減資による欠損てん補とは?法務・会計・税務のポイントを公認会計士が解説
- 安田 亮
- 7月27日
- 読了時間: 14分
こんにちは!代表の安田です。
会社の業績が悪化し、貸借対照表上の繰越利益剰余金がマイナスになっている場合、「減資による欠損てん補」を検討することがあります。
減資と聞くと、「会社の規模を小さくする」「株主にお金を返す」「株式数を減らす」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、会社法上の減資とは、あくまで資本金という計数を減少させる行為です。減資をしたからといって、必ずしも株主に現金を払い戻すわけではありません。また、発行済株式数が当然に減少するわけでもありません。
実務では、資本金を減少させてその他資本剰余金を計上し、そのその他資本剰余金を使って利益剰余金のマイナスを補うことがあります。これが「欠損てん補」です。
本日は、減資による欠損てん補について、会社法上の手続、会計処理、税務上の取扱い、地方税への影響、実務で間違いやすいポイントを公認会計士・税理士の視点からわかりやすく解説します。
減資とは何か
減資とは、会社法上、資本金の額を減少させることをいいます。
ここで重要なのは、減資は「資本金という会計上・会社法上の金額を減らす手続」であり、会社財産そのものが必ず減るわけではないという点です。
たとえば、資本金1,000万円の会社が資本金を300万円減少させた場合、会計上は資本金が700万円になります。そして、減少した300万円は、通常、その他資本剰余金として処理されます。
この場合、会社から現金が出ていなければ、会社財産は減っていません。純資産の部の中で、資本金からその他資本剰余金へ振り替えられただけです。
つまり、減資には大きく分けて、株主への払戻しを伴わない減資と、株主への払戻しを伴う減資があります。欠損てん補を目的とする減資は、通常、株主への払戻しを伴わない無償減資として行なわれます。
欠損てん補とは
欠損てん補とは、利益剰余金のマイナスを、その他資本剰余金などを使って補うことをいいます。
会社が過去に赤字を出していると、繰越利益剰余金がマイナスになることがあります。繰越利益剰余金のマイナスが大きい場合、将来黒字になっても、すぐに配当や自己株式取得を行うことが難しい場合があります。
なぜなら、配当や自己株式取得には分配可能額の制限があり、利益剰余金のマイナスが残っていると、分配可能額が十分に回復しないことがあるためです。
そこで、資本金を減少させてその他資本剰余金を発生させ、そのその他資本剰余金で利益剰余金のマイナスを補うことがあります。これが、減資による欠損てん補です。
欠損てん補を行なうことで、利益剰余金のマイナスが減少します。その結果、将来利益が出た場合に、配当や自己株式取得を行いやすくなることがあります。
減資と欠損てん補は別の手続
実務上、非常に大切なのは、減資と欠損てん補は別の手続だということです。
減資は、資本金の額を減少させる手続です。
一方、欠損てん補は、その他資本剰余金を利益剰余金のマイナスに充当する剰余金の処分です。
したがって、減資によって発生したその他資本剰余金を使って欠損てん補を行なう場合には、通常、次の2つの決議が必要になります。
まず、資本金の額を減少させる決議です。
次に、減資によって生じたその他資本剰余金を、利益剰余金のマイナスに充当する剰余金の処分の決議です。
この2つは密接に関連していますが、会社法上は別個のものとして整理されます。
そのため、株主総会議案を作成する場合には、資本金の額の減少に関する議案を先に置き、その後に剰余金の処分に関する議案を置くのが実務上自然です。
減資には株主総会決議が必要
資本金の額の減少を行なう場合、原則として株主総会の特別決議が必要です。
株主総会では、少なくとも次の事項を決議します。
減少する資本金の額
減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額
資本金の額の減少が効力を生ずる日
ただし、定時株主総会で決議する場合で、かつ、資本金の減少額の全額を欠損てん補に充てる場合には、普通決議で足りるとされています。
これは、株主への払戻しを伴わず、利益剰余金のマイナスを補う目的で行なわれるため、株主への影響が比較的小さいと考えられるためです。
とはいえ、減資は会社の資本構成に影響する重要な手続です。議案、効力発生日、債権者保護手続、登記、会計処理、税務処理まで含めて、慎重に進める必要があります。
債権者保護手続が必要
資本金の額を減少する場合には、原則として債権者保護手続が必要です。
具体的には、官報公告を行ない、知れている債権者に対して個別に催告を行ないます。債権者は、減資に異議がある場合、一定期間内に異議を申し述べることができます。
この異議申述期間は、1か月を下回ることができません。
なぜ債権者保護手続が必要なのでしょうか。
資本金が減少し、その他資本剰余金が増えると、その後、剰余金の配当や自己株式取得の財源になる可能性があります。つまり、会社財産が株主に流出し、債権者の保護に影響する可能性があるためです。
たとえ欠損てん補目的の無償減資であり、実際には株主への払戻しがない場合でも、資本金の額を減少する以上、債権者保護手続が必要になります。
なお、官報公告に加えて、定款で定めた電子公告または日刊新聞紙による公告を併せて行う場合には、個別催告を省略できることがあります。
減資の効力発生日
減資の効力発生日は、株主総会で定める事項の一つです。
実務上は、債権者の異議申述期間が満了した日の翌日以降を効力発生日とすることが多いです。債権者から異議がなければ、その効力発生日に減資の効力が発生します。
一方、債権者から異議があり、その異議が撤回されない場合には、会社は弁済、担保提供、信託などの対応を行う必要があります。債権者保護手続が完了しなければ、減資の効力は発生しません。
したがって、減資のスケジュールを組む際には、株主総会日、公告日、催告日、異議申述期間、効力発生日、登記申請日を一体で管理する必要があります。
決算期末や資本政策の実行期限がある場合には、余裕をもったスケジュール設計が重要です。
減資による欠損てん補の会計処理
減資による欠損てん補を行なう場合、会計上は、まず資本金の減少とその他資本剰余金の増加を認識します。仕訳は次のようなイメージです。
資本金 XXX / その他資本剰余金 XXX
次に、減資によって発生したその他資本剰余金を、利益剰余金のマイナスに充当します。
その他資本剰余金 XXX / 繰越利益剰余金 XXX
この2つの仕訳により、資本金が減少し、繰越利益剰余金のマイナスが圧縮されます。
たとえば、資本金を700万円減少し、その全額を欠損てん補に充てる場合、資本金が700万円減少し、繰越利益剰余金が700万円増加します。
ただし、純資産合計そのものは変わりません。株主資本の内訳が変わるだけです。
株主資本等変動計算書での表示
減資と欠損てん補を行なった場合、株主資本等変動計算書にもその内容が表示されます。
減資のみを行なった場合には、資本金の減少とその他資本剰余金の増加が表示されます。
一方、減資によって発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充てた場合には、資本金の減少、その他資本剰余金の増加、その他資本剰余金の減少、繰越利益剰余金の増加が表示されます。
つまり、減資による欠損てん補は、貸借対照表上の純資産合計を変える取引ではありませんが、株主資本の内訳を大きく変える取引です。
外部の利害関係者から見ると、資本金が減り、繰越利益剰余金のマイナスが改善するため、財務諸表の見え方が変わります。
そのため、金融機関、株主、投資家、取引先への説明が必要になることもあります。
欠損てん補には上限がある
欠損てん補で最も注意すべきなのが、てん補できる金額には上限があるという点です。
会計上、資本剰余金を利益剰余金へ振り替えることは、原則として認められていません。これは、資本と利益を混同してはいけないという考え方によるものです。
ただし、利益剰余金がマイナスである場合には、そのマイナスの範囲内で、その他資本剰余金を利益剰余金に振り替えることが認められています。
ここでいう利益剰余金のマイナスとは、繰越利益剰余金だけを見ればよいわけではありません。利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金などを含めた、利益剰余金全体のマイナス額で判断します。
たとえば、利益準備金が1,000万円あり、繰越利益剰余金がマイナス3,000万円の場合、利益剰余金全体のマイナスは2,000万円です。この場合、その他資本剰余金から欠損てん補できる上限は2,000万円です。
繰越利益剰余金のマイナス3,000万円を全額ゼロにしようとすると、利益剰余金全体がプラスになってしまうため、資本と利益の混同に当たる可能性があります。
基準となるのは確定した貸借対照表
欠損てん補の上限額を考える際には、どの時点の利益剰余金のマイナスを見るのかも重要です。
基準となるのは、確定した直近の貸借対照表上の利益剰余金のマイナス額です。
将来の赤字見込みや、進行中の事業年度で発生しそうな欠損額を見込んで、その他資本剰余金からてん補することはできません。
たとえば、今期の業績が悪化しており、年度末には大きな赤字になる見込みであっても、まだ確定していない欠損を前提として欠損てん補を行なうことは認められません。
欠損てん補は、確定した計算書類に基づく利益剰余金のマイナスの範囲内で行なう必要があります。
この点を誤ると、決議自体が無効とされるリスクがあります。
税務上は「何もなかったもの」と扱われる
減資による欠損てん補は、会計上は仕訳が発生します。
しかし、株主への払戻しを伴わない場合、法人税法上は、基本的に何もなかったものとして取り扱われます。
つまり、資本金等の額も利益積立金額も変動しません。所得金額にも影響しません。
会計上は、資本金を減らしてその他資本剰余金を増やし、その後、その他資本剰余金を繰越利益剰余金に振り替える処理を行います。
一方、法人税上は、株主資本の中で振り替えているだけで、株主に対する払戻しもないため、税務上の資本金等の額や利益積立金額は動かないという整理になります。
そのため、法人税申告書では、会計上の処理と税務上の処理を調整する必要があります。
この点は、会計処理だけを見て判断すると誤りやすいポイントです。
地方税では影響がある
法人税では、株主への払戻しを伴わない減資による欠損てん補は、基本的に何もなかったものとして扱われます。
しかし、地方税では影響が生じる場合があります。
具体的には、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額の算定上、欠損てん補額を減算することがあります。
また、外形標準課税の対象法人では、資本割の課税標準の額の算定上、欠損てん補額を減算することがあります。
このため、減資による欠損てん補を行なうことで、法人住民税均等割や外形標準課税の資本割の負担が下がる可能性があります。
ただし、注意点があります。
この減算は、資本金または資本準備金を減少してその他資本剰余金に計上した日から、一定期間内に欠損てん補に充てた金額に限られます。
実務では、減資の効力発生日と欠損てん補の効力発生日を同日にするケースが多いのは、このような地方税上の取扱いも意識しているためです。
株主側の取扱い
減資によって発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充てるだけで、株主への払戻しがない場合、株主の持分に実質的な変化はありません。株主が保有する株式の帳簿価額にも変動は生じません。
税務上も、株主に対する配当や払戻しがないため、株主側で課税関係は生じないのが通常です。ただし、減資とあわせて株主への払戻しを行なう場合や、自己株式取得、株式併合などを行う場合には、株主側の税務処理が問題になります。
この場合は、みなし配当、株式譲渡損益、源泉徴収などの検討が必要になるため、単なる欠損てん補目的の無償減資とは区別して考える必要があります。
減資による欠損てん補を行なう目的
減資による欠損てん補は、主に次のような目的で行なわれます。
まず、利益剰余金のマイナスを整理し、財務諸表の見え方を改善する目的です。繰越利益剰余金のマイナスが大きい会社では、金融機関や取引先から財務体質に不安を持たれることがあります。
次に、将来の配当や自己株式取得を行いやすくする目的です。欠損てん補により分配可能額のマイナスを解消しておけば、将来利益が出た場合に株主還元を実施しやすくなります。
また、企業再生の場面では、増資と減資を組み合わせて資本構成を整理することがあります。いわゆる増減資により、既存株主の持分を整理し、新たな資本注入を行うケースです。
さらに、地方税の均等割や外形標準課税の資本割への影響を考慮して、資本金水準を見直す場合もあります。
実務で間違いやすいポイント
減資による欠損てん補では、次のような誤りが起こりやすいです。
第一に、減資と欠損てん補を一つの手続として考えてしまうことです。実際には、資本金の額の減少と剰余金の処分は別の手続です。
第二に、債権者保護手続を軽視することです。欠損てん補目的で株主への払戻しがない場合でも、資本金の額を減少する以上、原則として債権者保護手続が必要です。
第三に、繰越利益剰余金だけを見て欠損てん補の上限額を判断することです。利益準備金や任意積立金を含めた利益剰余金全体のマイナス額で判断しなければなりません。
第四に、法人税と地方税の取扱いを混同することです。法人税では何もなかったものとして扱われても、地方税では均等割や資本割に影響することがあります。
第五に、効力発生日の管理を誤ることです。債権者保護手続が完了しなければ減資の効力は発生しません。登記や会計処理、税務上の取扱いにも影響するため注意が必要です。
専門家に相談すべきケース
次のような場合には、減資による欠損てん補を実行する前に、公認会計士、税理士、司法書士、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
資本金の額が大きい
利益剰余金のマイナスが大きい
利益準備金や任意積立金がある
配当や自己株式取得を予定している
金融機関への説明が必要
企業再生や増減資を検討している
株主への払戻しを伴う可能性がある
外形標準課税の対象法人である
地方税の均等割や資本割への影響を確認したい
過去に欠損てん補の決議を行っており、適法性を確認したい
減資による欠損てん補は、法務、会計、税務が密接に関係する手続です。どれか一つだけを見て進めると、後から手続や税務処理に問題が生じる可能性があります。
まとめ
減資とは、会社法上、資本金の額を減少させる行為です。減資そのものは、株主への払戻しや株式数の減少を当然に意味するものではありません。
減資による欠損てん補とは、資本金を減少させてその他資本剰余金を計上し、そのその他資本剰余金を利益剰余金のマイナスに充当する手続です。
会社法上は、資本金の額の減少の決議と、剰余金の処分の決議が必要になります。また、資本金の額を減少する場合には、原則として債権者保護手続も必要です。
会計上は、資本金の減少、その他資本剰余金の増加、その他資本剰余金の減少、繰越利益剰余金の増加として処理します。
一方、株主への払戻しを伴わない場合、法人税上は基本的に何もなかったものとして取り扱われ、資本金等の額や利益積立金額には変動が生じません。ただし、地方税では、法人住民税均等割や外形標準課税の資本割に影響することがあります。
また、欠損てん補できる金額は、確定した貸借対照表上の利益剰余金全体のマイナス額が上限です。繰越利益剰余金だけを見て判断すると、上限を超える欠損てん補となり、決議が無効となるリスクがあります。
減資による欠損てん補は、財務体質の整理、将来の配当可能性、企業再生、地方税負担に関係する重要な手続です。実行する際には、会社法上の手続、会計処理、法人税、地方税、株主側の影響を総合的に確認し、専門家と連携して慎重に進めることが大切です。
神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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