適格合併でも繰越欠損金が使えない?みなし共同事業要件と特定役員引継要件を税理士が解説
おはようございます!代表の安田です。
グループ会社同士の合併や、買収した会社を既存子会社と統合する場面では、「適格合併に該当するか」が重要な論点になります。
適格合併に該当すれば、資産・負債を簿価で引き継げるなど、税務上のメリットがあります。
しかし、ここで注意したいのが、適格合併だからといって、繰越欠損金を必ず引き継げる、または使用できるとは限らないという点です。
特に、支配関係のある法人間で適格合併を行う場合には、繰越欠損金の引継制限・使用制限が問題になります。
その制限を回避するための重要な要件の一つが、みなし共同事業要件です。
みなし共同事業要件は、事業の関連性、事業規模、事業規模の継続、役員の引継ぎなどから、その合併が「共同で事業を行うための合併」といえるかを判定するものです。
この記事では、支配関係のある法人間の適格合併における繰越欠損金の制限、みなし共同事業要件の基本、事業関連性要件、特定役員引継要件、実務上の確認ポイントについて解説します。
適格合併でも繰越欠損金が制限されることがある
法人が過去に生じた欠損金を有している場合、将来の所得と相殺することで法人税負担を軽減できます。
そのため、繰越欠損金を持つ会社を合併する場合、その欠損金を合併後に使えるかどうかは、税務上非常に重要です。
ただし、組織再編税制では、繰越欠損金を利用した租税回避を防ぐため、一定の場合に繰越欠損金の引継ぎや使用が制限されます。
つまり、適格合併であることは重要ですが、それだけで繰越欠損金の引継ぎ・使用が保証されるわけではありません。
繰越欠損金が切り捨てられない主なケース
支配関係のある法人間で適格合併を行う場合でも、次のいずれかに該当すれば、原則として繰越欠損金の引継制限・使用制限を回避できます。
5年前の日から支配関係が継続している法人間の適格合併
設立時から支配関係が継続している法人間の適格合併
みなし共同事業要件を満たす適格合併
支配関係のある法人間で適格合併が行なわれた場合、上記①から③のいずれかに該当すれば、合併法人および被合併法人の繰越欠損金は切り捨てられないとされています。
実務上は、まず「5年前から支配関係があるか」、次に「設立時から支配関係が継続しているか」を確認し、いずれにも該当しない場合に、みなし共同事業要件の検討へ進むことになります。
みなし共同事業要件とは
みなし共同事業要件とは、合併法人と被合併法人が、形式的には支配関係のある法人同士であっても、実質的には共同で事業を行うための合併といえる場合に、繰越欠損金の制限を回避するための要件です。
みなし共同事業要件には次の4つの要件があると説明されています。
事業関連性要件
事業規模要件
事業規模継続要件
特定役員引継要件
そして、みなし共同事業要件は、次のいずれかの組み合わせを満たすことで充足します。
パターン1:a. 事業関連性要件+ b. 事業規模要件+ c. 事業規模継続要件
パターン2:a. 事業関連性要件+ d. 特定役員引継要件
つまり、事業規模要件を満たさない場合でも、事業関連性要件と特定役員引継要件を満たせば、みなし共同事業要件を満たす可能性があります。
これは、グループ内再編や買収後の統合で非常に重要なポイントです。
事業規模要件を満たさなくても可能性はある
実務では、買収した会社と既存子会社を合併する場合、両社の事業規模が大きく異なることがあります。たとえば、売上規模、従業員数、資産規模、利益水準などに大きな差がある場合です。
このような場合、事業規模要件を満たせないことがあります。
しかし、事業規模要件を満たせないからといって、直ちにみなし共同事業要件を満たさないわけではありません。
つまり、事業規模ルートが難しい場合でも、特定役員引継要件ルートを検討する余地があります。
事業関連性要件とは
事業関連性要件とは、被合併法人が行なう主要な事業と、合併法人が行なう事業との間に関連性があることを求める要件です。
ここでいう「関連性がある」とは、単に同じグループ内にあるというだけでは足りません。
合併後に両社の事業が一体として行なわれることで、何らかのシナジー効果が生じるような関係をいいます。
たとえば、次のようなケースでは、事業関連性が認められやすいと考えられます。
合併法人と被合併法人が同種の事業を行なっている
被合併法人が製品を製造し、合併法人がその製品を販売している
一方が開発、他方が販売・保守を担っている
一方が部品製造、他方が完成品製造を行っている
顧客基盤や販売網、技術、人材を統合することで事業上の効果が見込まれる
一方で、両社の事業に何ら関係がない場合や、被合併法人が実質的に事業を行なっていないペーパーカンパニーである場合には、事業関連性要件を満たさない可能性があります。
被合併法人は「主要な事業」で判定する
事業関連性要件で注意したいのは、被合併法人側については「主要な事業」により判定する点です。
被合併法人が一つの事業だけを行なっている場合は、その事業が主要な事業になります。
一方、複数の事業を行なっている場合には、どの事業が主要な事業に該当するかを判断する必要があります。
その場合、各事業の収入金額、損益の状況、従業者数、固定資産の状況などを、業種や業態に応じて総合的に勘案し、どの事業が主要な事業に該当するかを判断します。
したがって、単に登記上の目的や会社案内だけで判断するのではなく、実際の事業実態を確認する必要があります。
具体的には、次の資料を確認するとよいでしょう。
事業報告書
決算書
試算表
部門別損益
売上内訳
従業員配置表
固定資産台帳
主要取引先一覧
事業計画書
合併前に事業を移管すると要件を満たせないことがある
グループ再編では、合併前に事業の統合を進めるため、被合併法人の事業を合併法人へ先に移管することがあります。一見すると、早期統合のための合理的な対応に見えます。
しかし、税務上は注意が必要です。
合併に先立って被合併法人の全事業を合併法人に移管してしまうと、被合併法人がペーパーカンパニーの状態になり、合併時点で事業関連性要件を満たさなくなる可能性があります。
事業関連性要件を満たせない場合、他の要件を検討するまでもなく、みなし共同事業要件を満たしません。
つまり、合併前の事業移管は、繰越欠損金の引継制限・使用制限に大きな影響を与える可能性があります。
事業統合の順番は、税務上の要件を確認したうえで慎重に設計する必要があります。
特定役員引継要件とは
特定役員引継要件とは、被合併法人と合併法人の双方の特定役員が、合併後に合併法人の特定役員になることが見込まれていることを求める要件です。
特定役員引継要件について、被合併法人の合併直前の特定役員のいずれかの者と、合併法人の合併直前の特定役員のいずれかの者とが、合併後に合併法人の特定役員になることが見込まれていることを求める要件とされています。
この要件は、事業規模ではなく、経営の継続性・共同性に着目するものです。
合併前の両法人の経営中枢を担っていた者が、合併後も共に合併法人の経営に参画するのであれば、経営面から見て共同で事業を行うための合併と評価できる、という考え方です。
特定役員とは誰をいうのか
特定役員とは、簡単にいえば、平取締役ではなく、経営の中枢に関わる役付きの役員をいいます。
特定役員とは、社長、副社長、代表取締役、代表執行役、専務取締役、常務取締役、またはこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいいます。
具体的には、次のような役職が該当し得ます。
社長
副社長
代表取締役
代表執行役
専務取締役
常務取締役
これらに準ずる経営責任者
また、会社法上の取締役でなくても、CEOやCOOなど、実質的に法人の経営に従事している者は、特定役員に該当する可能性があります。
支配関係発生日前から役員であることが重要
特定役員引継要件で特に注意すべき点があります。
それは、判定対象となる特定役員は、合併直前に特定役員であれば誰でもよいわけではない、という点です。
判定対象とする被合併法人および合併法人の特定役員は、いずれも支配関係発生日前からその法人の役員であることが要件とされています。
これは、みなし共同事業要件が、支配関係のある法人間の適格合併について、支配関係発生前からの事業実態が著しく変化していないかを見る趣旨を持つためです。
たとえば、買収後に被買収会社の旧役員が全員退任し、買収会社側から新たな役員が送り込まれている場合には、特定役員引継要件を満たさない可能性があります。
買収時に旧役員が全員退任している場合は要注意
M&Aでは、買収に伴い、被買収会社の役員が全員退任し、親会社や買収会社側の役員に入れ替わることがあります。
このようなケースでは、特定役員引継要件の判定で問題が生じます。
判定対象となる特定役員は支配関係発生日前から被合併法人または合併法人の役員であった者に限定されるため、企業買収に伴い、買収された法人の役員が全員退任している場合には、特定役員引継要件を満たしません。
したがって、買収後に組織再編を予定している場合には、買収時点で役員を全員入れ替える前に、将来の合併における繰越欠損金の制限を検討しておく必要があります。
買収時の役員人事が、数年後の合併税務に影響することがあるのです。
特定役員引継要件の判定で確認すべき資料
特定役員引継要件を検討する際には、次の資料を確認します。
合併法人の登記簿謄本
被合併法人の登記簿謄本
支配関係発生日の確認資料
買収契約書
株式譲渡契約書
過去の役員変更履歴
会社概要
役員一覧
組織図
取締役会議事録
合併後の役員就任予定資料
さらに、会社法上の取締役でないCEOやCOOなど、特定役員に該当し得る者がいるかも確認する必要があります。
最後に、合併後に誰が合併法人の特定役員になる見込みかを、経営者へのヒアリングや合併契約書、役員就任予定資料などで確認します。
判定フローチャート
判定の流れを実務向けに整理すると、次のとおりです。
支配関係発生日を確認する
5年前の日から支配関係が継続しているか確認する
5年前から継続していなければ、設立時から支配関係が継続しているか確認する
設立時から継続している場合は、新設法人の除外規定の適用有無を確認する
ここまでで制限なしと判断できなければ、みなし共同事業要件を確認する
みなし共同事業要件では、まず事業関連性要件を確認する
事業関連性要件を満たす場合、事業規模要件・事業規模継続要件、または特定役員引継要件を確認する
いずれかのルートを満たせば、繰越欠損金の制限を回避できる可能性がある
この流れを見ても分かるとおり、みなし共同事業要件は、最初から単独で検討するものではありません。
支配関係の継続期間や設立時からの関係を確認したうえで、それでも判定が必要な場合に検討する論点です。
「制限なし」と判断できなくても、さらに検討余地がある場合も
上記フローチャートの判定結果として「繰越欠損金の引継制限・使用制限なし」という結論に至らなかった場合でも、制度上はさらに別の判定方法が設けられているとされています。
ただし、制度は非常に複雑であり、判定や申告書に添付する明細書の作成に大きな手間とコストがかかる可能性があります。
そのため、みなし共同事業要件までで判定が終了しない合併は、実務上、実行のハードルがかなり高い合併と考えるべきでしょう。
税務メリットだけを前提に組織再編を進めるのではなく、事前に専門家を交えて検討することが重要です。
実務でよくあるケース
買収後5年以内にグループ会社と合併するケース
買収した会社を、既存子会社と早期に統合するケースです。
支配関係が5年前から継続していないため、繰越欠損金の制限が問題になります。
この場合、みなし共同事業要件を満たすかどうかが重要になります。
事業規模に大きな差があるケース
大会社と小会社を合併する場合、事業規模要件を満たせないことがあります。
この場合でも、事業関連性要件と特定役員引継要件を満たすかを検討する余地があります。
買収時に被買収会社の役員を全員交代させたケース
買収時に旧役員が全員退任している場合、被合併法人側の支配関係発生日前からの特定役員が残っていない可能性があります。
この場合、特定役員引継要件を満たすことが難しくなります。
合併前に被合併法人の事業を移管したケース
合併前に被合併法人の全事業を合併法人へ移管すると、合併時点で被合併法人が事業を行っていない状態になり、事業関連性要件を満たさない可能性があります。
組織再編前に確認すべきチェックポイント
支配関係のある法人間で適格合併を行う場合には、次の点を確認しましょう。
1. 合併が適格合併に該当するか
まずは組織再編税制上、適格合併に該当するかを確認します。
2. 合併法人・被合併法人に繰越欠損金があるか
繰越欠損金がない場合とある場合では、検討すべき税務リスクが大きく異なります。
3. 支配関係発生日はいつか
5年前から支配関係が継続しているか、設立時から支配関係が継続しているかの判定に必要です。
4. 事業関連性要件を満たすか
両社の事業内容、主要事業、シナジーの有無を確認します。
5. 被合併法人の主要事業は何か
複数事業を行っている場合は、売上、損益、従業員、固定資産などから主要事業を判断します。
6. 事業規模要件を満たすか
両社の事業規模に大きな差がある場合は、別ルートである特定役員引継要件を検討します。
7. 特定役員引継要件を満たすか
支配関係発生日前からの特定役員が、合併後も合併法人の特定役員に就任する見込みがあるかを確認します。
8. 合併前の事業移管や役員変更が要件に影響しないか
合併前の準備行為が、事業関連性要件や特定役員引継要件を満たせなくすることがあります。
よくある誤解
適格合併なら繰越欠損金は必ず引き継げる
誤りです。支配関係のある法人間の適格合併では、一定の要件を満たさなければ、繰越欠損金の引継ぎや使用が制限される可能性があります。
事業規模要件を満たさなければ、みなし共同事業要件は必ず満たせない
誤りです。みなし共同事業要件は、事業関連性要件と特定役員引継要件を満たすことで充足するルートもあります。
合併前に事業を合併法人へ移しても問題ない
注意が必要です。被合併法人の全事業を合併前に移管し、合併時点でペーパーカンパニー状態になると、事業関連性要件を満たさない可能性があります。
合併直前に特定役員になれば要件を満たせる
単純にはいえません。判定対象となる特定役員は、支配関係発生日前からその法人の役員であることが必要とされています。
CEOやCOOは取締役でなければ特定役員に該当しない
会社法上の取締役でなくても、CEOやCOOなど、法人の経営に従事している者は特定役員に該当する可能性があります。
まとめ
支配関係のある法人間で適格合併を行う場合、適格合併に該当するだけでは、繰越欠損金の引継ぎ・使用が認められるとは限りません。
繰越欠損金の制限を回避するには、5年前の日から支配関係が継続しているか、設立時から支配関係が継続しているか、またはみなし共同事業要件を満たすかを確認する必要があります。
みなし共同事業要件には、事業関連性要件、事業規模要件、事業規模継続要件、特定役員引継要件があります。
事業規模要件を満たせない場合でも、事業関連性要件と特定役員引継要件を満たせば、みなし共同事業要件を満たす可能性があります。
事業関連性要件では、被合併法人の主要な事業と合併法人の事業に関連性があるかを確認します。合併前に被合併法人の全事業を移管してしまうと、合併時点で事業関連性要件を満たせなくなる可能性があります。
特定役員引継要件では、被合併法人と合併法人の双方について、支配関係発生日前から役員であった特定役員が、合併後に合併法人の特定役員となる見込みがあるかを確認します。
組織再編では、買収時の役員変更、合併前の事業移管、合併後の役員体制が、数年後の繰越欠損金の取扱いに影響することがあります。
M&Aやグループ内再編を検討する際は、適格合併の判定だけでなく、繰越欠損金の引継制限・使用制限まで含めて、早い段階から確認しておきましょう。
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【この記事の執筆者】
安田 亮(公認会計士・税理士)
安田亮公認会計士・税理士事務所 代表
京都大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。有限責任 あずさ監査法人、株式会社神戸製鋼所での実務経験を経て、2018年に神戸市で独立。
現在は、中小企業から上場企業に対する税務顧問、決算支援、税効果会計、連結決算、新リース会計基準への対応、組織再編、補助金・助成金に関する支援などを行なっています。また、金融機関や大手企業が運営する税務・会計・経営分野のWebメディアにおいて、記事の執筆・監修にも携わっています。
事務所ブログでは、税制改正や会計基準、経営実務に関する情報を、専門用語をできるだけかみ砕き、経営者や経理担当者の方に役立つ形で解説しています。






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