相続で賃貸不動産を引き継いだら青色申告の期限に注意|年末相続で忘れやすい税務手続きを解説
- 安田 亮
- 30 分前
- 読了時間: 11分
こんばんは!代表の安田です。
親が亡くなり、アパートやマンションなどの賃貸不動産を相続することになった場合、相続税のことに意識が向きがちです。
しかし、実務上は相続税だけでなく、所得税や消費税の届出にも注意が必要です。
特に、亡くなった方が不動産賃貸業を行っており、青色申告をしていた場合には、相続人がそのまま青色申告を引き継げるわけではありません。
また、被相続人が消費税の簡易課税制度を選択していた場合でも、その効力が当然に相続人へ引き継がれるわけではありません。
本日は、相続により賃貸不動産を引き継いだ場合に注意したい「青色申告承認申請書」と「消費税関係の届出」について、税理士の視点からわかりやすく解説します。
相続で賃貸不動産を引き継いだら、まず確認すべきこと
相続で賃貸不動産を引き継いだ場合、税務上は「不動産所得」が発生する可能性があります。
たとえば、亡くなった親がアパートを所有し、毎年家賃収入について確定申告をしていた場合、その不動産を相続した人は、相続後の家賃収入について自分自身の所得として申告する必要があります。
ここで確認すべき主なポイントは、次のとおりです。
まず、被相続人が青色申告をしていたかどうかです。
次に、相続人自身が青色申告の承認を受けているかどうかです。
さらに、被相続人が消費税の課税事業者だったか、簡易課税制度を選択していたか、インボイス登録をしていたかなども確認が必要です。
相続というと「財産を誰が取得するか」に目が向きますが、賃貸不動産を引き継ぐ場合には、所得税・消費税の手続きも同時に動き出します。
青色申告は自動的には引き継がれない
被相続人が青色申告をしていた場合でも、相続人が当然に青色申告者になるわけではありません。
青色申告の承認は、あくまで納税者ごとに受けるものです。
そのため、相続人が相続後の不動産所得について青色申告をしたい場合には、相続人自身が「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
青色申告には、要件を満たすことで青色申告特別控除を受けられる、赤字を翌年以後に繰り越せる、青色事業専従者給与を必要経費にできるなどのメリットがあります。
不動産賃貸業では、建物の減価償却費、修繕費、借入金利息などにより、相続直後に所得が大きく変動することもあります。
特に、賃貸物件が古く修繕費が多い場合や、大規模修繕を予定している場合には、青色申告を選択できるかどうかが将来の税負担に影響することがあります。
青色申告承認申請書の提出期限は相続時期で変わる
青色申告承認申請書の提出期限は、通常であれば、青色申告をしようとする年の3月15日までです。年の途中で新たに事業や不動産貸付を開始した場合は、その開始日から2か月以内とされています。
ただし、青色申告をしていた被相続人の事業を相続により承継した場合には、死亡の日の時期によって提出期限が変わります。
国税庁の案内では、青色申告をしていた被相続人の事業を相続により承継した場合、提出期限は次のように整理されています。
被相続人の死亡日 | 青色申告承認申請書の提出期限 |
1月1日から8月31日まで | 死亡の日から4か月以内 |
9月1日から10月31日まで | その年の12月31日まで |
11月1日から12月31日まで | 翌年2月15日まで |
ここで注意したいのは、通常の確定申告期限である3月15日までではないケースがあることです。
たとえば、11月10日に父が亡くなり、子が賃貸アパートを相続して不動産賃貸業を続ける場合、青色申告承認申請書の提出期限は翌年2月15日となります。
「確定申告と一緒に3月15日までに出せばよい」と思っていると、期限を過ぎてしまう可能性があります。
準確定申告の期限とは別に考える
相続が発生した場合、亡くなった方の所得について「準確定申告」が必要になることがあります。
準確定申告とは、被相続人の1月1日から死亡日までの所得について、相続人が代わりに行なう確定申告です。
国税庁は、準確定申告について、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税を行う必要があると説明しています。ただし、準確定申告の期限と、相続人自身の青色申告承認申請書の期限は、常に同じではありません。
ここが実務上の落とし穴です。
たとえば、11月10日に相続が発生した場合、準確定申告の期限は原則として翌年3月10日です。一方で、被相続人が青色申告をしており、相続人がその事業を承継して青色申告をしたい場合、青色申告承認申請書の期限は翌年2月15日になります。
つまり、準確定申告の期限よりも、青色申告承認申請書の期限の方が早く到来する場合があるのです。
相続後は、葬儀、遺産分割、金融機関対応、不動産の名義変更などで慌ただしくなります。その中で税務署への届出期限を見落とすと、青色申告のメリットを受けられない可能性があります。
消費税の届出も相続人に自動では引き継がれない
賃貸不動産を相続した場合、所得税だけでなく消費税にも注意が必要です。
居住用賃貸住宅の家賃は原則として消費税が非課税ですが、店舗、事務所、駐車場などの貸付けがある場合には、消費税の課税売上が発生することがあります。
また、被相続人が不動産賃貸業以外の事業も行っていた場合や、賃貸物件に事業用部分が含まれる場合には、消費税の判定が必要になることがあります。
ここで重要なのは、被相続人が提出していた消費税の届出書の効力は、原則として相続人には及ばないという点です。
国税庁は、被相続人が提出した「消費税課税事業者選択届出書」「消費税課税期間特例選択等届出書」「消費税簡易課税制度選択届出書」の効力は、相続により事業を承継した相続人には及ばないため、相続人がその適用を受ける場合には新たに提出が必要であると説明しています。
たとえば、亡くなった父が消費税の簡易課税制度を選択していたとしても、相続人である子が自動的に簡易課税制度を使えるわけではありません。
簡易課税制度を使いたい場合には、相続人自身が「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
相続で事業を引き継いだ場合の消費税の納税義務
消費税では、相続により事業を引き継いだ場合、被相続人の課税売上高も考慮して納税義務を判定する場面があります。
相続があった年については、相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超える場合、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの期間について、消費税の納税義務は免除されません。
また、相続があった年の翌年または翌々年については、基準期間における被相続人の課税売上高と相続人の課税売上高の合計額が1,000万円を超える場合、納税義務が免除されないとされています。
そのため、相続人自身はこれまで事業をしていなかったとしても、被相続人の事業規模によっては、消費税の課税事業者になる可能性があります。
「自分はまだ事業を始めたばかりだから消費税は関係ない」と考えるのは危険です。
相続による事業承継では、被相続人の過去の課税売上高も確認する必要があります。
簡易課税制度を使いたい場合は早めの確認が必要
簡易課税制度とは、実際の仕入税額を集計するのではなく、売上に一定のみなし仕入率を乗じて消費税を計算する制度です。
不動産賃貸業では、課税売上がある場合に、簡易課税制度を選択した方が事務負担や税負担の面で有利になることがあります。
ただし、簡易課税制度を使うには、原則として事前に届出が必要です。
相続により被相続人の事業を引き継いだ場合、被相続人が簡易課税制度を選択していても、その届出の効力は相続人には引き継がれません。相続人が簡易課税制度を使いたい場合は、相続人自身で届出を出す必要があります。
年末に相続が発生した場合、青色申告の承認申請書だけでなく、消費税の届出も短期間で判断しなければならないことがあります。
特に、12月中に相続が発生した場合には、年内に対応すべき届出がないかを早急に確認する必要があります。
インボイス登録をしていた被相続人の事業を引き継ぐ場合
近年は、インボイス制度との関係も無視できません。
被相続人が適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス登録事業者であった場合、相続人が事業を承継したとしても、相続人が当然に登録事業者になるわけではありません。
国税庁は、相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人が登録を受けるためには、登録申請書を提出して税務署長の登録を受ける必要があるとしています。
ただし、一定期間については、相続人を適格請求書発行事業者とみなす措置があります。具体的には、相続があった日の翌日から、相続人が登録を受けた日の前日、または被相続人の死亡日の翌日から4か月を経過する日のいずれか早い日までの期間について、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなす取扱いがあります。
事業用テナントや駐車場など、取引先にインボイスを求められる賃貸収入がある場合には、相続後のインボイス対応も早めに確認しておきましょう。
年末相続では「3月15日までで大丈夫」と思い込まない
相続に関する税務手続きでは、「確定申告は3月15日まで」というイメージが強いかもしれません。
しかし、相続で賃貸不動産や事業を引き継いだ場合には、3月15日より前に期限が来る手続きがあります。特に注意したいのが、次のようなケースです。
被相続人が青色申告をしていた
相続人が不動産賃貸業を継続する
被相続人が消費税の課税事業者だった
被相続人が簡易課税制度を選択していた
被相続人がインボイス登録をしていた
相続発生日が11月から12月である
このような場合には、青色申告承認申請書、消費税簡易課税制度選択届出書、インボイス登録関係の手続きなどについて、提出期限を個別に確認する必要があります。
「準確定申告のときにまとめて考えればよい」と思っていると、青色申告の提出期限を過ぎてしまうことがあります。
相続後に確認したい税務手続きのチェックリスト
相続により賃貸不動産を引き継いだ場合には、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。
被相続人が青色申告をしていたか
相続人自身が青色申告承認申請書を提出する必要があるか
青色申告承認申請書の提出期限はいつか
被相続人の準確定申告が必要か
準確定申告の期限はいつか
被相続人が消費税の課税事業者だったか
課税売上高が1,000万円を超えていたか
被相続人が簡易課税制度を選択していたか
相続人が簡易課税制度を選択する必要があるか
被相続人がインボイス登録をしていたか
相続後もインボイス登録が必要か
相続税申告の有無だけでなく、所得税・消費税の届出も含めてスケジュール管理することが重要です。
まとめ:相続で賃貸不動産を引き継いだら、届出期限を早めに確認する
相続で賃貸不動産を引き継いだ場合、相続税だけでなく、所得税や消費税の手続きにも注意が必要です。
特に、被相続人が青色申告をしていた場合でも、相続人が自動的に青色申告者になるわけではありません。相続人が青色申告をしたい場合には、相続人自身が青色申告承認申請書を提出する必要があります。
また、青色申告承認申請書の提出期限は、死亡日の時期によって異なります。11月1日から12月31日までに相続が発生した場合、提出期限は翌年2月15日となるため、通常の確定申告期限より早い点に注意が必要です。
さらに、消費税の簡易課税制度やインボイス登録についても、被相続人の届出がそのまま相続人に引き継がれるわけではありません。
相続後は、葬儀や遺産分割などで慌ただしくなり、税務手続きは後回しになりがちです。
しかし、提出期限を過ぎると、青色申告のメリットを受けられなかったり、消費税の計算方法で不利になったりする可能性があります。
賃貸不動産や事業を相続した場合には、できるだけ早めに税理士へ相談し、所得税・消費税・相続税の手続きをまとめて確認することをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


