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継続企業の前提の評価期間が見直しへ|決算日から公表承認日へ変更、2028年3月期から適用の見通し

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
11 分前
読了時間: 13分

こんにちは!代表の安田です。


企業が決算を行なう際には、今後も事業を継続できることを前提として財務諸表を作成するのが一般的です。


この考え方を「継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)」といいます。

企業の資金繰りが悪化している場合や、多額の損失が継続している場合などには、経営者が事業の継続可能性を評価し、監査人もその評価や対応策について検討する必要があります。


この継続企業の前提について、評価期間の考え方が変更される見通しとなりました。

2026年10月2日に開催された企業会計審議会・監査部会では、国際監査基準の改訂に対応するため、監査基準の改訂案が示されました。


今回の改訂案で特に重要なのは、継続企業の前提の評価期間を、従来の「決算日から少なくとも1年間」から「財務諸表の公表の承認日後、少なくとも1年間」へ変更する方向が示されたことです。


さらに、監査報告書についても、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められない場合に、独立した区分で記載することが提案されています。


一方、財務諸表監査における不正への対応については、日本の監査基準等を改訂せず、必要な対応を実務指針で行う方向です。


本記事では、継続企業の前提の基本的な考え方、評価期間の見直し内容、監査報告書への影響、企業が準備しておきたい実務対応について、公認会計士が解説します。


継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)とは?

継続企業の前提とは、企業が予測可能な将来にわたって事業活動を継続することを前提として財務諸表を作成する考え方です。


通常の企業会計では、企業が事業を継続することを前提として、資産や負債の会計処理を行います。


例えば、企業が工場設備を取得した場合、通常はその設備を今後も事業に使用することを前提として減価償却を行います。


しかし、企業の資金繰りが著しく悪化し、事業の継続が困難となる可能性がある場合には、同じ前提で財務諸表を作成することが適切なのか検討しなければなりません。


このため、経営者は継続企業の前提について評価を行ない、監査人はその評価や対応策を検討する必要があります。


<継続企業の前提に疑義が生じる可能性がある状況>

分類

具体例

業績

継続的な営業損失

財務

債務超過、多額の借入金

資金繰り

手元資金の不足、資金調達の難航

借入条件

財務制限条項への抵触

事業環境

主要取引先の喪失、事業の大幅な縮小

その他

事業継続に重大な影響を及ぼす問題

実際には、経営者が実施する改善策や資金調達計画なども踏まえ、総合的に評価します。


現行の評価期間は「決算日から少なくとも1年間」

日本の従来の監査実務では、継続企業の前提に関する経営者の評価や対応策について、監査人が検討する合理的な期間を、少なくとも決算日から1年間としていました。


例えば、2027年3月31日が決算日の会社を考えます。

従来の考え方では、少なくとも2028年3月31日までを対象とする評価が必要になります。


<現行の評価期間のイメージ>

項目

日付

決算日

2027年3月31日

評価期間の起点

決算日

少なくとも評価すべき期限

2028年3月31日

この方法では、評価期間の起点が決算日であるため、決算日から財務諸表の作成・承認までに時間がかかるほど、承認日時点から見た将来の評価対象期間が短くなります。


改訂案では「財務諸表の公表の承認日後1年間」へ

今回の監査基準改訂案では、この評価期間の考え方を見直すことが提案されています。


具体的には、決算日ではなく、財務諸表の公表の承認日を基準として、そこから少なくとも1年間先までを評価するという考え方です。


これは、国際監査基準ISA570「継続企業」の改訂との整合性を踏まえたものです。

現行と改訂案の比較

項目

現行

改訂案

評価期間の基準日

決算日

財務諸表の公表の承認日

評価期間

少なくとも決算日から1年間

少なくとも公表承認日後1年間

評価対象となる将来期間

決算日を基準

承認日を基準

実務上の影響

従来の期間で評価

評価対象期間が延びる

重要なのは、企業が将来について評価する期間が実質的に長くなる点です。


具体例|評価期間が2か月延びるケース

例えば、次のような3月決算会社を考えます。

  • 決算日:2027年3月31日

  • 財務諸表の公表の承認日:2027年5月31日

この場合、従来と改訂案の評価期間は次のように異なります。

項目

現行

改訂案

評価の基準日

2027年3月31日

2027年5月31日

少なくとも評価する期限

2028年3月31日

2028年5月31日

従来との比較

―

約2か月延長


この会社では、継続企業の前提について評価すべき将来期間が、従来より約2か月長くなります。


例えば、2028年4月や5月に多額の借入金の返済期限が到来する場合、改訂案のもとでは、その返済を含めた資金繰りを評価する必要が生じる可能性があります。


したがって、単に評価期間の起点を変更するだけではなく、資金繰り計画などの作成対象期間も見直す必要があります。


なぜ評価期間を延長するのか?

今回の改訂案は、国際監査基準ISA570との整合性を踏まえたものです。


実務上の意味を考えると、財務諸表の公表承認日時点で、そこから少なくとも1年間の事業継続可能性を評価する考え方には合理性があります。


例えば、決算日から財務諸表の公表承認日まで3か月かかる企業を考えます。

従来のように決算日から1年間だけ評価する場合、公表承認日時点では残り9か月程度しか評価期間がありません。


一方、今回の改訂案では、公表承認日を基準として少なくとも1年間の将来を評価します。

そのため、財務諸表の公表時点における事業継続可能性について、より長い将来期間を対象として検討することになります。


経営者の評価にも影響する

継続企業の前提について、監査人が評価を行うためには、経営者による事業継続可能性の評価が重要です。


例えば、資金繰りに懸念がある企業では、次のような情報を基に評価を行なうことが考えられます。

評価項目

主な確認事項

資金繰り計画

評価期間中に資金不足が生じないか

借入金返済

返済期限と返済原資

資金調達

借換えや新規調達の実現可能性

事業計画

売上高・利益の見通し

経費削減策

改善策の具体性と実行可能性

資産売却

売却予定額や実現可能性

親会社等の支援

支援方針や実行可能性

今回の改訂案が適用されれば、これらの資料について、従来より長い期間を対象とした検討が必要になる場合があります。


特に資金繰りが厳しい企業では、評価期間の延長によって、これまで評価対象外だった借入返済や資金需要を検討する必要が生じる可能性があります。


ASBJでも継続企業の前提に関する会計基準を開発中

今回の監査基準改訂案では、企業会計基準委員会(ASBJ)が継続企業の前提について会計基準を開発していることも明記されています。


そこでは、経営者による継続企業の前提に関する評価や開示を定めることが検討されています。


評価期間についても、期末日後、少なくとも財務諸表の公表の承認日後1年を経過した日までとする方向です。


つまり、今回の見直しは監査基準だけで完結するものではありません。

経営者による評価・開示を定める会計基準と、監査人による検討を定める監査基準の双方が関係する改訂となる見込みです。


監査報告書の記載も変更へ

評価期間の見直しと並んで重要なのが、監査報告書の記載内容です。


現行の監査基準では、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる場合、監査人は財務諸表に適切な記載があることを確認したうえで、監査報告書に独立した区分を設けて記載することが求められています。


今回の改訂案では、重要な不確実性が認められない場合にも、監査報告書に独立した区分を設けて記載する方向が示されています。


<現行と改訂案の比較>

状況

現行

改訂案

重要な不確実性が認められる

独立した区分に記載

独立した区分に記載

重要な不確実性が認められない

当該区分の記載を一律には要求しない

独立した区分に記載する方向

この変更によって、監査報告書の利用者は、重要な不確実性の有無にかかわらず、継続企業の前提に関する監査人の対応について情報を得られるようになることが想定されます。


ただし、具体的な記載内容や文例については、今後の正式な監査基準や実務指針を確認する必要があります。


「重要な不確実性がない」とはどういう意味?

ここで注意したいのは、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められないことと、企業が将来にわたって確実に存続することは同じではないという点です。


企業の将来は、景気動向や資金調達環境、経営判断など、多くの要因によって変化します。

監査人は、経営者の評価や対応策について監査証拠を入手し、監査基準に従って判断しますが、企業が将来も必ず存続することを保証するものではありません。


したがって、監査報告書に継続企業の前提に関する記載が拡充されたとしても、それを企業存続の保証と捉えることは適切ではありません。


不正への対応については監査基準を改訂しない方向

今回の監査部会では、継続企業の前提だけでなく、財務諸表監査における不正対応も議論されました。


背景には、国際監査基準ISA240「財務諸表監査における不正」の改訂があります。

改訂ISA240では、不正や不正の疑いへの対応について、より慎重な監査手続を求める内容が追加されています。


しかし日本では、すでに不正リスク対応基準において、改訂ISA240と同様の対応が求められています。


そのため、今回の監査基準改訂案では、不正対応に関する日本の監査基準等は改訂しない方向が示されました。


ISA570とISA240への対応比較

国際監査基準

改訂内容

日本の対応方針

ISA570(継続企業)

評価期間、監査報告書の記載を見直し

監査基準を改訂する方向

ISA240(不正)

不正等への対応手続を強化

監査基準等は改訂しない方向

ISA240に関連する具体的対応

報告書等で不正関連事項を明確化

実務指針で対応

不正対応の具体的な取扱いはJICPAの実務指針へ

監査基準等を改訂しないからといって、不正対応について何も変更がないという意味ではありません。


不正に関連する事項であることを明確に示す見出しを付けるなど、個別具体的な対応については実務指針で対応することが適切とされています。


そのため、日本公認会計士協会(JICPA)に対して、必要な対応が要請されています。

監査実務では、今後公表される実務指針等の改正内容についても確認する必要があります。


いつから適用される?2028年3月期の監査から実施見通し

今回の監査基準改訂案は、2026年10月2日に企業会計審議会・監査部会で示されました。

委員から反対意見はなく、今後、意見募集を経て監査基準を改訂する方向です。


実施時期については、2028年3月決算の財務諸表の監査からとされています。

項目

時期・状況

改訂案の提示

2026年10月2日

公表主体

企業会計審議会・監査部会

今後の手続

意見募集、監査基準の改訂

実施予定

2028年3月決算の財務諸表の監査から

現在の状況

改訂案の段階

したがって、3月決算会社では、2028年3月期の決算・監査に向けて継続企業の前提の評価期間を確認しておくことが重要です。


なお、具体的な適用関係については、今後正式に公表される改訂監査基準等を確認する必要があります。


企業が今から準備しておきたいこと

今回の改訂案について、すべての企業で直ちに大規模な対応が必要になるわけではありません。


しかし、特に資金繰りに懸念がある企業や、多額の借入金を抱える企業では、評価期間の見直しが実務に影響する可能性があります。


1.財務諸表の公表承認日を確認する

決算日だけでなく、財務諸表の公表についていつ承認が行われるのかを把握します。


2.将来の資金繰り計画の期間を見直す

現行の評価期間を前提として作成している資金繰り計画について、公表承認日後1年間をカバーできるか確認します。


3.借入金の返済期限を確認する

評価期間が延長されることで、新たに検討対象となる借入返済がないか確認します。


4.経営改善計画の実現可能性を検討する

経営者が提示する改善策について、その具体性や実行可能性を整理します。


5.監査法人と早期に協議する

継続企業の前提について懸念がある場合は、決算直前ではなく、監査法人と早い段階から協議することが重要です。


継続企業の前提に関する実務チェックリスト

確認事項

チェック

継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象等がないか確認した

□

財務諸表の公表承認日を把握している

□

評価期間の変更内容を理解している

□

評価期間中の資金繰り計画を作成している

□

評価期間中の借入金返済予定を把握している

□

重要な財務制限条項の状況を確認している

□

資金調達計画の実現可能性を確認している

□

経営改善策を具体的に整理している

□

評価に必要な資料を保存している

□

継続企業の前提に関する監査人への説明を準備している

□

今後の監査基準・会計基準の改訂を確認している

□


今回の改訂案のポイントを一表で整理

論点

改訂案の内容

継続企業の前提の評価期間

決算日起点から公表承認日起点へ変更

評価期間の長さ

公表承認日後少なくとも1年間

ASBJの会計基準

継続企業の前提に関する基準を開発中

監査報告書

重要な不確実性がない場合も独立区分に記載

ISA570

改訂に対応して日本の監査基準を見直す

ISA240

日本の監査基準等は改訂しない方向

不正対応の具体的事項

JICPAの実務指針で対応

実施見通し

2028年3月期の監査から


まとめ

企業会計審議会・監査部会は2026年10月2日、国際監査基準ISA570およびISA240の改訂に対応した日本の監査基準改訂案を示しました。


今回の改訂案で特に重要なのは、継続企業の前提の評価期間の見直しです。

従来、日本の監査実務では、少なくとも決算日から1年間を対象として評価が行われていました。


これに対し、改訂案では、少なくとも財務諸表の公表の承認日後1年間について評価する方向です。


そのため、決算日から公表承認日までに時間がある企業では、評価すべき将来期間が実質的に延長されることになります。


また、監査報告書についても、重要な不確実性が認められる場合だけでなく、認められない場合にも独立した区分で記載する方向です。


一方、財務諸表監査における不正対応については、日本の不正リスク対応基準がすでに改訂ISA240と同様の対応を求めているため、監査基準等の改訂は行なわず、個別具体的な事項を実務指針で対応する方向となっています。


今回のポイントをまとめると、次のとおりです。

  • 継続企業の前提の評価期間を見直す方向

  • 従来は決算日から少なくとも1年間

  • 改訂案では財務諸表の公表承認日後、少なくとも1年間

  • 評価期間の延長によって将来の資金繰り計画等にも影響する可能性

  • ASBJでも継続企業の前提に関する会計基準を開発中

  • 監査報告書の記載内容を拡充

  • 重要な不確実性がない場合も独立した区分に記載する方向

  • ISA240への対応では日本の監査基準等を改訂しない方向

  • 不正対応の具体的事項はJICPAの実務指針で対応

  • 2028年3月期の監査から実施する見通し


特に資金繰りが厳しい企業では、従来の決算日から1年間という期間だけを対象として資金繰り計画を作成している場合、公表承認日後1年間まで対象を延長する必要が生じる可能性があります。


今後は、会計基準・監査基準の正式な改訂内容を確認するとともに、継続企業の前提に関する評価資料の対象期間について、早めに監査法人と協議しておくことが望まれます。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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