飲食料品の消費税率引下げで総額表示義務に特例|「対応が困難な事情」とは?
おはようございます!代表の安田です。
飲食料品の消費税率引下げを盛り込んだ税制改正大綱が、2026年9月15日に閣議決定されました。
税率が変更されれば、小売店や飲食店などは店頭の値札、メニュー、カタログ、商品パッケージ等に表示している税込価格も変更する必要があります。
しかし、税率変更日にすべての価格表示を一斉に切り替えることが難しいケースもあります。
そこで今回、総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情があり、かつ消費者の誤認を防ぐ措置を講じている場合には、税率変更前後の一定期間について旧税率または新税率による税込価格を表示できる特例が設けられる方向です。
ただし、「値札を変更するのが面倒だから」といった理由で自由に特例を利用できるわけではありません。
今回の資料では、「困難な事情」に該当する例と該当しない例が具体的に示されており、特例を利用できる範囲が明確になってきています。
本記事では、総額表示義務の基本ルールと、飲食料品の消費税率変更に伴う特例、「困難な事情」の具体例について、公認会計士・税理士が解説します。
そもそも総額表示義務とは?
総額表示義務とは、事業者が消費者に商品やサービスを販売する際、あらかじめ価格を表示する場合に、消費税を含めた税込価格を表示することを求める制度です。
免税事業者を除く事業者が消費者に商品の販売等を行なう場合の価格表示について、消費税法63条に基づき税込価格の表示が義務付けられています。
例えば、税抜価格1,000円、消費税80円の場合には、
1,080円
1,080円(税込)
1,000円(税込1,080円)
など、消費者が実際の支払総額を把握できる表示が基本となります。
総額表示義務そのものに罰則はない
総額表示義務について法的な罰則等はないとされています。
もっとも、総額表示は消費者が価格を容易に理解できるようにすることを目的とした制度であるため、適切な対応が求められます。
つまり、罰則がないので対応しなくてもよいという制度ではありません。
特に税率変更時には、レジで実際に請求される金額と店頭表示が異なることで、消費者とのトラブルにつながる可能性もあります。
なぜ総額表示義務の特例が必要なのか
飲食料品の消費税率が変更される場合、事業者は価格表示を変更する必要があります。
しかし、店舗によっては数千点、数万点の商品を取り扱っています。
税率が切り替わる瞬間に、
すべての値札
カタログ
メニュー
パッケージ
店内POP
を新しい税込価格へ変更することが現実的に難しいケースがあります。
このため、今回の税率変更では、一定の条件を満たした事業者について総額表示義務の特例を設ける方向となっています。
総額表示義務の特例を利用するための2つの条件
添付資料によると、特例を利用するためには、大きく次の2つの条件を満たす必要があります。
条件 | 内容 |
① 困難な事情 | 総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情がある |
② 誤認防止措置 | 消費者が実際の支払額を誤認しないような措置を講じている |
どちらか一方だけではなく、両方を満たすことがポイントです。
特例期間は税率変更前後「最大各2か月」
特例の対象期間については、税率変更前後の最大各2か月間とする方向です。
その期間中については、一定の条件のもとで、税率8%または税率1%に基づく税込価格を表示できる特例が設けられる方向とされています。
イメージすると次のようになります。
時期 | 特例による価格表示 |
税率変更より前 | 一定条件のもと変更後の税込価格を表示可能 |
税率変更日 | 新しい税率へ切替え |
税率変更後 | 一定条件のもと変更前の税込価格を一時的に表示可能 |
最大2か月経過後 | 原則として正しい税率による総額表示へ |
特例は恒久的なものではなく、税率変更時の一時的な作業負担を緩和するための制度と考えると分かりやすいでしょう。
「困難な事情」に該当するケース① 夜間に値札を貼り替えられない
今回、具体例として挙げられているのが、「夜間の値札の貼り替え作業に対応できない」というケースです。
例えば、大型スーパーで1万点の商品を扱っているケースを考えてみます。
税率変更日の前日の営業終了後から翌日の開店までの間に、1万枚の値札を新しい税込価格へ変更することが物理的に難しい場合があります。
このような事情がある場合には、「総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情」に該当することが想定されています。
「困難な事情」に該当するケース② カタログに価格が印刷されている
もう一つの例が、カタログ自体に価格が印刷されている場合です。
紙のカタログは、税率変更日に合わせて瞬時に内容を書き換えることができません。
例えば、
数万部のカタログをすでに印刷済み
全国の店舗へ配布済み
顧客へ郵送済み
という場合、新しい税率に合わせたカタログを作成・配布するまで一定期間を要します。
このような場合には、特例が想定されています。
「困難な事情」に該当するケース③ パッケージ自体に価格が印刷されている
商品パッケージそのものに税込価格が印刷されているケースも同様です。
例えば、希望小売価格 108円(税込)のように、商品包装自体へ価格が印刷されている場合です。
税率変更日に合わせて全国に流通している商品の包装をすべて変更することは容易ではありません。
そのため、商品パッケージ自体に価格が印字されていることによって税率変更時の総額表示への対応が間に合わない場合も、「困難な事情」の例として挙げられています。
一方、「単に値札を直していない」だけでは特例を使えない
ここが今回の資料で特に重要なポイントです。
総額表示義務の特例は、税率変更前後は旧価格のままでもよいという無条件の制度ではありません。
国税庁Q&Aでは、例えば、値札の貼り替えを随時行っているにもかかわらず、貼り替えた新しい値札にも引き続き税率8%の表示をしている場合などについては、「困難な事情」に該当しないとされています。
<比較すると分かりやすい>
ケース | 「困難な事情」への該当 |
一晩ですべての値札を変更できない | ○となり得る |
印刷済みカタログをすぐ変更できない | ○となり得る |
商品パッケージに価格が直接印字されている | ○となり得る |
値札は普通に貼り替えているが、旧税率の価格を表示し続ける | × |
単に変更作業をしたくない | ×と考えられる |
つまり重要なのは、税率変更への対応が客観的に難しい事情があるかどうかです。
「2か月の猶予があるから変更しなくてよい」わけではない
特例期間が最大2か月設けられる方向であることから、とりあえず2か月間は旧価格のままでよいと考えるのは適切ではありません。
資料では、「総額表示義務に直ちに対応することが困難な事情」がある場合に限るとされています。
したがって、システムや値札を通常どおり変更できる事業者まで、一律に2か月間の猶予を利用できる制度とは読み取れません。
事業者ごと、価格表示媒体ごとに「困難な事情」があるか確認する必要があります。
「誤認防止措置」も必要
困難な事情があるだけでも特例は利用できません。
消費者が、表示されている価格を実際にレジで支払う価格だと誤認しないような措置も必要です。
例えば、旧税率による税込価格を一定期間使用する場合には、店頭の商品価格は旧税率による税込価格を表示しています。お会計時には新税率に基づいて精算します。
など、税率変更によってレジ価格が異なることを分かりやすく案内することが考えられます。
具体的な表示方法については、今後の法令・Q&A等を確認する必要があります。
小売店で確認しておきたい価格表示媒体
税率変更対応を検討する場合、まず「どこに価格を表示しているのか」を洗い出すことが重要です。
価格表示媒体 | 対応確認 |
商品の値札 | □ |
棚札 | □ |
店内POP | □ |
商品パッケージ | □ |
紙カタログ | □ |
チラシ | □ |
ECサイト | □ |
デジタルサイネージ | □ |
POSレジ | □ |
レシート | □ |
媒体によって変更に必要な時間は異なります。
ECサイトであれば短時間で変更できる一方、パッケージや印刷済みカタログは一定期間を要する可能性があります。
そのため、すべてを一律に「対応困難」とするのではなく、媒体ごとに事情を検討することが重要でしょう。
飲食店ではメニューの切替えに注意
飲食店でも同様です。
例えば、
紙のメニュー
店頭看板
卓上メニュー
テイクアウト用チラシ
モバイルオーダー
券売機
など、複数の媒体に価格が表示されています。
紙のメニューについて変更が間に合わない事情がある一方、モバイルオーダーについては容易に変更できる、というケースも考えられます。
したがって特例が施行された場合には、店舗単位だけではなく表示媒体単位で対応可能性を確認することも実務上重要になりそうです。
事業者が残しておきたい社内資料
特例を利用する場合には、後から、なぜ税率変更時に正しい税込価格へ変更できなかったのかを説明できるようにしておくことも考えられます。
例えば、次のような資料です。
資料 | 内容 |
商品点数一覧 | 貼り替え対象となる値札数 |
作業計画 | 税率変更時の値札変更スケジュール |
カタログ発注資料 | 印刷・配送スケジュール |
パッケージ在庫 | 旧価格印字商品の残量 |
システム改修資料 | POS等の切替予定 |
店頭案内 | 消費者への誤認防止措置 |
添付資料で証拠保存について具体的な義務が示されているわけではありませんが、特例の前提である「困難な事情」を社内で説明できるようにしておくことは、実務管理上有用と考えられます。
関連法案の成立前である点にも注意
今回の税制改正大綱は2026年9月15日に閣議決定されていますが、添付資料では、今後関連法案が可決・成立した場合を前提として特例の方向性が説明されています。
したがって、現時点では、
特例が最終的にどのような法令になるか
具体的な適用期間
誤認防止措置の詳細
実務上の判断基準
などについて、今後の法令や国税庁の公表資料を確認する必要があります。
総額表示特例のポイントを一表で整理
項目 | 内容 |
対象 | 飲食料品の税率変更に伴う総額表示 |
原則 | 税込価格を表示 |
特例の前提① | 直ちに対応することが困難な事情 |
特例の前提② | 消費者への誤認防止措置 |
特例期間 | 税率変更前後の最大各2か月 |
困難な事情の例 | 夜間に値札を貼り替えられない |
困難な事情の例 | カタログに価格が印刷済み |
困難な事情の例 | 商品パッケージに価格が印刷済み |
該当しない例 | 新たに貼り替えた値札へ旧税率価格を表示し続ける |
現在の状況 | 関連法案の成立を前提とした方向性 |
まとめ
飲食料品の消費税率引下げに伴い、事業者の価格表示変更の負担を考慮した総額表示義務の特例が設けられる方向となっています。
特例のポイントは次のとおりです。
総額表示義務では原則として税込価格を表示する
税率変更時には税込価格も変更する必要がある
ただし、直ちに対応することが困難な事情がある場合には特例を利用できる方向
消費者への誤認防止措置も必要
特例期間は税率変更前後の最大各2か月
夜間に大量の値札を変更できないケースは「困難な事情」になり得る
印刷済みカタログや商品パッケージも対象になり得る
単に旧税率表示を継続したいだけでは「困難な事情」にならない
2か月間すべての事業者が自由に旧価格を表示できる制度ではない
今回特に重要なのは、「2か月間の猶予」そのものではなく、その事業者に総額表示へ直ちに対応できない客観的な事情があるかどうかです。
値札、紙カタログ、商品パッケージ、ECサイトなどでは変更の難易度が大きく異なります。そのため、飲食料品を扱う企業では、税率変更が正式に決定した後に慌てるのではなく、あらかじめ価格表示媒体を洗い出し、どこに特例が必要となり得るのかを整理しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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