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有価証券報告書と事業報告等の「一本化」とは?任意適用案と監査実務への影響を解説

執筆者の写真: 安田亮
安田亮
3 分前
読了時間: 10分

こんにちは!代表の安田です。


法務省の法制審議会では、有価証券報告書と会社法上の事業報告・計算書類などを「一本化」する制度の検討が進められています。


2026年8月26日に開催された法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会では、一本化をすべての上場会社に強制するのではなく、各企業が選択できる任意制度とする案が示されました。


制度案では、有価証券報告書に会社法上必要となる事業報告等の開示事項をすべて盛り込んで一定の期限までに提出した場合、別途、事業報告等を作成する必要をなくすことが想定されています。


さらに、有価証券報告書について金融商品取引法に基づく監査を行えば、会社法上の会計監査も行ったものとみなす仕組みも検討されています。


実現すれば、現在二重になっている開示・監査実務を合理化できる可能性があります。

一方、有価証券報告書を従来より早期に完成させる必要が生じるため、決算スケジュールや監査期間の確保が大きな課題になります。


本日は、有価証券報告書と事業報告等の一本化について、制度案の内容、任意適用となる理由、監査実務への影響を公認会計士が解説します。


現在は会社法と金融商品取引法で開示書類が分かれている

上場会社などでは、会社法と金融商品取引法という異なる法体系のもとで、それぞれ開示書類を作成しています。


制度上の目的や対象は異なりますが、記載内容には重複する部分も少なくありません。

今回検討されている一本化は、この二重となっている開示実務を整理し、一定の要件を満たす有価証券報告書によって会社法上の開示もカバーできるようにする考え方です。


<現行と一本化案のイメージ>

項目

現行

一本化を選択した場合の案

金融商品取引法

有価証券報告書を作成・提出

有価証券報告書を作成・提出

会社法

計算書類・事業報告等を別途作成

一定要件を満たせば別途作成不要

金商法監査

有価証券報告書を監査

有価証券報告書を監査

会社法監査

別途、会社法上の監査

金商法監査を行なえば監査済みとみなす案

制度の利用

―

会社が選択する任意制度とする案

一本化が実現すれば、開示書類と監査を完全に別々のプロセスとして進める現在の実務を、一定程度統合できる可能性があります。


「一本化」すると何が変わるのか

今回示された案には、大きく2つの仕組みがあります。


1.事業報告等を別途作成しなくてよくなる

有価証券報告書の提出義務がある株式会社が、会社法上必要となる事業報告等の開示事項をすべて盛り込んだ有価証券報告書を、電子提供措置開始日までに提出した場合には、事業報告等を別途作成する必要をなくすという案です。

今回の案でいう「事業報告等」には、次の書類が含まれます。

<一本化の対象となる会社法上の書類>

計算書類

事業報告

連結計算書類

附属明細書

特に今回の検討では、「附属明細書」も含めて有価証券報告書に記載することで一本化する案となっています。


つまり、必要な情報だけを部分的に有価証券報告書へ移すのではなく、一本化を選ぶのであれば、会社法上必要な開示事項を有価証券報告書側に取り込む仕組みが想定されています。


2.会社法と金商法の監査も一本化

開示書類だけでなく、監査についても一元化する案が示されています。


一本化された有価証券報告書について会計監査人が金融商品取引法に基づく監査を実施した場合には、会社法に基づく会計監査も行なったものとみなす仕組みです。


現在の実務では、会社法監査と金融商品取引法監査は密接に関係していますが、法的には異なる制度として存在しています。


一本化によって、「会社法の開示+会社法監査」と「有価証券報告書+金商法監査」という2つの体系を、一定の要件のもとで一つにまとめることが検討されています。


一本化は「任意適用」とする方向

今回の議論で特に重要なのは、制度を強制適用するのではなく、各企業が利用するかどうかを選択できる制度とする案になったことです。


これまでの議論では、日本公認会計士協会(JICPA)から、企業間の比較可能性を確保する観点で、すべての上場会社に段階的に強制適用すべきとの意見も示されていました。


一方、パブリックコメントでは、有価証券報告書を株主総会の3週間以上前に開示することによる企業の実務負担が大きいため、各企業の判断に委ねるべきという意見も寄せられました。


こうした状況を踏まえ、法制審の資料では、現時点ですべての上場会社に強制適用することは困難として、任意適用とする案が示されています。


一本化を選択しない企業への影響は限定的

任意制度となれば、一本化を選択しない企業は従来どおり、

  • 会社法上の事業報告・計算書類等

  • 金融商品取引法上の有価証券報告書

をそれぞれ作成することになります。


任意適用となった場合には、一本化を選択しない企業の実務に大きな影響は生じないと考えられます。


したがって、制度が導入されたからといって、すべての企業が直ちに決算・開示スケジュールを変更しなければならないわけではありません。


上場会社だけが対象ではない

今回示された案では、一本化制度の対象を「上場会社」に限定していない点も重要です。


対象となるのは、金融商品取引法第24条第1項に基づき、株式について有価証券報告書を提出する義務のある株式会社とされています。


そのため、制度の具体的な対象会社を検討する際には、「上場会社かどうか」だけではなく、金融商品取引法上の有価証券報告書提出義務の有無を確認する必要があります。


一本化のメリットは開示業務の合理化

制度が実現し、企業が一本化を選択した場合、最大のメリットは開示・監査プロセスの重複を減らせることです。


実務上期待される効果を整理すると、次のようになります。

観点

期待される効果

開示書類

重複する会社法・金商法開示の合理化

決算業務

同じ情報を複数の書類へ反映する作業を削減

監査

会社法監査と金商法監査の一元化

情報提供

株主が有価証券報告書の情報を総会前に利用しやすくなる

社内管理

開示資料・スケジュールの統合が可能

特に、会社法と金融商品取引法で類似情報を別々の様式に反映している企業にとっては、中長期的な業務効率化につながる可能性があります。


最大の課題は有価証券報告書を早く完成させること

一方、一本化を実現するためには、会社法上の情報を盛り込んだ有価証券報告書を早期に完成させる必要があります。


有価証券報告書には、

  • 財務諸表

  • 事業情報

  • ガバナンス情報

  • 人的資本情報

  • 株式情報

  • 監査関係情報

など、多数の情報が含まれます。


そこへさらに会社法上の開示事項を統合するとなれば、作成する情報量は増加します。

そのため、「書類の数が減るから決算実務も単純に楽になる」とは限りません。


作成・監査のタイミングを従来より前倒しする必要があるため、短期間に業務が集中する可能性があります。


監査期間を延長すべきかも論点に

一本化に伴い、監査期間をどうするかも重要な論点となっています。


現在の会社計算規則では、会計監査人は原則として、各事業年度の計算書類全部を受領した日から4週間を経過する日までに、会社へ監査報告の内容を通知する仕組みとなっています。


JICPAは、一本化された有価証券報告書では開示量が増えることから、監査品質を確保するためにも監査期限を長くするなどの見直しが必要との意見を示しています。


監査期間を一律に延ばさない考え方も

一方、法制審の資料では、監査期間が足りない場合には、会計監査人と会社が合意して必要な監査期間を設定することも可能であり、企業の状況に応じた対応ができることから、監査期間を一律に延長しなくてもよいのではないかという考え方も示されています。


会議では、一律延長について賛成・反対双方の意見が出たとされています。

現時点では、監査期間についてどのような最終制度になるかは確定していません。


<監査期間を巡る2つの考え方>

考え方

主な理由

一律に延長する

有報一本化により監査対象情報が増加し、監査品質確保のため時間が必要

一律には延長しない

各企業と監査人が実情に応じて監査期間を合意できる

一本化制度の実務的な利用可能性を左右する重要な論点といえます。


一本化を選択する企業が準備すべきこと

今後、任意適用制度として一本化が導入された場合、利用を検討する会社では、単に書類を統合するだけではなく、決算プロセス全体の見直しが必要になると考えられます。


特に確認したい事項は次のとおりです。

確認事項

主なポイント

開示スケジュール

有価証券報告書をいつまでに完成できるか

決算早期化

連結・単体決算を前倒しできるか

子会社情報

グループ会社から早期に資料を回収できるか

非財務情報

人事・法務等から必要情報を早期収集できるか

監査

監査法人と必要な期間を確保できるか

会社法情報

有報へ取り込む情報を整理できるか

社内体制

経理・総務・法務・IR等が連携できるか

特に連結子会社が多い会社では、親会社だけ決算を早めても一本化は実現できません。

グループ全体の決算・情報収集スケジュールを見直す必要があります。


一本化を選ぶかどうかは企業ごとの判断に

任意制度になれば、すべての会社にとって一本化が最善というわけではありません。

例えば、すでに決算早期化が進み、有価証券報告書を総会前に十分早く完成できる企業では、一本化による効率化メリットを得やすいでしょう。


一方、

  • グループ会社が多い

  • 決算確定に時間がかかる

  • 監査スケジュールが厳しい

  • 人的資本情報等の集計に時間を要する

といった企業では、無理に一本化すると決算・監査品質への負荷が大きくなる可能性があります。


<一本化との相性のイメージ>

会社の状況

一本化との相性

決算早期化が進んでいる

比較的検討しやすい

有報の総会前開示を既に実施

検討しやすい可能性

子会社が少ない

情報収集を前倒ししやすい

海外子会社が多い

日程調整が課題になりやすい

決算・監査日程が既に逼迫

慎重な検討が必要

まとめ

法制審議会では、有価証券報告書と会社法上の事業報告・計算書類等を一本化する制度の検討が進んでいます。


2026年8月26日の会議では、すべての上場会社への強制適用ではなく、企業が選択できる任意制度とする案が示されました。


制度案の主なポイントは次のとおりです。

  • 事業報告等の全開示事項を盛り込んだ有価証券報告書を一定期限までに提出すれば、事業報告等を別途作成しなくてよい仕組み

  • 計算書類・事業報告・連結計算書類・附属明細書まで一本化の対象

  • 金商法監査を行えば会社法監査も実施したものとみなす案

  • 適用するかどうかは企業が選択する方向

  • 一本化しない企業への実務影響は限定的と想定

  • 上場会社だけでなく、有価証券報告書提出義務のある一定の株式会社が対象

  • 一本化によって有価証券報告書の情報量が増えるため、監査期間の確保が課題

  • 監査期間を一律に延長するかどうかは引き続き議論


一本化が実現すれば、現在重複している会社法と金融商品取引法の開示・監査業務を合理化できる可能性があります。


一方で、そのメリットを得るためには、有価証券報告書を従来より早く完成させる決算体制と、十分な監査期間を確保することが必要です。


任意制度として導入された場合には、「一本化した方が書類が減るから利用する」という単純な判断ではなく、自社の決算早期化の状況、グループ会社数、監査スケジュール、情報収集体制などを総合的に検討することが重要になります。



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【この記事の執筆者】

安田 亮(公認会計士・税理士)

安田亮公認会計士・税理士事務所 代表

京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。

現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。

事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。


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