医療費控除と保険金・給付金の関係|補填金はどこまで差し引く?税理士が解説
- 安田 亮
- 7月27日
- 読了時間: 12分
更新日:7月28日
おはようございます!代表の安田です。
確定申告で医療費控除を受ける際に、意外と迷いやすいのが「保険金や給付金を受け取った場合の計算」です。
医療費控除では、1年間に支払った医療費の合計額から、生命保険会社や健康保険組合などから受け取った補填金を差し引いて計算します。
たとえば、入院給付金、高額療養費、出産育児一時金などを受け取った場合には、その金額を医療費控除の計算に反映する必要があります。
ただし、ここで重要なのは、補填金を医療費全体から機械的に差し引くわけではないという点です。補填金は、その補填の対象となった医療費ごとに差し引きます。さらに、補填金が対象となる医療費を上回った場合でも、その超過部分を他の医療費から差し引く必要はありません。
本日は、医療費控除における保険金・給付金などの補填金の取扱いについて、具体例を交えながら解説します。
医療費控除とは
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に、本人や生計を一にする配偶者・親族のために医療費を支払った場合、一定額を所得から控除できる制度です。
病院や歯科医院での治療費、薬局で購入した治療薬、通院のための交通費、入院費用などが対象になることがあります。
医療費控除の金額は、原則として次のように計算します。
実際に支払った医療費の合計額 - 保険金などで補填される金額 - 10万円
ただし、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、10万円ではなく、総所得金額等の5%を差し引きます。
また、医療費控除の金額は最高200万円までです。
この計算式だけを見ると、「受け取った保険金や給付金は、医療費全体からまとめて差し引く」と考えてしまいがちです。しかし、実際には、補填金をどの医療費から差し引くかが大切になります。
補填金とは
医療費控除で差し引く補填金とは、医療費を補填する目的で支払われる保険金や給付金などをいいます。代表的なものとしては、次のようなものがあります。
生命保険契約や医療保険契約に基づく入院給付金
手術給付金
通院給付金
健康保険から支給される高額療養費
出産育児一時金
家族療養費
損害賠償金のうち医療費を補填する部分
勤務先や共済組合などから支給される医療費補助金
これらは、医療費の負担を補う目的で支給されるものです。
そのため、医療費控除を計算する際には、支払った医療費から差し引く必要があります。
一方で、医療費と直接対応しない見舞金や、所得補償的な給付などは、必ずしも医療費の補填金として扱うとは限りません。
受け取った金銭が何のために支給されたものか、保険会社や健康保険組合の通知書で確認することが重要です。
補填金は「対象となった医療費」から差し引く
医療費控除で最も重要なのは、補填金をその対象となった医療費から差し引くという考え方です。
たとえば、入院費に対して入院給付金を受け取った場合には、その入院給付金は入院費から差し引きます。
歯の治療費や通院費、薬代など、別の医療費から差し引くわけではありません。
つまり、医療費控除の計算では、補填金と医療費の対応関係を確認する必要があります。
「今年受け取った保険金だから、今年の医療費全体から差し引く」という単純な処理ではありません。たとえば、同じ年に次のような支払いと給付があったとします。
入院費:10万円
歯の治療費:20万円
入院給付金:15万円
この場合、入院給付金15万円は入院費10万円を補填するものです。
入院費を超える5万円部分を、歯の治療費20万円から差し引く必要はありません。
補填金は、あくまでその対象となった医療費を限度に差し引きます。
支払った医療費を超える補填金は他の医療費から差し引かない
医療保険の契約内容によっては、実際に支払った医療費よりも多い給付金を受け取ることがあります。
たとえば、1日あたり1万円の入院給付金が出る医療保険に加入しており、短期間の入院で医療費は少なかったものの、給付金は多く支払われるようなケースです。
この場合、医療費控除の計算では、支払った医療費を超える補填金を他の医療費から差し引く必要はありません。
これは、補填金の控除が、その補填の対象となる医療費ごとに行なわれるためです。
入院給付金が入院費を上回ったとしても、その超過分は、歯の治療費、通院費、薬代、別の病気の治療費などから差し引きません。
ここを誤ってしまうと、医療費控除額が本来よりも少なくなってしまう可能性があります。
同じ疾病でも補填の対象が限定されている場合
では、異なる病気ではなく、同じ病気に関する医療費の場合はどうでしょうか。
たとえば、同じ疾病について、検査費、手術費、入院費を支払ったとします。
その後、生命保険会社から入院給付金を受け取った場合、「同じ病気に関する医療費だから、検査費や手術費からも差し引くのではないか」と迷うことがあります。
しかし、入院給付金が入院費のみを補填する目的で支給されたものであれば、差し引く対象は入院費です。
同じ疾病に関連しているからといって、検査費や手術費まで含めた医療費全体から差し引くわけではありません。
補填金が何を対象として支給されたのかを確認し、その対象となる医療費から差し引くことになります。
具体例:同じ疾病で検査費・手術費・入院費を支払った場合
具体例で確認してみましょう。
前提は次のとおりです。
総所得金額等:400万円
同じ疾病により支払った検査費:1万円
手術費:12万円
入院費:6万円
受け取った入院給付金:15万円
この場合、医療費の合計額は次のとおりです。
1万円 + 12万円 + 6万円 = 19万円
次に、入院給付金15万円をどう差し引くかを考えます。
この入院給付金は、あくまで入院費に係る給付金です。
入院費は6万円ですので、医療費控除の計算上、差し引く補填金は6万円までです。
入院給付金15万円のうち、入院費を超える9万円部分は、検査費1万円や手術費12万円から差し引く必要はありません。
したがって、医療費控除の計算は次のようになります。
医療費合計額19万円 - 補填金6万円 - 10万円 = 医療費控除額3万円
このように、入院給付金の受取額が15万円であっても、医療費控除の計算で差し引くのは、補填対象である入院費6万円までです。
高額療養費を受け取った場合
医療費控除でよく出てくる補填金の一つが、高額療養費です。
高額療養費とは、健康保険制度により、1か月の医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、その超えた部分が払い戻される制度です。
高額療養費は、医療費を補填する目的で支給されるため、医療費控除の計算では差し引く必要があります。
この場合も、差し引く対象は、その高額療養費の対象となった医療費です。
たとえば、特定の月の入院・手術に対して高額療養費が支給された場合には、その入院・手術に係る医療費から差し引きます。
別の病院で支払った歯科治療費や、別の月の通院費から差し引くわけではありません。
高額療養費は、実際の支給が翌年になることもあります。その場合でも、医療費控除の計算では、補填される見込額を差し引いて申告する必要があります。
出産育児一時金を受け取った場合
出産に伴う医療費についても、補填金の取扱いに注意が必要です。
健康保険から支給される出産育児一時金は、出産に係る費用を補填する目的で支給されるものです。
そのため、医療費控除の計算では、出産費用から差し引く必要があります。
たとえば、出産費用が60万円で、出産育児一時金が50万円支給された場合、医療費控除の対象となる出産費用は10万円です。
一方、出産育児一時金が出産費用を上回るような場合でも、その超過部分を他の医療費から差し引く必要はありません。
また、妊婦健診、通院交通費、入院時の費用など、出産に関連する支出でも、何が出産育児一時金の補填対象となっているのかを確認することが大切です。
保険金の支給が翌年になる場合
医療費を支払った年と、保険金や給付金を受け取る年が異なることがあります。
たとえば、12月に入院費を支払い、入院給付金の請求をしたものの、実際に保険金が入金されたのは翌年1月だった、というケースです。
この場合、医療費控除の計算では、医療費を支払った年分で補填金を考慮します。
確定申告時までに補填金の金額が確定していない場合には、見込額に基づいて計算します。
その後、実際に受け取った金額が見込額と異なることが分かった場合には、必要に応じて訂正や更正の請求などを検討することになります。
医療費控除の申告をする際には、保険会社への請求状況や、高額療養費の支給見込みも確認しておきましょう。
医療費の明細書には補填金も記載する
医療費控除を受けるには、確定申告書に医療費控除の明細書を添付します。
この明細書には、医療費の支払先、医療費の区分、支払った医療費の額、保険金などで補填される金額などを記載します。
補填金がある場合には、どの医療費に対応するものなのかを整理して記載することが大切です。
たとえば、入院給付金であれば、対象となる入院費の欄に補填金を記載します。
複数の医療費がある場合には、補填金をまとめて別の欄に書くのではなく、対応する医療費と紐づけて管理しておくと分かりやすくなります。
医療費控除の明細書を作成する前に、領収書、医療費通知、保険金支払通知書、高額療養費支給決定通知書などをそろえておきましょう。
補填金の通知書を保存しておく
医療費控除では、医療費の領収書を確定申告書に添付する必要はありませんが、一定期間保存し、税務署から求められた場合には提示または提出できるようにしておく必要があります。
補填金についても、金額や対象医療費を確認できる資料を保存しておくことが重要です。
保存しておきたい資料としては、次のようなものがあります。
生命保険会社からの給付金支払通知書
医療保険の入院給付金支払明細
手術給付金の支払明細
高額療養費の支給決定通知書
出産育児一時金の支給通知
勤務先や共済組合からの医療費補助通知
保険金請求書の控え
給付対象となった入院期間や手術日が分かる資料
これらの資料があれば、どの医療費に対して補填金が支給されたのかを説明しやすくなります。
家族の医療費と補填金
医療費控除では、本人だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も対象になります。
そのため、家族分の医療費と補填金が混在することがあります。
たとえば、夫が妻や子どもの医療費を支払い、妻や子どもの保険契約から給付金が支払われるようなケースです。
この場合も、補填金はその対象となった医療費から差し引きます。
家族全体の医療費を合計する前に、誰のどの医療費に対して、どの補填金が支給されたのかを整理しておくとよいでしょう。
特に、家族全員分の医療費をまとめて確定申告する場合、補填金を一括で差し引いてしまうと誤りが生じる可能性があります。
医療費控除でよくある誤解
医療費控除と補填金について、実務上よくある誤解を整理します。
受け取った保険金は医療費全体から差し引く
実際には、補填金は、その対象となった医療費から差し引きます。対象医療費を超える部分を、他の医療費から差し引く必要はありません。
同じ病気なら、関連する医療費全体から補填金を差し引く
同じ疾病に関する医療費であっても、補填金が入院費のみを対象としているのであれば、入院費から差し引きます。検査費や手術費から差し引く必要はありません。
保険金の入金が翌年なら、今年の医療費控除では考えなくてよい
補填金の支給が見込まれる場合には、医療費を支払った年分の医療費控除で考慮する必要があります。
実務上のチェックポイント
医療費控除を計算する際には、次の点を確認しましょう。
その年に実際に支払った医療費はいくらか
未払いの医療費を含めていないか
医療費通知だけでなく、通知に載っていない医療費も確認したか
保険金や給付金を受け取っているか
高額療養費や出産育児一時金の支給があるか
補填金がどの医療費を対象としているか
補填金が対象医療費を超えていないか
超過部分を他の医療費から差し引いていないか
確定申告時点で未確定の補填金について見込額を反映しているか
補填金の通知書を保存しているか
医療費控除は、金額だけを合計すればよいように見えますが、補填金がある場合は対応関係の確認が非常に重要です。
まとめ
医療費控除を受ける場合、生命保険会社からの入院給付金、手術給付金、健康保険からの高額療養費、出産育児一時金など、医療費を補填する目的で支払われた金額は、医療費から差し引く必要があります。
ただし、補填金は医療費全体からまとめて差し引くのではなく、その補填の対象となった医療費ごとに差し引きます。
また、補填金が対象となる医療費を上回った場合でも、その超過部分を他の医療費から差し引く必要はありません。
たとえば、同じ疾病により検査費1万円、手術費12万円、入院費6万円を支払い、入院給付金15万円を受け取った場合、差し引く補填金は入院費相当の6万円までです。入院費を超える9万円を、検査費や手術費から差し引く必要はありません。
この場合、医療費合計19万円から補填金6万円と10万円を差し引き、医療費控除額は3万円となります。
医療費控除では、領収書や医療費通知だけでなく、保険金支払通知書や高額療養費の支給決定通知書なども確認し、どの医療費に対する補填なのかを整理しておくことが大切です。
確定申告で医療費控除を受ける方は、補填金の差し引き方を誤らないよう注意しましょう。
医療費控除や補填金の取扱いで迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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