暗号資産の消費税が改正|貸付けの非課税化と課税売上割合「5%算入」の影響を解説
こんばんは!代表の安田です。
2026年度税制改正により、暗号資産に関する消費税の取扱いが見直されました。
これまで暗号資産の譲渡は、消費税法上の「支払手段に類するもの」として非課税とされる一方、暗号資産の貸付けは原則として課税取引とされていました。
改正後は、暗号資産を「有価証券に類するもの」と位置付けたうえで、譲渡については引き続き非課税とし、暗号資産の貸付けについても新たに非課税取引とされます。
一見すると、暗号資産を取り扱う事業者にとって有利な改正にも見えます。
しかし、暗号資産の譲渡対価の5%相当額を課税売上割合の分母へ算入する見直しも行なわれたため、暗号資産の売却額が大きい事業者では、控除できる仕入税額が減少する可能性があります。
本日は、暗号資産の譲渡・貸付けに関する消費税の改正内容と、課税売上割合や仕入税額控除に与える影響を解説します。
暗号資産の売買には消費税がかかる?
改正前から、ビットコインなどの暗号資産を売却した場合、その暗号資産の譲渡自体には消費税が課されません。
消費税は、国内で事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡や貸付け、役務の提供を原則として課税対象とします。
一方、現金などの支払手段を譲渡する行為は、消費そのものではないため、消費税を課すことになじまない取引として非課税とされています。
暗号資産についても、2017年度税制改正以降は、資金決済法上の支払手段に類するものとして、その譲渡が非課税とされてきました。
例えば、事業者が100万円で取得した暗号資産を150万円で売却したとしても、150万円に消費税10%を上乗せして請求するわけではありません。
ただし、暗号資産の売却によって生じる利益について、所得税や法人税が課されないという意味ではありません。消費税が非課税であることと、所得税・法人税の課税関係は別に判断します。
暗号資産で商品を購入した場合
暗号資産を使って商品やサービスを購入した場合も、暗号資産を相手方へ移転する部分については、暗号資産の譲渡として消費税は非課税です。
しかし、購入した商品やサービスまで非課税になるわけではありません。
例えば、事業者が暗号資産を使って税込11万円のパソコンを購入した場合、次の二つの取引が行なわれたものとして考えます。
暗号資産を相手方へ譲渡する取引
相手方からパソコンを購入する取引
暗号資産の譲渡は非課税ですが、パソコンの販売は通常の課税取引です。そのため、一定の要件を満たせば、購入者はパソコンに係る消費税について仕入税額控除を受けられます。
「代金を暗号資産で支払ったから、商品の購入も非課税になる」というわけではない点に注意しましょう。
改正後も暗号資産の譲渡は非課税
2026年度税制改正後も、暗号資産の譲渡が消費税の非課税取引であること自体は変わりません。
ただし、非課税とする理由や法令上の位置付けが変わります。
項目 | 改正前 | 改正後 |
暗号資産の位置付け | 支払手段に類するもの | 有価証券に類するもの |
暗号資産の譲渡 | 非課税 | 引き続き非課税 |
暗号資産の貸付け | 原則課税 | 非課税 |
課税売上割合 | 譲渡対価を計算から除外 | 譲渡対価の5%を分母へ算入 |
近年、暗号資産は一般的な決済手段としてよりも、投資対象として利用されるケースが増えています。
また、2026年7月15日に成立した金融商品取引法等の改正では、暗号資産について金融商品取引法上、有価証券などの金融商品と並ぶ規制を及ぼすこととされました。
こうした取引実態や金融規制の変更を踏まえ、消費税法上も有価証券に類するものへ位置付け直されています。
暗号資産の貸付けも非課税に
改正前は、暗号資産の売却は非課税である一方、暗号資産の貸付けは非課税取引として明確に規定されていなかったため、原則として消費税の課税対象とされていました。
改正後は、有価証券の貸付けが非課税とされていることとの整合性を図るため、暗号資産の貸付けについても非課税取引の範囲に追加されます。
したがって、事業として暗号資産を貸し付け、その対価を受け取る取引については、改正後、原則として消費税を課さない取扱いになります。
電子決済手段、いわゆる一定のステーブルコインの貸付けについても、同様に非課税取引へ追加されます。
ただし、サービスの名称が「レンディング」になっているだけで、必ず暗号資産の貸付けに該当するとは限りません。
暗号資産を実際に貸し付けているのか、運用サービスを委託しているのか、別の役務提供を行っているのかなど、契約内容と取引の実態を確認する必要があります。
課税売上割合とは
今回の改正で特に注意したいのが、課税売上割合の計算方法です。
課税売上割合とは、簡単にいえば、事業者の売上げ全体のうち、消費税が課される売上げの占める割合です。
一般的には、次のような算式で計算します。
課税売上割合=課税売上高÷課税売上高と非課税売上高の合計額
土地の譲渡、住宅家賃、受取利息、有価証券の譲渡などの非課税売上があると、通常は課税売上割合が低下します。
課税売上割合は、仕入れや経費に含まれる消費税をどこまで控除できるかを判断する重要な数値です。
課税期間の課税売上高が5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上である場合には、原則として課税仕入れ等に係る消費税額を全額控除できます。
一方、課税売上高が5億円を超える場合、または課税売上割合が95%未満である場合には、個別対応方式か一括比例配分方式によって、課税売上げに対応する部分だけを控除します。
改正前は暗号資産の譲渡を課税売上割合から除外
改正前の暗号資産は、消費税法上、支払手段に類するものとして取り扱われていました。
現金を支払って商品を購入した場合に、現金の譲渡を非課税売上として課税売上割合の分母へ算入すると、日常的な決済を行うだけで課税売上割合が低下してしまいます。
そこで、支払手段等の譲渡については、課税売上割合の計算に含めない取扱いが設けられています。
暗号資産の譲渡についても、改正前はこの取扱いにより、売却額を課税売上割合の分母へ算入しませんでした。
改正後は暗号資産の譲渡対価の5%を分母へ算入
改正後は、暗号資産が「有価証券に類するもの」として位置付けられます。
有価証券の譲渡については、売却代金の全額ではなく、その5%相当額を課税売上割合の分母へ算入する特例があります。
暗号資産についても、この有価証券と同様の取扱いが適用され、暗号資産の譲渡対価の5%相当額を課税売上割合の分母へ算入することになります。
例えば、暗号資産を2億円で売却した場合、その全額である2億円を分母へ算入するのではありません。
2億円×5%=1,000万円
この1,000万円を、課税売上割合の分母となる資産の譲渡等の対価の額へ加算します。
暗号資産の売却による影響の計算例
次の事業者を例に考えてみましょう。
通常の課税売上高:1億円
その他の非課税売上:なし
暗号資産の譲渡対価:2億円
<改正前>
暗号資産の譲渡対価は課税売上割合の計算から除外されるため、課税売上割合は次のとおりです。
1億円÷1億円=100%
<改正後>
暗号資産の譲渡対価2億円の5%である1,000万円を分母へ算入します。
1億円÷(1億円+1,000万円)=約90.9%
この例では、課税売上割合が95%未満になります。
その結果、課税仕入れ等に係る消費税額をすべて控除することができず、個別対応方式または一括比例配分方式による計算が必要になる可能性があります。
暗号資産の売買で利益が出たかどうかではなく、原則として譲渡対価、つまり売却金額を基礎に計算する点も重要です。
取得価額1億9,000万円の暗号資産を2億円で売却し、利益が1,000万円しかなかったとしても、5%算入の基礎は利益1,000万円ではなく、譲渡対価2億円となります。
課税売上割合が下がると何が起きる?
課税売上割合が95%未満になると、共通経費などに含まれる消費税の一部を控除できなくなる可能性があります。
例えば、次のような費用です。
本社事務所の賃料
会計システムの利用料
税理士・弁護士などへの報酬
通信費
広告宣伝費
管理部門の外注費
共通して利用する備品の購入費
個別対応方式を採用する場合、課税仕入れを次の3種類に区分します。
課税売上げにのみ必要なもの
非課税売上げにのみ必要なもの
課税売上げと非課税売上げに共通して必要なもの
このうち、共通して必要な課税仕入れに係る消費税額は、原則として課税売上割合を乗じて控除額を計算します。
一括比例配分方式を採用する場合には、課税仕入れ等に係る消費税額の全体に課税売上割合を乗じるため、暗号資産の譲渡による割合低下の影響がより広い範囲に及ぶ可能性があります。
暗号資産交換業者以外の一般企業も注意
今回の見直しは、暗号資産交換業者だけに関係するものではありません。
本業とは別に、余裕資金の運用として法人名義で暗号資産を保有し、売却している一般企業にも影響する可能性があります。
特に注意が必要なのは、次のような会社です。
多額の暗号資産を保有・売却している
課税売上割合がもともと95%に近い
受取利息や住宅家賃など、ほかにも非課税売上がある
本社経費などの共通課税仕入れが多い
一括比例配分方式を採用している
高額な設備投資を予定している
暗号資産を売却した年度だけ課税売上割合が大きく低下し、設備投資などに係る仕入税額控除へ影響するケースも考えられます。
暗号資産の売却時期を検討する際には、法人税上の損益だけでなく、消費税の課税売上割合への影響も試算することが重要です。
簡易課税制度を適用している場合
簡易課税制度では、実際の仕入れや経費に含まれる消費税額ではなく、課税売上げに一定のみなし仕入率を乗じて仕入控除税額を計算します。
そのため、一般課税と比較すると、課税売上割合の低下が仕入税額控除へ直接影響する場面は限定的です。
ただし、暗号資産の貸付けが非課税取引になることや、基準期間の課税売上高、簡易課税制度の適用要件などは別途確認する必要があります。
また、将来、一般課税へ戻る可能性がある場合には、暗号資産取引の記録を継続して管理しておくことが望ましいでしょう。
適用開始時期
今回の暗号資産に関する消費税改正は、金融商品取引法および資金決済法の改正法が施行される年の翌年1月1日から適用されます。
同改正法の施行日は、公布日から1年以内の範囲で政令により定められます。
したがって、改正金融商品取引法等が2027年中に施行された場合には、暗号資産の消費税改正は2028年1月1日から適用されることになります。正確な適用開始日は、今後公布される施行日政令を確認する必要があります。
施行日前に行った暗号資産の譲渡や貸付けなどについては、原則として改正前の取扱いが適用されます。
企業が準備しておきたい実務対応
<暗号資産の取引履歴を整理する>
課税売上割合の計算では、暗号資産の譲渡対価を把握する必要があります。
取引所ごとに、次の情報を集計できるようにしておきましょう。
売却日
暗号資産の種類
売却数量
譲渡対価
円換算額
手数料
取引相手または取引所
貸付けの有無
貸付期間と対価
<売却益ではなく譲渡対価を集計する>
課税売上割合の分母へ算入する5%相当額は、売却益ではなく譲渡対価を基礎に計算します。
暗号資産の損益計算表だけでは、年間の譲渡対価を把握できない場合があるため、消費税計算用の集計資料を別途作成することが重要です。
<課税売上割合を期中に試算する>
暗号資産の売却後、決算時に初めて課税売上割合が95%を下回ったことに気付くと、共通経費の区分や仕入税額控除の再計算が必要になります。
多額の暗号資産を売却する場合には、売却前後の課税売上割合を試算しておきましょう。
<会計システムの消費税区分を確認する>
改正後は、暗号資産の貸付けを課税売上として処理しないよう、税区分の設定変更が必要になる可能性があります。
また、暗号資産の譲渡対価の5%相当額を課税売上割合へ反映できるか、会計ソフトや消費税申告システムの対応状況も確認しましょう。
まとめ
2026年度税制改正により、暗号資産に関する消費税の取扱いが次のように見直されます。
暗号資産の譲渡は引き続き非課税
非課税とする位置付けが「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」へ変更
暗号資産の貸付けも非課税取引へ変更
電子決済手段の貸付けも非課税
暗号資産の譲渡対価の5%相当額を課税売上割合の分母へ算入
売却額が大きい場合、課税売上割合が低下する可能性がある
課税売上割合が95%未満になると、仕入税額控除が制限される場合がある
適用開始日は改正金融商品取引法等の施行年の翌年1月1日
暗号資産の売却自体が非課税であることは変わりませんが、課税売上割合の計算へ与える影響は大きく変わります。
特に、法人名義で多額の暗号資産を売却する企業は、法人税上の売却損益だけでなく、譲渡対価の5%算入によって控除できなくなる消費税額も含めて、事前に試算することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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