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研究開発税制のオープンイノベーション型が改正|指定大学等との共同研究は税理士・公認会計士の監査が不要に

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
49 分前
読了時間: 13分

こんばんは!代表の安田です。


企業が大学や研究機関などと共同研究を行う際、税負担を軽減できる制度の一つに、研究開発税制の「オープンイノベーション型」があります。


この制度では、大学等との共同研究や委託研究に要した一定の費用について、通常の研究開発税制とは別枠で法人税額から控除できる場合があります。


一方、これまで大学等との共同研究費をオープンイノベーション型の対象とするためには、税理士や公認会計士などによる監査を受ける必要がありました。制度の適用による税効果が期待できる反面、監査資料の準備や関係者との調整が企業・大学双方の負担となっていたのも事実です。


2026年度税制改正では、この手続が見直されました。

経済産業大臣の指定を受けた「指定大学等」との共同研究・委託研究については、税理士や公認会計士などによる監査が不要となります。


ただし、すべての大学との共同研究で監査が不要になるわけではありません。共同研究先が指定大学等に該当しない場合には、原則として従来どおりの監査手続が必要です。


本日は、研究開発税制のオープンイノベーション型の概要と、2026年度税制改正による指定大学等の新制度、企業が実務上確認すべきポイントを解説します。


研究開発税制とは

研究開発税制は、青色申告書を提出する法人が一定の試験研究費を支出した場合に、その金額に応じて法人税額から一定額を控除できる制度です。


国税庁によれば、研究開発税制は主に次の制度で構成されています。

  • 一般試験研究費に係る税額控除制度

  • 中小企業技術基盤強化税制

  • 特別試験研究費に係る税額控除制度


このうち、大学、国の研究機関、スタートアップ企業など、社外の組織との共同研究や委託研究を対象とするのが、特別試験研究費に係る税額控除制度、いわゆる「オープンイノベーション型」です。


オープンイノベーション型は、一般試験研究費に係る税額控除制度などとは別枠で適用できる制度です。ただし、一般試験研究費の計算に含めた費用を、重ねて特別試験研究費として控除することはできません。


オープンイノベーション型とは

オープンイノベーション型は、企業が自社だけで研究開発を行うのではなく、大学、研究機関、他の企業などと連携して実施する研究開発を税制面から支援する制度です。


例えば、次のような研究が対象となる可能性があります。

  • 大学との共同研究

  • 大学への委託研究

  • 国立研究開発法人との共同研究

  • スタートアップ企業との共同研究

  • 一定の民間企業との共同研究

  • 高度な研究人材を活用した研究開発


対象となる費用は、契約書の名称だけで決まるわけではありません。


共同研究や委託研究の内容、費用負担、成果の帰属、研究に直接必要な費用であるかなどを確認し、法令上の「特別試験研究費」に該当するかを判断する必要があります。


単なる寄附金、研究とは直接関係のない協賛金、大学の一般的な運営費などは、共同研究契約に基づいて支出したというだけで、当然に対象となるものではありません。


改正前は税理士・公認会計士などの監査が必要だった

大学等との共同研究・委託研究に係る費用をオープンイノベーション型の対象とするためには、その費用が企業自身の負担した特別試験研究費であることについて、一定の証明を受ける必要があります。


改正前は、主に次の二つの手続が必要でした。

  1. 税理士、公認会計士など専門的な知識を有する者による監査

  2. 共同研究先である大学等による確認


税理士や公認会計士などによる監査では、一般に次のような資料が確認されます。

  • 共同研究契約書または委託研究契約書

  • 研究計画書

  • 費用負担に関する合意書

  • 請求書や領収書

  • 総勘定元帳

  • 支払記録

  • 人件費や材料費の集計資料

  • 対象費用と対象外費用の区分資料


監査を行なう専門家は、これらの資料を通じて、企業が申告しようとする費用が共同研究に対応するものであり、客観的な根拠に基づいて集計されているかを確認します。


制度の適正な適用を担保するために必要な手続である一方、対象費用が多額・多岐にわたる場合には、企業側の資料作成や大学側との照合作業に相当の時間を要することがありました。


経済産業省の従来のガイドラインでも、大学等との共同研究費について、税理士等の第三者と研究相手方による確認手続を経て申告する仕組みが示されています。


2026年度税制改正で「指定大学等」の制度を創設

2026年度税制改正では、大学等との共同研究・委託研究に関する手続の合理化が行われました。


新たに設けられたのが「指定大学等」の制度です。

指定大学等とは、産学連携や共同研究費の管理について一定の体制を整備している大学等のうち、経済産業大臣の指定を受けたものをいいます。


指定大学等との共同研究・委託研究については、改正前に必要だった税理士や公認会計士などによる監査が不要となります。


2026年度税制改正において、オープンイノベーション型の見直しが行われたことは、経済産業省の税制改正資料でも示されています。


改正前後の手続の違い

改正後の手続は、共同研究先が指定大学等に該当するかどうかによって異なります。

共同研究先

税理士・公認会計士等の

監査

大学側の手続

改正前の大学等

必要

大学等による確認

改正後の指定大学等

不要

大学等の長による認定

改正後の指定大学等以外

必要

大学等による確認


指定大学等との研究については専門家による監査が不要となる一方、大学等の長による認定が必要になります。


つまり、監査がなくなったからといって、何の確認も受けずに税額控除を適用できるわけではありません。


指定大学等が、共同研究費の管理内容を確認し、大学等の長が認定することによって、従来の外部専門家による監査に代わる形で制度の適正性を担保します。


指定大学等になるための主な要件

大学等が指定大学等となるためには、経済産業大臣が定める一定の要件を満たす必要があります。主な要件として次のような内容が挙げられています。


  • 産学連携本部が設置されていること

共同研究等について企業と協議し、契約締結や経理事務を担当する産学連携本部が設置されている必要があります。

形式的に部署が存在するだけではなく、共同研究を組織的に管理できる実態が求められます。


  • 企業向けの相談窓口が設置されていること

共同研究を検討している企業が相談できる窓口を設け、その存在を広く公表していることが必要です。

また、相談業務について一定の経験を有する担当者を配置することも要件とされています。


  • 契約・協定事務の担当者が配置されていること

共同研究等に関する契約または協定の締結事務に従事する者を、一定数以上配置する必要があります。基本的には、3名以上の配置が要件として示されています。


  • 専任の経理担当者が配置されていること

共同研究等の経理事務に専ら従事する者が配置されている必要があります。

共同研究費を通常の大学運営費と区分し、研究案件ごとに適切に管理できる体制が重視されています。


  • 共同研究に関するルールを定め、公表していること

大学等は、共同研究について次のような事項を定め、外部に公表する必要があります。

  1. 申込みや契約締結の手続

  2. 研究費の分担方法

  3. 企業負担額の確認方法

  4. 研究成果の帰属

  5. 研究成果の公表方法

  6. その他、共同研究に必要な手続


  • 会計情報システム等により研究費を管理していること

共同研究等に係る経理事務について、会計情報システム等を利用し、産学連携本部が一元的に管理する体制も求められます。


さらに、共同研究費の確認を産学連携本部が実施し、その確認結果に基づいて大学等の長が認定する仕組みを整える必要があります。


これらの要件を見ると、指定大学等は単に研究実績が豊富な大学というだけではなく、契約・経理・費用確認に関する内部管理体制が整備された大学等を想定していることが分かります。


指定大学等でなければ、引き続き監査が必要

今回の改正で特に注意したいのは、「大学との共同研究なら監査が不要になった」と誤解しないことです。


監査が不要となるのは、経済産業大臣の指定を受けた指定大学等との共同研究・委託研究に限られます。共同研究先が指定大学等に該当しない場合には、原則として従来どおり、次の手続が必要です。

  • 税理士、公認会計士などによる監査

  • 大学等による費用の確認


企業側では、契約を締結している大学が著名な大学であるか、国立大学であるかといった点だけで判断してはいけません。


指定大学等として正式に指定されているかを確認する必要があります。

また、同じ大学との共同研究であっても、対象年度や指定日との関係によって手続が異なる可能性があります。申告時点では、経済産業省が公表する指定大学等の一覧や、適用開始時期を必ず確認しましょう。


なお、2026年7月10日時点で、経済産業省の研究開発税制ページには、特別試験研究費税額控除制度の概要や様式が掲載されていますが、指定大学等の具体的な指定一覧や新制度の詳細な申請案内は確認できません。今後の公表内容を継続的に確認する必要があります。


改正の適用開始時期

今回の見直しは、原則として2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

また、2026年4月1日前に開始し、同日以後に終了する事業年度についても適用対象となる経過措置が設けられています。


例えば、3月決算会社であれば、2026年4月1日から始まる2027年3月期が原則的な適用対象になります。


一方、12月決算会社など、2026年4月1日をまたぐ事業年度についても、経過措置の対象となる可能性があります。


ただし、実際に監査不要の取扱いを受けるためには、共同研究先が指定大学等として正式に指定されていることが前提になると考えられます。


適用年度だけでなく、大学の指定日、研究契約の期間、対象費用の発生日なども含めて確認することが重要です。


企業にとって期待されるメリット

  • 外部監査の費用を抑えられる

従来は、税理士や公認会計士などへ監査を依頼するための報酬が必要でした。

指定大学等との共同研究で監査が不要になれば、制度適用に伴う外部コストを抑えられる可能性があります。

特に、共同研究費の金額が比較的小さい案件では、税額控除によるメリットに対して監査費用の負担が重く、制度の利用を見送ることも考えられました。

今回の改正により、中小規模の共同研究でも制度を利用しやすくなることが期待されます。


  • 資料準備の負担を軽減できる

外部監査では、契約書、請求書、帳簿、費用明細などを整理し、監査人へ提出する必要があります。

監査が不要になれば、専門家との日程調整や質問対応などを含め、企業側の事務負担が軽減されます。


  • 産学連携を進めやすくなる

研究開発税制を利用しやすくなれば、企業が大学との共同研究に取り組む際の実質的なコストを下げられる可能性があります。

税制改正は、単なる申告手続の簡素化にとどまらず、企業と大学との共同研究を促進する狙いがあると考えられます。


監査が不要でも企業側の管理は必要

指定大学等との共同研究について監査が不要になったとしても、企業側の帳簿管理や証拠書類の保存が不要になるわけではありません。


法人税の申告を行なうのはあくまで企業自身です。

税務調査で特別試験研究費への該当性を説明できるよう、少なくとも次の資料は整理・保存しておくべきでしょう。

  • 共同研究契約書または委託研究契約書

  • 研究の目的と内容が分かる資料

  • 研究期間を確認できる資料

  • 企業と大学の費用負担を定めた資料

  • 大学からの請求書

  • 振込記録

  • 費用の内訳書

  • 大学等の長による認定書

  • 指定大学等であることを確認した資料

  • 対象費用の会計仕訳

  • 税額控除の計算資料


「大学から請求された費用だから全額が対象になる」とは限りません。

共同研究費に施設利用料、間接経費、管理費、知的財産関係費などが含まれている場合には、それぞれが特別試験研究費に該当するかを検討する必要があります。


契約締結前に確認しておきたいポイント

大学等との共同研究でオープンイノベーション型の利用を検討する場合には、決算や法人税申告の直前ではなく、契約締結前から制度の適用を意識することが重要です。


  • 共同研究先が指定大学等か

まず、研究相手となる大学が指定大学等として公表されているかを確認します。

申告時に初めて確認するのではなく、契約交渉の段階で大学側へ確認しておくと安心です。


  • 大学の認定手続に対応できるか

指定大学等であっても、企業が何もせずに認定書を受け取れるとは限りません。

認定に必要な資料、申請期限、大学内の受付窓口などを事前に確認しておきましょう。


  • 契約書に費用負担を明記しているか

企業がどの費用をどの範囲で負担するのか、契約書や協定書に明確に記載する必要があります。

費用区分が曖昧な場合、税額控除の対象額を客観的に算定できないおそれがあります。


  • 研究成果の帰属が整理されているか

共同研究の成果や知的財産権の帰属、成果公表の方法なども、制度上の確認事項となります。契約書と実際の運用が異ならないよう注意が必要です。


  • 企業の会計処理と大学の認定額が一致しているか

企業が申告に使用する特別試験研究費の額と、大学等の長が認定した金額に差異がないかを確認します。

差額がある場合には、その原因を把握し、必要に応じて対象額を修正しなければなりません。


税理士・公認会計士の役割がなくなるわけではない

指定大学等との共同研究では外部監査が不要となりますが、研究開発税制全体について専門家の確認が不要になるわけではありません。


例えば、次の事項は引き続き企業側で判断する必要があります。

  • 支出が試験研究費に該当するか

  • 特別試験研究費の対象範囲

  • 直接費と間接費の区分

  • 一般型との重複がないか

  • 税額控除限度額

  • 青色申告要件

  • 大企業に課される適用制限

  • 法人税申告書の別表作成

  • 必要書類の添付・保存


国税庁も、研究開発税制の適用について、青色申告、各制度の区分、重複適用の制限など複数の要件を案内しています。


監査手続が省略されても、税額控除の計算や申告の適否については、税理士などに相談する意義が残ります。


まとめ

2026年度税制改正により、研究開発税制のオープンイノベーション型について、大学等との共同・委託研究に関する手続が見直されました。


経済産業大臣が指定する「指定大学等」との共同研究・委託研究であれば、従来必要だった税理士や公認会計士などによる監査が不要になります。


一方で、次の点には注意が必要です。

  • すべての大学が監査不要になるわけではない

  • 指定大学等以外との研究では従来どおり監査が必要

  • 指定大学等では大学等の長による認定が必要

  • 監査不要でも企業側の帳簿・証拠書類の保存は必要

  • 指定大学等の一覧や指定時期を確認する必要がある

  • 税額控除の対象費用や限度額は別途検討が必要


共同研究の契約を締結した後に制度への対応を始めると、契約内容や費用区分が要件を満たさず、税額控除を受けられない可能性があります。


大学等との共同研究を予定している企業は、契約締結前に、共同研究先の指定状況、認定手続、対象費用の範囲を確認しておくことが重要です。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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