グループ通算制度への移行で税効果会計はどう変わる?繰延税金資産への影響を公認会計士が解説
- 安田 亮
- 2 時間前
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こんばんは!代表の安田です。
2022年4月1日以後に開始する事業年度から、従来の連結納税制度は見直され、グループ通算制度へ移行しました。
グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループ内で損益通算等を行う制度です。従来の連結納税制度と似ている部分もありますが、各法人が納税単位となって個別に申告を行う点など、制度設計には大きな違いがあります。
この制度変更は、法人税申告だけでなく、会計上の税効果会計にも影響します。
特に、繰延税金資産の回収可能性、繰越欠損金の取扱い、特定資産譲渡等損失額の利用制限、投資簿価修正などは、決算実務上注意すべき重要論点です。
本記事では、グループ通算制度への移行が税効果会計に与える影響について、連結納税制度から移行する場合、単体納税制度から移行する場合、連結納税制度から単体納税制度へ戻る場合に分けて、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
グループ通算制度とは
グループ通算制度とは、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位としつつ、グループ内で損益通算等を行う制度です。
従来の連結納税制度では、企業グループ全体を一つの納税単位として考え、親法人がまとめて申告する仕組みでした。
一方、グループ通算制度では、各法人がそれぞれ法人格を持つ納税主体として、個別に法人税額の計算と申告を行ないます。そのうえで、完全支配関係にあるグループの一体性に着目し、損益通算や欠損金の通算などの調整を行ないます。
つまり、連結納税制度と同じくグループ内の損益通算を可能にする制度でありながら、申告単位や修正・更正があった場合の取扱いなどに違いがあります。
グループ通算制度では、ある法人に後発的な修正や更正の事由が生じた場合、原則として他の法人の税額計算には反映させない、いわゆる遮断措置が設けられています。
この点も、従来の連結納税制度とは異なる重要な特徴です。
実務対応報告第42号とは
グループ通算制度への移行を受けて、ASBJは実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表しました。
この実務対応報告は、グループ通算制度を適用する場合の法人税・地方法人税の会計処理、税効果会計、開示の取扱いを明らかにするために設けられたものです。
基本的な考え方として、グループ通算制度と連結納税制度は、申告手続などに違いはあるものの、完全支配関係にある企業グループ内で損益通算を行うという基本的な仕組みは共通しています。
そのため、実務対応報告第42号では、連結納税制度との相違点に起因する会計処理や開示を除き、従来の連結納税制度に関する実務対応報告の取扱いを踏襲する方針が採られています。
この考え方により、連結納税制度からグループ通算制度へ移行する会社では、会計処理上の大きな混乱は生じにくいとされています。
税効果会計とは
税効果会計とは、会計上の利益と税務上の所得の認識時期の違いを調整し、法人税等を期間配分する会計処理です。
たとえば、会計上は費用として認識しているものの、税務上はまだ損金算入できない項目がある場合、将来その費用が税務上認められることで税金が減少する効果が見込まれます。このような場合に、繰延税金資産を計上することがあります。
逆に、会計上はまだ収益として認識していないが、税務上は先に益金算入されるような場合には、将来税金が増える効果として繰延税金負債が計上されることがあります。
税効果会計で特に重要なのが、繰延税金資産の回収可能性です。
繰延税金資産は、将来の課税所得によって税負担を減らせると見込まれる場合に計上されます。そのため、将来所得の見積り、繰越欠損金の利用可能性、企業分類などが重要になります。
グループ通算制度への移行では、損益通算や欠損金の通算の仕組みが変わるため、この繰延税金資産の回収可能性に影響が生じる可能性があります。
グループ通算制度で税効果会計に影響する主な論点
グループ通算制度では、税効果会計に影響する論点が複数あります。
代表的なものは、次のとおりです。
まず、制度の適用開始時や離脱時における一定資産の時価評価です。一定の法人については、グループ通算制度の適用開始時や離脱時に、税務上、一定の資産を時価評価する必要があります。この場合、会計上と税務上の帳簿価額に差額が生じ、税効果会計の対象となる可能性があります。
次に、適用開始前の税務上の繰越欠損金の切捨てや利用制限です。グループ通算制度の開始に伴い、一定の繰越欠損金が切り捨てられる場合、これまで計上していた繰延税金資産を取り崩す必要があります。
また、特定資産譲渡等損失額の利用制限も重要です。一定の条件に該当する法人では、特定資産の譲渡等から生じる損失額が損金算入できない場合があり、これに関連する将来減算一時差異の回収可能性に影響します。
さらに、通算子法人株式の評価損や、通算子法人がグループから離脱する際の投資簿価修正も、税効果会計上の検討対象になります。
単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合
単体納税制度を適用していた企業グループが、新たにグループ通算制度を適用するケースを考えてみましょう。
この場合は、連結納税制度からの移行とは異なり、税務上の経過措置が限定的であるため、税効果会計への影響が大きくなる可能性があります。
具体的には、グループ通算制度の適用開始時に一定の資産について時価評価が必要になる場合があります。税務上の時価評価により、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差額が生じれば、一時差異として税効果会計の対象になります。
また、グループ通算制度の開始前に存在していた繰越欠損金について、切捨てや利用制限が生じる場合があります。これにより、過去に計上していた繰延税金資産を取り崩す必要が出ることがあります。
さらに、特定資産譲渡等損失額について、一定期間、損金算入や損益通算が制限される場合があります。この場合、将来減算一時差異の回収可能性を見直す必要があります。
一方で、グループ通算制度の適用により、損益通算や欠損金の通算が可能になるため、繰延税金資産の回収可能性が高まる場合もあります。
たとえば、単体では将来課税所得が十分に見込めない法人でも、グループ全体で損益通算が可能になることで、繰延税金資産を計上できる範囲が広がる可能性があります。
繰延税金資産が増える可能性と減る可能性
グループ通算制度への移行では、繰延税金資産が増える場合と減る場合の両方があります。
増える可能性があるのは、グループ通算制度により損益通算や欠損金の通算が可能となり、将来の課税所得に対する回収可能性が高まる場合です。
たとえば、赤字子会社が単独では繰延税金資産を計上しにくい状況であっても、グループ全体では十分な課税所得が見込まれる場合、回収可能性の判断が変わることがあります。
一方で、繰延税金資産が減る可能性もあります。
たとえば、制度適用開始時に繰越欠損金が切り捨てられる場合、これまで欠損金に対応して計上していた繰延税金資産は取り崩す必要があります。
また、特定資産譲渡等損失額の損金算入が制限される場合、関連する将来減算一時差異について回収可能性が低下することがあります。
このように、グループ通算制度への移行は、単純に繰延税金資産が増える制度でも、減る制度でもありません。各法人の状況、欠損金の内容、支配関係の継続期間、共同事業性、将来所得の見積りなどを総合的に判断する必要があります。
投資簿価修正と税効果会計
グループ通算制度では、通算子法人が通算グループから離脱する場合に、投資簿価修正が問題になります。
投資簿価修正とは、通算子法人がグループから離脱する際、その子法人株式を保有する通算法人が、税務上の株式帳簿価額を、その離脱子法人の税務上の簿価純資産価額に修正する仕組みです。
この制度により、たとえば過去に買収プレミアムを付けて取得した子会社を譲渡する場合、税務上の譲渡原価に買収プレミアム相当額を反映できないという問題がありました。
その後、令和4年度税制改正において、一定の要件を満たす場合には、離脱子法人の税務上の簿価純資産価額に資産調整勘定等対応金額を加算できる措置が設けられました。
投資簿価修正は、子会社株式を売却するまで実際に税務上の帳簿価額が修正されないため、単純な意味での一時差異とは異なる面があります。
しかし、実務対応報告第42号では、期末時点における他の通算子法人株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額について、一時差異と同様に取り扱うこととされています。
そのため、投資簿価修正の見直しは、税効果会計にも影響する可能性があります。
通算子法人株式の評価損
グループ通算制度では、通算子法人株式の評価損についても注意が必要です。
会計上、子会社株式の実質価額が著しく低下した場合などには、評価損を計上することがあります。しかし、グループ通算制度では、通算子法人株式の評価損について、税務上の損金算入が認められません。
そのため、会計上は評価損を計上しても、税務上は損金算入されず、会計上と税務上の帳簿価額に差額が生じます。この差額については、税効果会計の対象となります。
一方で、通算グループ内で通算子法人株式を他の通算法人に譲渡する場合には、その譲渡損益は税務上認識されず、社外流出項目とされます。
この場合、グループ内で生じた会計上の譲渡損益は、会計上と税務上の帳簿価額の一時差異には該当しないため、税効果会計を適用しない点に注意が必要です。
決算実務で確認すべきポイント
グループ通算制度への移行にあたっては、決算実務上、次の点を確認する必要があります。
まず、自社グループがどの移行パターンに該当するかを確認します。連結納税制度からグループ通算制度へ移行するのか、単体納税制度から新たにグループ通算制度へ移行するのか、連結納税制度から単体納税制度へ戻るのかによって、税効果会計への影響が異なります。
次に、繰越欠損金の内容を整理します。特定欠損金、非特定欠損金、切捨ての有無、利用制限の有無を確認する必要があります。
また、一定資産の時価評価が必要になる法人があるかを確認します。時価評価が必要な場合、会計上と税務上の帳簿価額に差異が生じるため、税効果会計の検討が必要です。
さらに、特定資産譲渡等損失額の利用制限に該当する資産や法人がないかを確認します。
最後に、投資簿価修正や通算子法人株式の評価損について、税効果会計上の取扱いを検討します。
これらの論点は、税務担当者だけでなく、経理担当者、連結決算担当者、監査人、税理士が連携して検討することが重要です。
中小企業にも関係するのか
グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループを対象とする制度です。そのため、単独法人の中小企業には直接関係しないことが多いでしょう。
しかし、複数法人を持つオーナー企業、持株会社体制の会社、M&Aにより子会社を取得している会社、事業承継や組織再編を予定している会社では、関係する可能性があります。
特に、複数法人で黒字会社と赤字会社が混在している場合、グループ通算制度を適用することで税務上のメリットが生じることがあります。
一方で、制度適用には申告実務の負担、各法人の情報管理、欠損金の制限、税効果会計への影響などもあります。
そのため、グループ通算制度の適用を検討する場合には、単に税負担の軽減だけでなく、会計・税務・管理体制への影響を総合的に検討する必要があります。
まとめ
グループ通算制度は、2022年4月1日以後開始事業年度から適用された制度で、従来の連結納税制度を見直す形で導入されました。
従来の連結納税制度が企業グループ全体を一つの納税単位としていたのに対し、グループ通算制度では、各法人を納税単位として個別に申告を行いながら、グループ内で損益通算等を行います。
グループ通算制度の導入に伴い、ASBJは実務対応報告第42号を公表し、法人税・地方法人税ならびに税効果会計の会計処理・開示を整理しました。
連結納税制度からグループ通算制度へ移行する場合には、税務上の経過措置があるため、繰延税金資産の回収可能性に重要な影響は生じにくいとされています。また、会計上も従来の連結納税制度の取扱いを踏襲する方針であるため、大きな混乱は想定されにくいと考えられます。
一方、単体納税制度からグループ通算制度へ移行する場合には、一定資産の時価評価、繰越欠損金の切捨て・利用制限、特定資産譲渡等損失額の制限などにより、繰延税金資産の回収可能性に影響が生じる可能性があります。
また、連結納税制度から単体納税制度へ戻る場合には、損益通算や欠損金の通算ができなくなるため、繰延税金資産の取り崩しが必要になることがあります。
グループ通算制度への移行は、法人税申告だけでなく、税効果会計、繰延税金資産、投資簿価修正、通算子法人株式の評価損など、決算に幅広い影響を与える論点です。
制度適用を検討する会社や、すでにグループ通算制度を適用している会社は、各法人の欠損金、将来所得、時価評価対象資産、子法人株式、税効果会計への影響を早めに整理し、必要に応じて公認会計士・税理士に相談することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


