収益認識に関する注記で誤解しやすいポイントとは?重要な会計方針の書き方を公認会計士が解説
- 安田 亮
- 8月2日
- 読了時間: 16分
おはようございます!代表の安田です。
収益認識会計基準の適用により、売上高の会計処理だけでなく、財務諸表注記の重要性も高まっています。
特に上場会社や会社法上の大会社では、顧客との契約から生じる収益について、単に「売上をいつ認識するか」だけでなく、どのような履行義務があり、どの時点で履行義務が充足され、取引価格をどのように算定しているのかを、財務諸表利用者にわかりやすく説明する必要があります。
しかし実務では、収益認識会計基準について、いくつか誤解されやすいポイントがあります。
たとえば、「従来の工事進行基準と同じ」「出荷基準はこれまでどおり使える」「本人・代理人の判定は総額か純額かだけの問題」「取引価格が確定していなければ収益認識できない」といった理解です。
これらは一部では正しそうに見えますが、収益認識会計基準の考え方を正確に理解すると、必ずしもそうではありません。
本日は、収益認識に関する5つの誤解、重要な会計方針で注記すべき内容、収益認識の5ステップと注記の関係、実務で使える確認ポイントを、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
収益認識会計基準で重要なのは「結論」だけではない
収益認識会計基準では、顧客との契約から生じる収益を、原則として5つのステップに従って認識します。
まず、顧客との契約を識別します。次に、契約に含まれる履行義務を識別します。そのうえで、取引価格を算定し、取引価格を履行義務に配分し、履行義務を充足した時点または期間に収益を認識します。
この5ステップの考え方は、収益認識の結論を出すためだけでなく、重要な会計方針の注記を作成するうえでも非常に重要です。
なぜなら、財務諸表利用者が知りたいのは、単に「売上を計上した」という結果だけではないからです。
どのような商品やサービスを顧客に提供しているのか。会社はいつ履行義務を果たしたと判断しているのか。取引価格に値引き、リベート、返品、変動対価、顧客に支払われる対価が含まれているのか。複数の履行義務がある場合、取引価格をどのように配分しているのか。
このような検討過程を説明することで、収益認識の内容が読み手に伝わりやすくなります。
誤解1:別個の財又はサービスの判定は、履行義務の数を決めるためだけではない
収益認識で最初につまずきやすいのが、「別個の財又はサービス」の判定です。
この判定は、履行義務が1つなのか複数なのかを決めるために行います。そのため、「履行義務が複数なら取引価格を配分するための検討」と理解されがちです。
もちろん、それも重要な目的です。
しかし、別個の財又はサービスの判定の役割は、それだけではありません。
この判定を通じて、企業が顧客に何を提供しているのか、つまり履行義務の内容が明確になります。そして、履行義務の内容が明確になることで、収益をいつ認識するのか、本人なのか代理人なのか、保証サービスが別個の履行義務になるのか、ライセンスの供与をどう扱うのかといった論点の検討につながります。
たとえば、機械販売と据付工事を一体として顧客に提供している場合、機械の引渡しと据付工事を別々の履行義務と見るのか、単一の履行義務と見るのかによって、収益認識の時点が変わることがあります。
したがって、重要な会計方針では、主要な事業における主な履行義務の内容を具体的に説明することが重要です。
誤解2:旧工事進行基準と同じではない
次に多い誤解が、「工事進行基準という名称はなくなったが、従来と同じように処理すればよい」というものです。
確かに、従来の工事進行基準と同じように、一定の期間にわたって収益を認識するケースはあります。
しかし、収益認識会計基準では、考え方が変わっています。
従来の工事契約会計では、工事契約の成果の確実性などに基づき、工事進行基準を適用するか、工事完成基準を適用するかを判断していました。
一方、収益認識会計基準では、履行義務の性質に基づき、一定の期間にわたり充足される履行義務か、一時点で充足される履行義務かを判断します。
つまり、入口の考え方が違います。
たとえば、顧客仕様の設備やシステムを制作する契約では、企業が制作中の資産を他に転用できず、完了した作業に対する対価を収受する強制力のある権利を有する場合、一定の期間にわたり履行義務が充足されると判断されることがあります。
また、進捗度を合理的に見積もれない場合でも、発生した費用の回収が見込まれるときは、原価回収基準により収益を認識する場合があります。
このように、旧工事進行基準と見た目が似ていても、判断ロジックは異なります。重要な会計方針では、なぜ一定の期間にわたり収益を認識するのか、その根拠を説明することが望まれます。
誤解3:出荷基準は無条件に従来どおり使えるわけではない
出荷基準も誤解されやすい論点です。
収益認識会計基準の適用指針では、一定の要件を満たす場合に、出荷時などで収益を認識する代替的な取扱いが認められています。
そのため、「出荷基準は従来どおり使える」と考えられることがあります。
しかし、出荷基準を採用する場合でも、まず商品や製品の支配が顧客に移転する時点を明確にする必要があります。
収益認識会計基準では、収益認識の基礎は支配の移転です。出荷、着荷、納品、検収などのうち、どの時点で顧客が商品や製品を支配するのかを検討します。
そのうえで、国内販売であり、出荷時から支配移転時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時や着荷時などで収益認識することが認められることがあります。
反対に、押込み販売のように企業側の都合で出荷している場合や、出荷から顧客への支配移転までの期間が通常より長い場合には、出荷時の収益認識が適切でない可能性があります。
したがって、重要な会計方針では、単に「出荷基準により収益を認識している」と書くのではなく、対象となる取引や、支配移転時点との関係を説明することが重要です。
誤解4:本人・代理人の区分は、総額表示か純額表示だけの問題ではない
本人・代理人の区分は、収益を総額で表示するか、純額で表示するかに影響します。
そのため、取引価格の算定に関する論点、つまり5ステップのうちステップ3の問題と理解されることがあります。
しかし、本人・代理人の区分は、顧客に約束した財又はサービスを特定し、その財又はサービスを顧客に提供する前に企業が支配しているかどうかによって判断します。
つまり、ステップ2の履行義務の識別と密接に関係する論点です。
よく知られている考慮指標として、主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権があります。
しかし、これらはあくまで支配の有無を判断するための指標です。
重要なのは、まず顧客に提供する財又はサービスを特定し、その財又はサービスを企業が顧客に提供する前に支配しているかどうかを検討することです。
たとえば、ECサイトやプラットフォームビジネスでは、企業が商品やサービスを自ら提供しているのか、それとも他の事業者による提供を手配しているだけなのかを慎重に判断する必要があります。
この判断により、売上高を総額で表示するのか、手数料部分のみを収益として表示するのかが変わります。
誤解5:取引価格が確定していないと収益認識できないわけではない
最後に、取引価格が確定していない場合の誤解です。
実務では、「金額が確定していないので、収益認識を見送る」という判断がされることがあります。
しかし、収益認識会計基準では、取引価格が確定していないこと自体が、収益を認識しない理由になるわけではありません。
契約が識別され、履行義務が充足されているのであれば、取引価格を見積もったうえで収益を認識することがあります。
たとえば、値引き、リベート、返品、業績連動報酬、マイルストーン収入などは、金額が変動する可能性があります。このような変動対価については、見積り方法を決定し、変動対価の制限を検討したうえで、取引価格に含める金額を判断します。
ただし、事後的に収益の著しい減額が発生する可能性が高い部分は、取引価格に含めることができません。
また、進捗度を合理的に見積もれない場合でも、発生費用の回収が見込まれる場合には、原価回収基準により収益を認識することがあります。
したがって、「金額未確定だから売上を立てない」と単純に判断するのではなく、変動対価の見積りと制限を検討する必要があります。
重要な会計方針で最低限注記すべき2つの項目
収益認識に関する重要な会計方針では、少なくとも次の2つの項目が重要です。
1つ目は、企業の主要な事業における主な履行義務の内容です。
これは、会社が顧客に何を提供しているのかを説明する情報です。商品販売なのか、受託開発なのか、保守サービスなのか、ライセンス供与なのか、保証サービスなのかによって、収益認識の考え方は変わります。
2つ目は、その履行義務を充足する通常の時点、つまり収益を認識する通常の時点です。
商品販売であれば、引渡時、納入時、検収時などが考えられます。サービスであれば、契約期間にわたり収益を認識する場合があります。受託開発や工事契約では、進捗度に応じて一定期間にわたり収益を認識する場合があります。
この2つを具体的に記載することで、財務諸表利用者は会社の売上計上ルールを理解しやすくなります。
重要な会計方針は3つのパターンで整理するとわかりやすい
収益認識に関する重要な会計方針は、5ステップの順番どおりに機械的に書けばよいわけではありません。
実務上は、5ステップ間の関係を意識して整理すると、読み手に伝わりやすくなります。
特に、次の3つのパターンで考えると整理しやすくなります。
1つ目は、ステップ1・2とステップ5の関係です。
これは、契約や履行義務の内容と、収益認識時点の関係です。会社が顧客に何を提供しているのか、その履行義務がいつ充足されるのかを説明します。
2つ目は、ステップ1とステップ3の関係です。
これは、顧客との契約条件と取引価格の算定の関係です。値引き、リベート、返品、顧客に支払われる対価、重要な金融要素、変動対価などがある場合に重要になります。
3つ目は、ステップ1・2・3とステップ4・5の関係です。
これは、複数の履行義務がある場合に、取引価格をどのように配分し、それぞれの履行義務についていつ収益を認識するかという関係です。製品販売と保守サービス、商品販売とポイント付与、機器販売と保証サービスなどで問題になります。
この3つのパターンで整理すると、収益認識の注記が単なる文章の羅列ではなく、会計処理の検討過程として理解しやすくなります。
ステップ1・2とステップ5の関係
ステップ1・2とステップ5の関係では、履行義務の内容と収益認識時点を結び付けて説明します。
たとえば、商品の販売であれば、主な履行義務は商品を顧客に引き渡すことです。そして、商品が顧客に引き渡された時点、または顧客が検収した時点で支配が移転し、収益を認識するという説明になります。
一方、システム開発受託や工事請負契約では、顧客仕様の成果物を制作する場合があります。このような契約では、制作中の資産を他に転用できず、完了した作業に対する対価を収受する強制力のある権利がある場合、一定の期間にわたり収益を認識することがあります。
保守サービスや運用サービスでは、契約期間にわたって顧客にサービス提供体制を維持することが履行義務となるため、期間の経過に応じて収益を認識することがあります。
このように、履行義務の内容と収益認識時点をセットで説明することが重要です。
ステップ1とステップ3の関係
ステップ1とステップ3の関係では、顧客との契約条件や支払条件が、取引価格の算定にどう影響するかを説明します。
たとえば、商品販売において値引きや販売リベートがある場合、約束された対価からこれらを控除して取引価格を算定します。返品がある場合には、返品されると見込まれる金額を返金負債として認識し、返品資産の有無も検討します。
また、顧客に支払われる対価がある場合には、その支払いが顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものかどうかを確認します。別個の財又はサービスと交換でない場合には、取引価格から減額することになります。
さらに、対価の回収が履行義務の充足後1年以内であれば、重要な金融要素がないと判断される場合もあります。
このような内容を、事業内容や取引条件と結び付けて説明すると、財務諸表利用者にとって理解しやすい注記になります。
ステップ1・2・3とステップ4・5の関係
複数の履行義務がある場合には、ステップ1・2・3とステップ4・5の関係が重要になります。
たとえば、機械販売に加えて保守サービスを提供する契約では、機械の引渡しと保守サービスが別個の履行義務になることがあります。
この場合、契約全体の取引価格を、それぞれの独立販売価格に基づいて配分し、機械販売については引渡時に収益を認識し、保守サービスについてはサービス提供期間にわたり収益を認識することが考えられます。
また、小売業のポイント制度では、購入実績に応じて付与されるポイントが、将来の商品購入に使える重要な権利として別個の履行義務になることがあります。
この場合、取引価格の一部をポイントに配分し、ポイントが使用された時点または失効した時点で収益を認識することになります。
保証サービスについても、単なる品質保証なのか、追加サービスとしての保証なのかにより、履行義務の識別が変わります。
重要な会計方針では、複数履行義務がある場合に、取引価格をどのように配分し、それぞれについていつ収益を認識するかを説明することが大切です。
注記は「基準の説明」ではなく「自社の実態の説明」
収益認識の注記でありがちな失敗は、会計基準の文章をそのまま写したような記載になってしまうことです。
もちろん、基準に沿った記載は必要です。
しかし、財務諸表利用者が知りたいのは、会計基準の一般論ではなく、その会社の収益認識がどのように行われているかです。
たとえば、「履行義務が充足された時点で収益を認識しております」とだけ記載しても、具体的に何を提供し、いつ履行義務が充足されるのかはわかりません。
より望ましいのは、自社の事業内容、商品・サービス、契約条件、顧客への提供プロセス、請求条件、対価の変動要因を踏まえて説明することです。
たとえば、製品販売、受託開発、保守サービス、ライセンス、ポイント制度、保証サービスなど、事業ごとに異なる収益認識の特徴がある場合には、それぞれを区分して説明した方がわかりやすくなります。
ポジション・ペーパーを残す重要性
収益認識の検討では、結論だけでなく、検討過程を記録しておくことが重要です。
特に、新しい取引、複数履行義務、変動対価、本人・代理人、ライセンス、ポイント制度、保証サービス、出荷基準などが関係する場合には、会計処理の根拠を文書化しておくことが望まれます。
このような文書は、ポジション・ペーパーと呼ばれることがあります。
ポジション・ペーパーには、契約内容、履行義務の識別、取引価格の算定、取引価格の配分、収益認識時点、判断根拠、関連する会計基準、重要な見積り、注記への反映などを整理します。
これを作成しておくことで、監査対応、社内引継ぎ、新規取引の検討、開示作成がスムーズになります。
また、初年度適用時に検討した内容が、その後社内で正しく引き継がれず、「結論だけ」が独り歩きすることを防ぐ効果もあります。
実務で確認すべきチェックポイント
収益認識に関する重要な会計方針や注記を作成する際には、次の点を確認しましょう。
主要な事業ごとに、顧客に提供する商品やサービスを特定しているか
履行義務が単一か複数かを検討しているか
履行義務の充足時点を、支配移転またはサービス提供の実態に基づき説明できるか
一定期間にわたり収益を認識する場合、その根拠を説明できるか
出荷基準を使う場合、支配移転時点と通常の期間を確認しているか
本人・代理人の判定について、提供前の支配の有無を検討しているか
値引き、リベート、返品、マイルストーンなどの変動対価を把握しているか
顧客に支払われる対価を取引価格から控除すべきか検討しているか
複数履行義務がある場合、独立販売価格に基づく配分を行なっているか
重要な会計方針が、自社の実態を反映した記載になっているか
検討過程をポジション・ペーパーとして保存しているか
収益認識は、経理部門だけで完結するものではありません。営業部門、契約管理部門、法務部門、経営管理部門との連携が欠かせません。
まとめ
収益認識会計基準では、売上をいつ・いくら認識するかだけでなく、その判断過程を財務諸表利用者にわかりやすく説明することが重要です。
実務では、収益認識についていくつかの誤解が生じやすいです。
別個の財又はサービスの判定は、履行義務の数を決めるだけでなく、収益認識時点や本人・代理人などの論点の基礎になります。
旧工事進行基準と同じように見える処理でも、収益認識会計基準では、履行義務の性質に基づいて一定期間にわたり収益を認識するかどうかを判断します。
出荷基準は無条件に従来どおり使えるわけではなく、支配移転時点と通常の期間を確認する必要があります。
本人・代理人の区分は、総額表示か純額表示かだけの問題ではなく、顧客に提供する財又はサービスを企業が提供前に支配しているかどうかの判断です。
また、取引価格が確定していなくても、契約が識別され、履行義務が充足されている場合には、変動対価を見積もって収益認識することがあります。
重要な会計方針では、少なくとも主な履行義務の内容と、履行義務を充足する通常の時点を具体的に記載することが重要です。
さらに、収益認識の5ステップを、①ステップ1・2とステップ5の関係、②ステップ1とステップ3の関係、③ステップ1・2・3とステップ4・5の関係という3つのパターンで整理すると、注記の内容がわかりやすくなります。
収益認識の注記は、会計基準の一般論を書く場ではありません。自社の事業内容、契約条件、履行義務、支払条件、取引価格の算定、収益認識時点を、財務諸表利用者が理解できるように説明することが求められます。
上場会社、IPO準備会社、監査対象会社、複雑な収益モデルを持つ会社は、収益認識の会計処理と注記について、早めに検討過程を文書化し、実態に即した開示を整備しておくことをおすすめします。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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