賃貸マンション購入時の消費税|店舗併用物件はどこまで仕入税額控除できる?
こんばんは!代表の安田です。
賃貸マンションや賃貸アパートを購入・建築した場合、建物の取得費には消費税が含まれます。
課税事業者であれば、支払った消費税を売上に係る消費税から控除できる「仕入税額控除」が原則ですが、居住用賃貸マンションについては特別な制限があります。
特に判断が難しいのが、次のような複合用途の建物です。
1階が店舗、2階以上が住居
一部を事務所として賃貸し、残りを住居として賃貸
店舗部分と居住部分が同じ建物内にある
住居として設計された部屋を、実際には事務所として貸している
次のような疑問を持つ不動産オーナーも少なくありません。
店舗部分だけなら仕入税額控除できるのか
事務所として貸していれば、居住用の構造でも控除できるのか
購入後に店舗へ用途変更した場合はどうなるのか
本日は、居住用賃貸マンションの取得に係る消費税について、仕入税額控除が制限される範囲や、店舗併用物件の区分方法、取得後に用途を変更した場合の調整制度を税理士が解説します。
住宅の家賃には原則として消費税がかからない
消費税では、事業者が国内で行う資産の譲渡や貸付けなどが原則として課税対象になります。
しかし、住宅の貸付けについては、原則として消費税が非課税です。
そのため、居住用マンションのオーナーが入居者から受け取る次のような家賃には、通常、消費税はかかりません。
賃貸マンションの家賃
賃貸アパートの家賃
社宅として貸し付ける住宅の家賃
住宅と一体として貸し付ける一定の駐車場代や共益費
一方、店舗や事務所の賃料は、原則として消費税の課税対象です。
この違いが、建物取得時の仕入税額控除にも大きく影響します。
居住用賃貸建物の取得費は仕入税額控除できない
2020年10月1日以後に取得した一定の「居住用賃貸建物」については、その取得や建築に係る消費税を、原則として仕入税額控除の対象にできません。
この制度は、居住用賃貸物件の取得を利用した過度な消費税還付を防止するために設けられたものです。
対象となる居住用賃貸建物とは、簡単にいえば、次の両方に該当する建物です。
税抜きの取得価額等が1,000万円以上となる高額特定資産等である
建物の構造や設備などから、住宅として貸さないことが明らかとはいえない
したがって、取得時点で賃貸マンションとして使用する予定の建物は、原則として仕入税額控除の制限対象になります。制度は2020年10月1日以後の取得等に適用されています。
土地の購入代金に消費税はかからない
不動産を購入した場合、土地の譲渡は消費税の非課税取引です。
そのため、売買代金を次のように区分する必要があります。
土地代金:消費税はかからない
建物代金:消費税の課税対象
建物に含まれる消費税:仕入税額控除の可否を判定する
マンション全体の購入金額だけで判断するのではなく、土地と建物の金額を合理的に区分することが重要です。
店舗併用マンションは全額が控除対象外になるとは限らない
居住用賃貸建物の中に、店舗や事務所など、住宅として使用しないことが明らかな部分がある場合、その部分に対応する消費税まで一律に控除できなくなるわけではありません。
たとえば、次のような5階建ての賃貸マンションを購入したケースを考えます。
1階の一部:店舗
1階の残り:住居
2階から5階:住居
この場合、1階店舗部分について、建物の構造や設備から店舗用であることが客観的に明らかであり、住居部分と合理的に区分できるのであれば、店舗部分に対応する消費税は仕入税額控除の対象となる可能性があります。
一方、住居として使用する部分に対応する消費税は、原則として控除対象外です。
国税庁の通達でも、建物の一部が店舗用の構造となっている場合などについて、使用面積割合や建設原価の割合など、建物の実態に応じた合理的な基準による区分を認めています。
大切なのは実際の契約用途だけではなく建物の構造
店舗部分と住居部分を区分する際に注意したいのが、賃貸借契約の名称だけで判断するわけではないという点です。
たとえば、2階の部屋が次のような一般的な住宅の構造になっているとします。
浴室がある
キッチンがある
寝室として使用できる部屋がある
玄関や水回りが独立している
この部屋を法人に「事務所」として貸していたとしても、取得時点における建物の構造や設備から住宅の貸付けに使用しないことが客観的に明らかでなければ、居住用賃貸建物の控除制限を受ける可能性があります。
つまり、現在の借主が事務所として使っている=取得時の消費税を必ず控除できるということではありません。
居住用賃貸建物に該当するかどうかは、原則として課税仕入れを行った時点の状況によって判定されます。取得日の時点で住宅に使用しないことが明らかでない高額な建物は、居住用賃貸建物に該当することになります。
「住宅として貸さないことが明らかな建物」とは
国税庁の通達では、住宅の貸付けに使用しないことが明らかな建物の例として、次のようなものが示されています。
建物の全部が店舗や事業用施設になっているもの
旅館やホテルとして使用することが明らかな建物
販売用として取得し、保有中に住宅賃貸へ使用しないことが明らかな建物
反対に、一般的なマンションやアパートのように、居住に必要な設備がそろっている建物は、実際に一時的に事務所として貸していても、住宅として使用しないことが客観的に明らかとはいえない場合があります。
店舗部分と住居部分はどう区分する?
店舗併用マンションでは、店舗部分に対応する建物取得費と消費税を合理的に算定する必要があります。
代表的な区分方法として、次のものがあります。
1.専有面積や床面積で区分する
建物全体の床面積に占める店舗部分の床面積割合によって区分する方法です。
たとえば、建物全体の床面積が1,000平方メートル、店舗部分が200平方メートルであれば、店舗部分の割合は20%です。
建物取得に係る消費税が1,000万円である場合、単純な面積比を用いると、店舗部分に対応する消費税は次のようになります。
1,000万円×20%=200万円
ただし、店舗と住居で建築単価が大きく異なる場合には、単純な面積比だけでは合理的でないことがあります。
2.建設原価で区分する
建築工事の見積書や工事明細を基に、店舗部分と住居部分の建設原価を区分する方法です。
店舗部分に特殊な内装、給排水設備、空調設備などがある場合には、面積比よりも建設原価による区分の方が実態に合うことがあります。
3.鑑定評価などを参考にする
中古物件を購入し、工事明細などが入手できない場合には、鑑定評価、取得時の売買資料などを参考に区分することも考えられます。
ただし、どの方法を採用してもよいわけではありません。建物の実態に応じた、第三者にも説明できる合理的な基準を使用することが重要です。
共用部分の消費税はどう処理する?
店舗併用マンションでは、次のような共用部分があります。
エントランス
廊下
階段
エレベーター
機械室
管理人室
共用の電気・給排水設備
これらが店舗と住居の双方に使用される場合、どちらか一方へ全額を振り分けるのではなく、床面積、利用状況、建設原価などに基づき合理的に按分します。
たとえば、エレベーターが主として2階以上の居住者に使用される場合と、店舗客も日常的に使用する場合とでは、合理的な按分割合が異なる可能性があります。
物件ごとに構造や利用状況が異なるため、設計図面、建築工事明細、賃貸借契約書などを確認して判断する必要があります。
店舗部分なら必ず全額控除できるわけではない
店舗部分に対応する消費税が居住用賃貸建物の控除制限から外れたとしても、その全額を必ず仕入税額控除できるとは限りません。
実際の控除額は、事業者が採用している仕入税額控除の計算方法によって異なります。
たとえば、個別対応方式を採用している場合、店舗部分の取得費は「課税売上げにのみ要する課税仕入れ」として扱える可能性があります。
一方、一括比例配分方式を採用している場合には、原則として課税売上割合に応じて控除額が計算されます。
また、簡易課税制度を適用している課税期間では、実際の建物取得に含まれる消費税を個別に控除する計算は行いません。
したがって、店舗部分であるというだけで、支払った消費税がそのまま全額還付されるわけではありません。
取得後に店舗や事務所へ用途変更した場合
居住用賃貸建物の取得時に仕入税額控除を受けられなかった場合でも、その後、一定期間内に建物の全部または一部を店舗・事務所などの課税賃貸用に供したときは、仕入控除税額を調整できる制度があります。
ここでいう「課税賃貸用」とは、住宅の貸付け以外の貸付けの用をいいます。
たとえば、取得当初は住居として貸していた一室を、後に店舗や事務所として課税賃貸する場合などが考えられます。
ただし、単に建物に関連する課税売上が発生しただけでは足りません。実際に建物の全部または一部を、住宅以外の貸付けの用に供することが必要です。
調整は原則として「第3年度」に行う
取得後に課税賃貸用へ変更した場合の調整は、原則として、居住用賃貸建物を取得した課税期間から数えて第3年度の課税期間に行います。
概念的には、控除対象外となった消費税額に、調整期間中の課税賃貸割合を乗じて、一定額を仕入控除税額へ加算します。
控除対象外となった消費税額×調整期間中の課税賃貸割合
ただし、実際の計算では、課税賃貸用に供した期間や賃料収入などを用いて割合を計算するため、単純に用途変更した部分の面積割合だけを掛けるとは限りません。
また、調整を受けるためには、原則として第3年度の課税期間の末日にその建物を保有している必要があります。第3年度末までに売却や除却をして保有していない場合、課税賃貸用への転用に関する調整規定は適用されません。
一定期間内に売却した場合にも調整制度がある
仕入税額控除が制限された居住用賃貸建物を一定期間内に売却した場合にも、一定の調整計算が設けられています。
建物の売却は原則として消費税の課税取引であるため、取得時に控除できなかった消費税について、一定の調整が行われる仕組みです。
もっとも、土地の売却部分は非課税であり、建物部分と土地部分を合理的に区分する必要があります。
居住用賃貸建物については、取得後の賃貸用途だけでなく、売却時期や売却価額も消費税の計算に影響するため、売却を決める前に試算しておくことが重要です。国税庁も、一定期間内の課税賃貸への転用または譲渡について、仕入控除税額の調整制度を設けています。
仲介手数料や付随費用の消費税はどうなる?
賃貸マンションを購入すると、建物本体以外にもさまざまな費用が発生します。
不動産仲介手数料
司法書士報酬
建物の鑑定費用
建物診断費用
設計料
管理会社への手数料
借入れに関する手数料
修繕費や改装費
これらの費用については、すべてが自動的に居住用賃貸建物の取得費と同じ扱いになるわけではありません。
それぞれの費用が、
建物の取得に直接対応するものか
土地と建物の双方に関係するものか
居住用賃貸事業にのみ必要なものか
店舗賃貸などの課税売上にも関係するものか
を確認し、個別に仕入税額控除の可否を判定します。
仲介手数料が土地と建物の双方に対応している場合には、売買価額などの合理的な基準で区分する必要があります。
建物の修繕費にも注意
居住用賃貸建物を取得した後に行う通常の修繕については、その支出内容や用途に応じて仕入税額控除を判定します。
一方、建物の価値を高めたり、耐久性を増したりする「資本的支出」については、居住用賃貸建物に係る控除制限の対象となる場合があります。
国税庁の通達では、居住用賃貸建物に係る一定の資本的支出も、控除制限の対象となり得ることが示されています。ただし、資本的支出自体が高額特定資産に該当しない場合など、制限の適用を受けないケースもあります。
大規模修繕や用途変更工事を行なう場合には、修繕費か資本的支出かという法人税上の区分だけでなく、消費税の取扱いも確認しましょう。
経過措置が適用される場合
居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限は、原則として2020年10月1日以後の取得等に適用されます。
ただし、2020年3月31日までに締結した契約に基づいて、2020年10月1日以後に取得した居住用賃貸建物については、一定の経過措置により従前の取扱いが適用される場合があります。
もっとも、古い契約があるというだけで経過措置が適用されるとは限りません。
契約締結後に仕様変更や追加工事が行われた場合などは、契約内容や変更時期を個別に確認する必要があります。
賃貸マンション取得時のチェックリスト
賃貸マンションを購入・建築する場合には、決済前に次の事項を確認しましょう。
<物件に関する確認>
建物の税抜取得価額は1,000万円以上か
土地と建物の金額が合理的に区分されているか
建物の全部または一部が居住用か
店舗・事務所部分は構造上明確に区分されているか
共用部分をどのように按分するか
建築図面や工事明細を入手できるか
<賃貸用途に関する確認>
各区画の契約上の用途は何か
実際の使用状況はどうなっているか
住宅として使用できる構造や設備があるか
店舗・事務所部分の賃料に消費税を加算しているか
将来の用途変更予定があるか
<税務に関する確認>
課税事業者か免税事業者か
本則課税か簡易課税か
個別対応方式か一括比例配分方式か
課税売上割合はどの程度か
居住用賃貸建物の控除制限を受けるか
第3年度の調整計算が必要になる可能性があるか
売却予定時期が調整制度に影響しないか
よくある誤り
1.店舗併用物件なので建物全額を控除する
店舗が一部あるからといって、建物全体の消費税を控除できるわけではありません。
店舗部分と住居部分を合理的に区分する必要があります。
2.事務所の契約書があるため控除できると判断する
契約上「事務所」と記載されていても、住宅として使用できる構造であれば、取得時の控除制限を受ける可能性があります。
建物の構造、設備、使用状況を総合的に確認しましょう。
3.床面積だけで機械的に按分する
床面積割合は代表的な区分方法ですが、店舗部分と住居部分の建築単価が大きく異なる場合などには、建設原価による区分の方が合理的なことがあります。
4.購入後の用途変更を管理していない
取得時に控除できなかった場合でも、一定期間内に店舗・事務所として貸し付ければ、後に調整できる可能性があります。
取得後3年間程度は、用途、賃料、契約変更を継続的に管理することが重要です。
5.土地と建物を区分していない
土地の売買は非課税ですが、建物の売買は課税対象です。
売買契約書に一括金額しか記載されていない場合でも、合理的な方法で土地・建物を区分しなければなりません。
まとめ
居住用賃貸マンションを取得した場合、建物に含まれる消費税は、原則として仕入税額控除の対象になりません。
ただし、店舗併用マンションなどで、住宅として貸し付けないことが構造や設備から明らかな部分があり、住居部分と合理的に区分できる場合には、その店舗部分に対応する消費税は控除対象となる可能性があります。
重要なポイントは次のとおりです。
2020年10月1日以後に取得した一定の居住用賃貸建物は、仕入税額控除が制限される
土地の購入代金には消費税がかからない
店舗・事務所部分が構造上明確であれば、合理的な区分により控除できる可能性がある
契約名だけでなく、取得時の建物の構造や設備を確認する
共用部分は面積や建設原価などで合理的に按分する
取得後に課税賃貸用へ変更した場合、第3年度に調整できる可能性がある
売却した場合にも一定の調整制度がある
簡易課税や課税売上割合によって、実際の控除額は変わる
賃貸マンションの消費税は、購入後に検討するのでは遅いことがあります。
物件の用途、契約内容、建物構造、売買価額の区分、取得後の運用計画によって、納付税額が大きく変わる可能性があるため、購入契約を締結する前に税理士へ相談することをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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