公認会計士の処分は「過失」と「故意」でどう違う?東芝・カネボウ・オルツの過去事例から解説
おはようございます!代表の安田です。
公認会計士が財務諸表監査で重大な問題を起こした場合、業務停止や登録抹消などの処分を受けることがあります。
2026年9月には、公認会計士・監査審査会が、オルツの財務諸表監査で虚偽証明があったとして、監査法人シドーで監査を担当した公認会計士2人について処分勧告を行ないました。
今後、金融庁が具体的な処分内容を決定することになります。
公認会計士に対する処分を考えるうえで重要なポイントの一つが、問題となった行為が「過失」なのか、それとも「故意」なのかという違いです。
過去の東芝監査やカネボウ監査の事例では、過失の場合には業務停止、故意の場合には登録抹消に至った事例があります。
本記事では、公認会計士に対する処分の考え方と、過去の代表的な処分事例、オルツ監査に関する今後の注目点について解説します。
オルツ監査を巡り公認会計士2人に処分勧告
今回の対象となっているのは、監査法人シドーでオルツの財務諸表監査を担当していた公認会計士2人です。
公認会計士・監査審査会は、オルツの財務諸表監査について虚偽証明があったとして、この2人を対象に金融庁へ処分勧告を行いました。
現時点では「処分勧告」の段階であり、最終的な処分内容が確定したわけではありません。
流れを整理すると、次のようになります。
段階 | 内容 |
① | 公認会計士・監査審査会が検査 |
② | 公認会計士等について処分勧告 |
③ | 金融庁で処分内容を検討 |
④ | 最終的な処分を決定 |
したがって、今回のオルツ事案については、今後の金融庁の判断が重要になります。
公認会計士の処分は「過失」と「故意」で大きく異なる
公認会計士に対する処分について、問題行為が過失か故意かによって大きく異なります。
概念的に整理すると次のとおりです。
区分 | 処分例 |
過失 | 業務停止 |
故意 | 登録抹消 |
故意かつ刑事事件化した事例 | 登録抹消に加え刑事責任が生じた例もある |
「業務停止」と「登録抹消」では、その影響は大きく異なります。
「過失」の場合|一定期間の業務停止
過失の場合の処分例として業務停止があります。
業務停止処分を受けると、その期間中は公認会計士として一定の業務を行なうことができなくなります。
過去の代表例として挙げられているのが、2015年の東芝の監査を巡る新日本有限責任監査法人の事案です。この事案では、公認会計士7人に対して、それぞれ1カ月から6カ月の業務停止処分が科されました。
<東芝監査を巡る事例>
項目 | 内容 |
事案 | 東芝の監査 |
監査法人 | 新日本有限責任監査法人 |
対象公認会計士 | 7人 |
資料上の整理 | 過失 |
処分 | 業務停止 |
期間 | 1~6カ月 |
業務停止は重大な処分ではあるものの、一定期間の経過後には再び業務を行える点で、登録抹消とは性質が異なります。
「故意」の場合|登録抹消となった事例も
一方、「故意」と判断された場合には公認会計士登録の抹消に至ることがあります。
登録を抹消されれば、公認会計士として監査業務を継続することができなくなります。
過去の代表的な事例として紹介されているのが、2006年のカネボウ監査を巡る中央青山監査法人の事案です。
<カネボウ監査を巡る事例>
項目 | 内容 |
事案 | カネボウの監査 |
監査法人 | 中央青山監査法人 |
資料上の整理 | 故意 |
対象公認会計士 | 3人 |
登録抹消 | 2人 |
刑事手続 | 3人が刑事告発 |
判決 | 懲役1年~1年6カ月、執行猶予3年 |
資料によれば、この事案では3人のうち2人が登録抹消となり、さらに3人が刑事告発を受け、懲役刑の判決も言い渡されています。
「業務停止」と「登録抹消」の違い
2つの処分を簡潔に整理すると、次のようになります。
項目 | 業務停止 | 登録抹消 |
公認会計士登録 | 維持 | 抹消 |
業務 | 一定期間停止 | 公認会計士として継続不可 |
過去事例 | 東芝監査 | カネボウ監査 |
資料上の整理 | 過失 | 故意 |
影響 | 一定期間 | より重大 |
公認会計士にとって登録抹消は極めて重大な処分となります。
そのため、「故意」と認定されるかどうかは処分内容を左右する重要なポイントになります。
オルツ事案では「循環取引の恐れ」を事前に認識
今回のオルツ監査では、公認会計士側の認識がどの程度であったのかが重要な論点になります。
監査法人シドーは新規監査契約を受嘱する際、前任監査人から、循環取引等の恐れがあるという説明を受けていたと認定されています。
監査実務の観点では、非常に重要な情報です。
循環取引の疑念があるのであれば、通常の取引以上に、
商流
資金の流れ
契約内容
取引先との関係
取引の経済合理性
売上の実在性
などを慎重に確認する必要性が高まります。
それでも「故意」として勧告されたわけではない
一方、今回の公認会計士・監査審査会の勧告では、対象となった公認会計士について「故意」として勧告されているわけではありません。
ここは重要な点です。
「問題の可能性を認識していたこと」と、「虚偽であることを認識したうえで意図的に虚偽証明を行なったこと」は同じではありません。
「故意」とされるためには、会計士が会社と結託して虚偽証明を行なったことを示すような証拠が必要となります。
「職業的懐疑心の不足」と「故意」は区別して考える
監査で問題が生じた場合、「疑わしい取引を見逃したのだから、故意なのではないか」と考えたくなる場合もあります。
しかし、
必要な監査手続を行なわなかった
経営者の説明を十分に検証しなかった
不正リスクの評価を誤った
職業的懐疑心が不足していた
ことと、
不正を知っていた
会社と結託していた
虚偽であることを認識しながら監査意見を出した
ことは、区別して考える必要があります。
後者である「故意」を認定するには、より強い事実認定が必要になることが今回の資料からうかがえます。
東芝・カネボウ・オルツの3事例を比較
内容を比較すると、次のようになります。
事案 | 東芝 | カネボウ | オルツ |
時期 | 2015年の処分事案 | 2006年の処分事案 | 2026年処分勧告 |
監査法人 | 新日本有限責任監査法人 | 中央青山監査法人 | 監査法人シドー |
資料上の区分 | 過失 | 故意 | 故意としての勧告ではない |
公認会計士への対応 | 業務停止 | 登録抹消等 | 金融庁で今後決定 |
刑事事件 | ー | 刑事告発・有罪判決 | ー |
現在のオルツ事案については、金融庁による処分内容がまだ確定していないため、東芝・カネボウの過去事例と同列に最終評価することはできません。
オルツの公認会計士は「過失」として処分されるのか
金融庁において今回の公認会計士が「過失」として処分されるのではないか、との見方があります。
ただし、これは金融庁が正式に決定した処分内容ではありません。
したがって現時点では、「オルツ事案は業務停止になる」と断定することはできません。
今後の金融庁の正式な処分内容を確認する必要があります。
なぜ「故意」か「過失」かが重要なのか
監査では、判断を誤った結果、誤った監査意見を形成するケースと、虚偽を認識したうえで意図的に適正であると証明するケースでは、行為の性質が大きく異なります。
そのため処分を考える際には、以下の点が重要となります。
視点 | 確認内容 |
不正認識 | 財務諸表が虚偽であると認識していたか |
会社との関係 | 経営者等との結託があったか |
監査手続 | 必要な手続を怠ったのか |
証拠 | 故意を裏付ける事実があるか |
監査判断 | 単なる判断誤りなのか |
監査手続に重大な不備があったとしても、それだけで直ちに「故意」という結論になるわけではありません。
公認会計士にとって行政処分の影響は大きい
公認会計士、特に監査業務を行なう会計士にとって、業務停止であっても大きな影響があります。
例えば、
監査業務への従事
監査チームの人員配置
監査法人内での役割
担当クライアント
監査法人の品質管理
などへの影響が考えられます。
登録抹消となれば、その影響はさらに重大です。
したがって、監査法人にとっては個々の監査手続だけではなく、監査品質を組織として確保し、重大な不備を未然に防止する体制を構築することが重要になります。
監査を受ける企業側にも関係する問題
公認会計士への処分は、監査法人だけの問題ではありません。
監査を受ける上場会社等にとっても、担当監査法人や公認会計士が処分を受ければ、
監査チームの変更
監査スケジュール
監査法人の継続性
監査人の選任・変更
などに影響する可能性があります。
特に重大な監査不備が問題となった場合には、会社側でも監査役等を中心として、監査人とのコミュニケーションや監査品質を改めて確認することが重要になります。
公認会計士の処分に関するポイント
今回の内容をまとめると、次のとおりです。
ポイント | 内容 |
処分判断 | 過失か故意かが重要 |
過失の過去事例 | 業務停止 |
故意の過去事例 | 登録抹消 |
東芝事案 | 7人が1~6カ月の業務停止 |
カネボウ事案 | 2人が登録抹消、刑事責任も発生 |
オルツ事案 | 公認会計士2人に処分勧告 |
現状 | 金融庁の処分は未確定 |
故意認定 | 今回は故意として勧告されていない |
まとめ
公認会計士・監査審査会は、オルツの財務諸表監査について虚偽証明があったとして、監査法人シドーで監査を行なった公認会計士2人を対象に処分勧告を行いました。
今後は金融庁が具体的な処分内容を決定します。
今回のポイントは次のとおりです。
公認会計士の処分では「過失」と「故意」の違いが重要
過失の場合には業務停止となった過去事例がある
東芝事案では7人に1~6カ月の業務停止
故意の場合には登録抹消となった事例がある
カネボウ事案では2人が登録抹消
同事案では刑事告発・有罪判決にも至った
オルツ監査では前任監査人から循環取引等の恐れを伝えられていた
ただし、今回の勧告では「故意」とはされていない
最終的な処分内容は金融庁の判断を待つ必要がある
特に重要なのは、重大な監査不備が認められたことと、「故意に虚偽証明を行なった」と認定されることは別の問題だという点です。
今回のオルツ事案については、過失として処分されるのではないかとの見方もありますが、これはあくまで現段階での見方であり、処分はまだ確定していません。
今後、金融庁がどのような事実認定を行い、どの程度の処分を科すのかが注目されます。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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