土地建物を一括購入した場合の取得価額の按分|契約書の内訳がそのまま認められないケースを税理士が解説
- 安田 亮
- 23 時間前
- 読了時間: 15分
おはようございます!代表の安田です。
不動産投資や賃貸経営を始める際、土地と建物を一括で購入するケースは多くあります。
たとえば、賃貸アパート、貸家、店舗併用住宅、事務所ビル、区分所有ではない一棟物件などです。
このとき税務上とても重要になるのが、購入金額を土地と建物にどう分けるかです。
なぜなら、土地は減価償却できませんが、建物は減価償却できるからです。
同じ総額で不動産を購入しても、建物に配分される金額が大きければ、毎年の減価償却費が大きくなり、不動産所得の必要経費も増えます。
一方、土地に配分される金額が大きければ、減価償却費は少なくなります。
そのため、土地建物の一括購入では、土地と建物の取得価額の按分が税務上の争点になりやすいのです。
売買契約書に土地と建物の内訳価額が書かれていれば、その金額をそのまま使ってよいと思われるかもしれません。
しかし、契約書上の内訳価額が客観的な価値と比較して著しく不合理である場合、その内訳がそのまま税務上認められるとは限りません。
今回紹介する裁決事例では、土地と建物を一括購入した不動産賃貸業者が、売買契約書に記載された内訳価額をもとに建物の取得価額を計算しました。しかし、審判所は、その内訳価額が著しく不合理であるとして、固定資産税評価額比により売買代金総額を土地と建物に按分すべきと判断しました。
本日は、土地建物を一括購入した場合の取得価額の按分方法、契約書の内訳が否認されるリスク、固定資産税評価額比を使う場合の考え方、実務上の注意点を税理士の視点から解説します。
土地と建物で税務処理が大きく違う
不動産を購入した場合、購入代金のうち土地部分と建物部分では税務処理が異なります。
土地は、通常、時の経過によって価値が減少する資産ではないため、減価償却の対象になりません。購入した土地の取得価額は、将来その土地を売却するまで、原則として必要経費になりません。
一方、建物は時の経過や使用により価値が減少する資産です。
そのため、建物の取得価額は、法定耐用年数に応じて毎年減価償却費として必要経費に算入します。
不動産賃貸業の場合、建物の減価償却費は、不動産所得の計算上、重要な必要経費です。
つまり、土地建物の総額が同じでも、建物にいくら配分するかによって、毎年の不動産所得や所得税額が変わります。
このため、土地建物の按分は、単なる会計上の便宜ではなく、税務上の重要論点になります。
売買契約書の内訳価額は原則として尊重される
土地と建物を一括で購入する場合でも、売買契約書に土地価額と建物価額の内訳が記載されていることがあります。たとえば、売買代金総額5,000万円のうち、土地3,000万円、建物2,000万円と記載されているようなケースです。
通常、第三者間の売買契約で合意された金額は、当事者間の取引価格として尊重されます。
建物を売買契約で取得する場合、減価償却資産の取得価額に含まれる購入代価は、原則として売買契約の代金額によると考えられます。
したがって、契約書上の土地・建物の内訳が合理的であれば、その内訳をもとに建物の取得価額を計算することになります。
ただし、契約書に書かれているからといって、常に無条件で認められるわけではありません。
契約書の内訳が著しく不合理な場合は注意
売買契約書に土地と建物の内訳が記載されていても、その配分が客観的な価値と比較して著しく不合理な場合には、税務上そのまま認められない可能性があります。
たとえば、次のようなケースです。
土地の価値が明らかに高い地域であるにもかかわらず、土地価額が極端に低い
築年数が古い建物であるにもかかわらず、建物価額が異常に高い
固定資産税評価額と比べて、建物だけが大幅に高く、土地だけが低い
売買総額は妥当でも、内訳だけが不自然に建物寄りになっている
売主と買主の間で、建物価額を高くする税務上の動機がある
建物価額を高くすると、買主は減価償却費を多く計上できます。
そのため、土地建物の一括売買では、建物価額を過大に配分していないかが税務調査で確認されることがあります。
今回の裁決事例の概要
今回の事例では、不動産賃貸業を営む個人が、3物件の土地と建物をそれぞれ一括で購入しました。
その後、各物件を貸付けの用に供し、減価償却資産である建物の取得価額について、売買契約書に記載された土地・建物の各内訳価額をもとに算定しました。
これに対し、税務署側は、売買契約書の内訳価額が著しく不合理であると判断しました。
そして、建物の取得価額は、固定資産税評価額の価額比に基づいて算定すべきであるとして、所得税等の更正処分等を行いました。
納税者側は、第三者間の相対取引で合意された内訳価額である以上、その契約書上の金額をもとに建物の取得価額を計算すべきだと主張しました。
しかし、審判所は、契約書上の内訳価額が客観的価値と比較して著しく不合理である場合には、合理的な基準により按分すべきと判断しました。
審判所が重視したポイント
審判所は、まず、購入した減価償却資産の取得価額は、その資産の購入代価などの合計額であると整理しました。
建物を売買契約で取得する場合、原則として売買契約の代金額が購入代価に該当します。
しかし、土地と建物が一括で売買された場合、契約書上の各価額が客観的な価値と比べて著しく不合理であるにもかかわらず、そのまま認めてしまうと問題が生じます。
売買契約時に、土地と建物の代金配分を操作することで、減価償却資産である建物の取得価額を過大にし、必要経費を過大に計上できてしまうからです。
これは、租税負担の公平の原則に反すると考えられます。
そのため、契約書上の内訳価額が適正な価額と比較して著しく不合理な場合には、合理的な基準により建物の購入代価を算定すべきと判断されました。
固定資産税評価額との比較
今回の事例では、3物件の売買代金総額はいずれも固定資産税評価額の総額を上回っていました。
しかし、内訳を見ると、建物価額は固定資産税評価額を大きく上回っていました。
一方、土地価額は固定資産税評価額と同程度か、それを下回っていました。
つまり、売買代金総額から建物部分に過剰に配分され、土地部分には相対的に低く配分されていたと見られました。このような配分は、土地と建物の客観的価値を反映しているとはいえず、著しく不合理と判断されました。
その結果、審判所は、各物件の建物の購入代価について、固定資産税評価額比により売買代金総額を按分して算定すべきとしました。
固定資産税評価額比による按分とは
固定資産税評価額比による按分とは、土地と建物それぞれの固定資産税評価額の比率に基づいて、売買代金総額を按分する方法です。
たとえば、土地の固定資産税評価額が3,000万円、建物の固定資産税評価額が1,000万円、合計4,000万円だとします。この場合、土地と建物の評価額比は、土地75%、建物25%です。
売買代金総額が5,000万円であれば、土地部分は3,750万円、建物部分は1,250万円と按分することになります。
固定資産税評価額は、市町村が固定資産税課税のために評価した価額であり、土地と建物の客観的価値を比較する一つの基準として使われます。
もちろん、固定資産税評価額比だけが唯一の方法ではありませんが、土地建物の按分方法として実務上よく使われる基準です。
なぜ建物価額を高くしたくなるのか
土地建物の按分で建物価額が問題になる理由は、建物だけが減価償却できるからです。
建物価額が高いほど、毎年の減価償却費が大きくなります。
不動産賃貸業では、賃料収入から必要経費を差し引いて不動産所得を計算します。
建物の減価償却費が大きくなれば、不動産所得が減り、所得税や住民税の負担が軽くなる可能性があります。
そのため、買主としては、できるだけ建物に多く金額を配分したいという動機が生じることがあります。
一方、売主側では、土地と建物の内訳が譲渡所得や消費税に影響する場合があります。
特に法人や課税事業者が売主の場合、建物部分には消費税が課税されるため、売主側の事情も関係します。
このように、土地建物の内訳は買主と売主双方の税務に影響するため、合理的な基準で設定することが重要です。
契約自由の原則だけでは足りない
納税者側は、第三者間の相対取引で合意された売買契約書上の内訳価額に基づいて、建物の取得価額を算定すべきと主張しました。
確かに、第三者間取引では、当事者が自由に価格を決めることができます。
しかし、税務上は、契約自由の原則だけでなく、租税負担の公平性も考慮されます。
契約書に内訳価額が記載されていても、それが客観的価値と比較して著しく不合理であり、建物価額を過大にすることで必要経費を過大に計上できる状態であれば、そのまま認めることはできません。
つまり、契約書の内訳は重要な資料ですが、絶対的なものではありません。
税務上は、その内訳が合理的な根拠に基づいているかを説明できることが必要です。
合理的な按分基準の例
土地建物を一括購入した場合、按分方法としては複数の基準が考えられます。
代表的なものは次のとおりです。
固定資産税評価額比
相続税評価額比
不動産鑑定評価額
近隣取引事例や市場価格
建物の再調達価額や残存価値
売主の帳簿価額
これらのうち、どの方法が適切かは、物件の種類、取引条件、売主の属性、契約書の内容、資料の有無によって異なります。
実務では、固定資産税評価額比が比較的使いやすい基準です。
ただし、固定資産税評価額が実態を反映しにくい特殊な物件や、建物が著しく老朽化している場合などには、別の基準の検討が必要になることもあります。
不動産鑑定評価を使う方法
高額な不動産や特殊な物件では、不動産鑑定評価を利用することもあります。
不動産鑑定士による評価は、専門的な市場分析や収益性、原価性、取引事例を踏まえて行われるため、合理的な按分根拠として有力です。
特に、固定資産税評価額が実態と大きく乖離している場合や、土地と建物の価値配分が難しい場合には、不動産鑑定評価を取得することも検討に値します。
ただし、不動産鑑定には費用がかかります。
また、鑑定評価を取得すれば必ず税務上認められるというわけではなく、評価の前提や方法が合理的であることが必要です。
中小規模の物件では、費用対効果を考え、固定資産税評価額比などの簡便な方法を採用することが多いでしょう。
仲介手数料の按分にも注意
土地建物を一括購入した場合、仲介手数料などの取得関連費用も按分が必要になります。
不動産仲介会社に支払った仲介手数料は、取得価額に含めるべき付随費用です。
この仲介手数料も、土地と建物の取得に共通して発生しているため、合理的に土地部分と建物部分に配分する必要があります。
建物に対応する仲介手数料は、建物の取得価額に加算され、減価償却の対象になります。
土地に対応する仲介手数料は、土地の取得価額に加算され、減価償却はできません。
今回の裁決事例でも、建物に係る取得価額に加算すべき仲介手数料の金額などに計算誤りが認められ、原処分の一部取消しにつながっています。
土地建物の按分は、売買代金だけでなく、仲介手数料や付随費用にも影響する点に注意しましょう。
繰延消費税額等の計算にも影響する
土地建物の一括購入では、消費税の取扱いも重要です。
建物部分に係る消費税は、課税仕入れとして仕入税額控除の対象になる可能性があります。
一方、土地部分は消費税非課税です。
課税売上割合が低い場合や、個別対応方式・一括比例配分方式の適用により、建物に係る消費税の一部が控除できないことがあります。
この場合、控除対象外消費税額等や繰延消費税額等の計算が必要になることがあります。
建物価額の按分が変われば、建物に係る消費税額、控除対象外消費税額等、繰延消費税額等にも影響します。
今回の裁決事例でも、仲介手数料に係る繰延消費税額等について計算誤りが認められています。
不動産購入時には、所得税・法人税だけでなく、消費税の処理も合わせて確認する必要があります。
不動産賃貸業での減価償却費への影響
不動産賃貸業では、建物の取得価額に基づき、毎年減価償却費を計算します。
建物価額が過大に設定されていると、毎年の減価償却費も過大になります。
その結果、不動産所得が過少に計算され、所得税が過少申告になる可能性があります。
一方、税務調査で建物価額が否認され、固定資産税評価額比などで再計算されると、過去の減価償却費が減額され、所得税等の追徴課税が発生することがあります。
不動産投資では、購入時の按分を安易に決めてしまうと、数年にわたって減価償却費が誤ることになります。購入時点で合理的な按分根拠を残しておくことが、将来の税務リスクを減らすうえで重要です。
税務調査で確認されやすいポイント
土地建物の取得価額の按分について、税務調査では次のような点が確認される可能性があります。
売買契約書に土地・建物の内訳があるか
内訳価額の算定根拠があるか
固定資産税評価額と比較して不自然な配分になっていないか
建物価額が過大になっていないか
土地価額が過小になっていないか
売主と買主の関係性
消費税額の記載内容
不動産鑑定評価の有無
仲介手数料や付随費用の按分方法
固定資産台帳の取得価額
減価償却費の計算
消費税の仕入税額控除や繰延消費税額等の計算
税務調査では、契約書だけでなく、固定資産税評価証明書、売買時の査定資料、鑑定資料、仲介業者の資料なども確認されることがあります。
実務で残しておきたい資料
土地建物を一括購入した場合には、次の資料を保存しておきましょう。
売買契約書
重要事項説明書
固定資産税評価証明書
固定資産税課税明細書
不動産鑑定評価書
仲介会社の査定資料
売主との価格交渉資料
建物の築年数や構造が分かる資料
修繕履歴
建物の現況写真
消費税額の計算資料
仲介手数料の請求書
固定資産台帳
減価償却費の計算明細
これらの資料があれば、土地建物の按分が合理的であることを説明しやすくなります。
特に、売買契約書上の内訳が固定資産税評価額比と大きく異なる場合には、その理由を説明できる資料が必要です。
よくある誤解
土地建物の一括購入について、実務上よくある誤解を整理します。
契約書に内訳が書いてあれば必ず認められる
契約書の内訳は重要ですが、客観的価値と比較して著しく不合理であれば、税務上認められない可能性があります。
建物価額を高くすれば節税になる
建物価額を高くすれば減価償却費は増えますが、不合理な配分は否認リスクがあります。
また、「固定資産税評価額比で必ず按分しなければならない」という誤解もあります。
固定資産税評価額比は合理的な基準の一つですが、唯一の方法ではありません。
不動産鑑定評価や消費税額からの逆算など、状況に応じた合理的な方法を検討できます。
土地建物の按分は所得税だけの問題
按分は、減価償却費だけでなく、消費税、仲介手数料の取得価額配分、繰延消費税額等にも影響します。
実務上のチェックポイント
土地建物を一括購入した場合は、次の点を確認しましょう。
売買契約書に土地・建物の内訳価額があるか
内訳価額の算定根拠があるか
固定資産税評価額比と大きく乖離していないか
建物価額が客観的価値と比較して過大ではないか
土地価額が過小ではないか
消費税額から建物価額を逆算できるか
不動産鑑定評価を取得すべきか
仲介手数料を土地・建物に合理的に按分しているか
固定資産台帳に正しい建物取得価額を登録しているか
減価償却費を正しく計算しているか
消費税の仕入税額控除や繰延消費税額等に影響がないか
按分根拠を税務調査で説明できる資料として保存しているか
まとめ
土地と建物を一括で購入した場合、購入代金を土地部分と建物部分に合理的に按分する必要があります。
土地は減価償却できませんが、建物は減価償却できるため、建物に配分される金額が大きいほど、毎年の減価償却費が大きくなります。そのため、土地建物の按分は、不動産所得や法人税・所得税の計算に大きな影響を与えます。
売買契約書に土地・建物の内訳価額が記載されている場合、通常はその内訳が重要な根拠になります。
しかし、契約書上の内訳価額が客観的な価値と比較して著しく不合理である場合には、その内訳がそのまま税務上認められるとは限りません。
今回の裁決事例では、不動産賃貸業を営む納税者が、3物件の土地・建物を一括購入し、売買契約書上の内訳価額に基づいて建物の取得価額を計算しました。
しかし、各建物価額が固定資産税評価額を大きく上回る一方、各土地価額は固定資産税評価額と同程度または下回っていたため、売買代金総額から建物価額が過剰に配分されたと判断されました。
審判所は、契約書上の内訳価額が著しく不合理であるとして、固定資産税評価額比により売買代金総額を土地と建物に按分すべきと判断しました。
この事例から分かるのは、土地建物の按分は、契約書に書いてあるかどうかだけでなく、その配分が合理的かどうかが重要だということです。
固定資産税評価額比、不動産鑑定評価、売主の資料など、客観的な根拠をもとに按分する必要があります。
また、按分は売買代金だけでなく、仲介手数料や取得関連費用、消費税の仕入税額控除、繰延消費税額等にも影響します。
不動産投資や賃貸物件の購入時には、購入後の減価償却費だけでなく、購入時点の取得価額按分を慎重に検討しましょう。
土地建物の一括購入における取得価額の按分や減価償却費の計算で迷う場合は、税理士へ相談することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


