使用人給与の推移表

  • 同業他社の公開情報

  • 役員報酬の増額理由書

  • 使用人兼務役員の判定資料

  • 賞与支給日一覧


税務調査では、後から口頭で説明するより、当時の資料があるかどうかが重要です。


よくある誤解

過大役員給与について、実務上よくある誤解を整理します。


  • 定期同額給与なら全額損金になる

定期同額給与であっても、不相当に高額な部分は損金不算入になります。


  • 代表取締役ならいくら取ってもよい

代表者であっても、職務内容、会社業績、使用人給与、同業類似法人の水準から見て高すぎる場合は否認される可能性があります。


  • 親族役員にも同じように報酬を出してよい

親族役員が実際にどの程度業務に従事しているかを説明できなければ、非常勤役員として低い相当額しか認められない可能性があります。


  • 株主総会議事録は中小企業には不要

税務上、会社法上、相続・紛争対応上、議事録は非常に重要です。


実務上のチェックポイント

役員給与を決定・変更する際は、次の点を確認しましょう。

  • 定期同額給与などの支給形態要件を満たしているか

  • 役員ごとの職務内容を説明できるか

  • 非常勤役員の勤務実態を記録しているか

  • 親族役員への報酬が業務実態に見合っているか

  • 前期からの増額幅が極端ではないか

  • 売上・利益の推移と整合しているか

  • 使用人給与の推移とバランスが取れているか

  • 同業他社の水準と大きく乖離していないか

  • 株主総会で報酬限度額を決議しているか

  • 取締役会等で各人別支給額を決めているか

  • 使用人兼務役員に該当するか確認しているか

  • 使用人兼務役員の賞与を他の使用人と同じ時期に支給しているか


このチェックを行なうことで、過大役員給与として損金不算入となるリスクを下げることができます。


まとめ

役員給与は、法人税の計算上、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与などの支給形態要件を満たすことが重要です。


しかし、それだけでは十分ではありません。

支給形態要件を満たしていても、役員の職務内容、会社の収益状況、使用人給与の状況、同業類似法人の役員給与水準などから見て、不相当に高額な部分は過大役員給与として損金不算入になります。


退職給与以外の役員給与については、実質基準と形式基準で判定し、いずれか多い金額が損金不算入になります。


実質基準では、役員ごとに職務対価として相当な金額を判断します。

非常勤役員や親族役員については、実際の勤務実態や業務内容を説明できないと、報酬の大部分が過大とされる可能性があります。


代表取締役であっても、会社業績や使用人給与の推移に反して報酬が急増している場合や、同業類似法人の水準を大きく超える場合には、過大役員給与と判断されることがあります。

また、支給額の絶対額が極端に高く見えない場合でも、前期比で5倍、3.2倍といった急激な増額はリスクになります。


形式基準では、定款や株主総会決議で定めた役員給与の支給限度額を超える部分が問題になります。


法人税上は、限度額等を定めていない法人には形式基準が適用されないと考えられますが、会社法上は報酬請求権やお手盛り防止の観点から問題があるため、株主総会議事録や取締役会議事録は必ず整備しておくべきです。


さらに、使用人兼務役員の使用人職務に対する賞与は、他の使用人と異なる時期に支給すると、金額が相当であっても損金不算入になります。


役員報酬は、節税だけでなく、会社法、税務調査、相続、金融機関対応、社会保険料にも関わる重要な経営判断です。


役員報酬を決める際は、職務内容、業績、使用人給与、同業水準、議事録、支給時期を総合的に確認しましょう。


過大役員給与の判定や役員報酬の設定で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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