非上場株式の評価方法が大幅変更へ?「残余利益方式」の新評価方式を税理士が解説
こんばんは!代表の安田です。
非上場会社の株式を相続・贈与する際には、財産評価基本通達に基づいて株価を評価します。
現在は、会社の規模などによって、
類似業種比準方式
純資産価額方式
両者の併用方式
配当還元方式
などを使い分けています。
しかし、国税庁では現在、この非上場株式の評価体系を大幅に見直す方向で検討が進められています。国税庁の見直し案では、原則的評価方式について会社規模による区分を廃止し、「残余利益方式」に原則一本化する方向が示されています。
実現すれば、長年続いてきた非上場株式の評価実務が大きく変わる可能性があります。
本日は、現在の非上場株式評価の仕組み、新たに検討されている「残余利益方式」、特定の評価会社や配当還元方式の見直し、小会社・大会社への影響について解説します。
現在の非上場株式の評価方法
現在の取引相場のない株式の評価は、大きく次の3つに分かれます。
区分 | 主な評価方法 |
原則的評価方式 | 類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式 |
特例的評価方式 | 配当還元方式 |
特定の評価会社 | 原則として純資産価額方式 |
原則的評価方式では、会社の、
総資産価額
従業員数
取引金額
などによって、大会社・中会社・小会社に区分します。
<現行制度の基本イメージ>
会社規模 | 主な評価方式 |
大会社 | 類似業種比準方式 |
中会社 | 類似業種比準方式+純資産価額方式 |
小会社 | 純資産価額方式 |
この会社規模による評価方法の違いを、今回の見直し案では根本から変える方向です。
原則的評価方式を「残余利益方式」に一本化へ
国税庁の見直し案では、まず大会社・中会社・小会社という会社規模による区分を原則的評価方式からなくすことが想定されています。
さらに、現在大会社を中心に利用されている「類似業種比準方式」を廃止し、会社の簿価純資産や利益などを使った「残余利益方式」へ一本化する方向です。
<現行と見直し案>
項目 | 現行 | 見直し案 |
会社規模区分 | 大・中・小会社 | 原則廃止 |
大会社 | 類似業種比準方式 | 残余利益方式 |
中会社 | 併用方式 | 残余利益方式 |
小会社 | 純資産価額方式 | 残余利益方式 |
原則的評価方式 | 複数方式 | 原則一本化 |
会社規模によって評価方式が大きく変わる現行制度から、評価会社そのものの企業価値を評価する制度へ移行するイメージです。
残余利益方式とは?
残余利益方式は、企業価値評価で用いられるインカム・アプローチの一種です。
新方式について、
「直前期末の簿価純資産」+「企業の収益獲得能力」
を基礎として評価し、さらに一定のしんしゃく率を乗じる考え方が示されています。
概念的には、
株式評価額=(直前期末の簿価純資産 + 将来の残余利益の現在価値)× しんしゃく率
というイメージです。
5年分の残余利益を使用する案
新方式では、企業の収益獲得能力を測るため、5年分の残余利益を使用することが想定されています。
残余利益とは、簡単にいえば、企業が稼いだ利益から、株主がその純資産に対して通常期待する利益を差し引いた超過部分です。
例えば、一定の前提のもとでは、
当期利益 - 純資産 × 株主の期待収益率
という考え方になります。
利益を継続的に上げている会社ほど、純資産だけでなく収益力が株価へ反映されやすい仕組みです。
「還元率」とは?
残余利益を現在価値へ割り引くために使用するのが「還元率」です。
還元率について、株主が通常期待する収益率と説明され、上場株式を基準として算定することが想定されています。
還元率が高いほど、将来利益の現在価値は一般に小さくなります。
したがって、最終的な株価は、
利益水準
簿価純資産
還元率
しんしゃく率
などによって変わることになります。
「しんしゃく率」で非上場株特有の事情を反映
さらに、新しい評価方式では「しんしゃく率」を乗じる案が示されています。
非上場株式は上場株式と異なり、
市場で自由に売買できない
換金性が低い
事業用資産を保有している
といった特徴があります。
上場株式を基準に還元率を算定することなどを踏まえ、時価評価として適正な水準になるよう、しんしゃく率の設定を検討するとされています。
具体的な率はまだ決まっていません。
簿価純資産は「税務上の簿価」を使う案
現在の純資産価額方式では、土地や有価証券などについて相続税評価額に洗い替える必要があります。
一方、残余利益方式では、税務上の簿価による純資産を使用する方向が検討されています。
ここは実務上非常に大きな変更です。
評価事務が簡単になる可能性
現行の純資産価額方式では、
土地
建物
有価証券
保険積立金
その他の資産・負債
などについて、相続税評価額へ洗い替える作業が必要になります。
特に不動産を多く所有している会社では、評価作業の負担が大きくなります。
見直し案では、原則的評価方式を残余利益方式に統一し、簿価純資産と利益等を中心に計算することから、非上場株評価の事務負担が軽減される可能性が指摘されています。
小規模会社は株価が下がる可能性も
今回の見直しで最も気になるのが、実際の株価が上がるのか、下がるのか
という点でしょう。
これまで純資産価額方式を利用していた小会社等について、簿価純資産や利益等の状況によっては、新しい残余利益方式により評価額が下がるケースも想定されるとされています。
小会社で考えられる影響
現在は、時価評価した純資産価額が株価へ強く反映されます。
不動産などに大きな含み益がある会社では、純資産価額方式による株価が高くなるケースがあります。
新方式が税務上の簿価純資産を基礎とするのであれば、会社によっては評価額が低くなる可能性があります。
大会社では株価が上がるケースも
反対に、現在類似業種比準方式を利用している大会社については、評価額が増加するケースも想定されるとされています。
類似業種比準方式では、上場会社の株価等を利用して評価します。
新方式では、その会社自身の簿価純資産+収益力によって企業価値を算定するため、
高収益企業
内部留保の大きい会社
純資産が厚い会社
などでは、従来より高い評価になる可能性があります。
<現行制度と影響の方向性>
会社 | 現在の主な方式 | 見直し後 | 想定される影響 |
小会社 | 純資産価額方式 | 残余利益方式 | 評価減となるケースも |
中会社 | 併用方式 | 残余利益方式 | 会社ごとに異なる |
大会社 | 類似業種比準方式 | 残余利益方式 | 評価増となるケースも |
ただし、これはあくまで一般的な方向性です。
実際の評価額は会社ごとの、
簿価純資産
利益
還元率
しんしゃく率
等によって大きく異なります。
「特定の評価会社」の区分も変更へ
見直し対象は原則的評価方式だけではありません。
現在、特定の評価会社には次のような会社があります。
比準要素数1の会社
3要素すべてが0の会社
株式等保有特定会社
土地保有特定会社
開業後3年未満の会社
開業前・休眠中の会社
清算中の会社
これらは原則として純資産価額方式等で評価します。
「比準要素数1」「3要素すべて0」は廃止へ
見直し案では、類似業種比準方式自体を廃止することから、
比準要素数1の会社
3要素すべてが0の会社
という区分もなくなる方向です。
これは当然ともいえます。
これらは類似業種比準方式を利用することとの関係から設けられている区分だからです。
株式等保有特定会社・土地保有特定会社は「資産管理会社」へ
現在の、
株式等保有特定会社
土地保有特定会社
については、「資産管理会社」という区分に整理する案が示されています。
ただし、どこまでを資産管理会社とするかという具体的な範囲は、今後の検討課題です。
持株会社や不動産保有会社を利用した事業承継対策にも関係するため、今後の制度設計は特に注目されます。
「開業後3年未満」が「5年未満」へ
現在、開業後3年未満の会社は特定の評価会社として取り扱われます。
見直し案では、この期間を、開業後5年未満へ拡大する方向です。
したがって、新設法人については、純資産価額方式の適用期間が現在より長くなる可能性があります。
「組織再編成直後の会社」を新設
さらに新しい区分として、「組織再編成直後の会社」を特定の評価会社として設ける案も示されています。
これは、
合併
会社分割
株式交換等
の直後では、過去の利益情報等から通常の残余利益方式で企業価値を評価することが適切でないケースを想定しているものと考えられます。
具体的な対象期間や要件は現段階では示されていません。
純資産価額方式そのものも見直し
特定の評価会社については、今後も原則として純資産価額方式を利用する方向ですが、その計算方法自体も見直しが検討されています。
一例として、従業員に係る退職給付引当金を一定の条件のもとで負債として取り扱う案が紹介されています。これが導入されれば、退職給付債務が大きい会社では純資産価額が低下し、株価評価にも影響する可能性があります。
配当還元方式も対象を縮小する方向
少数株主について利用される「配当還元方式」も見直し対象です。
現在は、原則として「同族株主等以外の株主」が取得した株式について、会社規模にかかわらず配当還元方式を適用します。
見直し案では、その対象を、「特定の少数株主が取得した株式」へ絞り込み、さらに計算式も見直す方向とされています。
したがって、現在であれば配当還元方式を利用できる株主でも、将来的には原則的評価方式の対象になる可能性があります。
見直し案の全体像
今回の見直しの方向性は大きく4つです。
見直し項目 | 内容 |
① 評価方式の一本化 | 会社規模による評価方式を原則廃止 |
② 企業価値総額から評価 | 上場会社との単純比較ではなく評価会社自身の価値を算定 |
③ インカム・アプローチ導入 | 残余利益モデルを採用 |
④ 特例方式の見直し | 純資産価額方式・配当還元方式を見直し |
従来の「会社規模によって評価方法を変える」という発想から、その会社そのものの企業価値を評価する方向へ転換することが今回の見直し案の大きな特徴です。
事業承継対策への影響は大きい
非上場株式の評価額は、
相続税
贈与税
事業承継
自社株贈与
株式売買
などに大きく影響します。
例えば、経営者が後継者へ自社株を贈与する場合、評価額が1億円なのか2億円なのかで贈与税負担は大きく変わります。
そのため、新評価方式が実現すれば、これまで有効だった株価対策の効果が変わる可能性もあります。
「株価を下げてから贈与」という対策も再検討が必要に?
現在の株価対策では、
利益を抑える
配当を調整する
不動産等を取得する
持株会社を活用する
など、現行評価方式を前提とした対策が行われることがあります。
しかし、残余利益方式では、簿価純資産+収益獲得能力が重要になります。
そのため、制度が実際に変更された場合には、従来の株価対策がどの程度有効なのかを改めて確認する必要があります。
今の段階で急いで対策すべき?
現時点では、まだ国税庁の見直し案です。
評価水準や税負担のあり方などを有識者会議で検討したうえで、最終的には税制改正プロセスで決定するとされています。
そのため、新方式になるから今すぐ株式を贈与すべきなどと一律に判断する段階ではありません。
一方、
近いうちに事業承継を予定している
自社株評価額が大きい
相続対策として株式贈与を検討している
会社については、今後の制度動向を注視した方がよいでしょう。
現時点で経営者が確認しておきたい項目
確認項目 | 内容 |
現在の自社株評価 | いくらか |
現行方式 | 類似業種比準・純資産価額等のどれか |
会社規模 | 大・中・小のどこか |
簿価純資産 | どの程度あるか |
利益水準 | 過去数年の利益を確認 |
含み益 | 土地・有価証券等に大きな含み益があるか |
株主構成 | 配当還元方式対象者がいるか |
特定会社 | 土地・株式等保有特定会社か |
事業承継 | 数年以内に株式移転予定があるか |
特に、現在の評価額と、新方式を仮定した場合の評価額を比較できる企業は、今後の意思決定がしやすくなるでしょう。
よくある疑問
Q. 類似業種比準方式はなくなるのですか?
A. 国税庁の見直し案では、原則的評価方式について類似業種比準方式を廃止し、残余利益方式に原則一本化する方向が示されています。ただし、現時点では確定制度ではありません。
Q. 小会社の株価は必ず下がりますか?
A. 必ずではありません。現在純資産価額方式を利用している小規模会社について、簿価純資産や利益等によっては評価額が下がるケースが想定されています。
Q. 大会社は株価が上がりますか?
A. これも会社によります。現在類似業種比準方式を利用している大規模会社では、簿価純資産や利益等の状況によって評価額が上昇するケースも想定されています。
Q. 土地保有特定会社はなくなりますか?
A. 見直し案では、株式等保有特定会社や土地保有特定会社を「資産管理会社」として整理する方向ですが、その具体的な範囲は今後の検討課題です。
Q. 配当還元方式は廃止されますか?
A. 廃止ではなく、対象を「特定の少数株主」に絞り込んだうえで、算式も見直す案が示されています。
まとめ
国税庁では、非上場株式の相続税・贈与税評価について、大幅な見直しを検討しています。
今回明らかになった主な方向性は次のとおりです。
大会社・中会社・小会社による原則的評価方式の区分を廃止する方向
類似業種比準方式を廃止する方向
原則的評価方式を「残余利益方式」に一本化
簿価純資産と5年分の残余利益等から企業価値を評価
税務上の簿価純資産を利用する案
しんしゃく率を利用して評価額を調整
小規模会社では評価額が下がるケースも想定
大規模会社では評価額が上がるケースも想定
土地・株式等保有特定会社を「資産管理会社」へ整理
「開業後3年未満」を「5年未満」に変更する案
「組織再編成直後の会社」を新設
配当還元方式の適用対象を縮小
実現すれば、非上場株式の評価実務だけでなく、事業承継・相続・生前贈与のタイミングや株価対策そのものにも大きな影響が出る可能性があります。
ただし、現時点ではあくまで見直し案です。
今後、有識者会議や税制改正プロセスを経て制度が決まるため、自社株の移転を予定している経営者は、今後の制度動向を確認しながら現在の株価と将来の影響を検討しておくことが重要です。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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