減損兆候判定で本社費は配賦すべき?固定資産の減損会計を公認会計士が解説
こんにちは!代表の安田です。
固定資産の減損会計では、まず「減損の兆候」があるかどうかを判定します。
この減損兆候の判定で重要になるのが、資産グループごとの営業損益です。資産グループが継続して営業損失を計上している場合、その固定資産の回収可能性に疑問が生じるため、減損の兆候があるかどうかを検討する必要があります。
ここで実務上よく問題になるのが、本社費や共通費をどのように扱うかです。
事業部別、店舗別、資産グループ別の管理会計では、本社費を配賦していない会社もあります。経理部、総務部、人事部、情報システム部、経営企画部などの本社部門は、直接売上を生み出しているわけではないため、各事業の営業損益に含めていないケースも少なくありません。
しかし、減損兆候を判定する際には、本社費等を無視してよいのでしょうか。
結論からいえば、固定資産の回収可能性を適切に判断するためには、各資産グループが本社機能から受けている便益を踏まえ、本社費等を合理的に配賦することが重要です。
本日は、減損兆候判定における本社費等の取扱い、本社費に含まれる費用、配賦基準としての営業損益・固定資産帳簿価額・売上高の問題点、実務で使えるコストドライバーの考え方を、公認会計士の視点からわかりやすく解説します。
固定資産の減損会計とは
固定資産の減損会計とは、固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿価額を回収可能価額まで引き下げる会計処理です。
会社は、建物、機械装置、店舗設備、ソフトウェア、のれんなどの固定資産を保有しています。これらの固定資産は、将来の売上やキャッシュ・フローを生み出すことを前提に貸借対照表に計上されています。
しかし、業績悪化、市場環境の変化、競争激化、店舗の不採算化、技術革新、事業撤退などにより、固定資産から期待した収益を得られなくなることがあります。
このような場合に、固定資産の帳簿価額をそのまま残しておくと、財務諸表が会社の実態を適切に表さない可能性があります。
そこで、減損会計では、まず減損の兆候があるかを判定し、兆候がある場合には減損損失を認識するかどうかを検討します。
減損兆候とは
減損兆候とは、固定資産の収益性が低下している可能性を示す事象をいいます。
代表的な減損兆候には、次のようなものがあります。
資産グループが継続して営業損失を計上している
使用範囲や方法について著しい変化がある
経営環境が著しく悪化している
市場価格が著しく下落している
この中でも実務でよく検討されるのが、営業活動から生ずる損益が継続してマイナスになっているかどうかです。
たとえば、店舗別、工場別、事業別、サービス別に資産グループを設定している場合、それぞれの営業損益を確認し、継続的な赤字があるかを見ます。
ただし、この営業損益を計算する際に、本社費等を含めるかどうかで、減損兆候の有無が変わることがあります。
本社費等とは何か
本社費等とは、直接的にキャッシュ・フローを生み出すわけではないものの、複数の資産グループの将来キャッシュ・フロー生成に寄与する費用をいいます。
実務上は、共通費や間接費として扱われることが多い費用です。
たとえば、次のような費用が考えられます。
経理部門の人件費
総務部門の人件費
人事部門の人件費
情報システム部門の費用
経営企画部門の費用
本社家賃
本社設備費
本社システム費用
マーケティング部門の共通費
研究開発部門の共通費
店舗運営ノウハウや販売管理システムの維持費
本社部門は、それ自体が直接売上を上げるわけではありません。
しかし、各事業部や店舗は、本社の経理、人事、総務、IT、経営企画、マーケティングなどの機能を利用しながら事業を行っています。
その意味で、本社費等は各資産グループの収益獲得を間接的に支えている費用といえます。
本社費等を無視してよいのか
管理会計上、資産グループ別の損益に本社費等を配賦していない会社は少なくありません。
しかし、減損兆候判定では、管理会計上配賦していないことだけを理由に、本社費等を営業損益から除外することは望ましくありません。
固定資産の減損会計の目的は、固定資産の回収可能性を適切に判断することです。
ある店舗や事業が、本社のノウハウ、管理機能、システム、マーケティング支援を利用して売上を上げているのであれば、その便益に対応する本社費等を負担していると考えるのが自然です。
本社費を配賦しなければ、資産グループの損益が実態より良く見える可能性があります。
その結果、本来であれば減損兆候がある資産グループについて、兆候なしと判断してしまうリスクがあります。
減損兆候判定では、各資産グループが本社機能からどのような便益を受けているかを踏まえ、本社費等を合理的に配賦することが重要です。
本社費等の配賦基準とは
本社費等を資産グループに配賦する際には、どの基準で配賦するかが問題になります。
この配賦基準は、コストドライバーとも呼ばれます。
代表的なコストドライバーには、次のようなものがあります。
営業損益
固定資産の帳簿価額
売上高
原価
人員数
面積
直課
複数のコストドライバーの組合せ
どの基準を使うべきかは、会社の事業内容や本社費等の性質によって異なります。
重要なのは、本社費等がどのような費用で構成されており、その費用が各資産グループのキャッシュ・イン・フロー獲得にどのように貢献しているかです。
単に計算しやすいからという理由だけで配賦基準を決めると、実態と合わない結果になることがあります。
営業損益を配賦基準にする問題点
本社費等を営業損益に基づいて配賦する方法があります。
一見すると、営業活動の成果に応じて本社費を配賦する方法に見えるため、合理的に思えるかもしれません。
しかし、営業損益を配賦基準にする方法には大きな問題があります。
それは、黒字の資産グループと赤字の資産グループが混在している場合、赤字の資産グループに本社費等がマイナス配賦されてしまう可能性があることです。
たとえば、A事業が黒字、B事業が赤字、C事業が黒字の場合に、営業損益を単純に基準として本社費を配賦すると、赤字のB事業には本社費がマイナスで配賦されることがあります。
これは、赤字事業が本社費を負担するどころか、逆に本社費を減らしてもらっているような結果になります。
しかし、赤字事業であっても、本社の経理、人事、IT、管理機能などを利用して営業活動を行っている以上、本社費等の便益を受けています。
したがって、営業損益を単純な配賦基準とする方法は、実態と合わない結果になることがあり、望ましいとはいえません。
赤字資産グループをゼロ負担にするのも問題
営業損益を配賦基準にした場合、赤字資産グループへの配賦がマイナスになることを避けるため、赤字資産グループには本社費を配賦しないという実務も考えられます。
しかし、これも慎重に考える必要があります。
赤字資産グループであっても、営業活動を行っている以上、本社からの便益を受けていることが通常です。
たとえば、赤字店舗であっても、本社の販売管理システム、商品政策、採用、教育、経理、総務、広告宣伝などの支援を受けています。
それにもかかわらず、本社費をゼロ負担とすると、その資産グループが本来負担すべき費用を負担していない状態になります。
その結果、営業損益が実態より良く見え、減損兆候を見逃す可能性があります。
減損会計では、赤字資産グループこそ慎重な検討が必要です。ゼロ負担やマイナス配賦にならないよう、本社費配賦の方法を見直すことが重要です。
固定資産帳簿価額を配賦基準にする方法
本社費等を各資産グループが保有する固定資産の帳簿価額に基づいて配賦する方法もあります。
この方法は、各資産グループの収益が保有固定資産と強く関連し、その固定資産からキャッシュ・フローが生み出されているという考え方に基づいています。
たとえば、製造業で、各工場の生産設備が売上や利益の源泉になっている場合、固定資産帳簿価額を配賦基準とすることが合理的な場合があります。
しかし、この方法にも注意点があります。
事業によっては、固定資産を自社で保有していなくても収益を生み出すことがあります。
たとえば、小売業で、A店舗とB店舗は自社保有店舗、C店舗は賃借店舗だったとします。
会計上、C店舗の固定資産帳簿価額がほとんどない場合、固定資産帳簿価額を基準にすると、C店舗には本社費がほとんど配賦されません。
しかし、C店舗も本社の仕入ノウハウ、商品政策、販売管理システム、広告宣伝、店舗運営ノウハウを利用して売上を上げています。
このような場合、固定資産帳簿価額を配賦基準にすると、実態と合わない可能性があります。
売上高を配賦基準にする方法
本社費等を売上高に基づいて配賦する方法は、実務上比較的使いやすい方法です。
売上高は、各資産グループが営業活動によって獲得した成果を示す指標です。
たとえば、本社のノウハウが、各店舗への売れ筋情報の提供、商品政策、マーケティング、販売管理、仕入管理に関係している場合、その便益は各店舗の売上高に反映されると考えられます。
このような会社では、売上高を本社費等のコストドライバーとすることが実態に合う場合があります。
特に、小売業やサービス業のように、店舗が自社保有か賃借かにかかわらず、本社機能を利用して売上を生み出している場合には、売上高基準が合理的なことがあります。
ただし、売上高基準にも万能ではありません。
たとえば、ある資産グループが期中に固定資産をすべて売却または除却し、期末時点で減損検討対象となる固定資産が存在しない場合、売上高が大きいからといって多額の本社費を配賦すると、他の資産グループへの配賦が少なくなり、減損兆候判定を誤る可能性があります。
売上高基準を使う場合でも、期末時点の固定資産の有無や事業実態を確認することが必要です。
本社費の内容ごとに配賦基準を変える方法
本社費等をすべて一つの基準で配賦する必要はありません。
むしろ、本社費の内容に応じて配賦基準を変える方が、実態に合う場合があります。
たとえば、小売業で、本社のPOSシステムが商品管理、販売管理、購買情報の分析、マーケティングに利用されている場合、POSシステムの維持費用は売上高や原価を基準に配賦することが考えられます。
また、飲食チェーンで、不採算店舗の改善のために本社からマーケティング専門人材を派遣している場合、その人件費は当該店舗または当該資産グループに直接賦課するのが合理的です。
さらに、本社人件費を人員数で配賦し、本社家賃を面積で配賦し、マーケティング費を売上高で配賦するなど、複数のコストドライバーを組み合わせる方法もあります。
この方法は、実務負担は大きくなりますが、本社費等の性質に応じてより精緻な配賦が可能になります。
減損兆候判定で配賦方法が与える影響
本社費等の配賦方法は、減損兆候の有無に大きな影響を与えます。
たとえば、本社費を配賦しなければ黒字に見える資産グループでも、本社費を合理的に配賦すると赤字になることがあります。
この場合、減損兆候ありと判断される可能性があります。
一方、配賦方法が不適切で、本来負担すべき本社費が配賦されていなければ、減損兆候なしと判断してしまうリスクがあります。
減損兆候を見逃すと、その後の減損損失の認識や測定が行われず、固定資産が過大計上される可能性があります。
そのため、本社費等の配賦は単なる管理会計上の配賦計算ではなく、財務諸表の適正性に影響する重要な会計判断です。
監査で見られるポイント
監査では、減損兆候判定における本社費等の配賦について、次のような点が確認されます。
まず、本社費等にどのような費用が含まれているかです。
経理、総務、人事、IT、マーケティング、研究開発など、各資産グループの収益獲得に間接的に寄与している費用が適切に把握されているかが見られます。
次に、配賦対象となる資産グループが適切かです。
本社費等の便益を受けている資産グループに漏れなく配賦されているかを確認します。
さらに、配賦基準が合理的かどうかです。
営業損益、固定資産帳簿価額、売上高、原価、人員数、面積、直課などのうち、どの基準が本社費等の性質に合っているかを検討します。
また、配賦方法が毎期継続して適用されているか、変更した場合にはその理由が合理的かも重要です。
実務で準備しておきたい資料
減損兆候判定における本社費等の配賦では、監査対応も見据えて資料を整備しておくことが大切です。
実務では、次のような資料を準備しておくとよいでしょう。
資産グループの一覧
資産グループごとの売上高、営業損益、固定資産帳簿価額
本社費等に含める費用の一覧
本社費等に含めない費用の判断根拠
配賦基準の選定理由
配賦計算表
配賦後営業損益の一覧
減損兆候判定資料
前年から配賦方法を変更した場合の理由
管理会計上の配賦との相違点
取締役会や経営会議での報告資料
特に、管理会計上の損益と減損会計上の営業損益が異なる場合には、その差異を説明できるようにしておくことが重要です。
「管理会計上配賦していないから減損判定でも配賦しない」という説明だけでは不十分です。
IPO準備会社・中小企業にも関係するのか
固定資産の減損会計というと、上場会社や大会社だけの論点に見えるかもしれません。
しかし、IPO準備会社や中小企業にも関係することがあります。
たとえば、複数店舗を運営している会社、工場を複数持つ製造業、事業部制を採用している会社、SaaSやITサービスで共通開発費が大きい会社、のれんやソフトウェアを保有している会社では、資産グループごとの収益性を把握する必要があります。
中小企業では、管理会計上、本社費や共通費を配賦していないこともあります。
しかし、金融機関対応、M&A、事業承継、IPO準備では、事業別・店舗別の採算性を説明する場面が増えます。
その際、本社費を考慮しない損益だけを見ていると、不採算事業や不採算店舗を見誤る可能性があります。
減損会計への対応だけでなく、経営管理の観点からも、本社費等の配賦方法を整理しておくことは有用です。
実務で確認すべきチェックポイント
減損兆候判定における本社費等の配賦では、次の点を確認しましょう。
資産グループの単位は適切か
本社費等に含める費用を網羅的に把握しているか
本社費等が各資産グループの収益獲得にどのように寄与しているかを説明できるか
管理会計上配賦していない本社費等を、減損判定でどう扱うか検討しているか
営業損益を単純に配賦基準にしてマイナス配賦が生じていないか
赤字資産グループをゼロ負担にしていないか
固定資産帳簿価額を配賦基準にする場合、賃借店舗や固定資産残高ゼロの事業を考慮しているか
売上高を配賦基準にする場合、期末に減損対象資産がない資産グループへの過大配賦がないか
本社費の内容ごとに複数のコストドライバーを使う必要がないか
配賦方法を継続適用しているか
配賦後営業損益に基づいて減損兆候を判定しているか
配賦方法と判定結果を文書化しているか
本社費等の配賦は、単に計算表を作るだけではなく、資産グループが本社機能から受けている便益を反映できているかを考えることが重要です。
まとめ
固定資産の減損兆候を判定する際の営業活動から生ずる損益には、減価償却費だけでなく、本社費等の間接的に生ずる費用も含めて考える必要があります。
本社費等とは、直接キャッシュ・フローを生み出すわけではないものの、複数の資産グループの将来キャッシュ・フロー生成に寄与する費用です。経理、総務、人事、情報システム、経営企画、マーケティングなどの共通費が該当することがあります。
管理会計上、本社費等を資産グループに配賦していない場合でも、減損兆候判定で本社費等を無視するのは望ましくありません。各資産グループが本社機能から便益を受けている以上、その便益に応じて本社費等を負担していると考えるのが自然です。
本社費等の配賦基準には、営業損益、固定資産の帳簿価額、売上高、原価、人員数、面積、直課、複数のコストドライバーの組合せなどがあります。
営業損益を配賦基準にすると、赤字資産グループに本社費等がマイナス配賦される問題があります。固定資産帳簿価額を配賦基準にすると、賃借店舗や固定資産残高がゼロの資産グループに本社費が配賦されない問題があります。売上高基準は実態に合う場合が多いものの、期末時点で減損対象資産がない資産グループへの配賦には注意が必要です。
実務上は、本社費等の内容を細分化し、費目ごとに適切なコストドライバーを使うことも有効です。POSシステム費用を原価や売上高で配賦する、人件費を人員数で配賦する、不採算店舗支援の人件費を直課するなど、実態に合った方法を検討します。
減損兆候判定における本社費等の配賦は、減損会計の出発点です。配賦方法を誤ると、減損兆候を見逃し、固定資産の過大計上につながる可能性があります。
複数事業、複数店舗、複数工場を持つ会社は、本社費等の内容、配賦基準、配賦後営業損益、減損兆候判定のプロセスを早めに整理し、監査対応や経営管理に活用できる形で文書化しておくことをおすすめします。
神戸での起業や開業に関するご相談、確定申告にお困りの方、顧問税理士をお探しの方は安田亮公認会計士・税理士事務所までお問い合わせください!
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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