中小企業の設備投資は即時償却できる?2つの優遇税制と併用不可の注意点を解説
おはようございます!代表の安田です。
中小企業が機械や設備、建物などへ投資した場合、一定の要件を満たすことで、通常の減価償却に代えて「即時償却」を選択できることがあります。
即時償却を利用すると、設備を事業に使用した年度に取得価額の全額を損金算入できるため、投資初年度の法人税負担を大きく抑えられる可能性があります。
中小企業が利用を検討できる主な制度として、従来からある「中小企業経営強化税制」に加え、令和8年度税制改正で「大胆な設備投資促進税制」が創設されました。
ただし、この2つの制度は自由に併用できるわけではありません。特に、大胆な設備投資促進税制の投資計画期間中は、中小企業経営強化税制を利用できない場合があるため、投資計画全体を見据えた制度選択が必要です。
本記事では、中小企業の設備投資で利用できる2つの即時償却制度について、対象設備、要件、税額控除との選択、併用制限を税理士が分かりやすく解説します。
設備投資における「即時償却」とは
通常、機械や建物などの固定資産を購入しても、その取得価額を購入年度に全額経費とすることはできません。資産ごとに定められた耐用年数に応じて、複数年にわたり減価償却費として損金算入します。
一方、即時償却を適用できる場合には、設備を事業の用に供した年度に、取得価額の全額を損金算入できます。

即時償却は税金そのものが永久に免除される制度ではなく、将来計上する予定だった減価償却費を投資初年度に前倒しする仕組みです。
そのため、設備投資年度の利益が大きい企業や、投資後の資金繰りを重視する企業にとって、有効な選択肢となります。
中小企業が検討できる2つの即時償却制度
一定の設備について即時償却を選択できる主な制度は、次の2つです。
中小企業経営強化税制
大胆な設備投資促進税制
両制度の概要を比較すると、次のようになります。
項目 | 中小企業経営強化税制 | 大胆な設備投資促進税制 |
制度の位置付け | 中小企業の生産性・収益力向上等を支援 | 一定規模以上の積極的な設備投資を支援 |
必要な計画 | 経営力向上計画 | 投資計画 |
計画に必要な手続き | 中小企業等経営強化法に基づく認定 | 改正産業競争力強化法に基づく確認 |
主な優遇措置 | 即時償却または税額控除 | 即時償却または一定の税額控除 |
建物 | E類型で対象になり得るが、建物・附属設備の即時償却は不可 | 一定の建物も即時償却の対象になり得る |
投資規模 | 大胆な設備投資促進税制より利用しやすい | 投資額5億円以上などの高い要件あり |
投資利益率 | 類型ごとの要件 | 15%以上などの要件あり |
対象業種 | 指定事業に限定 | 原則として全業種 |
両制度の併用 | 一定の期間について不可 | 同左 |
企業の規模や投資額、対象資産、投資計画の内容によって、適した制度が異なります。
中小企業経営強化税制とは
中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づいて設備を取得し、指定事業の用に供した場合に利用できる制度です。
対象となる設備は、設備の目的や投資効果に応じて、複数の類型に分けられます。
中小企業経営強化税制の類型>
類型 | 対象となる設備の考え方 |
A類型 | 生産性向上設備 |
B類型 | 収益力強化設備 |
D類型 | 経営資源集約化に資する設備 |
E類型 | 経営規模拡大設備等 |
一定の要件を満たす設備を取得等して事業の用に供した場合、原則として次のいずれかを選択できます。
即時償却
取得価額の10%の税額控除
資本金3,000万円超の法人は取得価額の7%の税額控除
<即時償却と税額控除の違い>
選択肢 | 効果 |
即時償却 | 取得価額を初年度に全額損金算入し、課税所得を減らす |
税額控除 | 算出された法人税額から一定額を直接差し引く |
利益の状況や今後の事業計画によって、どちらが有利かは異なります。
例えば、設備投資年度の利益が大きい場合には、即時償却による課税所得の圧縮が有効になることがあります。一方、将来も安定した利益が見込まれる場合には、税額控除を選択した方が有利になるケースも考えられます。
中小企業経営強化税制では建物を即時償却できない
中小企業経営強化税制のE類型では、建物も対象設備に含まれます。
ただし、注意したいのは、建物およびその附属設備について即時償却を適用することはできないという点です。

「E類型では建物が対象になる」という情報だけを見て、建物取得価額の全額を即時償却できると判断しないよう注意が必要です。
建物について即時償却を検討する場合には、次に解説する大胆な設備投資促進税制が候補になります。
大胆な設備投資促進税制とは
大胆な設備投資促進税制は、令和8年度税制改正で創設された制度です。
改正産業競争力強化法に基づく確認を受けた投資計画に従って、一定規模以上の特定生産性向上設備等を取得し、事業の用に供した場合に、次の優遇措置を選択できます。
即時償却
一定の税額控除
中小企業経営強化税制との大きな違いは、一定の建物についても即時償却を適用できる点です。
一方で、適用要件のハードルは高く設定されています。
<主な要件>
投資額5億円以上
投資利益率15%以上
改正産業競争力強化法上の確認を受けた投資計画に基づくこと
一定の特定生産性向上設備等を取得して事業の用に供すること
したがって、比較的小規模な設備更新というよりも、工場新設や大規模な生産設備の導入など、企業の成長に直結する大型投資を想定した制度と考えられます。
2つの制度は併用できない
実務上、最も注意したいのが、中小企業経営強化税制と大胆な設備投資促進税制の併用制限です。
中小企業経営強化税制は、繰越税額控除制度を除き、大胆な設備投資促進税制に係る投資計画期間内の日が属する各事業年度では、いずれの類型についても適用できません。
つまり、単に「同じ設備に2つの制度を重ねて適用できない」というだけではありません。
併用制限のイメージ

例えば、大胆な設備投資促進税制の対象となる大型設備とは別に、中小企業経営強化税制のA類型に該当する機械を取得したとしても、その取得年度が投資計画期間内の日を含む場合には、中小企業経営強化税制を利用できない可能性があります。
このため、複数年度にわたる設備投資を予定している企業は、個々の設備だけでなく、投資計画期間全体を確認する必要があります。
「同じ設備だけ」の併用制限ではない点に注意
制度選択を検討する際には、次のように考える必要があります。

大型投資に大胆な設備投資促進税制を選択した結果、同じ年度や翌年度に予定していた他の設備について、中小企業経営強化税制を使えなくなる可能性があります。
税額への影響を正しく把握するには、会社全体の設備投資予定を一覧化して比較することが重要です。
どちらの制度を選ぶべきか
制度選択では、主に次の事項を比較します。
検討項目 | 中小企業経営強化税制が向いているケース | 大胆な設備投資促進税制を検討するケース |
投資規模 | 比較的小規模・中規模 | 5億円以上の大規模投資 |
対象資産 | 機械装置、工具、ソフトウェア等 | 建物を含む大規模設備等 |
建物の即時償却 | 不可 | 可能となる場合がある |
投資利益率 | 類型ごとの要件を確認 | 15%以上などの要件を満たす |
対象業種 | 指定事業に該当する | 原則として全業種 |
手続き | 経営力向上計画の認定 | 投資計画の確認 |
他の設備投資 | 複数設備で利用を検討したい | 大型投資を中心に制度設計したい |
<大胆な設備投資促進税制を検討しやすいケース>
建物について即時償却を利用したい
投資額が5億円以上となる
投資利益率15%以上の要件を満たす見込みがある
工場新設などの大規模投資を計画している
中小企業経営強化税制の対象業種に該当しない
<中小企業経営強化税制を検討しやすいケース>
機械装置やソフトウェアなどを導入する
投資額が大胆な設備投資促進税制の水準に達しない
複数年度にわたり複数の設備を導入する
指定事業に該当する
経営力向上計画に基づいて投資を行う
即時償却を選べば必ず有利とは限らない
即時償却は初年度の税負担を抑えられる一方、翌年度以降に計上できる減価償却費が減少します。そのため、次のような場合には慎重な検討が必要です。
投資年度が赤字である
繰越欠損金が多額にある
翌年度以降に利益が大きく増える見込みがある
税額控除を選択した方が税負担を抑えられる
法人税額が少なく、税額控除を使い切れない可能性がある

設備を取得する直前ではなく、予算作成や投資計画の段階で試算しておくことが望ましいでしょう。
適用前に確認したいチェックリスト
確認項目 | 主な確認内容 |
中小企業者等の要件 | 資本金、従業員数、株主構成等を確認 |
対象業種 | 中小企業経営強化税制の指定事業に該当するか |
対象設備 | 機械、建物、附属設備、ソフトウェア等の区分 |
取得価額 | 制度ごとの金額要件を満たすか |
投資額 | 大胆な設備投資促進税制の5億円以上の要件 |
投資利益率 | 15%以上などの要件を満たすか |
計画認定等 | 設備取得前に必要な手続きがないか |
事業供用日 | いつ事業の用に供したか |
投資計画期間 | 中小企業経営強化税制との併用制限がないか |
利益予測 | 即時償却と税額控除のどちらが有利か |
他の優遇税制 | 中小企業投資促進税制等との関係を確認 |
税制の適用では、設備を購入した日だけでなく、計画の認定・確認時期や事業供用日が重要になります。
設備を発注・取得した後では必要な手続きに間に合わない可能性もあるため、投資決定前に専門家へ相談することが大切です。
まとめ
中小企業が設備投資を行なった場合、一定の要件を満たせば、中小企業経営強化税制または大胆な設備投資促進税制により、即時償却を選択できる可能性があります。
中小企業経営強化税制では、生産性向上設備、収益力強化設備、経営資源集約化設備、経営規模拡大設備等が対象となり、原則として即時償却または最大10%の税額控除を選択できます。
ただし、E類型で建物が対象になる場合でも、建物および建物附属設備に即時償却を適用することはできません。
一方、大胆な設備投資促進税制では、一定の建物についても即時償却を利用できる可能性がありますが、投資額5億円以上、投資利益率15%以上など、高い要件を満たす必要があります。
また、大胆な設備投資促進税制の投資計画期間内の日を含む事業年度では、原則として中小企業経営強化税制を利用できません。
大型設備だけを見て制度を選ぶのではなく、今後数年間の設備投資予定、利益計画、対象資産、税額控除の効果まで含めて比較することが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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