国税庁が消費税率1%のQ&Aを公表|売上計上・インボイス・簡易課税の実務を税理士が解説
こんばんは!代表の安田です。
2026年9月15日、国税庁は「消費税率引下げ特設サイト」を開設し、飲食料品の消費税率引下げについて、全17問のQ&Aやパンフレット等を公表しました。
2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡等について消費税・地方消費税を合わせた税率を1%とする制度への対応です。国税庁の特設サイトでも、この2年間の税率引下げについて案内されています。国税庁
今回のQ&Aでは、単に「食品が8%から1%になる」という制度概要だけではなく、
3月31日と4月1日をまたぐ営業日の売上
売手と買手で売上・仕入計上基準が違う場合
旧税率の商品が返品された場合
インボイスの記載
簡易課税から本則課税への変更
簡易課税の75%ルール
中間申告
店頭での総額表示
など、実務上迷いやすい論点について具体的な取扱いが示されました。
本記事では、経理担当者や食品関連事業者が押さえておきたいポイントを整理します。
飲食料品の消費税率は2027年4月1日から1%へ
制度では、2027年4月1日から2029年3月31日までの飲食料品の譲渡および保税地域からの引取りについて、国税0.78%+地方消費税0.22%相当=合計1%が適用されます。
国税庁も現在の軽減税率制度の案内に、2027年4月1日から2年間、飲食料品の税率が引き下げられる旨を追記しています。
ただし、実務では「4月1日」という日付だけを見て税率を判断できないケースがあります。
4月1日午前0時を過ぎても「8%」になるケース
今回のQ&Aで非常に実務的なのが、深夜営業をする店舗の取扱いです。
例えば、スーパーが、
営業時間:午前9時~翌日午前1時
毎日の売上:翌日午前1時で締める
この売上計上方法を継続している
とします。
この場合、2027年4月1日の午前0時から午前1時までに販売した飲食料品についても、3月31日分の売上として処理し、8%を適用してよいことが示されています。
<日付と税率のイメージ>
販売時刻 | 売上計上 | 税率 |
3月31日23時 | 3月31日売上 | 8% |
4月1日0時30分 | 継続している基準により3月31日売上 | 8% |
4月1日営業分 | 4月1日売上 | 1% |
つまり、時計が4月1日になった瞬間に、あらゆる取引を一律1%へ変更するわけではありません。
売手と買手の計上基準が違う場合は?
企業間取引では、売手と買手で計上基準が異なることがあります。
例えば、
売手:出荷基準
買手:検収基準
売手の出荷日:2027年3月30日
買手の検収日:2027年4月2日
というケースです。
売手が3月30日の取引として8%で請求した場合、買手もその8%に基づいて仕入税額控除を行ないます。
<ポイント>
売手 | 買手 |
3月30日に8%で売上計上 | 4月2日に検収 |
インボイスも8% | 8%で仕入税額控除 |
買手側が、「自社では4月2日計上だから1%」として処理するわけではありません。
税率変更日前後では、相手から受領したインボイスに記載された適用税率も確認することが重要です。
8%で販売した商品が4月以後に返品された場合
返品についても同様です。
2027年3月31日以前に8%で販売した飲食料品が、4月1日以後に返品された場合には、返品時点の1%ではなく、元の取引に適用された8%に基づいて売上げに係る対価の返還等の消費税額を計算します。
したがって、税率変更後は、
元の売上日
元の適用税率
返品・値引きとの紐付け
を管理できる販売システムが必要です。
通販・定期販売では8%が残るケースも
2027年4月1日以後に商品を引き渡しても、一定の通信販売や定期供給契約については8%が適用されます。
通信販売については、例えば、
2027年1月1日前に販売条件を提示
その販売条件が1%を前提としたものではない
2027年4月1日前に注文を受ける
商品の引渡しは4月1日以後
という場合に、8%を適用する経過措置があります。
一方、1%を前提として契約していたことが確認できる場合や、契約を1%前提に変更した場合は、この経過措置の対象外となり1%です。
食品EC事業者では、発送日だけでなく、販売条件提示日・申込日・契約内容も記録しておく必要があります。
インボイスは「1%」にするが、新しい記載項目は増えない
インボイス対応についても国税庁が明確にしています。
税率1%の飲食料品を販売した場合、当然ながらインボイスに記載する適用税率は1%となります。
一方、これまで記載していた、「軽減税率の対象品目である旨」については、そのままで構いません。新たに、「1%対象品目」などと記載する必要はありません。
<インボイス対応>
項目 | 変更 |
適用税率 | 8% → 1% |
消費税額等 | 1%で計算 |
「軽減税率対象」の表示 | 従来どおり |
「1%対象品目」という追加表示 | 不要 |
つまり、システム上は税率マスター等への1%追加が必要ですが、インボイス制度そのものに新しい必須記載事項が追加されるわけではありません。
免税事業者が本則課税へ変更する場合
飲食料品を販売する免税事業者については、2027年4月1日を含む課税期間の途中でも「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで、その課税期間から課税事業者となれる特例があります。
国税庁の案内でも、飲食料品の譲渡を行なう事業者向けに課税事業者選択届出書の提出時期の特例が設けられることが案内されています。
今回のQ&Aでは、さらに具体的な記載方法が示されました。届出書の「参考事項」欄に「飲食料品特例」と記載します。
これは実務上押さえておきたいポイントです。
個人事業者や12月決算法人は1月から課税になる
注意したいのが、個人事業者や12月決算法人です。
今回の課税事業者選択の特例を利用した場合、2027年4月1日ではなく、2027年1月1日から課税事業者となります。
そのため、
期間 | 飲食料品の税率 |
2027年1月~3月 | 8% |
2027年4月~12月 | 1% |
として1年分の消費税申告を行ないます。
「食品税率が1%になる4月からだけ課税事業者になる」とは限らない点に注意しましょう。
なお、インボイス発行事業者登録の経過措置を利用する場合には、4月1日から課税事業者となることができるケースも示されています。
簡易課税から本則課税へ変える場合も「飲食料品特例」と記載
簡易課税制度を利用している食品事業者についても、2027年4月1日の属する課税期間中に、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することで、その課税期間から本則課税へ変更できます。
この場合にも、届出書の「参考事項」欄へ、「飲食料品特例」と記載します。
さらに、この課税期間については、通常の簡易課税の2年間の継続適用要件が適用されません。
設備投資が多い食品事業者などでは、本則課税に変更した方が有利になる可能性もあるため、制度開始前に試算することが重要です。
簡易課税では1%対象食品の税額をそのまま控除
簡易課税については、特別な計算方法が設けられます。
通常は、「売上税額 × みなし仕入率」により仕入控除税額を計算します。
しかし、税率1%の飲食料品については、業種区分に関係なく、「その飲食料品の売上税額と同額を仕入控除税額に加算」します。
国税庁も簡易課税制度の案内で、飲食料品の税率引下げに伴う計算方法の特例が設けられることを明記しています。
簡易課税の具体例
国税庁Q&Aの計算例を見てみましょう。
例えば次の売上がある事業者です。
事業 | 売上 | 売上税額 | みなし仕入率 |
飲食料品の小売 | 2,500万円 | 25万円 | 80% |
雑貨等の小売 | 800万円 | 80万円 | 80% |
イートイン(外食) | 200万円 | 20万円 | 60% |
税率1%の飲食料品については、売上税額25万円と同額の25万円を仕入税額として控除します。
食品以外の取引については、通常の簡易課税計算を行ないます。
このように、新制度では簡易課税であっても、1%対象売上と、それ以外の課税売上を分離して計算する必要があります。
「75%ルール」は1%の食品売上を除いて判定
今回のQ&Aでも特に実務的なのが、簡易課税の「75%ルール」です。
簡易課税では、2種類以上の事業を行なっている場合でも、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上なら、その事業のみなし仕入率を一定の範囲で利用できるルールがあります。
今回の特例では、この75%判定について、1%対象となる飲食料品の売上を除いて判定
します。
先ほどの例なら、
雑貨:800万円
イートイン:200万円
だけで判定します。
したがって、「800万円 ÷ 1,000万円=80%」となり75%以上なので、雑貨小売の第2種事業・みなし仕入率80%を、飲食料品以外の部分へ適用できることになります。
中間申告の特例は「第一表だけ」でよい
消費税率が8%から1%へ下がると、前年の税額を基準に中間申告すると納税額が大きくなり過ぎる可能性があります。
そこで、2027年4月1日以後に開始する中間申告対象期間については、直前課税期間の飲食料品も1%だったものとして税額を再計算し、その金額を基礎とする特例があります。
今回のQ&Aでは、その申告方法まで具体化されました。
この特例を利用する場合は、中間申告書の「第一表」のみ提出すればよいとされています。
第一表についても、
納付税額
納付譲渡割額
消費税・地方消費税の合計税額
など所定の欄のみ記載する簡素な方法が示されています。
総額表示の「誤認防止措置」の具体例も公表
店頭の値札変更についても、具体例が示されました。
例えば2027年4月1日から5月31日までの間、値札をすぐに1%表示へ変更することが困難な場合には、一定の条件のもと旧税率8%による税込価格表示を残すことができます。
ただし、消費者が実際に支払う金額を誤解しないよう「誤認防止措置」が必要です。
国税庁Q&Aでは、例えば、「この棚の商品は、税率8%に基づく税込価格で表示しています。レジでは税率1%に基づき精算いたします。」といった趣旨を明瞭に表示する方法が例示されています。
今回のQ&Aで明確になったポイント
国税庁のQ&Aによって、食品関連事業者が特に確認しておきたい事項を整理すると次のとおりです。
論点 | 国税庁Q&Aで示された内容 |
深夜営業 | 継続する売上計上基準によっては4月1日未明も8% |
売手・買手の基準違い | 売手が8%で請求した場合、買手も8%で控除 |
返品 | 元取引の税率で調整 |
インボイス | 税率は1%だが新たな表示項目は不要 |
課税事業者選択 | 「飲食料品特例」と記載 |
簡易課税不適用 | 「飲食料品特例」と記載 |
簡易課税 | 食品の売上税額と同額を仕入控除 |
75%ルール | 1%食品売上を除外して判定 |
中間申告 | 特例利用なら第一表のみ |
総額表示 | 誤認防止表示の具体例を公表 |
食品関連事業者が今から確認したいこと
制度対応では、単なるレジ税率の変更だけでは不十分です。
特に確認したいのは、
POS・請求書システムが1%へ対応できるか
8%・1%・10%を同時に管理できるか
返品時に元の税率を追跡できるか
通販の販売条件提示日・申込日を管理できるか
簡易課税と本則課税のどちらが有利か
簡易課税の75%ルールへの影響
中間申告特例を利用するか
値札の変更スケジュール
などです。
特に簡易課税事業者は、今回の特例によって従来とは計算構造が変わるため、本則課税へ移行する場合と簡易課税を継続する場合の両方を実額で試算することが重要でしょう。
よくある疑問
Q. インボイスに「1%対象商品」と新たに記載する必要がありますか?
A. 必要ありません。適用税率は1%としますが、従来どおり「軽減税率の対象品目である旨」を記載すればよく、「1%対象品目」という新しい表示を追加する必要はないとされています。
Q. 2027年3月に8%で販売した食品が4月に返品されたら何%ですか?
A. 元の取引が8%なので、返品についても8%を基礎として消費税額を計算します。
Q. 簡易課税から本則課税へ変更する届出書には何か特別な記載が必要ですか?
A. 今回の特例を利用する場合、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の参考事項欄に「飲食料品特例」と記載します。
Q. 簡易課税の75%判定に食品売上も含めますか?
A. 税率1%となる飲食料品の譲渡については除外して判定します。
Q. 中間申告特例では付表も必要ですか?
A. 特例を使う場合には申告書第一表のみ提出すればよいとされています。
まとめ
国税庁は2026年9月15日、飲食料品の消費税率1%への引下げについて特設サイトを開設し、全17問のQ&Aやパンフレット等を公表しました。
今回のQ&Aによって、これまで制度概要だけでは判断しづらかった実務処理がかなり具体化しています。
特に重要なのは、
売上計上基準によっては4月1日未明でも8%となる
売手が8%で請求した場合は買手も8%で仕入税額控除
返品・値引き等は元の取引税率で処理
インボイスに「1%対象品目」という新たな記載は不要
課税事業者選択・簡易課税不適用の届出には「飲食料品特例」と記載
簡易課税では1%食品の売上税額と同額を控除
75%ルールでは1%食品売上を除外して判定
中間申告特例は第一表のみで対応可能
総額表示特例について誤認防止措置の具体例も公表
という点です。
国税庁の特設サイトでは、今後も飲食料品の消費税率引下げに関する情報が掲載されるため、食品関連事業者は制度開始まで継続して最新情報を確認した方がよいでしょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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