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合併法人が事前確定届出給与を支給する場合の注意点|被合併法人の届出書は引き継げる?

  • 執筆者の写真: 安田 亮
    安田 亮
  • 7月31日
  • 読了時間: 7分

おはようございます!代表の安田です。


グループ経営の効率化や組織再編の一環として、親子会社間の吸収合併が行なわれることは珍しくありません。こうした場面では、会計や税務の論点だけでなく、役員給与の取扱いにも注意が必要です。


特に見落としやすいのが、事前確定届出給与です。たとえば、子会社で支給予定だった事前確定届出給与を、吸収合併後に親会社が引き継いで支払うケースでは、「子会社がすでに届出書を提出しているのだから、そのままで問題ない」と考えたくなるかもしれません。ですが、添付資料では、そのような整理は難しく、合併法人である親会社が改めて届出書を提出する必要があると示されています。


今回は、吸収合併と事前確定届出給与の関係について、実務上の注意点をわかりやすく解説します。


事前確定届出給与とは何か

事前確定届出給与とは、役員に対して支給する給与のうち、支給時期と支給額をあらかじめ定め、所轄税務署へ届出を行ったうえで、その届出どおりに支給することで損金算入が認められる制度です。資料でも、法人税法上、所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨を定めた届出書を、所定の期日までに所轄税務署長へ提出し、その定めどおりに支給した金額は損金算入できると整理されています。


そのため、役員賞与のような性質の支給を損金にしたい場合には、届出の有無とタイミングが非常に重要です。


吸収合併でよくある疑問

組織再編の現場でよくあるのが、次のようなケースです。

子会社が被合併法人となる吸収合併を行い、その子会社の役員が合併後に親会社の役員へ就任する。そして、もともと子会社で支給する予定だった事前確定届出給与を、合併後は親会社が支払うことになる。


この場合に問題になるのが、子会社が提出していた「事前確定届出給与に関する届出書」が、そのまま親会社にも効力を及ぼすのかという点です。感覚的には「権利義務を包括承継するのだから、そのまま引き継げるのでは」と思いやすいところです。


しかし、届出書の地位はそのまま承継されない

添付資料では、この点について明確に、被合併法人の届出書の提出という法的状況が、吸収合併によって合併法人へ当然に引き継がれるとは考えにくいと整理しています。


その理由として、資料では、吸収合併による承継の対象は原則として私法上の権利義務である一方、税務署への各種届出に基づく地位は各法人に専属する公法上の地位であると説明しています。そして、こうした公法上の地位を承継させるには、別途明文規定が必要と考えられるものの、法人税法には、被合併法人が税務署へ届出書を提出しているという法的状況が、合併法人へ引き継がれることを定めた規定はないとされています。


つまり、合併の包括承継という発想だけでは、税務上の届出まで自動的に引き継がれるとはいえない、ということです。


役員との委任関係も終了する点に注意

さらに資料では、吸収合併により、被合併法人と役員との委任関係は終了することにも触れています。この点も、子会社時代の届出書をそのまま親会社の役員給与に流用できない理由の一つです。


なぜなら、事前確定届出給与の届出は、単に「この人にいくら払う」という情報だけでなく、その法人におけるその役員の職務に関する給与として届け出るものだからです。被合併法人の役員としての地位が終了し、合併法人で新たに役員となるのであれば、税務上も別の役員給与の問題として捉える必要があります。


実務上の結論:合併法人が改めて届出書を提出する

以上を踏まえ、資料では、合併に伴って子会社の役員が新たに親会社の役員に就任した場合には、親会社が自らの納税地の所轄税務署長に対して、改めて届出書を提出することが求められると整理しています。


つまり、被合併法人が以前提出していた届出書を前提にして安心してはいけません。合併法人側で、新規就任に伴う事前確定届出給与の届出を検討しなければならない、ということです。


提出期限はどう考えるか

この場面は期中での役員新規就任と同様に考えるべきとされており、臨時総会等で役員就任が決議された日から1月を経過する日等までに、臨時改定事由を前提とした届出書を提出することが求められるとしています。


このため、合併日だけを見て判断するのではなく、

  • いつ役員就任が決議されたのか

  • その決議日から届出期限がどう計算されるのか

  • 合併後に予定している支給時期に間に合うのか

を早めに確認しておく必要があります。


実務で間違えやすいポイント

この論点は、組織再編実務に慣れている会社ほど見落としやすい部分でもあります。特に注意したいのは、次のような誤解です。


1. 合併で全部引き継ぐのだから届出も当然に承継される、という誤解

税務上の届出の地位は、私法上の権利義務の承継とは別に考える必要があります。

2. 支給対象者が同じなら問題ない、という誤解

同じ人物であっても、被合併法人の役員としての地位と、合併法人の役員としての地位は同じではありません。

3. 合併後に親会社で支払うだけだから届出不要、という誤解

実際には、親会社側で新規就任に伴う届出を求められる整理です。


こんなケースは特に要注意

実務上、次のようなケースでは特に慎重な確認が必要です。

  • 親子会社間の吸収合併で、子会社役員をそのまま親会社役員へスライドさせる場合

  • 合併前に子会社で事前確定届出給与の支給スケジュールが決まっている場合

  • 合併日と役員就任決議日が近接しており、届出期限の管理が難しい場合

  • 組織再編のスケジュールが先行し、税務届出の確認が後回しになっている場合

こうした場面では、合併契約や登記の準備と並行して、役員給与の届出実務も必ず確認しておくべきです。


税理士としての実務対応

税理士の立場からは、吸収合併の相談を受けたときに、法人税・消費税・地方税だけでなく、役員給与の承継可否まで視野に入れて確認することが重要です。特に、事前確定届出給与は期限管理を誤ると損金算入に直接影響するため、組織再編のプロジェクトの中で早めに論点化しておく必要があります。

合併スケジュールが固まった段階で、

  • 誰が合併後に役員へ就任するのか

  • 被合併法人で事前確定届出給与の届出がされているか

  • 合併法人で新たに届出が必要か

  • その提出期限に間に合うか

を洗い出しておくことが、後のトラブル防止につながります。


まとめ

吸収合併により、被合併法人の役員が合併法人の役員に就任し、被合併法人で予定していた事前確定届出給与を合併法人が支給する場合でも、被合併法人が提出していた届出書がそのまま合併法人に承継されるとは考えにくいとされています。


その理由として、資料では、税務署への届出に基づく地位は各法人に専属する公法上の地位であり、法人税法に承継の明文規定がないこと、また吸収合併により被合併法人と役員との委任関係が終了することが挙げられています。したがって、合併法人が改めて、自社の納税地の所轄税務署長へ届出書を提出する必要があるというのが実務上の結論です。提出期限は、役員就任が決議された日から1月を経過する日等までを目安に考える必要があります。


組織再編では「包括承継」という言葉に引っ張られがちですが、税務上の届出は別問題になることがあります。合併で役員給与の引継ぎを予定している場合は、届出書の再提出が必要かどうかを早めに確認しておくことが大切です。


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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。

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